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幕間 エディ=クラム・メリオス Part18



 振るわれてきた腕を掴み、足を伸ばして蹴り飛ばす。背後から槍のようなモノで突かれるが、地面スレスレまで伏せて自身を取り囲むブーイの足をぐるりと一周払いのける。




 体勢を崩したブーイを懇切丁寧に確実に仕留めつつ、飛んでくる矢をキャッチし、力の流れもそのままに元の位置へ投げる。軌道上のブーイを次々と貫き、そしてクロスボウらしきモノごと一人の上位種を撃破。




 空から複数の矢印が降り注ぐ。おそらくはバリスタか何かだろう。迫る秒数ギリギリまでブーイによる打撃をいなし続けて、そして零以下となり地面を掘り彼らが通ってきた地中の道へ。地上から響いてくる雨音と悲鳴。




 地中の道を駆けて適当な位置で地上へ飛び出し不意を突く。頭を蹴り飛ばし、ピンボールの様な連続ヒット。ビリヤードの様な連鎖反応。




 先の矢の雨を飛ばしてきていた兵器を屋敷の屋根の上に見つけ、足にメリメリと力を込め、跳躍。当然にも翼持ちのブーイが向かって来たが関係ない。跳ぶ身体と飛ぶ身体がぶつかり合い、後者の身体が肉片と散る。




 一瞬だけ血飛沫で遮られた視界が晴れると大量の矢先。けれど距離が稼げていないおかげで威力も低い。全弾がブレブレで疎らだったのもある。




 空中で身体を捻じり華麗に避け、屋敷の上で腰を抜かしへたり込むブーイの上に着地。次の標的へ眼を動かすと逃げる背中と焦り過ぎて覚束ない足取りが見えた。矢印によるとそのまま足を滑らせて落下し、当たりどころが悪く核が崩壊し即死だそうだ。




 バリスタを地上へ向けて慣れた手つきで装填発射。次々と撃ち抜かれ倒れていく上位種達。矢が切れた後に粉々に殴り砕き屋根の上から飛び降りる。




 空の上からペレグリンブーイがより速く地面へ向かい到達。急停止からの急上昇という…持ち前の身体を活かし跗蹠ふしょを上向きにこちらへ真っ直ぐ向かって来ている。




 狙いが矢印により解る。




 タイミングを見計らい、上向きにノールックで腕を伸ばして、時速二百キロで滑空してきていたペレグリンブーイの跗蹠ふしょを鷲掴み。反応させる間もなく、上昇してきているペレグリンブーイへ投げつけ衝突させた。




 弾丸同士がぶつかるように、ペレグリンブーイの身体は鈍い水温と共に弾ける。その血肉を浴びながら地面に着地した。




 乱れてしまった前髪を指で避けると矢印と拳。腕を掴んでそのまま後方へ流れさせバランスを崩し、背に三発の肘打ちで核を骨もろとも粉々に。その死体をヌンチャクのようにして振り回し、そしてボーリングのように手を離しストライク。




 ガーターで無事だったブーイが逃げる前に、足からメリメリと音を鳴らして踏み込み鳩尾みぞおちへ掌底。背中がボコッと膨らみ破裂し、中身が飛び出していく。




 地面から二人分の矢印が伸びる。そのブーイが地上へ出てくる前に地面へ腕を入れ込み、そのモグラの頭を握り締めて一気に引き抜いた。




 さぁ、ボールが二つも手に入ったぞ。誰に当ててアウトにさせる?いったいドレを場外へ送り出す?




 右手のボールを手から離してボレーシュート。同時にボール前へ駆け出し、原型がなくなるまで一人でパス練習だ。




 背後から矢印が湧き、壊れたボールを捨てて振り向きながら左手のボールを打ち付け撃破。倒れ込む死体を両手で掴んで盾にしながらら次々と向かってくる上位種へ突進を。自分の身体よりも脆いモノを盾にしているせいで、あんまりカタチが保たなかったけれど、それでも二、三人は殺れたので僥倖ぎょうこうの働きだ。




 ボロ肉を捨てて、タイミングを合わせて連携攻撃を仕掛けてきた彼らに拍手を送る。一回一回の拍手音で耳から血を噴き出し気絶してゆくブーイ達。まだ殺れてない、核を破壊しなくては。




 足元に転がっている上位種の角をへし折り、次々と一突き入れに行く。手のひらサイズで握りやすく、壊れてしまったら替えをすぐに引き抜ける安定した武器だ。頭蓋と繋がっているようで、たまに顔ごと取れちゃうのが面倒。




 一通りのブーイを突き終えた後、奴の状態を横目で確認した。すると、影も形もなく消え失せていて。それから数瞬ばかりが経過して、視界を埋め尽くす勢いでソレラを示す矢印が発生した。




 トロペオの復帰を知らせる魂の警鐘。咄嗟に跳び上がり切り取り攻撃を避けるも、用意されていたのか炸裂の矢印が此方を向いていた。




 矢印から自身の頭を隠すようにして、両腕を合わせて顔の前に持ってくる。ガードの構えのつもりなのだが、かなり不格好な姿だろう。




 すぐさま矢印は炸裂し、腕の外側がその熱量に侵された。視界の先、腕から立ち昇る細い煙が痛々しい。…が、痛みに対する恐怖や躊躇はない。




 地面へ着地し適当に前へ進む。奴の居場所を把握出来るまでは動き続けた方が良いだろう。上位種の隣を通り過ぎながら核を破壊しつつ、絶え間なく瞳を動かし続け対象を探す。その間も切り取りや炸裂は止め処なく発生し続けていて厄介極まりない。




