三話・Part2 ヒトの戦 開かれり
「何だって…!もうブーイの大群は殲滅したじゃないか…!なのに…馬車が出せないなんて…!」
「落ち着け、テイ。仕方がないですよ」
問題が片付いたので、王都へ向かう馬車を出してもらおうと…今。
また明日…その朝に予約を入れる運びとなった。
馬車乗り場の帰り。
「なんだなんだ?これまたやけに騒がしいね…。まさかだけど…また何かあったのかい?」
「違うっぽいよ。ほら、皆あの建物に向かってる」
「…宿の近くのあれね…」
宿の近くの巨大な建造物を指差すヤンちゃん。
昨日は夜だった事もあり…その外観を確認できていなかったが、これは…かなりデカいな…。
…で…その中へ向かう人達を見ると、確かに…朝の時よりも、無い訳では無いが…あまり緊張感が感じられない。…いったいなんの集まりなのだろうか。
すると、建物内を目指して進んでいた男性の一人が、俺とテイに対して声を掛けた。
「何だって?闘技場なの?この建物…」
「そこで優勝すると賞金が出る…と。…行きますか?」
「別に金には困ってないけど……行くよな」
「良かった。俺も行きたかったので」
「ヨウ、また戦うの?」
「ああ、明日まで暇だし…楽しそうですので」
「また…ヨウと離れてないといけないじゃん」
「正直な事を言うと……貴方に、俺の格好いい姿を直接魅せたい…と思ったから、参加しようと考えました…」
「ふぅ~ん……なら、優勝して来て。僕の彼氏くん」
「私も、御二人を応援します!頑張ってください!」
「はい!ありがとうございます。セイ…さん」
かくして、俺とテイはコロシアムに参加する事となった。
セイとヤンちゃんには…試合がよく見えるようにと、テイのオススメする…良い場所を用意した。なんでも…VIP?とか言う、完全個室で楽しめる部屋らしい。そして安全性も高い…と、それもテイから訊いた。
VIPルームは…流れ弾で怪我をさせてしまう。そんな事が起きないようになっている為、俺もテイも…試合に集中出来るだろう。
トーナメントが組まれた事を確認して、俺とテイは顔を見合わせた。
「俺達さ、お互いに順調に勝ち上がったらさ、決勝戦で戦えるよね。この表を見るに」
「ああ。別のブロックで…安心しました」
「な。今からヨウと戦うの楽しみだよ。この新調した剣も、ヨウに試したいし」
テイの剣は、キングブーイの手により…いや、足により折られてしまっていた。なので、今回の討伐報酬として…俺には解らないが、なんとも上等なモノを得たらしい。
俺は討伐報酬を拒否。メイは既に何処かへ。
結果的に、テイがぼやく羽目になっていた。
報酬を受け取ったのが俺だけだと、がめついような…卑しいような感じになってしまう…と。
別に誰も気にしないと思うのだがな。
「おっ…始まるって。それじゃあ、お互い決勝で会おうな」
「ああ」
テイが別の場所へ向かい、俺はここに残る。
別のブロックだから…別の場所で、同時進行で進むらしい。
「…俺の番か」
スタッフの案内に従い、闘技場の舞台へと上がった。
降参か落ちるか…はたまた再起不能か。それで勝敗を決めるらしい。
……………。
「おいおい!余所見かよ!余裕だなぁ?」
「…お、いた」
ヤンちゃんとセイが此方に手を降ってくれた。俺もそれに対して手を振り返す。
「…ああ?そういうことかよ…けっ!」
手を降るのを止めて、対戦相手に向き直ったところで、ちょうどゴングが鳴った。
一戦目が始まった。
「彼女の前でカッコつけたいみたいだが…残念だったな!俺は…!」
「さて、ささっと決勝までいこう」
「ゥゲェ…!?」
飛んで押してポイ。
初戦が終わった。
そして次の試合。
「お前…強いだろ?」
「…ああ、強い方だ」
「っふ!果たして、俺にどれほど…」
次の試合。
「へへっ…血が騒ぐぜぇ…」
「さぁ、さっさと来てください」
「食らえ!俺の…」
次。
「先手必勝!おりゃ~!!」
そして、気が付けば準決勝。
「こんにちはぁ」
「おお、メイが相手なのか。これは楽しめそう…ですね」
「ヨウくん、よろしくぅ」
さて…今回は適当には勝てなそうだな。
キング戦を思い返すと、メイの強みは格闘技術。
キング戦では、ソッとキングの刃に手を当てて…剣筋をズラすなどの芸当を、メイはしていた。恐らくは、剣以外のモノにも…同じ事が出来るだろう。
殴りや蹴りも、何だかんだで…あらぬ方向へとズラされてしまうのではないだろうか。
「始まりぃ」
「ああ…」
「おいでぇ」
カウンターを狙っている?
