三話・Part3 ヒトか 魔物か
あれから少し経過。
皆で夕食を…お腹いっぱいに摂った後…
俺とテイは、お腹を慣らすために…夜も更けた街を歩いている。
すれ違う人達から握手を求められるが…テイが尽く、ソレを押し返していく。
握手くらいなら良いのでは?と、思ったが…1人目を許せば、2人目、3人目も来るぞ?と言われ…俺は納得した。
「迷子?噴水があった…?なら、あっちだね。ヨウ、悪いけどちょっと待ってて…」
「ああ…」
迷子を抱き上げて…親のもとへと帰したり…
「婆さん、その荷物持つよ。何処に運べばいいかな?…ヨウ、ちょっと待っててね…」
「…ああ…」
荷物と婆さんを抱き上げて…婆さんの目的地まで移動させたり…
テイは…人助けを率先して行っている。
時間の無駄だと、無視して通る俺とは…かなり対照的だな。
「お待たせー」
「……ああ」
予め定めた時間に沿って…物事を進めたい俺。
余裕を持たせた計画に沿って…物事を進めるテイ。
前者と後者は似てはいるが…こういうところで、差が明確になってしまうな。
そうして街を歩くこと数分が経過、そろそろ宿へ戻ろうと考えて帰路につき始めた頃合いの事。
暗い…灯りの少ない道の端で、ゴミ箱を漁る人影がぽつり。
夜目が効く俺は、その人影の正体に気が付き…声を掛けた。
「君は…メイか?」
俺の呼びかけに対して…肩を少し震わせながら、此方の方へと…恐る恐るといった調子で振り返る、帽子を被った子と…ピタリと目が合った。
宙に浮かんだ2つの黄色い丸。
普通の人が見れば…その情報しか得られないだろう。夜目が効く俺でも…メイの全身の輪郭を掴むことは厳しい。
「何だ、ヨウくんかぁ。びっくりしたぁ」
「あれ?メイじゃん。奇遇だね」
「テイも夜目が効くのか?」
「効く効く。今も、曇りの日くらいの明るさに感じてるよ」
そこまで夜目が効くのは…逆に、使い勝手が悪そうだな。…俺の場合は調節が可能だが…テイもそうとは限らない。だから尚更…使い勝手が悪そうだと思えてしまう。
「…で、もしかしてだけど…ゴミ箱漁ってた?」
「お腹すいたけど、お金持ってないからぁ。何か無いかなってぇ」
俺の方へとチラリと目を動かして、テイが言った。
目は口ほどに物を言う…とは、よく言ったものだ。テイの意思が良く伝わった。…今日は頑張ってばかりだな。
「………良ければ、俺達、今から夜飯食べに行くんだけど…」
「メイもどうだ?奢り…ますよ。テイがですけど」
「良いのぉ?」
「良いの良いの。多分だけど……メイは食べ盛り何だから、栄養摂らないと」
「やったぁ」
…さて…メイに違和感を持たせないように、無理やりにでも胃袋に捩じ込まなくては。もしも残したら…此方から誘った手前、かっこがつかないだろう。
…そして、飲食店へ来店。初日にも入った…丼物の飲食店である。
3人で…メイを挟むようにして、カウンターの席に腰を落ち着かせ…覚悟を決める俺とテイ。わくわくした顔で…注文を待つメイとは違い、お互いに表情が硬い。
メイを挟んで目配せをする俺達。
絶対に食べきるぞ…と、お互いに頷き合い…届いた丼へと手を伸ばす。
「「いただきます」」
「いただきますぅ」
…前よりも、量が多い気がする。気のせいだろうか?
