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迷える君を 望む場所へと(書き直し前)  作者: 差氏 ミズキ
スタット大陸編
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四話・Part2 その王子 癖者につき



 二日目の王都。その昼下がり、昼食を摂った後のこと。




 俺は今、王城へと招かれ…そこの応接室にて、陛下…宰相、そして俺の3名のみで…昨日言っていた褒美について等の話をしている。




 因みに…テイは忙しそうに各所を歩き回り、メイもそれに同行…午前中に採寸は終えてある。ヤンちゃんはセイの私室へと移り、今頃…何か会話をしているか、遊んでいるか…寝ているかしているだろう。




 そして、俺は陛下へと言った。




 この旅の目的地を。



「ふむ…スクヴァー村………何処かで聴いたような名だな…」


「なっ…!本当ですか!」


「うむ。…宰相よ、〝世界地図〟を持ってきておくれ。〝一般の地図〟では…この大陸の事についてしか、描かれておらん故、今はもう発行が止まってしまったが…儂の私室にあった筈だ」



 なんと…ゴールまでの距離がぐっと縮まりを見せたぞ。後はそこに向かうだけ…といった段階まで、階段をすっとばせた。




 少しして、宰相が大きな…丸められた羊皮紙を手に戻ってきた。運動不足なのか、少し息が切れている。




 俺と王様を仕切るようにして…中央に配置されているローテーブルの上へと、世界地図なるものをバッと広げる宰相。




 捲れ上がってしまう四隅を、掌サイズの重りで固定し、王様のソファーの斜め後ろ…定位置へと戻った。



「場所は確か……此処、スタット大陸とは…海を隔てた先にある、別の大陸だった筈だ。名を…ゴル大陸……あった、この大陸だ」


「……此処が…」


「して…スクヴァー村の位置は…話を聴いた通りでは、海岸沿いだと推測出来る。そして、〝金色の厄災〟の…〝金色の高波〟に運ばれたと仮定するならば……海流の動きを考慮するにこの辺りだろう」



 …す、凄い爺さんだな。




 俺は、海流の事なんて考えもしなかった。



「…あ」


「どうしたのだ?ヨウよ」



 おじさん達の言葉を思い出した。




 海に浮かんだ俺を発見した…その話を思い出した。




 近くに、3つ並んだ島があって……




 丁度…波と波がぶつかり合う…



「この地点…から、海流の動きを逆算すると…」


「…ほう、海の動きが理解できるのか」


「ああ、何かと縁があって…身体に染み付いてます」


「何かと縁が…?…まぁ、深くは訊かぬとしよう」



 …何処だ?




 Sの頭文字を探す…が、見当たらない。…そもそも…だ、そもそも文字がおかしい。




 どう発音するんだ…この島とか、人の口では発音できないだろう。



「…これではないか?」


「…これ…ですか?」



 egalliv-ravks…?




 これのどこがスクヴァー村なんだ?俺の知らない言語で書かれているのだろうか?



「解らぬか?…古い地図であるからな」


「古い…?」


「逆から読むのだ。この地図の文字はな」



 逆から……




 skvar-village…スクヴァー…村…?



