四話・Part3 飛空の方舟 此処に有り
時間が経ち、あの広い食事スペースにて夕食を摂った後の事。因みに、俺を挟むようにヤンちゃんとセイ…対面にトウ殿下。陛下はまたもやポツンと独りでの食事だった事を覚えている。
話を戻そう。
俺が足を運んだのは、テイの自宅の前である。胸にはヤンちゃんを抱えている。
扉をノックして、テイを呼び出した。
扉が開き、お疲れの様子であるテイが…ヒョコリと顔を出した。少し遅れて、メイも扉から顔を出す。
「おうおう、随分と遅いじゃないの。夕食は済ませたのか?」
「済ませたのぉ?」
「…ああ、済ませてきた。それと、此処に来た理由は…別れを言いに来たんだ。明日の朝、この大陸を離れることになった…ので」
「…おやおや、随分とまた…急な話だね」
「離れ離れになるのぉ?メイはもっとお喋りしたいよぉ」
まぁまぁ…と、メイを宥めながら…テイが言う。こういう事に慣れているのか、突然の別れに対して…一ミリも取り乱す素振りもなく応対してくれている。
「…ヨウ、君と過ごした数日間、本当に楽しかったぜ?君のお陰で、メイにも会えたし。…あー、まぁ、なんだ?故郷が見つかるように祈っておくよ」
「…ありがとう。テイ」
「良いの良いの、ありがとうとか言わんでも。こちとら、施したつもりなんてないしな。……で、アレだろ?俺の予想だと…トウの提案で、王城に泊まる事になったから、今、別れの挨拶をしに来たんだろ?」
「ああ、その通りだ。凄いな、テイは」
「〝本当〟…か。確かに、あいつならそう言うだろうな」
周りに人が居ないことを確認したテイ。俺に向かい…囁くようにして、ある事について訊いてきた。俺はソレに耳を傾ける。
「トウと会話するのってさ、正直疲れるだろ?」
「…ああ」
「だよねだよね〜、そりゃそうよ。十数年の付き合いの俺でも、あいつと接するのは疲れるもん。なんかこう…常に興奮気味というかさ、なのに、急に落ち着いたりして…嵐みたいなんだよな」
「随分と的を得ているな」
「………………」
「………………」
互いに口ごもり、双方ともに出方を窺っている。コレは…どちらが先に話を切り出すのか、様子を見ているのである。
…そして
「「…また」」
意図せず声がハモってしまった。
テイは大笑いした。対する俺は、その顔に少し申し訳なさを滲ませて…だが、それでいて自然と微笑んでいる。
そうして一頻りに笑った後に、テイが言葉を発した。
「またな」
それに対して、俺も言葉を返した。
「また…会おう。その時は、闘技場のリベンジを…させてください。今度は俺が勝つ…ので」
「いやいや、俺に勝とうなんて…はっきり言って厳しいね。…俺はどんどん強くなる。護るべき〝人〟が出来たからな。ね、メイ」
「メイもテイのこと護ってあげるよぉ」
「うんうん、ありがとうね…メイ。お兄ちゃんは嬉しいよ。…………なるほどな、トウの気持ちが理解できる。可愛いな、妹って」
「…荷物を取りたい。中に入れて…もらえますか?」
旅の荷物を手早く回収して、再び玄関前へ。
次の日にでも再開するのでは…といった軽い調子で、俺とヤンちゃんは、彼ら兄妹に対して簡単に手を振って…その場を後にした。
この旅が終わって…それから行く所がまた一つ増えた。
