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迷える君を 望む場所へと(書き直し前)  作者: 差氏 ミズキ
スタット大陸編
5/31

三話・Part2 ヒトの戦 開かれり



「何だって…!もうブーイの大群は殲滅したじゃないか…!なのに…馬車が出せないなんて…!」


「落ち着け、テイ。仕方がないですよ」



 問題が片付いたので、王都へ向かう馬車を出してもらおうと…今。




 また明日…その朝に予約を入れる運びとなった。




 馬車乗り場の帰り。



「なんだなんだ?これまたやけに騒がしいね…。まさかだけど…また何かあったのかい?」


「違うっぽいよ。ほら、皆あの建物に向かってる」


「…宿の近くのあれね…」



 宿の近くの巨大な建造物を指差すヤンちゃん。




 昨日は夜だった事もあり…その外観を確認できていなかったが、これは…かなりデカいな…。




 …で…その中へ向かう人達を見ると、確かに…朝の時よりも、無い訳では無いが…あまり緊張感が感じられない。…いったいなんの集まりなのだろうか。




 すると、建物内を目指して進んでいた男性の一人が、俺とテイに対して声を掛けた。



「何だって?闘技場なの?この建物…」


「そこで優勝すると賞金が出る…と。…行きますか?」


「別に金には困ってないけど……行くよな」


「良かった。俺も行きたかったので」


「ヨウ、また戦うの?」


「ああ、明日まで暇だし…楽しそうですので」


「また…ヨウと離れてないといけないじゃん」


「正直な事を言うと……貴方に、俺の格好いい姿を直接魅せたい…と思ったから、参加しようと考えました…」


「ふぅ~ん……なら、優勝して来て。僕の彼氏くん」


「私も、御二人を応援します!頑張ってください!」


「はい!ありがとうございます。セイ…さん」



 かくして、俺とテイはコロシアムに参加する事となった。




 セイとヤンちゃんには…試合がよく見えるようにと、テイのオススメする…良い場所を用意した。なんでも…VIP?とか言う、完全個室で楽しめる部屋らしい。そして安全性も高い…と、それもテイから訊いた。