「こ…ここ…が、故郷…ぼ、俺の」



 やっと見つけた…いや、まだ喜ぶのは早い。




 この喜びは…崖を一目見るまでに取っておきたい。



「陛下、コレです…!この村です!」


「だが…海を超えなくてはならぬな。飛空艇を出せば…あるいは…」


「飛空艇?空を…移動出来るんですか?」


「おっと…うっかり口から漏れておったわい」



 さて…と、一言呟き陛下が言う。



「褒美の話がまだだったな。して…何を望む?」



 ……この流れで、飛空艇以外の望みは浮かばないだろう。




 変なものを望まれる前に、絞られたか。なかなかに頭が切れるらしい。




 とは言っても、飛空艇を望むしか…俺の道は無い。



「その、飛空艇を出してもらえますか?…お願いします…!」


「なぁに、頭を下げずとも良い。即日だと…流石に厳しいな。だが、明日の早朝までに…飛空艇と人員の準備を済ませよう」


「ありがとうございます、陛下」



 頭が上がらない。




 それからは、トントン拍子に話が進んだ。宰相がメモを取り、人員の選別について…苦手なタイプは居るかと、同じく宰相が訊いてきた。




 気遣いに長けているな。




 流石に…これ以上甘える訳にはいかないな。…だが、最低限コレは守れる人がいいだろう。




 …ので、俺は告げた…




 俺の恋人…足のないヤンちゃんを見ても、変に気にせず、それでいて…さり気ない配慮の出来る人を頼む…




 …と。




 少し厳しい可能性もあったが…陛下と宰相は、存外のこと…普通に受け入れた。際しては、あの人は駄目だ…あの人は良い…と、その場で選別を始めていた。




 …良い人だ。




 …セイのご両親も、〝なかなかの人格者〟だったのだろう。…当然、会ったことは無い…二度と会えない、だが、〝ソレ〟は想像に難くない。




 話を終えてから…忙しそうに、それでいて…楽しそうに談義をしている陛下と宰相に対して、深く腰を曲げてから…応接室を後にした。




 セイの私室へと向かおう。




 話を共有をしておきたい。…と、考えて…広く長い廊下を歩む。




 …して、曲がり角でバッタリと鉢合わせた。




 陛下から聴いていた…




 セシアライト王国の王子。




 トウ・レイフォン・ラ・セシアライト王子殿下。




 テイとは幼馴染であり、年齢も同じだと聴いている。




 クリーム色のウルフカット。


 同じくクリーム色の瞳。


 スラッとした体躯。


 フレームの目立たない片眼鏡。


 常に装着しているらしい…真っ黒なピッチリとしている手袋。




 先に口を開いたのは殿下である。



「…君、もしかして…ヨウって名前であってる?」


「…ああ、俺がヨウだ。…初めまして、殿下」


「…そうか、君がねぇ…?」



 目を細めて、顎に手を当てて、此方を品定めするかのように…じっとりとした視線を向けてくる殿下。




 少し暗がりのある所で出会ったからか…威圧感が殿下の周りに漂っている。




 そして…目が合う。



「いやぁ~…何ていうか…」



 ……何だ?




 やけに緊張してしまう。




 …何だ?手袋を外した?




 警戒していた俺は…殿下の次の言葉を聴いて、少し驚く。…こんな人物なのかと。



「いやぁ~、なんか…何を言えばいいのか。ありがとう、本当に感謝しているよ。我が妹、セイを助けてくれたんだろう?しかも、聴いたよ!波に飲み込まれる寸前で駆けつけて……まさに…そう!ヒーローだよね、君」


「…あ…ああ、どちらかと言えばダークヒーローたが…」



 俺の両手をガシッと掴んで、縦にブンブンと振るって、口数多めに喋り始める殿下。




 握手をされているのだろうか?




 これが…握手?



「ダークヒーロー!痺れる響きだ…!うんうん…ダークヒーロー、格好良いなぁ」


「どうも…?」


「セイが無事帰ってきてくれたのも、君のおかげさ!本当にありがとう!もう…我が愛する妹…セイに会えない…って諦めていた我に!ほかでもない君、ヨウが!希望の光を直接浴びせてくれた…!」


「…そこまで…?」


「ああ、そこまで…いや、それ以上だよ。…あぁ~…久しぶりに見たセイの尊顔。…堪らなかったなぁ~…本当に可愛いんだ。そう!世界一可愛いんだ、我の妹は。異論は受け入れる!なんたって、あの美貌に勝つ人間なんて存在しない。これ…直接会わせるだけで論破出来る自信があるよ、我は」


「…確かに、セイは整った顔で、かなり可愛いと思うが…」


「だろ!…おっと…気分が高ぶっていたらしい。失礼」



 何だこの人。




 事前情報による殿下のイメージが、完全に崩れ去ったぞ。




 …シスコン…というモノだろうか?