さり気なく…カウンターの向こうへ視線を移すと、店主のおじさんが…ニカッと笑みを浮かべて、サムズアップをしてきた。
……増量のサービス…ということだろうか。…普段なら、有り難いのだが……今回ばかりは、コレを有難迷惑だと言えてしまう。
「美味しいぃ~」
「…………ですね」
「良かったら、俺のも食べる?メイの食べてるところ、可愛いからもっと見たいな」
…自然な流れで、テイはメイに…自らの丼を譲り渡した。
…俺も渡したい。もう…箸を置いて、メイの食べる姿を眺めていたい。それくらい…限界が近い。
「良いのぉ?」
「良いの良いの。ほら、沢山お食べ」
「ありがとうぅ」
だが、俺は…自力でなんとかしよう。
なんだかんだで…丼の底が見えてきている。あと数口分……少ないのに多く感じてしまう。
…もうひと踏ん張りだ。
「ごちそうさまぁ」
「ごちそうさま…でした」
「ごちそうさま」
…キツかった。
こんなに食べたのは…密漁で…売れなかった魚を処分した時以来、つまり、けっこう最近ぶりである。まだ今年中の出来事である。
それから…飲食店を出て…街へと出た。
メイが元いた所へ…足を進めている。
「…何処の宿に泊まってるのぉ?」
「俺達は…闘技場の近くの、2階建ての宿に泊まってるよ。まぁ…こうして伝えたところで、明日には此処を出るんだけどね」
「じゃあ、明日の朝にお礼しに行くぅ」
「お礼を…?嬉しいよ。待ってるね」
「うん、待っててぇ」
「それじゃあ、またね。メイ」
「うん、またねぇ」
メイの後ろ姿を見届けてから…俺達は宿へと戻り、セイとヤンちゃんに…遅くなった事情を説明した。
俺の想定通り、2人はすんなり受け入れてくれた。
それどころか、早くお風呂に入りたいと…俺に言ってきている次第である。
…今日は疲れた。
本日の早朝には、ブーイの大群とキングブーイ戦。
その後に…闘技場での準決勝…メイ戦。お昼を挟んで、決勝のテイ戦。
身体を動かしてばかりの1日だったのか…。どうりで、身体が痛む訳だ。
おじさん達の元を離れてから、しばらく使っていなかった筋肉が、たった今…悲鳴を上げている。
…今日は長めに入浴を楽しもう。
そう考えて、俺とセイとヤンちゃんで…お風呂に浸かった。
テイも誘ったのだが、諸事情があり…後で1人で入る…と、断られてしまった。
「ヨウ、膝に乗せて」
「良いのか?恥ずかしい…のでは?」
「……乗せてほしい。今日はあんまり、一緒にいれなかったから…甘えさせて」
「…分かりました」
すぐ隣で俺に寄りかかっている…セイの膝の上から、ヤンちゃんを移動させた。
そして、膝の上に乗せるなり…すぐに俺の方へと、ヤンちゃんも寄りかかってきた。
お風呂のお湯とは違う…体温の温かさが身に染みる。
「にしても、まさか…テイが既婚者だとは…思いませんでした。失礼かもしれない…ですが」
「子供もいるって言ってたね」
「子供…私にも、いずれは出来るのでしょうか。………あ、わ…忘れてください…!!今のは無しです!」
……信じがたいな。
こうして接する分には…普通の女の子なのに、セイは一国の王女である。…なんとも…信じがたい事ではなかろうか。
それに…本日は…身体に巻いているタオルも短く見える。
いや、実際に…十数センチは短い。…普段よりも、太ももが長く見えるのはその所為なのだろう。
セイは控えめに見えて…やる事はやるタイプなのだろうな。……む………そうだ、むっつり…セイは恐らく、ソレだ。
「ヨウ、今はセイしか居ないから…してもいい?」
「………………ああ」
「わ、わぁ~…!そんな…す、凄い…」
視界の端で、顔を赤くしつつも…目を離さないセイが、俺とヤンちゃんの行動に対して…あたふたとしている。
口元をキュッとさせて、羨ましそうな目をして凝視してきている。
それに気が付いているヤンちゃんが、セイに提案した。
「……………セイもしてみたら?」
「良いんですか…!?あ…。わ、私は…その…王都を過ぎたら………沢山……ゴニョゴニョ」
「ふふ…沢山だって。僕もいるのに大変だね、彼氏くん」
………………………………。
「…………そうだな。大変そうだ」
「ねぇ、もう一回しよ。今度は僕が攻めね。ほら、舌だして」
「……………………ああ」
「…ふふ…いただきま~す……」
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
おっと…脳みそが溶けていた。いや、脳みそも…か。
………あっという間に…こんなにも時間が過ぎている。
……だが、たまには…時間通りにいかなくても、良いな。
「ヤンちゃん、ソッチはまだ早い…です。手を伸ばそうとするのは…やめてください」
「えぇ~……ちゃんと[自主規制]するって」
「セイも、ソコばかり見ないでください」
「え!!どうして分かっ……あ、いや…えと…気をつけます」
そろそろ上がろうと思っていたが………もう少しだけ、幸せに浸かるのも悪くないだろう。
そう思い、お風呂に長めに入ってから部屋に戻ると…椅子の上で、お風呂のセットを脇に抱えながら…机に頬杖をついて、退屈そうにしているテイと目が合った。
「君達…俺も風呂入るって忘れてたな…?こんなに長い時間、いったいナニしてたんだ?………ああ…いや!やっぱいいや!…風呂入ってくるね」
「ああ。特には何もしていない…ですよ」
………いや…特に何もというわけではないのか?