……ならば、炎を噴射してみるか。俺なら…もしもの事があっても、メイを直す事が出来る。
右手を突き出して、筒状に変形させる。
「キモいよぉ」
そして…炎をメイに向かって噴射した。
「凄いねぇ。かっこいいよぉ」
「それは良かった…です」
「でも、メイはそこに居ないよぉ」
「…なるほど」
俺は埋まった。
両足を舞台の中から掴まれて、そのまま…キングにしていたように、下半身を埋められてしまった。
俺が炎を噴射したタイミングで、舞台を掘ったのだろうか?…だとすれば…不味いな。
…怪力だ。キングと比べると劣るが…頭を殴られれば、その時点で一発KOだろうな。
「またねぇ。ヨウくん」
埋めてから間髪入れずに、蹴りを繰り出したメイ。
当たれば…負け確定。
鉄の翼を展開し、何とか舞台から脱出。それと同時に、蹴りが空振って発生した…ブォンという鈍い音。
命中すれば、普通に凹むかもしれないな。心も…身体も。
「それで人間は無理あるよぉ」
「…どうするか…」
地面に足をつく…瞬時に地面を掘り進んで、相手を埋める。
打撃を与える…上手く手を添えられて、攻撃をズラされる。
炎を噴射する…メイの足元に地面がある限り、地中へと逃げられる。
さて…どうするべきか。
「もう少しだけ高く飛んどいた方が良いよぉ」
「…目測ではあるが、5メートルは飛んで…ますよ」
「メイには低いよぉ…」
その場で腰を落とし、大きく踏み込んで跳躍してみせるメイ。それと同時に、舞台が割れた…。
つい先程、キングよりは劣ると言ったが……訂正しよう。
メイは、キングブーイに比肩する程の…怪力の持ち主だ。
「ほら、メイには低いぃ」
「…凄いな。………だが、空中ならば…此方に軍配が上がるのでは…ないですか?」
再び飛翔。
今度は、空中でスピードが下がってきた…メイの身体へ近づいていく。
「あ、触るのは駄目ぇ」
「モガッ…!?」
「メイは色々と…感じやすいからぁ」
空中で…踵落とし!?そんな芸当が出来るのか…!?
不味いな…あっと言う間に…地面に倒れ伏してしまっている。…立てない、この痛み方は…骨折か。しかも、複数箇所の骨折…外傷は無いのに。
…外傷が無いのなら、立てないのは…おかしいな…?
「うえぇ…グロいぃ」
「なんと…」
…本当に曲がっている…!
両足が…右腕が…あらぬ方へと向いている…!
「ねぇ…終わりぃ?」
「※※」
「…今、なんて言ったのぉ?」
…案外…俺は弱いんだな。
「…さて…と」
直った身体を起こして、再び、空に向かい…炎の噴射を始める。
「またそれなのぉ?」
「いや、少しだけ違うぞ。…色が」
「凄い、どんどん蒼くなってるぅ」
…よし、曖昧だった蒼炎の感覚は…たった今、完璧に掴んだ。
さて…不完全燃焼では、お互い…終わりたくはないだろう。
俺も…身体を張らせてもらう。
「…うわぁ~…無理それぇ。何してるのぉ…?」
「何処かに燃料があると思ってな……おっ、これか?」
「吐きそうぅ…」
俺は、筒状の腕の中へと…もう片方の腕を入れて…………ソレらしいモノを発見した。
これが…燃料か?
流石に…無から炎が出せるなんて事、あり得ないだろうからな。
やはり、燃料であろうモノはあった。…だが、何処かに引っ掛かっているのか…取り出せない。
「うぷぅ……もう、メイは待たないからねぇ…?」
「ああ、すまない。中々に…手間取っていてな…」
「行くよぉ」
…駄目だ。取れないな…コレは。
取り敢えず、迫りくるメイを何とかせねば……
…いない。
「……………中か……今…!」
「えぇ…!どうして分かるのぉ…!?」
音だけに集中して、地中から襲いかかってきたメイを…軽く跳躍して避けた。…そして、メイの両手を取り…そのまま引き抜く…。
「あうぅっ…!本当に…触んないでぇ…!」
「手だけでも駄目なのか…」
「早く…離してぇ…!」
「す…すまない」
「はぁ…はぁ……」
泣きそうな顔でへたり込み…肩で呼吸をしているメイ。
…大丈夫だろうか…?