 だが…そこまでは行っていないとは考えられる。…何故なら、彼は愛妻家で有名らしい。複数人の妻がいるらしいが…その全員に愛を注ぎ込み、逆に疲れさせているのだとか。



「ヨウ、今から時間ある?セイに相応しい男かどうか…手合わせ願いたいんだけど。もしも我よりも、騎士団の最低ラインに這いつくばる我よりも、君が貧弱なのだと判ったなら…君に妹は渡せない。今後の接触も…悪いがやめてもらう」


「良いですよ。俺が勝ちますから」


「いい返事だ!場所を移そうか」



 …で、連れられるがままに…場所を移動した。




 男性が8割、女性が2割程だろうか……随分と開けたスペースへと案内される。此処に到着するまでの間も、殿下はセイに対する愛…そして、妻達の愛を語っていたので…俺は少し、この時点で疲れている。




 木剣が雑多に入っている…木の樽の中から、2本を適当に手にとって、その片方を俺に突き出す。




 俺は素直に受け取る。




 剣…何気に扱ってみたかったからだ。



「そんなに珍しいかい?ただの木製の剣だろうに」


「これから扱うモノだからな。ので、特徴は掴んで然るべきだと判断…しました」



 少し刀身が歪だな…長年打ち合った結果の凹みや傷なのだろう。よく折れていないな。




 各々が配置につき、向き直る。




 こころなしか、先程までの…練兵場に響いていた訓練の声が静まりをみせている。…皆が、チラチラと俺と殿下を興味深げに見つめてきている。



「準備は出来たかな?」


「ああ、よろしく頼む」



 …さて、殿下は〝氷の力〟を有しているのだろうか?




 有していたと仮定して、俺の炎と何方が勝る?




 …いや、炎の方が強いのではないか?冷たさには限度がある。…だが、熱さにはソレが無い。陛下達の力が、物理法則に則っていればの話だが。



「シッ…!」


「っぐ…!」



 一瞬聴こえた呼吸音と…同時に響いた鈍い音。




 いつの間にか繰り出されていた斬撃が、俺の首に当たっていた。当然ながら痛い。




 だが、ここで怯むと、殿下が勝利の言葉を出すかもしれない。ので、俺は殿下の腹部へ掌底を入れて…少し宙へ浮かせた。




 ウグッ…と、苦しそうに声を漏らした殿下。俺の攻撃はここから始まる。




 踵噴射で浮いた殿下を間髪入れず蹴り出し、背中噴射を塩梅よく使用して…落下地点へと瞬時に先回り。




 両手を筒状に変形させて、そのまま炎を噴射……




 したかったのだが…噴射口が凍った。そして…そこから、パキパキと霜が広がっていく。気がつけば、肘を越えて…肩の辺りまで霜が伸びている。




 殿下は空中で身を捩り、スタッと軽やかに着地をした。彼の両目…その中の白目の部分が、昨日のセイと同様に…黒く色が変わっている。…力を使用する時タイミングが丸わかりである。



「すごい形だな…内側がほんのりと光っている。…暖色系ということは、ありきたりだが…炎が噴射されるとか?…いや、ヨウは何者なのかから疑問に持つべきか。…でも、なんだかんだ…我の幼馴染はカオスだからな…だが、ヨウはカオスには見えないが…」


「……………」


「…う~ん…まぁ、良いか。別に。…って、ごめん!我の義理の弟になる予定のヨウ!少し凍らせすぎてしまった!大丈夫か?我の義理の弟となり、セイとの子を数人授かる予定のヨウよ!」



 …何だかんだで、俺の事を…大歓迎してはくれているらしい。俺の名前を呼ぶ前に、長ったらしい文言を…わざわざつらつらと述べている事から、その歓迎の度合いが容易に理解可能である。




 では、この試合を行ったのは…どういった理由なのだろうか。やりたかっただけ?いや…上下関係を叩き込むためか?