少し暗くなった空を眺め、ヤンちゃんと他愛のない会話をしながら…俺達は王城へと戻る。途中で寄り道をしたり、何やかんやをしたりして…ゆったりと時間の流れを楽しんだ。…結局…俺達が王城前に到着したのは、空がすっかり暗くなってからである。
旅を始めた当初は、時間を気にせず何かを楽しむなんて…そんな事出来なかった。のらりくらりとしているよりも、その時間を他の事に当てたほうが…有益だと感じていたからだ。
「たまには、悪くない…」
「…ふふ。そうだね」
「これからは、2人きりになれる時間も…著しく減るだろう」
「…そうだね…」
「…だが、2人きりの時間は確保する予定だ」
「ふぅん……ありがとう、カナメ」
「…ああ」
門を抜けて、城内へと戻る。
セイの私室に向かおうとしている道中、殿下に遭遇しそうになったが、上手く切り抜ける事が出来た。
すまない殿下、この後の時間はなるべく大切にしたいんだ。…寝入るまでの短い時間は。
▲ ▲ ▲ ▲ ▲
場所は王城…セイの私室、あと少しで寝入るといった頃おい。パジャマ姿のセイとヤンちゃん…そして俺で、一つのテーブルを囲んでトランプをしている。
何かをしていないと、セイにナニカをされそうな雰囲気になってしまう為、お風呂を上がってから…各種ボードゲームを始めた。そうして、今はトランプにまで手が伸びている。
…で、判ったことがある。
「も、もう一回お願いします!今度は勝ちますから!」
「あ…ああ」
セイは…この手のゲームがかなり弱かった。…そして、彼女は負けず嫌いの性格ようで…こうして何度も遊んでいる。
最初はわざと負けている可能性を疑ったが…顔色を窺うと、どうやらそんなこともないらしく…常に本気で取り掛かっているみたいだった。
そして…
「あぁ…そんなぁ…!も、もう一回だけ!最後にあと一回!そ、それか、ゲームを変えて…」
「僕はもう眠たいよ〜…」
「あ…もうこんな時間なのですか…」
時計へと首を向けて、残念そうに肩を落としたセイ。それを見て、ヤンちゃんが…最後の一回を許した。
セイがどうしてこんなに必死なのか。ソレは、恐らくだが…負けず嫌い以外にも要因はある。
俺達はこのゲームで、あるモノを賭けて遊んでいる。金銭や、物品だとか、そういうモノではない。
このゲームに参加している個人個人を、丸一日間自由に出来る権利……である。因みに、コレを提案したのはヤンちゃんだ。…更に、俺は意図せずして全勝中だ。
もしも負けた場合…ナニをされるのか。ソレを考えた時に…セイとヤンちゃんが俺にシそうなことを頭に思い浮かべた。
どれもこれもエの字が入るものばかりで、俺は自身の脳内構造に疑問を持ってしまった。…が、彼女達の表情からは…なんとも言えないような、艶っぽさが感じれる為…全勝するに越したことはない。
特に、セイからの視線は顕著なものであり…今も、チラチラと…俺の下腹部とトランプ間で視線が揺れている。目は口ほどに物を言う…とは、まさにこの事だろうか。
「…セイ、順番が来ましたよ。……セイ?」
「……へ…!?あ、私の番ですね…!すみません、ボーッとしてました……では、コレで……あぁ!」
「…容赦ないね」
「…俺は手を抜かないだけだ。何事にも」
……俺の勝ちだ。
…セイが、彼女自身の手に残ったトランプを睨み…小刻みに震えている。流石に容赦がなかっただろうか…いや、違う。悔しくて震えているのではなく………だとすれば、俺はどうすれば良いのだろうか?