ふと…窓から外を見ると、もうすっかりと真っ暗闇になっている。……夜目が効く俺でも、暗い…と感じてしまう。
…そろそろ寝よう。
明日の朝には街を出る。…ので、早めに寝た方が良いだろう。
そう考え、ヤンちゃんを抱き上げて…ベッドへと移り、いつもよりも早めに就寝した。疲れていたからか…この日はすぐに眠ることができた。
▲ ▲ ▲ ▲ ▲
…早朝、外が騒がしく…俺達は目が覚めた。
「何の騒ぎだ?まったく…まだ寝れるじゃないか」
「確認しに…行きましょうか」
「あの…私も、ついて行っても良いですか?」
「ああ、セイも…来てください」
うつらうつらとしている…ヤンちゃんを抱き上げて、宿の外へと出た。
そうして…第一に目に入ったのは、一つの塊。
男衆が…円陣を組んで、何かに群がっている…?
コレを掻き分けて…中央の開けたスペースに身を乗り出すと………
グロッキーで…ショッキングな光景が、視界内に広がった。
「俺達を騙してたな…!!!」
「違うよぉ…!痛いよぉ~…!」
メイが、複数人がかりで…蹴られ殴られ、所謂…リンチにあっていた。
両手の指が…あらぬ方へと折れ曲がり、潰れた目から…血の涙が頬を伝って垂れ、破れた衣服から…痣だらけの白い肌が見える。
その近くには…ズタズタの帽子が落ちてあり、先日言っていたお礼であろう…ナニカが、ぐちゃぐちゃとなり…散らばっている。
「まさか…カオスがこんなところに、潜んでいたとはなぁ!」
「ごめんなさいぃ…うぅ…痛いよぉ…!誰かぁ…助けてぇ…」
「謝罪はあの世でしなぁ!人類に仇なす〝魔物〟め!」
斧が振り下ろされる…
メイの首へと。
「…………っ!」
誰かの声が漏れる。
踵と背中の噴射口が勝手に顔を出し…気が付けば俺は駆け出そうとしていた。
だが…それよりも速く動いた人物がいる。
セイが腰に掛けていた…銃を取り上げて…
斧を持つ手を正確に撃ち抜く……
…テイ。
「グギャァァア…!?」
「さぁ!散った散った!何を寄って集って…小さい子供を虐めているんだ!!!」
「なぜ庇うんだ…!!そいつは特異種、カオスブーイだぞ!?早く処分しないと…全部、回復しちまう!」
「カオスブーイだって……?メイが?」
メイの元へ駆け付けた俺とテイ。
テイが…メイを囲む人を散らして…
俺がメイを※※する。
…ん?何だ…これ?見覚えがあるな。
「…これは…角?ですか…?」
「あ…れ…?痛みが無くなったぁ…?」
怪我が直り、2本の角が…額から現れた。
先日の早朝にも…見たような、そんな角が…メイの額から現れた。
「…メイ、君…カオスだったのか…?」
メイの方へと向き直り、腰を下ろして問い掛ける…テイ。
「えぇ…?」
自身の頭部へと手を伸ばし…帽子が無いことに気が付いたメイは、大きく目を見開き…その場で頭を下げ始めた。
「ごっ…ごめんなさいぃ…!!カオスだって…黙ってて…ごめんなさいぃ…!」
「ああいや…!怒ってないさ…別に、俺達は」
「ごめんなさいぃ…!」
禁忌の存在…カオスブーイ……か。
人間とブーイの交配により…極稀に産まれるとされる、人間とも言える…ブーイとも言える…禁忌の存在。
昨日に、セイから聴いた話では…確かそう言っていた。
「謝んなくて良いよ…だからさ、ほらっ!メイの可愛い顔、俺に見せてよ」
「ごめんなさいぃ…!うぅうぅ………ひぃっ!?」
「…危ないな。誰…ですか?矢を放ったのは…」
メイ目掛けて撃ち放たれた矢を…蹴り弾き、飛んできた方向を凝視する。
「チッ…!…なぜ庇うんだ!」
そんな声が…俺達を取り囲む誰かから発された。
そして…その人を皮切りに、次々と荒んだ声が上がり出し始める。…人間がどういう生き物なのかを…否が応でも解らせられてしまうな。
何故庇う!