 仮にも弟になるやもしれない存在。コレに舐められては、たまったものではないだろう。




 そう仮定すれば合点がいく。そう仮定すれば…なのだが。



「多分だけど、既に、凍らせる力については知ってるんだろう?なんか冷静だし……さて、この試合、我の勝ちだ。我のような、騎士団の最底辺に負ける。そんな奴にセイを任せる訳には……と、言いたいところだが…」



 俺の肩を片手でポンポンと叩きながら、その続きを述べる殿下。



「昨日、セイと直接会話をしてな。聴いたんだ。どれだけ君が信頼をおける男なのか…どれほど格好良く、気遣いができ…なんたらかんたら。とにかく、妹の口は止まることを知らなかったよ。セイから、かなり好かれているようだな。まじで羨ましいぞ君。絶対に幸せにしてやってくれよ?兄として、そう…義兄としてヨウに頼もう」



 最早、ポンポンからパタタタタといった調子で叩かれている肩。何だか心地よく、肩が軽くなってきているような気がする。



「任せてくれ。約束します」


「うむ、良い返事だ。さて、まだ付き合ってもらうぞ?身分上、友人が少なくてな。このお喋り欲を発散するタイミングがないんだ。そう、つまり、夕食の時間帯までは拘束させてもらうよ。と、いうか…今日は泊まっていきなよ」



 泊まる…まぁ、アリだな。




 飛空艇の準備が…翌日の早朝までには完了する。…とのことだった筈なので、王城に泊まれるとなれば…かなり有り難いだろう。




 なら、俺の返しは一つ。



「もしよければ、泊まらせてくれ。そっちの方が、此方としても都合が良い…ですから」


「よし。泊まる部屋は……セイの私室で良いかな。いや、まずはコレをセイにも共有して…許可を取っておきたい。断られる可能性は皆無と言っていけどね。ふむ…取り敢えず、セイの私室に行こうか。元々そこへ行く予定だったんだろう?すまないね、我が声かけたばっかりに」



 殿下はそう言うと、返事を待たずして…スタスタと練兵場を去るようにして歩き始めた。俺も…少し遅れながらもそれに続くようにして、少しずつ小さくなりゆく殿下の背中を、見失わないように追いかけていく。




 こんなところで迷ったら二度と…は、言い過ぎだが、容易には抜け出せないだろう。…ので、殿下の一挙一動は…見逃さないようにして然るべきだと、たった今…背中を追いかけながら判断した。




 そして、セイの私室に向かう…その道中のこと。城内の廊下を…横に並んで歩んでいると、殿下が…意を決したような面持ちで、俺の顔色をうかがいながら…ヤンちゃんについて訊いてきた。




 彼女とどういう関係なのか…と、その類のモノである。




 …さて、どう答えたものか。




 普通に、恋人だと話しても……………いや、杞憂だったな。殿下は複数名の人物と婚約している愛妻家。ならば、俺とヤンちゃんが恋人同士である事を打ち明けたうえで…そのうえでセイとの交際をする。ソレを反対されるなんてことは起きない…だろう。憶測に過ぎないが。