…期待に答えるのも一興…だが、明日は早朝から飛空艇の場所まで移動しないといけない。それに…いくら王家の私室と言えど、防音が如何程のものなのか心配だ。セイは…多分煩いだろう。
「…セイ、触り…ますよ」
「ふぇ…!?え!?」
椅子から立ち上がり、セイの事をヒョイと抱き上げ、ベッドの縁に座らせた。彼女が手に持っていたトランプは、俺が触れた途端に…テーブルの上へと投げ出されている。
「では…セイの事を、たった今から…自由にさせてもらいます」
「ひゃい…い、いい…いつでも準備は…」
「いや、脱がなくていい…です」
「着たままで…ですか!?」
「…………セイ」
…ヤンちゃんは一連の流れを、テーブルに顎を乗せて見守っている。只…ジーッと、ナニカが始まるのを待っているようだ。
俺は、そんなヤンちゃんの下へ近づき、抱き上げて、ベッドへと移動させた。3人で?…と、囁かれたが………俺はただ寝たいだけなので、首を横に振る。
「3人でですか…!?ハジメテで…3…」
「違い…ますよ。寝るだけです。明日は早いので」
「え…?あぁ…そ、そうですよね。すみません…」
「…明日〝は〟早いです…が、翌々日はゆっくり出来るかもしれませんね」
「……あ!で、ですね、その日が楽しみです…!!」
…露骨過ぎるだろうか?…いや、これくらいが丁度いいだろう。これで、本日は手を引いてくれる筈だ。
…この数時間で頭を使いすぎたようだ。強烈な睡魔が俺を襲ってきている。…変な身体だ。
ヤンちゃんを抱き締めて、ベッドの上に横になる。…お風呂上がりの匂いが鼻腔に香り、俺の心を癒やす。
セイが羨ましそうにコレを眺めているが、さて…どうしたものか。
「セイ…目を瞑ってください」
「はい……っ!?今のって…」
「…では、おやすみなさい。セイ、ヤンちゃん」
「僕にもして欲しいな」
「……………ああ」
「んふふ…ありがと」
俺は目を閉じて眠りに入った。睡魔のお陰で…俺はすぐに眠ることができ、この時間を…特に問題もなく切り抜けることができた。今晩ほど、睡魔に感謝する機会はないだろう。
そして…夜中に目が覚めた。
寝直そうとしても、なぜだか眠れない。欠伸は出るし、身体もポカポカとしているが…眠れない。
俺はベッドから降りて、夜中の王城を軽く散歩してみることにした。もしかしたら、この謎の緊張状態?も落ち着くだろうと、そう考えての行動である。
夜間の城内は、昼間と比べて…少し温度が低く感じられる。ヒンヤリとした空気が…頬を擽る風が…なんとも心地よい。
しばらく廊下を歩いていると、かなり広い…バルコニーのような場所へと辿り着いた。キッチリとしたトリミングにより整えられた低木、今は夜間の為か停止してしまっているが…見上げる程に大きく立派な噴水、そして…バルコニーの端まで進むと、此処からは見下ろす位置取りに…王都の家々が一望できた。
「…綺麗だ」
俺はベンチに腰を下ろし、暫くの間…景色と夜風を堪能した。…目からも…肌からも…心が癒やされてゆく。冷たい空気の香りが…俺の眠気を再び呼び覚ましてくれている。
今…隣にヤンちゃんか…セイがいれば、もっと癒やされたのだろうか。…一人はこんなにも…寂しさを覚えるものだっただろうか。
「隣、失礼するわね」
「…ああ…」
物思いにふけていると、いつの間に来ていたのか、不意に…隣に白髪の若い女性が腰を下ろした。キリリとしたツリ目がちの…黄色い目をしている。
「…どうしたの?何か顔についているかしら?」
「いや、気にしないでくれ。癖なんだ」
「…へぇ…まぁ、私は気にしないから、好きなだけ観察するといいわ」
衣服の内ポケットから、一本だけタバコを取り出し…ジッポで火を付けようとしているが、先程からカチカチと音がなるばかりで…これといって火が付く気配が感じられない。
…未成年ではないのだろうか?それほどまでに、彼女の容姿は若く映る。…それこそ、セイよりも若く。
この人が童顔だから?