 VIPルームは…流れ弾で怪我をさせてしまう。そんな事が起きないようになっている為、俺もテイも…試合に集中出来るだろう。




 トーナメントが組まれた事を確認して、俺とテイは顔を見合わせた。



「俺達さ、お互いに順調に勝ち上がったらさ、決勝戦で戦えるよね。この表を見るに」


「ああ。別のブロックで…安心しました」


「な。今からヨウと戦うの楽しみだよ。この新調した剣も、ヨウに試したいし」



 テイの剣は、キングブーイの手により…いや、足により折られてしまっていた。なので、今回の討伐報酬として…俺には解らないが、なんとも上等なモノを得たらしい。




 俺は討伐報酬を拒否。メイは既に何処かへ。




 結果的に、テイがぼやく羽目になっていた。




 報酬を受け取ったのが俺だけだと、がめついような…卑しいような感じになってしまう…と。




 別に誰も気にしないと思うのだがな。



「おっ…始まるって。それじゃあ、お互い決勝で会おうな」


「ああ」



 テイが別の場所へ向かい、俺はここに残る。




 別のブロックだから…別の場所で、同時進行で進むらしい。



「…俺の番か」



 スタッフの案内に従い、闘技場の舞台へと上がった。




 降参か落ちるか…はたまた再起不能か。それで勝敗を決めるらしい。




 ……………。



「おいおい!余所見かよ!余裕だなぁ?」


「…お、いた」



 ヤンちゃんとセイが此方に手を降ってくれた。俺もそれに対して手を振り返す。



「…ああ?そういうことかよ…けっ!」



 手を降るのを止めて、対戦相手に向き直ったところで、ちょうどゴングが鳴った。




 一戦目が始まった。



「彼女の前でカッコつけたいみたいだが…残念だったな!俺は…!」


「さて、ささっと決勝までいこう」


「ゥゲェ…!?」



 飛んで押してポイ。




 初戦が終わった。




 そして次の試合。



「お前…強いだろ?」


「…ああ、強い方だ」


「っふ!果たして、俺にどれほど…」



 次の試合。



「へへっ…血が騒ぐぜぇ…」


「さぁ、さっさと来てください」


「食らえ!俺の…」



 次。



「先手必勝!おりゃ~!!」



 そして、気が付けば準決勝。



「こんにちはぁ」


「おお、メイが相手なのか。これは楽しめそう…ですね」


「ヨウくん、よろしくぅ」



 さて…今回は適当には勝てなそうだな。




 キング戦を思い返すと、メイの強みは格闘技術。




 キング戦では、ソッとキングの刃に手を当てて…剣筋をズラすなどの芸当を、メイはしていた。恐らくは、剣以外のモノにも…同じ事が出来るだろう。




 殴りや蹴りも、何だかんだで…あらぬ方向へとズラされてしまうのではないだろうか。



「始まりぃ」


「ああ…」


「おいでぇ」



 カウンターを狙っている?




 ……ならば、炎を噴射してみるか。俺なら…もしもの事があっても、メイを直す事が出来る。




 右手を突き出して、筒状に変形させる。



「キモいよぉ」



 そして…炎をメイに向かって噴射した。



「凄いねぇ。かっこいいよぉ」


「それは良かった…です」


「でも、メイはそこに居ないよぉ」


「…なるほど」



 俺は埋まった。




 両足を舞台の中から掴まれて、そのまま…キングにしていたように、下半身を埋められてしまった。




 俺が炎を噴射したタイミングで、舞台を掘ったのだろうか?…だとすれば…不味いな。




 …怪力だ。キングと比べると劣るが…頭を殴られれば、その時点で一発KOだろうな。



「またねぇ。ヨウくん」



 埋めてから間髪入れずに、蹴りを繰り出したメイ。




 当たれば…負け確定。




 鉄の翼を展開し、何とか舞台から脱出。それと同時に、蹴りが空振って発生した…ブォンという鈍い音。




 命中すれば、普通に凹むかもしれないな。心も…身体も。



「それで人間は無理あるよぉ」


「…どうするか…」



 地面に足をつく…瞬時に地面を掘り進んで、相手を埋める。




 打撃を与える…上手く手を添えられて、攻撃をズラされる。




 炎を噴射する…メイの足元に地面がある限り、地中へと逃げられる。




 さて…どうするべきか。



「もう少しだけ高く飛んどいた方が良いよぉ」


「…目測ではあるが、5メートルは飛んで…ますよ」


「メイには低いよぉ…」



 その場で腰を落とし、大きく踏み込んで跳躍してみせるメイ。それと同時に、舞台が割れた…。




 つい先程、キングよりは劣ると言ったが……訂正しよう。




 メイは、キングブーイに比肩する程の…怪力の持ち主だ。



「ほら、メイには低いぃ」


「…凄いな。………だが、空中ならば…此方に軍配が上がるのでは…ないですか?」



 再び飛翔。




 今度は、空中でスピードが下がってきた…メイの身体へ近づいていく。



「あ、触るのは駄目ぇ」


「モガッ…!?」


「メイは色々と…感じやすいからぁ」



 空中で…踵落とし!?そんな芸当が出来るのか…!?




 不味いな…あっと言う間に…地面に倒れ伏してしまっている。…立てない、この痛み方は…骨折か。しかも、複数箇所の骨折…外傷は無いのに。




 …外傷が無いのなら、立てないのは…おかしいな…?



「うえぇ…グロいぃ」


「なんと…」



 …本当に曲がっている…!




 両足が…右腕が…あらぬ方へと向いている…!