人類の敵だ!
禁忌の存在だ!
産まれてはいけない存在だ!
お前らも…実はカオスブーイ何じゃないのか!
油断するな!相手は下等なブーイ…いつ足元を掬われるか分からないぞ!
殺せ殺せ!いくらチャンプでも、複数人の遠距離が相手なら、なんとかなるだろ!
…まったく…困ったな。
聞く耳を持たない…隙あらば矢を放つ…1人が発せば、2人目が続き、ねずみ算式に増えていく。
ああ…時間の無駄だ。
もう…いっその事…
全員…殺してしまおうか?
「黙って聴いていれば…随分と血気盛んなようで。…メイ、一つだけ質問させて欲しい。…君は、故意的に誰かを、傷つけようとしているか?」
「全然。むしろ…メイは皆と仲良くしたいぃ…」
「……〝本当〟だね。…さてさて!メイ…いや、カオスブーイがお嫌いだと…始末しようと言うのなら、俺も始末対象になっちゃうんだよなぁ~」
なぜなら…と、言葉を続けて、前髪を掻き上げるテイ。
その額には、小さいながらも…遠目から見てブーイだと理解出来る、2本の角が生えていた。
「俺もカオスだからね!…まぁ、俺からは攻撃しないよ。気が済むまで痛めつければいいさ。なんたって、俺は君達…人類の敵だからな」
よいしょ…と、言葉を漏らして…テイは上半身の服をバサリと脱ぎ、衣服がボロボロになっているメイに被せた。
傷跡だらけの…火傷痕だらけの、鍛え上げられた身体。
ソレが…テイの生身の身体である。
「さぁ、撃ったり殴ったり好き放題にしてくれて構わない。〝後で〟報復することも無いし、訴えるなんて事もない。だから……っゔ」
石が飛んできた。
「うぶっ…あがっ…」
石が当たり、矢が刺さり、斬られ、殴られ、蹴られ………
「テイ…!」
「治すなよ?ヨウ。格好良い…俺の見せ場だからさ。…っぐぅ!」
蹴られ、殴られ、斬られ…
斬られ、刺され、殴られ、石を投げられ、矢が刺さり、矢が刺さり…
腕を折られ、目を潰され、斬られ、殴られ、斬られ、蹴られ、腹を裂かれ、指を落とされ、殴られ、石を投げられ、水をかけられ、蹴られ、矢が刺さり、耳が千切られ…………………
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「はぁ…なんだコイツ…!!なんで…」
「いつまでも、立って…笑っていられるんだよ!」
「死ぬならさっさと……死ねよ…!!」
テイの身体は……彼自身の血で真っ赤だ。
だが…その顔は笑顔を保ち、その足はしっかりと地面を踏みしめて立っている。
その傍らで、ただ呆然と…目を大きく見開いて、硬直しているメイ。
「おっとおっと!攻撃の手が止まったなぁ?で、コレで…お前らの何が満たされた?何の欲が満たされた?楽しかったか?それとも…少しずつ、罪悪感が芽生えてきたか?」
「っうるせぇ!さっさと死ねえぇぇえ……えぇ…え」
男衆の1人が、手に持った斧を…テイの首元へと振るう…が、その斧は…薄皮一枚のところで止まった。
全身に霜が張り…雪の結晶の形の氷が、男性を包み込むようにして聳え立つ。…その冷気は、少し離れた位置にいる俺にも…届く程だ。
…コレは…凍っているのか…?