「俺とヤンちゃんは恋人関係です」



 …さて、どうなるか。




 …と、身構えて…少しの緊張を持ちながら、殿下の返事を待っていると、ほほぉ〜ぅ…と、変な声を上げて、興奮気味に…さらなる質問を俺にしてきた。




 此方をピクリとも動かさずに見つめるその目からは…セイと殿下の血の繋がりを、より確かに感じられる…そんな狂気が目に宿っている。




 簡単な例を挙げるとすれば…高テンション時のセイの目から、少しだけ…ほんの少しだけ趣向を変えた状態?といえばいいのだろうか。




 周囲に人が居ないことを確認した後、俺に顔を近づけてコソッと訊く殿下。珍しくも、口数少なめである。



「ヨウ…君は…彼女ちゃんとドコまでシたんだい?」


「…キス…までです」


「…ほほほう…なるほどねぇ〜…そうかそうか」



 顔を離して、再び歩き始める。その顔はホクホクとしていて、満足そうだ。だが…その目は変わらず、狂気を宿している。




 それからは、特に会話をする事もなく…セイの私室の前まで到着した。その頃には、殿下も幾分か落ち着きを見せている。




 俺がノックしようと手を伸ばすと、ソレよりも早く動いた人物がいる。




 …そう、殿下である。



「セイ!お兄ちゃんが失礼するよ!」


「…あ」



 バンッ!っと、勢いよく開かれる扉。


 部屋内に轟く声。


 ひゃぁっ!?っと、驚いたセイの声。


 かなり控えめながらも、豪華絢爛と称せる室内。




 間髪入れずにズカズカと室内へと踏み入れて、セイとヤンちゃんが横並びで座っていたソファー…そこからローテーブルを挟んだ対面のソファーへと、殿下がズシンと腰を下ろす。




 そこから、足を組んで…両腕をソファーの背もたれの裏の方へと伸ばし、大胆にも寛ぎ始めた。




 あまりにも自然な流れで…その一連の動きがなされたが為に、俺やヤンちゃん…セイは呆然としてしまっている。殿下は〝氷の力〟を使わずとも…俺達をフリーズさせたのである。




 俺の方へと…ちょいちょい…と、手招きをして…隣に座るように目で促してきたが、俺はヤンちゃんの方へと向かい…彼女を抱き上げ、膝の上へと乗せて…セイの隣に腰を落ち着かせた。




 この俺の行動が原因かは定かではないが…殿下の方から、なかなか良いものを魅せてくれるじゃないか…と、聴こえたような気がした。




 …と、ここで、脳みそが働き始めた…セイが声を上げる。



「お…お兄さま!ノックはしてくださいと、何度も言っているではないですか!それに、静かに扉は開けてください!もしも、私が変なコトしてたらどうするんですか!」


「おっとすまないね。失念してしたよ。…変なコトをしているところを見たとしても、我は気にしない。だからそこは安心してくれていい」


「私が気にするのです!思春期なんですよ、私!」


「ああ、もちろん理解しているさ。そう、理解している…だからこそ!だからこその行動さ!こんな兄を持ってしまったが故に…可哀想に!だが…可哀想は可愛いと直結している。つまり…我はただシンプルに、セイの可愛いところが見たいだけなのだよ!」


「訳が解りませんよ!」


「…さて」



 スンッと急に真剣な表情に切り替えた殿下。俺は思わず、彼の情緒の心配をしてしまった。




 この場は…ヤンちゃんの頭を撫でながら、空気として眺めていよう。脳みその休憩も兼ねて。




 首を上に向けて、俺の顔を覗き込んだヤンちゃんと目が合った。




 あの人が殿下なの?…と、そんなふうな言葉を言いたげな表情をしている。…ので、俺は静かに首を振った。



「…真剣な話をしようか」



 …と、急に落ち着いた殿下が言った。



「セイ」


「は、はい!」


「君は、子供が出来たとして、その子をどうしたい?王族として育てるのか?それとも、その時の環境次第だと、楽観的に考えているのか?お兄ちゃんに教えてほしい」


「え…えーと…」



 割と真面目そうな話題に、口籠りつつもセイは答えてみせた。



「実は…ですね」


「別に…ゆっくりで良いさ。我の妹は悩んだ顔も尊すぎるな。義弟には嫉妬してしまうよ。これから毎日のように、セイの百面相を見られるんだから。…おっと!すまないね、わざとでは無いんだよ?……続けてくれ」