「ねぇ…終わりぃ?」


「※※」


「…今、なんて言ったのぉ?」



 …案外…俺は弱いんだな。



「…さて…と」



 直った身体を起こして、再び、空に向かい…炎の噴射を始める。



「またそれなのぉ?」


「いや、少しだけ違うぞ。…色が」


「凄い、どんどん蒼くなってるぅ」



 …よし、曖昧だった蒼炎の感覚は…たった今、完璧に掴んだ。




 さて…不完全燃焼では、お互い…終わりたくはないだろう。




 俺も…身体を張らせてもらう。



「…うわぁ~…無理それぇ。何してるのぉ…?」


「何処かに燃料があると思ってな……おっ、これか?」


「吐きそうぅ…」



 俺は、筒状の腕の中へと…もう片方の腕を入れて…………ソレらしいモノを発見した。




 これが…燃料か?




 流石に…無から炎が出せるなんて事、あり得ないだろうからな。




 やはり、燃料であろうモノはあった。…だが、何処かに引っ掛かっているのか…取り出せない。



「うぷぅ……もう、メイは待たないからねぇ…?」


「ああ、すまない。中々に…手間取っていてな…」


「行くよぉ」



 …駄目だ。取れないな…コレは。




 取り敢えず、迫りくるメイを何とかせねば……




 …いない。



「……………中か……今…!」


「えぇ…!どうして分かるのぉ…!?」



 音だけに集中して、地中から襲いかかってきたメイを…軽く跳躍して避けた。…そして、メイの両手を取り…そのまま引き抜く…。



「あうぅっ…!本当に…触んないでぇ…!」


「手だけでも駄目なのか…」


「早く…離してぇ…!」


「す…すまない」


「はぁ…はぁ……」



 泣きそうな顔でへたり込み…肩で呼吸をしているメイ。




 …大丈夫だろうか…?



「やっぱり…生の接触はやばいぃ…メイ、耐えられないよぉ」



 …これでは、試合もままならない。メイには…棄権するように促そう。



「メイ、悪いが…」


「降参…!!やめるぅ!」


「…………ああ」



 準決勝…勝利…?これは…釈然としないな。




 準決勝が終わり…次は決勝。どうやら、昼休憩後に行うらしい。



「おお!さっすが~!ヨウも決勝まで残ったのか」


「ああ。メイが準決勝の相手で、中々に苦戦を…強いられました」


「へぇ~…あの子も出てたんだ。………っさ!彼女さんとプリンセスが待ってるよ。早く行こう」


「そうだな。格好良いところは魅せられなかったが…」



 グロいところしか魅せていなかったが…。



「それでも、早く会いたい…です」



 場所は変わり、VIPルームへ。




 俺とテイは、室内に入り…休憩を始める。




 ご飯を食べたり…ヤンちゃんと会話をしたり…セイと会話したり…少し寝たり。




 テイは、新調したと言っていた剣…今は鞘に収まっているが、ソレをニコニコと眺めて…とても楽しそうにしている。




 なんでも…最初は俺に対して使ってみたいとのことで、決勝までは格闘で乗り切ったらしい。




 剣術の他にも、格闘術も心得ているとはな。




 廊下を歩いていた際にも…自慢気に、俺は馬よりも速く走れる…と豪語していた程だ。コレが嘘か真かはさておき、剣を抑えたとしても…油断は出来ないだろう。



「ヨウ、抱っこして」


「ああ」


「ヨウ…ちゅーして」


「…………」


「ヨウ?」


「人前でか?」


「……ふぅ~ん…じゃあ、2人っきりになったタイミングでして」


「ああ、それなら…良いですよ」



 …………俺は、視界の端まで…鮮明にモノを捉えられる。




 故に…セイの表情も丸わかりだ。




 ずっと此方を凝視してきている事も、セイ自身の唇が…キスという単語が出る瞬間に、毎度キュッとなる事も。




 ………最近はあまり話していないな。




 さて…セイとも会話をしよう。…本の文字について訊こうか。



「セイ、これは…なんと読めば…?」


「え…あ、はい!え~…なるほど、ブーイについての本ですね。…これは…」


「…………」



 こころなしか…顔が近いな。吐息の音が…その甘い香りが…俺の理性をクラクラさせてくる。




 それに…身体が、完全に密着してしまっている。




 これは…意図的に…?