「やっぱり…生の接触はやばいぃ…メイ、耐えられないよぉ」
…これでは、試合もままならない。メイには…棄権するように促そう。
「メイ、悪いが…」
「降参…!!やめるぅ!」
「…………ああ」
準決勝…勝利…?これは…釈然としないな。
準決勝が終わり…次は決勝。どうやら、昼休憩後に行うらしい。
「おお!さっすが~!ヨウも決勝まで残ったのか」
「ああ。メイが準決勝の相手で、中々に苦戦を…強いられました」
「へぇ~…あの子も出てたんだ。………っさ!彼女さんとプリンセスが待ってるよ。早く行こう」
「そうだな。格好良いところは魅せられなかったが…」
グロいところしか魅せていなかったが…。
「それでも、早く会いたい…です」
場所は変わり、VIPルームへ。
俺とテイは、室内に入り…休憩を始める。
ご飯を食べたり…ヤンちゃんと会話をしたり…セイと会話したり…少し寝たり。
テイは、新調したと言っていた剣…今は鞘に収まっているが、ソレをニコニコと眺めて…とても楽しそうにしている。
なんでも…最初は俺に対して使ってみたいとのことで、決勝までは格闘で乗り切ったらしい。
剣術の他にも、格闘術も心得ているとはな。
廊下を歩いていた際にも…自慢気に、俺は馬よりも速く走れる…と豪語していた程だ。コレが嘘か真かはさておき、剣を抑えたとしても…油断は出来ないだろう。
「ヨウ、抱っこして」
「ああ」
「ヨウ…ちゅーして」
「…………」
「ヨウ?」
「人前でか?」
「……ふぅ~ん…じゃあ、2人っきりになったタイミングでして」
「ああ、それなら…良いですよ」
…………俺は、視界の端まで…鮮明にモノを捉えられる。
故に…セイの表情も丸わかりだ。
ずっと此方を凝視してきている事も、セイ自身の唇が…キスという単語が出る瞬間に、毎度キュッとなる事も。
………最近はあまり話していないな。
さて…セイとも会話をしよう。…本の文字について訊こうか。
「セイ、これは…なんと読めば…?」
「え…あ、はい!え~…なるほど、ブーイについての本ですね。…これは…」
「…………」
こころなしか…顔が近いな。吐息の音が…その甘い香りが…俺の理性をクラクラさせてくる。
それに…身体が、完全に密着してしまっている。
これは…意図的に…?
いや、シンプルにこれは…気が付いていないようだ。
「取引の魔神が…ブーイの始祖と…」
「ふむ…」
ヤンちゃんが俺の膝の上から…セイの膝の上に移った。
流石に暇なのだろう。
自身の膝に座ったヤンちゃんを…ギュッと抱き締めながら、セイは解説を続けた。
「リスクに…人間に触れられると、その部位に耐え難い痛みが走る…という……血液自体に背負い…」
「…ふむ…」
…ヤンちゃんは何を…?
………ああ、なるほど。
セイの…甘い香りを愉しんでいるようだ。
「カオスブーイと言われる…禁忌の存在が…」
「……ふむ…?」
「ブーイの生命力はかなり高く………」
「確かに……ふむ…」
「カオス等の特異種や、リーダー等の上位種は…瀕死の状態でも、核が壊れなければ…」
「ふむ…キングは核が壊れたのか……」
だからか…あんなにも一心不乱だったのは。
もしも…あの時に…核が壊れていなかったら…………………ゾッとするな。
「セイ…柔らかい…」
「ふふ…何だか妹が出来たみたいです」
「さて…そろそろ勉強は止めて、心の準備でもしよう…」
「……あ!ごめんなさい!くっついてしまってたんですね…私」
「別に離れずとも…俺は、構わないの…ですが」
「…なら…」
先程よりも身体を密着させて…いや、もはや寄り掛かって…此方の様子を窺うように視線を向けて来ている。
「一昨日…お付き合いについて…私にもどうかと、提案してくれましたよね」
