023
午後の授業になり召喚魔法の授業が始まった。
最初にギルバート先生から説明があり、その後にパートナーを見せてもらった。先生は水属性の中級精霊で、トカゲの形をした精霊だった。
今回やる特別な召喚魔法は、召喚された存在は召喚者と魂の契約をするため、召喚者が死んだ時に元の世界へ帰ることができる。あとは召喚のやり直しはできず、召喚された時点で契約が成立しているから人生で一度きりしかできないらしい。
召喚する順番は先生が決めているらしく、名前が呼ばれていった。
それぞれ、鳥やうさぎ、ヘビなど様々な種類の魔獣や精霊などが現れ、現れた時に得意な属性を出してくれるっぽい。だけど今だに私達は呼ばれておらずハーヴィングさんやアホルト君、ラルティスさんなども呼ばれていない。
「次、アホルト・オルトゥス前へ」
「はい!」
「では、自分のタイミングで魔力を込めながら詠唱を始めろ」
「はい!」
アホルト君は返事をすると深呼吸してから詠唱を唱え始めた。
「闇を照らす光のように、我が魂の呼びかけに応じその力を我が元に集めよ。魂の契約を結びし者よ、共に歩む運命の証として――《汝、我が力となり現れよ!》」
アホルト君が詠唱し終わった途端に、眩い赤い光が辺りを照らした。
「我を呼んだのは貴様か? 我が名はイフリート。炎の精霊だ」
アホルト君は全身が炎に包まれた人型の精霊を呼び出した。目は燃えるような赤色に、肌の色が浅黒い。背中からは炎の翼が生えていて、安座をして空気中を浮いている。
「私はアホルト・オルトゥスという。これからよろしく頼む」
「よかろう、貴様の力になってやる」
イフリートがそう言った瞬間にアホルト君の中に吸い込まれていった。少ししたら炎を纏った、翼の生えた小さな犬が出てきた。犬種は柴犬に似ている……。
「オルトゥスは炎の精霊、イフリートか。火の精霊と間違えやすいが、炎は火よりも強く燃え上がり戦闘を得意とする。イフリートは戦闘特化の精霊となるから扱いには気をつけろよ」
「はい。私の力は弱きものを守るために使います!」
「では次、ルシア・ラルティス前へ」
「はい……」
「自分のタイミングで魔力を込めながら詠唱を始めろ」
「はい、かしこまりました……。闇を照らす光のように、我が魂の呼びかけに応じその力を我が元に集めよ。魂の契約を結びし者よ、共に歩む運命の証として――《汝、我が力となり現れよ》」
今度は辺り一面に温かな光が降り注いだ。
「私は聖天馬という。私を呼んだのは貴方かな?」
「は……はい。私はルシア・ラルティスと言います。よろしくお願いします。……なんで? 前と違う」
ルシアの言った最後の一言は小さく、誰の耳にも届かなかった……。
「私は気に入った者を契約者にする。それ以外はどうなってもどうでもいいわ。あとは、特別な方はいるけどそれは秘密」
天馬はそういうとラルティスさんの隣に腰を下ろした。
「ラルティスは聖天馬か。聖属性の天馬で上級クラスの精霊だな、その精霊は飛ぶこともできるし、傷を癒すことや戦うこともできる。
では次、ハルト前へ出ろ!」
「はい!」
次はやっと私達の中から呼ばれた。ハルトの番だ、何が召喚されるのかな?
「自分の好きなタイミングでは魔力を集め、詠唱を始めろ」
「はい! じゃあ……いくぜ! 闇を照らす光のように、我が魂の呼びかけに応じ、その力を我が元に集めよ。魂の契約を結びし者よ、共に歩む運命の証として――《汝、我が力となり現れよ!!!》」
ハルトが詠唱し終わると空が輝き、聖なる光が降り注ぐ。魔法陣の上から光の柱が立ち昇り、召喚した者の姿を隠してしまった。光が収まると、そこには純白の鱗を持つ神々しい竜が佇んでいる。黄金の瞳がハルトを見下ろし、その威圧感に周囲の者は息を呑む。
「我を召喚するとは……。汝、何を望む?」
「俺の望みはただ一つ、仲間達と楽しく冒険がしたい‼︎」
「聖なる契約を交わすに足る魂か、見極めさせてもらおう」
白竜が言葉を発した瞬間に威圧感が増した気がして、周囲で見ていたクラスメイトは膝から崩れ落ち、とても具合が悪そうだった。
平気そうに立っているのがギルバート先生と私、レオン、カイトくらいだった。
ハルトはギリギリ立っているくらいで、額に汗をかき、顔が苦しそうだ。
「……ふむ、汝の力はそこそこなようだな。この威圧を耐えているあの四人は汝より強者のようだ。
まぁよい、汝と共に行こうではないか、我に名を与えよ。
これからするのは竜や龍とするときの本当の契約だ。今の契約では竜や龍と本当に契約したことにはならん。それほどまでに竜や龍の力は強い。人間の作った魔法陣ではせいぜい上級精霊までだろう、上位存在の精霊王や竜、龍とは本当の意味で契約はできんからな」
「わかった……。名前はルシフェルだ‼︎」
「その名、確かに受け入れた。我は汝と共にあろう」
辺り一面が眩い光に包まれ、光が収まったら五十センチくらいの白いドラゴンがハルトの隣を飛んでいた。
「ハルトは……白竜か。今年は高位のものばかりが契約しにくるな。
ハルト、白竜は制御が難しくそれなりに苦労はたくさんあるだろうがお前は認められたんだ。白竜の期待を裏切らないよう己自身を鍛え続けろ」
「はい! 俺は強くなってみせる‼︎」
「では次、エルドリック・リヴァリス。前へ」
「はい」
「自分のタイミングで魔力を込め、詠唱を始めろ」
「……はい。僕はできる、できるんだ! 闇を照らす光のように、我が魂の呼びかけに応じその力を我が元に集めよ。魂の契約を結びし者よ、共に歩む運命の証として――《汝、我が力となり現れよ‼︎》」
辺りに静かな風が吹き始めたかと思うと、一瞬で疾風が巻き起こる。風の渦の中心に薄い青緑色の長髪で翡翠色の瞳をした美青年が浮かび上がり、薄笑いを浮かべながらリックを見下ろす。
「私の名はゼピュロス。疾風の神霊だ。呼んだのはお前だな? ……ならば証明してみせよ。お前が、この風に相応しい者であることを」
「疾風の神霊、ゼピュロスよ、私に力を貸してくれ」
突如リックの周りに風が吹き荒れ、風がリックを包み込んだ。
「私の力に耐え切れるか?」
ゼピュロスはそう言葉をこぼす。
十分ほどするとリックを包み込んでいた風が収まり、中からリックが出てきた。
「私はお前と共鳴し、契約が結ばれた。お前は私で私はお前だ、共に歩もうではないか」
「ありがとう。私の名前はエルドリックだよろしく」
「よろしく頼むぞ、エルドリックよ」
「リヴァリスは神霊、神の力を一部宿す精霊……。扱いには気をつけろよ、己の力を高めるんだな」
「はい、ありがとうございます!」
「では次、カイト・ヴァルター。前へ」
「はい」
「自分のタイミングで魔力を込め、詠唱を始めろ」
「はい、いきます。闇を照らす光のように、我が魂の呼びかけに応じその力を我が元に集めよ。魂の契約を結びし者よ、共に歩む運命の証として――《汝、我が力となり現れよ》」