 いや、シンプルにこれは…気が付いていないようだ。



「取引の魔神が…ブーイの始祖と…」


「ふむ…」



 ヤンちゃんが俺の膝の上から…セイの膝の上に移った。




 流石に暇なのだろう。




 自身の膝に座ったヤンちゃんを…ギュッと抱き締めながら、セイは解説を続けた。



「リスクに…人間に触れられると、その部位に耐え難い痛みが走る…という……血液自体に背負い…」


「…ふむ…」



 …ヤンちゃんは何を…?




 ………ああ、なるほど。




 セイの…甘い香りを愉しんでいるようだ。



「カオスブーイと言われる…禁忌の存在が…」


「……ふむ…?」


「ブーイの生命力はかなり高く………」


「確かに……ふむ…」


「カオス等の特異種や、リーダー等の上位種は…瀕死の状態でも、核が壊れなければ…」


「ふむ…キングは核が壊れたのか……」



 だからか…あんなにも一心不乱だったのは。




 もしも…あの時に…核が壊れていなかったら…………………ゾッとするな。



「セイ…柔らかい…」


「ふふ…何だか妹が出来たみたいです」


「さて…そろそろ勉強は止めて、心の準備でもしよう…」


「……あ!ごめんなさい!くっついてしまってたんですね…私」


「別に離れずとも…俺は、構わないの…ですが」


「…なら…」



 先程よりも身体を密着させて…いや、もはや寄り掛かって…此方の様子を窺うように視線を向けて来ている。



「一昨日…お付き合いについて…私にもどうかと、提案してくれましたよね」


「ああ、したな」



 提案したのはヤンちゃんだが…ここで、水を差す真似は良くないだろう。




 なにやら…真剣そうな雰囲気が展開され始めたしな。



「それの答えなんですけど…」


「ああ」


「…王都に着いて…色々と終わってから、それから、私と結婚…じゃなくて…!その…正式なお付き合いを…してもらえたらと…!」


「…そうか。なら…指輪を探しに行かないと…ですね。婚約指輪が2つに…結婚指輪も2つ…」


「お…!僕と結婚するのは確定なんだね」


「ああ、確定事項だ」


「ふふ…ねぇ、やっぱりちゅ~しよう?」



 …………視界の端にもう1人。




 …笑顔が引きつってる男性が1人。




 …テイだ。



「キスは誰もいないときだ。…では、もう時間が迫っていますので…」


「うん。頑張って来てね、僕の彼氏くん」


「……悪くない」


「……………」


「頑張って来てください!ヨウさん!」


「ああ。セイも応援しててください」


「……………」



 さて…移動しよう。




 あと十分後には決勝が始まる。




 …で、舞台の上に登ったのだが…。



「はぁ~……」


「テイ、観客が沢山見ているんだ。緊張しないんですか?」


「俺だけ…何もないのかよ…」


「テイ…?」


「…決めた!意地悪かもしんないけど…決勝は俺が勝つからね…!!ヨウ、俺は君に、ガチで勝ちに行くから」


「…ああ…!俺も手は抜かないつもりだ。よろしく頼みます」



 テイと握手を交わすと、なぜだか沸き立つ観客達。