「ああ、したな」
提案したのはヤンちゃんだが…ここで、水を差す真似は良くないだろう。
なにやら…真剣そうな雰囲気が展開され始めたしな。
「それの答えなんですけど…」
「ああ」
「…王都に着いて…色々と終わってから、それから、私と結婚…じゃなくて…!その…正式なお付き合いを…してもらえたらと…!」
「…そうか。なら…指輪を探しに行かないと…ですね。婚約指輪が2つに…結婚指輪も2つ…」
「お…!僕と結婚するのは確定なんだね」
「ああ、確定事項だ」
「ふふ…ねぇ、やっぱりちゅ~しよう?」
…………視界の端にもう1人。
…笑顔が引きつってる男性が1人。
…テイだ。
「キスは誰もいないときだ。…では、もう時間が迫っていますので…」
「うん。頑張って来てね、僕の彼氏くん」
「……悪くない」
「……………」
「頑張って来てください!ヨウさん!」
「ああ。セイも応援しててください」
「……………」
さて…移動しよう。
あと十分後には決勝が始まる。
…で、舞台の上に登ったのだが…。
「はぁ~……」
「テイ、観客が沢山見ているんだ。緊張しないんですか?」
「俺だけ…何もないのかよ…」
「テイ…?」
「…決めた!意地悪かもしんないけど…決勝は俺が勝つからね…!!ヨウ、俺は君に、ガチで勝ちに行くから」
「…ああ…!俺も手は抜かないつもりだ。よろしく頼みます」
テイと握手を交わすと、なぜだか沸き立つ観客達。
お互いに一定の距離を空けて…向きなおる。
…始まる雰囲気を醸し出しているが……あと数分はある。
「ソレが、俺の為に取っておいてた剣…ですか?」
「そうそう」
鞘から抜かれた剣は…片方にしか刃がついていない。
それはまるで…縦長にした斧の様に見える。
おじさんが持っていた刀とも…違う。側面から見たぶ厚さが…圧倒的に違う。
形状的に考えうる攻撃方法は…
刃の方で押し切る方法。
反対側の分厚い方で殴打する方法。
面で…縦や横に叩く方法。
先ずはその3つのパターンが思い付く。
また、正面から見れば長方形であるからして…場合によっては盾になりうるのか。
「もう始めて良くない?お互い、準備運動は不要なんだしさ」
「そう…ですね。開始のゴングを鳴らすように…促しましょう」
そうして…2人して同時に目で促したので、萎縮してしまったゴングを鳴らす係の人。…そんなに怖いだろうか?
大慌てで運営らしき人の方へ確認を取りに向かい、行きまーす…と、声を出してから鳴らしてくれた。
さて…始まった。
「っふん…!」
「…投げるのは……想定外だったな」
試合の開始を知らせる…ゴングが鳴り響くと同時に、テイがその…斧型の剣をぶん投げた。合わせて、本人も移動を開始する。
「足速くないですか?」
「馬より足が速いだけだよ。…さあ、油断は禁物だから…気を付けたほうがいいよ!」
「…なるほど」
テイ自身で…俺の方へと斧型の剣を投げて、テイ自身の足で先回りし…コレをキャッチ。再び俺の方へと投げ、駆け出す。…その繰り返し。
足があまりにも速い…。
ブーイの大群地帯を駆け回っていた際も、足跡を…地面にくっきりと残しながら走っていたな。
「…なんだ…?…加速してないか?」
「…………」
段々と速度が増してきている。
様子見はそろそろ…やめた方が良いだろう。
避けきれなく…なってきた…!
その場で軽く呼吸を整えて、さり気なく口元を隠すテイ。そうして発生した声は…
『ヨウ…後ろからくるよ』
「……あっ!?」
しまった!反射的に…振り向いてしまった…!
「…………すまないね」
「ガッ…」
後頭部に走る鈍い痛み。
面で叩かれたか…刃ではない方で殴られたか。…何方にせよ、視界がグラつき…足元が覚束無い…!
