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投稿が遅れました……申し訳ありません
対戦相手が決まった翌日――
 
《入学洗礼の儀》が行われるのは五の月初週の土の日と聖なる日で、今は二週間をきっている……。
1-Sクラスの空気は、昨日までとは一変していた。
「……六年生か」
リアンは静かに呟く。学園最強との戦い。挑戦するには最高の相手だが、それだけに並の準備では済まされない。
「まぁ、なんとかなるだろ」
ハルトは笑みを浮かべて、落ち着いている様子だ。
「作戦は早めに決めましょう。敵の情報が欲しいですね……」
カイトは真剣な表情で腕を組む。上級生の魔法のレベルを考えれば、単なる力押しでは勝てないからだ。
「僕たちは二年生とも戦うんだよね」
レオンが言うと、エルドリックも頷いた。
「六年生に比べればまだ楽だけど、油断は禁物だね」
一方、アホルトもまた五年生との戦いを意識し、すでに剣を手にしていた。
「帝国の名にかけて、必ず勝ってみせる」
その隣でサラは、不満げに口を尖らせていた。
「なんで私たちが五年生なのよ! シナリオと違うじゃない‼︎」
サラは周りに聞こえないように小さな声で呟いた……。近くにいる三チーム目のリーダー、ルシアは少し沈んだ様子だった。
「……三年生、か」
彼女の表情には、わずかな不安が滲んでいた。だが、すぐに背筋を伸ばし堂々とした声で呟く。
「まあ、いいでしょう。決まってしまったものはやるしかないもの」
そして、エミールも対戦相手を意識していた。
「四年生……」
彼女の表情は冷静だったが、その目は鋭くすでに戦いを見据えているようだった。
「相手の戦い方を知る必要があるし、自分たちのチームワークも磨かなきゃ……」
こうして、各チームはそれぞれの戦いに向けて動き出した。
「まずは情報を集めましょう」
カイトがそう言うと、リアンたちはギルドマスターのルシェルを訪ねる。
「6年Sクラスの情報が欲しいんですか? ふむ……。あの子達はですね、魔法と武術の両方で完成された実力を持っていますよ。特に学年委員長のユリウス君は、戦場の指揮官のような男の子ですね」
「ユリウス先輩……」リアンが名前を口にする。
「あの子は戦術家ですよ、ただ強いだけでは勝てません。六年生の団結力を過小評価してはいけませんね」
一方、エミールも4年Sクラスの情報をギルバートから集めていた。
「4年Sクラスはバランスのいい学年だが、一人特殊な戦闘スタイルを持つ者がいる」
エミールは興味深そうに耳を傾けた。
「それは?」
「リヴィア・クロフォード。彼女は精霊魔法の使い手で、風と水の複合魔法を扱う」
「……なるほど」
リアンたちはそれぞれ敵の情報を頭に入れながら次の行動に移った。
リアンたちは翌日、空き教室を使いチームで作戦を立てることにした。
「6年Sクラスは全体の連携が強みです。だからこそ、まずはユリウス先輩を孤立させる必要があります」
カイトが黒板に戦略を書きながら話す。
「それなら俺が前線を張る」ハルトが自信たっぷりに言う。
「いや、お前一人じゃ無理だよ」
エルドリックが冷静に突っ込み、「僕が風魔法で攪乱して援護するよ」「では、私とレンは魔法や剣で援護するよ」「私は遠距離から援護します」とリアンやレオン、カイトが頷く。
一方、エミールも作戦を考えていた。
「リヴィア・クロフォードが厄介なら、先に対策を立てるべきね……」
彼女のチームは、リヴィアの魔法の特性を解析し、対抗策を練ることにした。翌日の授業では《入学洗礼の儀》で戦う相手を想定した模擬戦が行われた。リアンたちは上級生の模倣戦術を使う相手と戦いながら、実戦の感覚を磨いていった。
「ユリウスの指揮力を再現したつもりだがお前たち、なかなかやるな」