地面には、氷漬けの男性に向かって伸びている…一本の氷の道が出来ている。
それを目でたどり…氷の出処に目が行き着いた。
「もう…やめてください!」
…セイだ。
両手を前へと突き出し、そこから…白い冷気が、狼煙のように上がっている。
そして…どうしてか、白目の部分が…両目とも、黒く染まっている。因みに、瞳の色は…クリーム色のままである。
大粒の涙を…止め処なく流して、セイは表明した。
「敵意がないのなら!もう…良いではありませんか!」
セイを中心に、地面が…雪の結晶のような形で…凍りついていく。ソレの周りにいた人達は、凍りついていく地面から距離を取るように…セイを警戒するようにして、ゆっくりと後ずさっていっている。
「どうしてこんなにも…酷いことが出来るのですか!?…これでは…貴方達のほうが〝魔物〟ですよ!」
ゴミ達の……おっと、失言だ。…男衆の注意が、セイに惹かれたことを確認し…そっとテイへと近づいて、身体を※※した。
目をパチクリとさせて、俺の方を見るが…すぐにその視線は、セイへと向けられた。
事態の確認を取るために、俺の耳に口を近づけて…囁くように問いかけ始めるテイ。
「ねぇねぇ、今どういう状態なの…?見えなかったし…聴こえなかったから、良く解らないんだけど…」
「…さぁな。俺視点で解るのは…セイが、力を得たように見える事くらいだ。〝氷の力〟とでも言うべきか…」
「ふむふむ、なるほどね。爺さん…いや、陛下と同じ力を、姫様は覚醒させたんだな」
「………?陛下も〝力〟を?」
「…あ、やべ。今の秘密な」
「了解…です」
セイの訴えを聴いて、男衆達は…セイの〝力〟に対する怯えか…はたまた、訴えが心に響いたのか…俺達一派から距離を開け始めた。いや…後者は無いな。無い。
………今なら、気付かれずに…
全員殺れるだろう。
…だが、その必要は無い。
俺は〝魔物〟じゃなく…人間だから。安易に他人を傷つける真似は…………していたな。思い返してみれば。
とにかく…俺は人間だから、無抵抗の…無害の相手は、なるべく…傷付けないつもりだ。
「……………」
いやまて…俺は人間なのだろうか?いや、そんな事…もう…どうだって良いか。
俺も…テイも…メイも、〝準人間〟という…同類だ。同じ人がいる。ならば…俺自身が人間かどうかで悩む必要は…もう無いだろう。…俺は、キカイで人間。それ以上でも以下でもない。
俺は…俺だ。
「寒い寒い…冷えてきたな。そろそろ、この街から出ようよ」
「メイも…来てください。俺達は仲間…です。人間かどうかと訊かれても…答えが曖昧な…そんな仲間です」
「確かに、ヨウも人間か?…とか訊かれたら、違うし…合ってるし…って感じだもんな」
「自称は人間…ですけどね」
「ほら、おいで…メイ。俺と…俺達と行こう」
「あ…!触るのは……あれぇ?痛くないぃ…?」
テイがメイの手を引いて、俺がセイを確保して…その場を後にした。
ずっと胸に抱えていたヤンちゃんは…何処かのタイミングで起きたのか、俺の胸に顔を埋めて…涙を流していた。
追ってくる男衆は…誰もいなかった。全員が、ただ無言で下を向き…俯いているように見えた。
道中で川に寄り、テイの身体を簡単に洗い流した。傷が直っても、身体についていた血は…取れないらしい。
▲ ▲ ▲ ▲ ▲
「おっさんおっさん!早く馬車出してくれ!王都に急ぎの用があるんだ!」
馬車の傍らで…馬に餌を与えていたおじさんに声をかけたテイ。未だ上裸だが、別に…違和感は感じない。
声をかけられた側は、テイその必死な形相で…どれだけ急ぎなのか伝わったようで、すぐに馬車を出してくれた。
…話が早くて助かった。
そして…俺は鉄の翼を展開して飛び立ち、宿に置いてきぼりだった荷物を取りに戻り…全て回収。後に、馬車に戻り合流した。
男衆は何処へやら。宿に戻って来た時には、既に散り散りになっていて…その動向を確認出来ていない。…だが、男衆の手により…何か悪い事が起きるなんて、絶対に無いと俺は断言する。
理由は…特にないが、指名手配が掛けられるとか…通報されるとか、そんなことは確実に起きないと…解る。