「………………」
「…良かったら、火…付けますよ」
人差し指だけを筒状に変形させ、軽く火を出し…童顔に差し出す。
「あら、ありがとう。感謝する…わ…?」
その口から…ポロッとタバコが落ちる。
「…え?……ぇえ!?」
軽く目を擦り、再び俺の指に注目する童顔。
俺の手を掴み、マジマジと観察をし始める。何やら難しい顔で見つめているが…タバコは良いのだろうか?一応、口から落ちたタイミングで…キャッチはしてあるが…
「どうなってるの…これ…」
「……………」
…慣れてしまっている俺は、コレを気にもとめていなかったが…普通はこんな反応になるのだろう。…もしも今…〝鉄の翼〟を展開したら、この童顔は…どんな反応をするだろうか。
「…あ、タバコを吸おうとしていたんだったわね」
「口から落ちていた。地面に落ちる前にキャッチはしてあるが…」
「あら、ありがとう」
タバコを咥えさせ、火を付ける。この俺の行動が想定外だったのか…目を見開いて、童顔は少し驚いていた。だが…すぐに平静を取り戻し、ふぅ…と、白い煙を吹く。
俺は、疑問を解消すべく…一つだけ、質問をした。
「…ところで、一つ訊いても?」
「何かしら?」
「貴方は…何歳なんだ?」
「…ノ、ノーコメント。そもそも、女の子に年齢を訊いちゃだめだと思うよ。だから、悪いけれど、この話はこれで終わり」
「…そうか」
…改めて彼女の服装を見やると、どことなく…制服、という印象を受ける。学生服とかではなく、軍隊や執事などの方の…ピシッとしている方の制服だ。これで帽子まで被っていたら、まさに部隊のソレである。
特に会話もせず、こんな時間帯でも…明かりがポツポツとある王都を、ただボーッと…頭を使わずに眺める。
人間には、たまにはこんな時間も必要だ。俺が人間なのかはさておいての話だが…。
少しずつだが、眠気が戻ってきた。朝までもうあまり時間がないが…それまでは、特にやる事もない。…ならば、俺よりも少し高めの…温もりに包まれていたい。
そろそろ…戻るか。
「あら、戻っちゃうの?」
「ああ。少しだけでも寝直そうと思ってな」
「…寂しいわね。この一本が吸い終わるまで居てくれないかしら?」
「まぁ、構わ…ない…が……」
「…?」
…お兄ちゃんだけ…生き残って…
幸せになって…
そんなのズルいよ。
「っ…」
…まただ。
また、頭の中に声が浮かんだ。
カイ…!
「だ、大丈夫!?どこか体調でも…」
僕はあんなに苦しい思いをしたのに、なのに…
どうして…?なんで…?ズルいよ…!ス゛ル゛イ゛よ゛ォ゙!!
ナンデナンデ!お兄ちゃんだけが生き残って!僕は…なんで!………高波に飲まれたまま…息絶えたの?
ズルい…!
ズルいズルい…!!!…そんなの!ズルすぎるよ!
ズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイ オ ズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイ マ ズルイズルイズルイ エ ズルイズルイズルイズルイ ノ ズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイ セ ズルイズルイズルイ イ ズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイ デ ズルイズルイ ボ ズルイズルイ ク ズルイズルイ ラ ズルイズルイ ハ ズルイ!!!!!!!!
「…っく…!」
カイ…!
あの時…俺が代わりに犠牲になれていれば…!カイは助かったのに…それなのに…俺は運悪く内側にいて…カイや…両親は外側にいた。
だから…〝金色の高波〟は家族を先に飲み込んで…!!俺は…!俺は……。
ナくなった…カイの腕から先。
まだ、掴んだ手は温かくて…
俺の手を掴んで離さなかった。
…あれ?
何で…?
記憶が…無い…?
〝高波に飲まれた記憶〟が無い?
…いや、そんなはずはない…!セイと出会ってから…初めて思い出した厄災の記憶では…確かに俺は飲み込まれて……飲み込まれて……無い…!?
僕も飲み込まれる、そう感じて目を瞑った。
けど、いくら待てども身体は濡れない。
村の人の悲鳴混じりの…助けを呼ぶ声が聴こえた。
けど、僕は飛沫一粒も掛かっていない。
「ぁ…ぁぁ?………どういうことだ…?」
恐る恐る…目を開くと…
僕を避けるように流れていく金色。
触れようとしても…
まるで、ソレが僕に触れさせないようにと…
まるで、誰かが動かしているように…
僕の身体を、接触を避けるように動いた。
…どうして?なぜ?
…俺は何故、海に浮かんでいた?このキカイな身体はいったい?厄災による欠損を保管するように…金属質な物質がソコを補うのではなかったのか?
俺だけが…違うのか?