 お互いに一定の距離を空けて…向きなおる。




 …始まる雰囲気を醸し出しているが……あと数分はある。



「ソレが、俺の為に取っておいてた剣…ですか?」


「そうそう」



 鞘から抜かれた剣は…片方にしか刃がついていない。




 それはまるで…縦長にした斧の様に見える。




 おじさんが持っていた刀とも…違う。側面から見たぶ厚さが…圧倒的に違う。




 形状的に考えうる攻撃方法は…




 刃の方で押し切る方法。


 反対側の分厚い方で殴打する方法。


 面で…縦や横に叩く方法。




 先ずはその3つのパターンが思い付く。




 また、正面から見れば長方形であるからして…場合によっては盾になりうるのか。



「もう始めて良くない?お互い、準備運動は不要なんだしさ」


「そう…ですね。開始のゴングを鳴らすように…促しましょう」



 そうして…2人して同時に目で促したので、萎縮してしまったゴングを鳴らす係の人。…そんなに怖いだろうか?




 大慌てで運営らしき人の方へ確認を取りに向かい、行きまーす…と、声を出してから鳴らしてくれた。




 さて…始まった。



「っふん…!」


「…投げるのは……想定外だったな」



 試合の開始を知らせる…ゴングが鳴り響くと同時に、テイがその…斧型の剣をぶん投げた。合わせて、本人も移動を開始する。



「足速くないですか?」


「馬より足が速いだけだよ。…さあ、油断は禁物だから…気を付けたほうがいいよ!」


「…なるほど」



 テイ自身で…俺の方へと斧型の剣を投げて、テイ自身の足で先回りし…コレをキャッチ。再び俺の方へと投げ、駆け出す。…その繰り返し。




 足があまりにも速い…。




 ブーイの大群地帯を駆け回っていた際も、足跡を…地面にくっきりと残しながら走っていたな。



「…なんだ…?…加速してないか?」


「…………」



 段々と速度が増してきている。




 様子見はそろそろ…やめた方が良いだろう。




 避けきれなく…なってきた…!




 その場で軽く呼吸を整えて、さり気なく口元を隠すテイ。そうして発生した声は…



『ヨウ…後ろからくるよ』


「……あっ!?」



 しまった!反射的に…振り向いてしまった…!



「…………すまないね」


「ガッ…」



 後頭部に走る鈍い痛み。




 面で叩かれたか…刃ではない方で殴られたか。…何方にせよ、視界がグラつき…足元が覚束無い…!



「ふんっ…!」


「おお…!?まじで…?」



 次に振るわれた一撃を、斧型の剣…その面を蹴り上げて強制的に手放させた。




 このままでは本当に気絶してしまうので…間髪入れずに、再度蹴りを入れ込む。




 そして…たった今蹴り出した足の踵が…靴ごとパカッと開き、最近よく目にする…筒状の噴射口がそこから姿を現した。



「何だ…これ…?…おわっ!」


「危ねぇっ!!」



 瞬間的に、火力MAX…蒼炎の噴射が踵から放たれ…俺が繰り出していた蹴りが急加速。空を切ってしまったが、メイの放った蹴り…とまではいかないが、ブンッとした音が発生していた。