「お、戻って来たね」
「…何して…いるんですか?」
「俺にも分かんないんだよね。それが」
馬車内に戻ると…
メイがテイの身体に…ビッタリとくっついていた。
より具体的に表現すると…
未だに上半身が裸のテイに…テイの着ていた服を身に包んだメイが、馬乗りとなり…身体をビタリとくっつけて寄り掛かっている。
「痛くないぃ…何でぇ?」
「さぁねぇ…俺もブーイだからじゃない?」
「でも、ほとんど人間でしょ…?」
「ん~…難しいね。少しでも…ブーイの血が流れていれば、痛みは感じないのかも」
「そうなのかなぁ…」
「…で、いつ離れてくれるんだい?」
「…もうちょっとだけぇ…初めての、他の人の体温を感じてたいぃ」
「そう言われるとなぁ、メイを離しづらくなるというか………ってか、女の子なんだね。メイって。あと…顔近いよ?」
鞄から適当な衣服を取り出し…頬と頬をくっつけられている、信頼の置ける友人…テイへと手渡す。
ずっと立ちっぱなしという訳にもいかないので、セイの隣…空いたスペースへと腰を下ろした。
セイは…もう落ち着きを取り戻しているようだ。…黒かった白目も…もとの色に戻っている。力を使用している間のみ、白目が黒色になるのだろう。
俺の大切な、護るべき人…ヤンちゃんも泣き止んでいる。……少し目がうるうるとしているが、それ以上…頬へ涙が垂れる事は無かった。俺が…ハンカチで、そっと拭いたから。
ヤンちゃんをセイから受け取り…そして、セイの肩を抱き寄せる。
…この馬車に乗っている5人全員が…〝力〟を所持しているのか。いや、メイは違うのか。素で…あの怪力だ。
そんな怪力があって…簡単に抵抗出来たというのに、手を出さず…死の間際まで堪えていた。
…それを良いことに、ゴミ達は…どうしてアソコまで堕ちれるのか。ど……度し難い?な。
「ヨウ、少し力強いよ…」
「あっ…すまない。無意識に、力んでしまっていた…ようです」
…なんでなんだろう。…怒り?……怒りか。
何も出来ない…やるせない自身への怒り。……何処かで体験……………した…ような…?っ…痛い…!…だが、出来るだけ…顔に出さないように!テイは…この程度では、顔に出さないだろうから。
金色の高波に飲まれていく弟…カイ。
掴んだ腕…無くなっていた身体。
無くなっていた…皆。
俺も飲み込まれ……全身が散って………
取引の魔神…リスクリタンと…交渉した…?
……俺の身体は一度無くなったのか…それで、金色の厄災に補われて…硬く、頑丈に…金属のようになって…だが、学校と併設されていた図書館では、機械のようになるなんて…そんなことは記載されていなかった。
鉄の翼が展開可能になるなんて、任意の部位を筒状に変形させて…または、噴射口を任意の場所から出して…炎を噴射出来るなんて…そんな記載は一切無かった。
…リタンが…コレだとしたら?リスクは…記憶の喪失?…………しっくり来る。仮定として、取引の魔神と出会ったと…そう当てはめると、合点がいくな。
…………………………。
難しいな…だが、確実に俺は…いい情報を掴んだ。少しずつ…空白を紐解いて、俺は…過去の記憶を、可能な限り取り戻したい。
……にしても、何だか…朝から疲れたな。
……セイの〝氷の力〟についても気になる。質問してみても良いのだろうか?
テイの言い方的には…国家機密的な印象を受けられる。陛下も同じ力を…とも言っていたな。
自ら話すのを待つべきか…訊いても良いのか。
「ヨウ、ハーレム中悪いけど…良いかな?」
「ああ、今後の〝予定〟についてだろう?」
「そうそう。この馬車は、本日の昼過ぎ頃には王都に到着する。その後の動きについて、〝計画〟を立てようよ」
「なら先ずは、到着後の動き方についてだが………」
次は…このまま国境を越えて、隣国の王都へ…
セイの産まれ故郷…セシアライト王国へ行く。
間違いなく……一波乱起きるだろうな。…だが、俺は絶対に乗り越えてみせる…そんな予定だ。
…セシアライト王国…王都ブライト。
そこが、この旅の…次の目的地である。