「ちょっと…!本当に大丈夫なの?すぐに医務室へ…」
「いや、定期的な発作だ。気にしないでください」
「え…でも、一応診てもらったほうが良いと思うけど…」
「本当に、問題ないので…心配をかけさせてしまいましたね。すみません。俺はこれで…」
オレは、そそくさとその場を後にした。
…オレは…何者なんだ?
セイの私室に戻り、ソファーに深く腰を下ろす。
落ち着かない。胸騒ぎがする。考えが纏まらない。動揺が身体を震えさせる。
俺は…ヨウ…僕はカナメ・ヨウなんだ…!金色の厄災の被災者で…!家族を奪われて…!
「…どう何を考えても…〝海に浮かんでいた〟に繋がらない」
高波に飲み込まれていないのに…キカイな身体を持っていることにもだ。
…解らない。何一つ。
…先程までは…手を伸ばせば届く位置にゴールが見えていた、だが今はゴールを見失って…巨大な迷宮を彷徨っている。理解をしないと…壁に手を這わせてもゴールに辿り着けない…致命的な迷宮に。
「カイは…何故、何故俺に怒っていた?」
俺が生き残ってしまったから?カイを助けられなかったから?原因はなんだ?俺は何をした?どうしてあそこまで……怒っていたんだ?
…疑問が止めどなく頭の中を駆け巡る。次から次に、矢継ぎ早に湧いて溜まってを延々と…やがて、口から言葉が漏れて…
そして、気がつけば朝日が俺を照らし始めている。
鏡を見ると、隈が出来ていた。
…ので、※※した。
〝回帰〟した…最後に保存した状態に。記憶に保存されていた状態に。
「……直ったか。…起こさないとな、彼女達を」
セイとヤンちゃんを起こし、陛下のもとへ行った。軽く朝食を摂らせてもらい、セイを頼んだと言われた。飛空艇が停まっているという裏庭に移動…その道中に殿下とばったり遭遇した。話は短く…勇気付けられ、背中を押された。
皆…いい人達である。
そうして、辿り着いた裏庭にて。
「うわぁ…想像よりもデカいね」
「私も…飛空艇をこんなに近くで見たのは初めてです」
巨大な飛空艇。その前に並んだ乗組員の人達が数人。
「…あれ?貴方…夜中の子よね?あれから体調は戻った?」
「ああ、バッチリだ。……まさか、船長が貴方とは…」
「驚いた?まだ若いけど、実力はしっかりとあるわ。安心してちょうだい。…それと、貴方のお陰で、別の大陸に行くという、貴重な経験が積めるわ。ありがとう…えっと…自己紹介がまだだったわよね…」
「ヨウだ。そして…ヤンちゃん。よろしく頼みたい」
「ええ。任せてちょうだい。…私の名前はハク。奴隷上がりだから、性は持ってないわ。こっちが入口よ」
数刻前には付けていなかった…セシアライト王国の紋章が刻まれたマントを翻し、飛空艇の入口まで先導してくれた。
その後は、生活スペースと呼ぶべきか…テーブルと椅子、簡易的なキッチンなどが混同する広間へと案内され、ハク船長はそのまま、隣の操縦室へと移動。
テーブルや椅子は、足元が床にビッタリと固定されており、椅子の方が…少し使い勝手が悪い。だが、空を飛ぶことを鑑みると…コレが最善なのかもしれないと感じる。
そして、そうこうしていると…離陸が始まった。
飛空艇内が軽く揺れて、なんとも言えない浮遊感が身を包む。空を飛んでいるのに、足場があるという不思議な感覚に襲われだしているのである。
船の上と似ている。此方のほうが揺れは少なく快適だが。
「ヨウさん!見てください!王国があんなに小さく見えますよ!」
「ああ、そうだな。ここから見たら、数センチにも満たない大きさ…ですね」
「ヨウ……頭撫でて……」
「高いところは駄目だったな…ヤンちゃんは…」
…俺達は旅をする。
もうすぐ終わる…旅をしている。
俺が何者であろうとも、数々の疑問が頭の中を駆け巡り続けようとも、もうすぐ〝ヨウの旅〟は終わる。
目的地はすぐソコだ。