「何それ何それ!めっちゃかっけぇじゃん…!」


「分からない…だが、格好良いと思ってしまったのは…俺も同じ…です」


「戦略の幅が広がったんじゃない?」


「ですね…」


「さて…お足元がお留守だね…!」


「っえ…」



 足払いを受けた。




 俺は…テイの足が折れてしまうのでは…?と、心配な気持ちになったが…




 俺は舞台に手を…膝をついている。




 随分と頑丈なんだな…。




 斧型の剣を回収し、少し駆け…跳躍。剣の上に…器用にも乗り上げて、サーフィンさながら…俺の方へと滑空してみせる。




 俺は体勢を持ち直して、踵の噴射を利用し…テイの背後を狙った位置取りへと…転ばないように移動。




 片手を舞台に擦らせながら、その片手を軸にターンをし…鉄の翼を展開。




 俺が元いた所へ滑空していくテイ…本人へ向かい、直接飛翔する。




 キャッチしてから…自身ごと地面へ叩きつける予定である。



「そうくるよね。なら…俺は、こうっ!」


「それ…どうやるんですか…?」



 テイは…剣の上で跳躍してみせた。




 地面に向かい勢いよく…柄を舞台側にして、垂直に落下する…斧型の剣。




 テイは…剣から足を離して、空中でゆったりと…横向きの宙返り。




 俺がその挙動に対応出来ず…この突進が空振った。



「ッグア…!?」


「格好良すぎる一撃が決まったね。誰かが、コレを映像に残しといてくれてたら…是非とも見返したいよ」



 横回転の勢いで、突進を空振った俺を…地面へ向かい蹴り放ってきた。



「足元注意だね。ヨウなら…死ぬ心配は無いと思うけど」


「ッヴゥ…!」



 先程落下した…斧型の剣が、俺の方へと切っ先を向けて…悠々と待ち構えている。




 ので、両手を筒状にし…炎を噴射。




 俺の必死な気持ちが反映されてか、炎は舞台を覆うほどまでに…その広がりを見せる。




 俺は空中で体勢を持ち直して、鉄の翼により…自由落下中のテイへと再び飛翔した。



「ヤバいだろ…コレは」


「捉えた!捕まえ…ます!」



 テイの身体へ手を伸ばし…






 見事にキャッチ…!






 そのまま自身へ抱き寄せ…






 たかったのだが…



「それ…!どう…やるんですか…!?」


「あああぁぁあ…!!…刺され!」



 俺が抱き寄せたタイミングで…空中にいるにも関わらず、その身を捻り…逆に、噴射中の俺を捕まえて軌道を変えさせてきた。




 俺はすぐさま噴射を止めた…のだが、その勢いは既に、最高潮に達していた。




 もはや…テイを振りほどいたとしても…






 これは…






 避けられない!!



「ッアグ…」



 舞台に立てられていた…斧型の剣。






 ソレに腹部を貫かれた……






 ような痛みが走る。




 いや…!本当に貫かれている…!?



「はぁ…はぁ……勝ったろ。さっさと降参しな。ヨウ」


「…はぁ…はぁ………」



 …………………………。






 まだだ。



「まだ…俺は…」


「まじか…タフだね。まるで、キングみたいだよ」



 身体を起こし……






 …身構えるテイへと…






 ゆっくりと…一歩一歩を踏み締めるように近づき…






 背中から…翼を出さずに噴射口のみを露出させて、テイへと…急接近。






 そのまま押し倒し…馬乗りとなり…拳を振り上げ…




 たかったが、もうその時点では…身体は動かなかった。




 結果的に俺は、テイの上へと重なるように…力なく倒れ込むことに。



「負け…ました」


「今のは…普通に死んだかと思ったよ。最後まで格好良いな、ヨウは」



 終了のゴングが聴こえる。




 首を動かす事すら…指先を動かす事すら出来ない。



「コレ…引き抜いてもらえますか?」


「ああ、一瞬で引き抜くね」


「ッグヴ…!」


「引き抜けた…っと、もう動けるだろ?」



 確かに…身体が動くようになってきた…?




 取り敢えず…俺は身体を※※し、立ち上がり…テイヘと向き直った。



「この剣は微弱ながら、電気が流れているんだ。身体を硬直させる程度の電気がね。それでも動くのは…流石に想定外だったけど…まぁ、ナイスファイトだった。握手しようぜ、ヨウ」


「…ああ、ありがとう。テイ」



 闘技場の各所から歓声が上がり、静まり返っていた世界は何処へやら。




 優勝者は…テイ。




 俺達は今回の試合についての…動き方や反省などの会話をしながら、VIPルームへと帰った。




 出迎えてくれた2人は…興奮も冷めやらないといった調子で、ドレが凄かった…コレが凄かったと、色々と話してくれた。




 俺にも…テイにも。




 それから…テイは優勝メダルを舞台で受け取り、賞金も…革の袋いっぱいに貰った。




 少し暗み始めた街で…荷物を整理するために、俺達は宿へと戻った。

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