「庶民的な…一般的な暮らしをして、それで!ある程度育ったら…実は君は王族何だよー…って、言ってあげて、それで…どんな反応をするのか……ごにょごにょ」


「…うん…うん……ほうほう…セイの子供は絶対可愛いだろうなぁ…おっとすまないね」



 ある程度話し終えたらしく、セシアライト兄妹は話を纏めた。




 曰く…




 子供に夢を持たせて、ヨウと同じように旅を始めてもらいたい。その為に、王族であることをあえて伏せて育てて、頃合いを見てカミングアウト。


 王城へ行くように促し、その道中で起きる問題を実際に体験したり…見たりしてもらい、より良い国政を発見したい。




 一言で言えば…モニタリングである。




 まぁ…俺も、興味がないかと言えば…ある。だが、ヤンちゃんとも子供を授かったとして…だ、その子は?落ち込ませてしまう可能性もある。または、旅に同行する可能性も…ある。




 …人間とは、興味の唆られるモノには抗えない生き物だ。敢えて手を伸ばしに行く生き物だ。




 …子供が出来たら、試してみても良いかもしれない。まず…だ、俺に子供が作れるのか?仮に出来たとして…その子は、長く生きられるのだろうか?




 準人間?人間?…疑問が絶えない。



「…まぁ、将来の事をしっかりと考えている事が解ったので良し。お兄ちゃんは嬉しいよ。子供が出来たら陛下よりも先に我に会わせてね。セイのその話を本当に実行するなら、我はセイと赤ちゃんにしばらく会えないからさ、赤ん坊の内に我の顔をなんとなく覚えてもらいたいんだ」


「はい!出来たら、お兄さまを優先して顔を見せに行きます!」



 俺がセイと子供を作る事が確定しているな。…作るとして、初子はヤンちゃんとの子供だ。それは譲らない予定である。



「ヤツテ…旅が終わり次第、君に…」



 セシアライト兄妹がワイワイしているうちに、こっそりとヤンちゃんにも共有。初子は君の子が良い…と。




 ビクッと身体を震わせた後、ヤツテが少しのけぞり、小さな声で…カナメだけに聴こえるように答える。期待してる…と。




 俺はヤンちゃんを、先に返された言葉の返事代わりに…ぎゅっと強く抱きしめて、意思を行動で伝えた。




 そうして微かに聴こえた…ヤツテの愛の言葉が、俺の胸を満たす。




 気が付けば俺は思い出していた。




 あの日と同じ言葉を。




 3人で遊んだあの崖の上。


 僕と君だけで…


 方や地面に片膝をつけて…


 方や左手を前に突き出して…


 小さな花冠を薬指に嵌めた。




 その次の日から君は現れなくなって、数日後に引っ越した事を聴いた。




 俺はその日に、人生で初めて…声が枯れるほど泣いた。空の色が変わっても…俺は泣き止むことは無かった。それ程までに…俺は壊れたように哭いていた。






 …※はその時※、取※の※※リ※※※タ※と※※※し※、※※の※焉※※※だ。だが、※※※※人※※※※※※はソ※を※※、※接的※※※※滅※※※を提※※※※※。俺は※※※※※※※。※の時※※※※※、その時※※※の内容を忘※※事だった。





 君の家について…俺だけはよく知っていたから、尚の事…君が可哀想で…不憫に思えて、罪悪感と無力感が口から液化して出てきた事を…確かに憶えている。




 救えない世界を憎んで…弱い自身を憎んで…弱くて惨めだった。




 …けど、今は違う。




 君は確かにここにいる。…無意識のうちに、頑なとして、俺がそばにいるときは抱き締めていた事を…今気付いた。




 もしかしたら、ヤンちゃんや…皆の頭をついつい撫でてしまうのは、これは幻ではない…と、無意識的に確認をしていたのかもしれない。




 今度は絶対に護る。




 (カナメ)が…(ヤツテ)守護者ガーディアンになってやる。




 俺の身を犠牲にしても。何を天秤に掛けてでも。




 絶対に。

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