ギルバートが腕を組みながら見守る中、リアンたちは着実に成長していた。 一方、エミールもまた、自分の戦術を試していた。
「リヴィアは動きを止めると不利になる……。なら、私はそれを利用する」
彼女は冷静に戦いながら、少しずつ勝利への道を見出していった。あっという間に時間は過ぎ、《入学洗礼の儀》まであと三日。1年Sクラスの生徒たちは、それぞれ決戦に向けて最後の調整をしていた。
「……勝つよ」リアンが呟き、「当然でしょ」とレオンが頷く。カイトも静かに拳を握り、ハルトは剣を研ぎながら「楽しみだな」と笑う。その隣ではエルドリックがゼピュロスとは別の風精霊と共鳴を強めていた。
エミールもまた、覚悟を決めていた。
「4年Sクラス……。必ず勝つよ」
彼女の瞳には、強い決意が宿っていた。
◇
そして《入学洗礼の儀》当日。
学園の広大な闘技場に、朝日の光が差し込む。今まさに、王立学園の伝統的なイベント《入学洗礼の儀》が始まろうとしている。この重要な儀式は、新たに入学した生徒たちにとって、学園生活の一歩を踏み出す大切な瞬間となる。観客席には保護者や学園の生徒、各国の主要人物や騎士団長、魔法師長などが集まり期待と緊張の入り混じった空気が漂っている。
中央には、金色の舞台が組まれその上に立っているのは学園長のテオドリク・エルダリウスと生徒会長のユリウス・アストリア。両者はそれぞれ、重厚な雰囲気を放ちながらも、心からの歓迎の意を込めた表情で新入生たちを迎えている。
観客席から注目の視線を浴びながら、ユリウスはゆっくりと一歩前に出る。
「皆さん、今日は私たち王立学園にとって特別な日です」
ユリウスが声を上げると、観客席のざわめきが静まり返り、彼の言葉がひときわ大きく響く。
「この《入学洗礼の儀》は、ただの試練ではありません。新しい仲間を迎え入れ、学園の未来を築くための大切な儀式です」
彼の眼差しが新入生たちを見渡し、その温かさに、少しだけ心を和らげる者もいる。
「これから、皆さんは強くなり、成長し王立学園の一員として、誇り高く学び続けることとなります」
ユリウスは一度大きく深呼吸をしてから、言葉を続けた。
「この戦いが終わった後、どんな結果であれ、全員がさらに一歩進んだ自分を感じることでしょう。力強く、この儀式に臨んでください」
その言葉に会場は静寂を保ったまま、まるで時間が止まったかのように感じられる。観客たちも、彼の言葉に引き込まれ、深く納得したように頷く。
次に、学園長であるテオドリクが手を挙げる。その威厳に満ちた姿が会場全体に緊張感を与える。
「それでは、儀式の開始を宣言する」
テオドリクの一言で緊張がさらに高まり、観客席が一斉に注目する中、最初の試合が発表される。
「最初の戦いは、1年生Sクラスのリアンチームと、2年S代表チームとの戦いです」
その言葉が告げられ、場内の空気が一瞬にして熱気に包まれる。新入生たちは、その試練に立ち向かうべく、緊張を抱えながらもそれぞれ覚悟を決める。
リアンやレオン、カイト、ハルト、エルドリックたちは、控え室でその時を待ちながらそれぞれの思いを胸に戦闘準備を整えていた。特に、リアンはしっかりと深呼吸し、背筋を伸ばしていた。彼の横ではレオンが軽く微笑み、手を肩に置いて声をかける。
「リン、僕たちは勝つよ」
レオンの言葉にリアンは小さく頷き、仲間たちの目を見て確信を持った。自分たちは、今までの努力を信じ、この戦いに挑むべきだと。
「これからの戦いが、私達にとって強敵であっても、私達の力を出し尽くしましょう」
カイトの言葉にハルトが剣を握りしめ、エルドリックは頷いた。
そして試合が始まる合図とともに、いよいよ戦いの幕が開ける。新入生たちの運命を決する瞬間が、今まさに訪れようとしている。




