019
リックが私たちの秘密を知った日から一週間が経ち、授業は魔法の基礎や、算術、歴史、武術などの教科だった。
明日から二日間は初めてのお休みになる。休みにやることはもう決まっていて、冒険者登録をするんだ!
◇
「それじゃあみんな集まったね⁉︎」
「「「おー!」」」
「今日のミッションは冒険者ギルドに行って登録をし、依頼を受けてみようです! いいね!?」
「いいに決まってる! 早く行こう!」
レンが目をキラキラさせて急かしてくる。
「では行きましょうか」
「俺は登録しているからついていくぜ」
「フェデリー様と同じ冒険者になれるんだ!」
「じゃあ冒険者ギルドへ出発ー!」
私達は五人で冒険者ギルドへ向かい、入り口の前に到着した。
「やっぱりここはテンプレ通りになるかな?」
「どうだろうね?」
「テンプレとは何ですか??」
「テンプレートと言って、あらかじめ決まった展開になる感じだって《知識書》が言ってた」
やばっ! つい前世の知識がでてきてしまった……。知識書のせいにしちゃお……。
「へぇ、ではこの時のテンプレ? とは何ですか?」
「確か……入った瞬間に見られて、怖い顔のお兄さんに絡まれて喧嘩になるか、怖い顔のお兄さんが話しかけてきたけど実は何でも教えてくれる優しい人とか……。そんな感じだって!」
「そうなんですね? どちらも怖い顔のお兄さんで何ですね」
「でも俺が一人で登録した時は何も起こらなかったぞ?」
「そうなんだ。じゃあきっと私達が入っても何も起こらないね……」
「じゃあ入ろうか」
レンがそういって冒険者ギルドの扉を開けた。
中は意外にも広い空間だった。中央が受付で左右には階段があり、登った先が食堂になっているみたい。左側には掲示板があり、依頼書が貼られている。右側はちょっとしたショップになっていて買うことができるみたい。
一階には二十名近くいて二階の方が騒がしい。今日はお休みだからか、みんな昼間から飲んでいるみたい。私達は中央の受付まで歩いて行き、眼鏡をかけたお兄さんに話しかけた。
「あの、すみません冒険者登録をしたいんですけどこちらでいいですか?」
「冒険者登録ですね? こちらでお受けしておりますよ。みなさんこちらの紙に記入をお願いします」
「俺は登録しているから大丈夫だぜ!」
私達は登録用紙をもらった。記入するところは、名前と、魔法属性と、戦い方と、従魔の有無だった。
私はリアンと書き、家名は書かなかった。魔法属性は水で戦い方は剣と魔法、従魔はありっと……。これで大丈夫かな?
「これでお願いします」
「はい、確認いたしますね」
「名前はリアンさん、魔法属性は水で、戦い方は剣と魔法、従魔はあり………。あの、二つ程お尋ねしたいことがあるのですが……」
「はい、何でしょう?」
「戦い方は剣と魔法でよろしいですか?」
「はい、両方使います」
「わかりました。では次に従魔なんですがどちらにいますか? 確認をしたいのですが……」
「影に入ってもらっています。出てきてもらいますね」
「はい。お願いいたします」
「キース出てきて」
キースは子猫(に見えるけど本当は子虎)の状態で出てきた。
「これが私の従魔です」
「はい、確認できたので大丈夫ですよ」
「キース戻ってもいいよ」
(じゃあリン、また何かあったら呼んで!)