「ふんっ…!」
「おお…!?まじで…?」
次に振るわれた一撃を、斧型の剣…その面を蹴り上げて強制的に手放させた。
このままでは本当に気絶してしまうので…間髪入れずに、再度蹴りを入れ込む。
そして…たった今蹴り出した足の踵が…靴ごとパカッと開き、最近よく目にする…筒状の噴射口がそこから姿を現した。
「何だ…これ…?…おわっ!」
「危ねぇっ!!」
瞬間的に、火力MAX…蒼炎の噴射が踵から放たれ…俺が繰り出していた蹴りが急加速。空を切ってしまったが、メイの放った蹴り…とまではいかないが、ブンッとした音が発生していた。
「何それ何それ!めっちゃかっけぇじゃん…!」
「分からない…だが、格好良いと思ってしまったのは…俺も同じ…です」
「戦略の幅が広がったんじゃない?」
「ですね…」
「さて…お足元がお留守だね…!」
「っえ…」
足払いを受けた。
俺は…テイの足が折れてしまうのでは…?と、心配な気持ちになったが…
俺は舞台に手を…膝をついている。
随分と頑丈なんだな…。
斧型の剣を回収し、少し駆け…跳躍。剣の上に…器用にも乗り上げて、サーフィンさながら…俺の方へと滑空してみせる。
俺は体勢を持ち直して、踵の噴射を利用し…テイの背後を狙った位置取りへと…転ばないように移動。
片手を舞台に擦らせながら、その片手を軸にターンをし…鉄の翼を展開。
俺が元いた所へ滑空していくテイ…本人へ向かい、直接飛翔する。
キャッチしてから…自身ごと地面へ叩きつける予定である。
「そうくるよね。なら…俺は、こうっ!」
「それ…どうやるんですか…?」
テイは…剣の上で跳躍してみせた。
地面に向かい勢いよく…柄を舞台側にして、垂直に落下する…斧型の剣。
テイは…剣から足を離して、空中でゆったりと…横向きの宙返り。
俺がその挙動に対応出来ず…この突進が空振った。
「ッグア…!?」
「格好良すぎる一撃が決まったね。誰かが、コレを映像に残しといてくれてたら…是非とも見返したいよ」
横回転の勢いで、突進を空振った俺を…地面へ向かい蹴り放ってきた。
「足元注意だね。ヨウなら…死ぬ心配は無いと思うけど」
「ッヴゥ…!」
先程落下した…斧型の剣が、俺の方へと切っ先を向けて…悠々と待ち構えている。
ので、両手を筒状にし…炎を噴射。
俺の必死な気持ちが反映されてか、炎は舞台を覆うほどまでに…その広がりを見せる。
俺は空中で体勢を持ち直して、鉄の翼により…自由落下中のテイへと再び飛翔した。
「ヤバいだろ…コレは」
「捉えた!捕まえ…ます!」
テイの身体へ手を伸ばし…
見事にキャッチ…!
そのまま自身へ抱き寄せ…
たかったのだが…
「それ…!どう…やるんですか…!?」
「あああぁぁあ…!!…刺され!」
俺が抱き寄せたタイミングで…空中にいるにも関わらず、その身を捻り…逆に、噴射中の俺を捕まえて軌道を変えさせてきた。
俺はすぐさま噴射を止めた…のだが、その勢いは既に、最高潮に達していた。
もはや…テイを振りほどいたとしても…
これは…
避けられない!!
「ッアグ…」
舞台に立てられていた…斧型の剣。
ソレに腹部を貫かれた……
ような痛みが走る。
いや…!本当に貫かれている…!?
「はぁ…はぁ……勝ったろ。さっさと降参しな。ヨウ」
「…はぁ…はぁ………」
…………………………。
まだだ。
「まだ…俺は…」
「まじか…タフだね。まるで、キングみたいだよ」
身体を起こし……
…身構えるテイへと…
ゆっくりと…一歩一歩を踏み締めるように近づき…
背中から…翼を出さずに噴射口のみを露出させて、テイへと…急接近。
そのまま押し倒し…馬乗りとなり…拳を振り上げ…
たかったが、もうその時点では…身体は動かなかった。
結果的に俺は、テイの上へと重なるように…力なく倒れ込むことに。
「負け…ました」
「今のは…普通に死んだかと思ったよ。最後まで格好良いな、ヨウは」
終了のゴングが聴こえる。
首を動かす事すら…指先を動かす事すら出来ない。
「コレ…引き抜いてもらえますか?」
「ああ、一瞬で引き抜くね」
「ッグヴ…!」
「引き抜けた…っと、もう動けるだろ?」
確かに…身体が動くようになってきた…?
取り敢えず…俺は身体を※※し、立ち上がり…テイヘと向き直った。
「この剣は微弱ながら、電気が流れているんだ。身体を硬直させる程度の電気がね。それでも動くのは…流石に想定外だったけど…まぁ、ナイスファイトだった。握手しようぜ、ヨウ」
「…ああ、ありがとう。テイ」
闘技場の各所から歓声が上がり、静まり返っていた世界は何処へやら。
優勝者は…テイ。
俺達は今回の試合についての…動き方や反省などの会話をしながら、VIPルームへと帰った。
出迎えてくれた2人は…興奮も冷めやらないといった調子で、ドレが凄かった…コレが凄かったと、色々と話してくれた。
俺にも…テイにも。
それから…テイは優勝メダルを舞台で受け取り、賞金も…革の袋いっぱいに貰った。
少し暗み始めた街で…荷物を整理するために、俺達は宿へと戻った。