(ありがとう)
「では、お友達の方も書き終わりましたか?」
「みんな、大丈夫だよね?」
「「「うん(はい)」」」
それぞれ確認してもらい、お兄さんはギルドカードを発行するために裏に入っていった。
その時、ギルドの扉が軋みを上げながらゆっくりと開いた。
今まで騒がしかったギルドの中が静かになり、みんなが扉の方に注目する。扉の向こうから吹き込む風が、室内にあった紙々を舞い上げた。
最初に見えたのは、汚れたブーツで、剣の擦れる音も聞こえてくる。その主がギルドの明かりの下に姿を現した瞬間、言葉を発した。
「みんな、ただいま!!」
「お、おい、誰かギルマスにアランが帰ってきたって教えてやれ!」
一人の冒険者の言葉に、もう一人いた受付の女の人が慌てて奥に入った。
「アラン、おかえり! 依頼はどうだった⁉︎」
「バッチリ成功したぜ‼︎」
「すげぇ‼︎ 本当にドラゴンを討伐しちまったのか⁉︎」
「ちゃんと討伐した証も持ってきたぜ!」
「これでアランもドラゴンスレイヤーだな! S級に上がるんじゃねぇか?」
「そうだったら嬉しいぜ!」
どうやらアランさんというすごい人が帰ってきたらしい。ドラゴンを討伐したみたいで、装備とか服がボロボロだ。見た目は黒髪に青色の瞳をしたガタイのいい青年で、髪はボサボサ、服も汚れや切られた後が目立ち、激しい戦いだったのがわかる。
「ア、アラン待たせたね、ドラゴンの討伐おめでとう」
「おう、マスターただいま。依頼完了の手続きをしてくれねぇか?」
「今するよ。と、討伐依頼の証を出してくれないか?」
「おう、今出すよ」
アランさんはそう言うと私達の方に歩いてきて、こちらを一目見た後、すぐに受付に視線を戻す。ギルドマスターは、こちらに気付いていたのか顔を引き攣らせていた。若干冷や汗もかいているような……。
どうしたんだろうか?
ちなみに、ギルドマスターは冒険者ギルドのマスターをしているなんて思えない程の細身体型のエルフでとても若く見える美青年だ。
ホワイトブロンドの髪色で瞳は水色の瞳をしている。
「さ、さぁ早く出してくれ。早く!」
「お、おう。ほらよ」
「早速確認するよ」
マスターはこちらをチラチラ見ながらアランさんと話を進めていく。
「では、依頼完了の確認ができたからこれで、S級昇格の審査に提出するよ。審査が通ればアランも晴れてS級になる。いいね?」
「おう、それでいいぜ!! ――それよりどうしたんだよ? マスターがそんなに冷や汗かいているなんて近くに化け物でもいるのか? んなわけねぇか。でも尋常じゃないくらい冷や汗かいているぞ?」
「う、うるさいぞ。いいな、もうこれで手続きは終わった。いいからそこをどけ!」
「ほ、本当にどうしたんだよ? いつものマスターらしくないぜ? まぁ依頼の手続きしてくれてありがとうな、じゃあまたな」
アランさんはそう言うと二階の食堂に上がり、その後ろを冒険者達がついて行った。今一階にいるのは私達五人と、ギルドマスター、受付のメガネのお兄さんとお姉さんのみだ。
「あの……。マスターはまだご用がおありですか?」
「君、この子達の手続きをしたかな?」
「いいえ、今からギルドカードを作ろうかと思いましたが……」
「ではそれを私が行うから君は違う業務にあたっていいよ」
「えっ、でもマスターが出るほどの子達では……」
「いいんだよ。私がやる!」
「は、はぁ。それならお願いします。こちらがこの子達の申請書です」
「あぁ、ありがとう。君達も待たせて悪いね。君達を部屋に案内するよ」
マスターはそう言うと個室に案内してくれた。はて? 何でだろ?
「では、名前をお伺いしてもいいですか?」
「私はリアンです」
「僕はレオン」
「私はカイトと言います」
「俺はハルトです」
「僕はリックです」
「うん、名前をありがとうございます……。ところで今日は冒険者になるために来たんですか?」
「はい、そうですよ」
「えっと、なぜ冒険者に?」
「私達は色々な国を見てみたいんです」
「そ、そうなんですね」
「どうしてそのようなことを?」
「じ、実はですね。私の精霊があなた達をみた瞬間、聖獣様の気配がする、と。しかも、リアン君とレオン君から……」
「えっと、気のせいでは?」
「私もそう思いたいところなんですが、精霊は嘘を言えないんです」
「……」
「少し従魔を見せてくださいませんか?」
「キース……」
「ルキ……」
((出てきていいよ))
キースとルキに出てきてもらうとマスターの方から水色の玉が発光しながら飛んできた。
光が徐々に収まると空色の髪に空色の瞳をした、蝶のような羽の生えた小さな人が見えてきた。
「お初に、お目にかかります。愛し子様、聖獣様。
私はルシェルの契約精霊で空間精霊の長をしております、アクシスと申します。以後お見知り置きを」
精霊はそう言うとボウ・アンド・スクレープをした。
「えっと……」
「精霊?」
「精霊……。初めてみた」
「精霊か?」
「精霊だね」
上からリュシアン、オレリアン、カイト、ハルト、エルドリックの順に言葉を発した。