 弧を描くように屋敷の庭を駆け、半周を過ぎたあたりで視認を成功。




 成功というか、



「来る」



 荒唐無稽こうとうむけいな速度でこちらへ。タイミングを読み、こちらからも拳を振るう。…が、確認できたのは、伸ばした腕が傷だらけになったという情報のみ。戦場へ復帰した奴は、今までよりも圧倒的に疾い。




 来る。今度は右斜め後方。腰を捻じり左足を振り出す。すると、無惨にも足は切り裂かれ、鮮血が噴き出し始めた。どの傷も深くはないが、このままでは消耗戦だ。数を食らえばこちらが不利になってゆくだろう。




 関係ない矢印の雨が空に発生。いいよ、全部当たってやろう。効かないことを証明してやろう。邪魔するなと警告してやろう。せっかくのドキドキを萎えさせないでくれと打ち明けよう。




 バリスタの場所は正門前。こちらを畏怖の表情を浮かべて顔を向けているブーイと視線がかち合う。相手は悲鳴を上げて、こっちは指を曲げ来いと指し示す。




 やるならさっさとしてくれないか。今はコンマ以下ですら惜しいというのに。




 恐怖に染まったブーイから放たれる矢の大雨。そのどれもを避けることなく敢えて食らう。大っぴらに両手を広げて、天からの恵みを受け取るかのようにして。




 到達した矢はあっけなく肉体に弾かれ、本物の雨のように流れ地面へ突き刺さった。こんなに硬かったんだっけ?僕って。




 まぁ、どうだっていい。




 目を閉じて、ゆったりと構えをとる。呼吸を整えて浅く短い息を吹く。傷ついた腕も足も痛みはあるがそれだけだ。迎撃は苦手なんだけど、出来ないわけではない。ただ、我慢が苦手なだけさ。




 矢印を視ずに相手を見切る。どうせ視えてても捉えられないんだ。目を開ける必要なんてない。研ぎ澄ますのは空気の揺らぎだけでいい。




 何もない真っ暗な世界の中、全身の感覚に集中する。風と奴を感じ間違えることのないように、極限まで集中を高めろ。息を忘れてもいい。今は呼吸音すら邪魔なのだから。




 顔の前で揺らいだ空気を確認。目を閉じたまま右足を振り上げる。



『ッグギィァ…!?』


「………」



 目を開き畳み掛ける。逃げられることのないように首を左手で鷲掴みにし、右手で顔面を連打。背中側から切り取りの矢印が発生。ギリギリまで殴り続け、そしてぐるりと位置を変えプレゼント。




 苦痛の悲鳴を上げて悶えるトロペオと目が合い思わず微笑む。背中を失っても君は治せるのだろう?ならばそうするといい。長く楽しもう、お互いの為に。




 炸裂の矢が周囲の全てを取り巻くようにとぐろを巻いて発生。死なない身体ならば自爆特攻が良く捗りそうだ。まぁ、させるかは別なのだが。




 掴んでいる首をそのまま固く握りしめ、地面へ向かい叩きつけた。矢印が消えたがまだ離さず。遠心力を味方にするように、今度は両手でハンマー投げの要領でぶん回す。




 切り取りの矢印が細かく広範囲に湧いたが、そんなのどうだっていい。遠心力を活かし手を離して投げ飛ばし、同時に駆け出し先回り。その身体を壊さないように手加減をしつつ、トロペオの身体に掛かっている力の向きを強制的に更新する。膝で背中を打ち付け天へと打ち上げたのだ。




 情けない声と共に打ち上がる白い皇帝。彼を跳躍で追い越し、今度は手加減無しに腹部へ踵を落とす。



『っぬぅ…!』


「へぇ…!やるじゃないか!」



 意識を覚醒させて〝腕のカタチのみ〟を変化させたトロペオ。羽根となった腕を踵と腹部の間へ滑り込ませて威力を抑え込んできた。




 ニヤリと汗をかきながら不敵に笑うので、思わず吹き出しかける。




 抑え込まれた足に、その筋肉にメリメリと力を込めて肥大化させた。何が行われるのかを察したトロペオは、信じがたいとばかりに口を開き何かを言いかけるが、次の瞬間には地面とご挨拶。砂塵が舞い、何人かのブーイが巻き込まれた。




 実は空中に身を投げ出しているこの状態はかなり危ない。リスクが高すぎるんだよね。トロペオは空のほうが本領を発揮するだろうしさ。それに…彼は翼竜グナトゥスの形態がある。とてもじゃないけど、空で戦うのは現実的ではない。




 軽やかに地面へ着地し、立ち込める砂煙の中を見据える。庭としての面影がもう感じ取れないけれど、ここは十数年暮らした所だ。毎年のように宴会を開いて、お義父さんや友人達を招いたな。中身のない写真立ても机の上に置いて、毎年パパとママにも見守ってもらった。




 もう…復興は出来ないかもな。




 矢印が湧いた。コレは速いぞ。




 横へステップを踏み、ブーイ達を踏み台にして推進力を獲得。そのまま切り取り攻撃や炸裂攻撃を避け続け、本当の狙いであろう、四方五十メートルを鳥籠のように囲むキューブの矢印。その外側へと脱出する。




 同時に出せるキューブの量には限度があるのかな。極論、屋敷ごと覆ってしまえば良いからね。本気で殺すのが目的ならさ。まぁ、手加減している可能性も捨てがたいけれど。




 推測に過ぎないが、初めの炸裂攻撃の時の仕切りが最大質力なのかもしれないな。あの内側にいる間は炸裂しか矢印が湧かなかったし、切り取りの矢印が湧いたときには囲いが少し縮んでいた気がする。…でも、その時は攻撃が発生する前に縮んでいたから、手元にキューブの容量がないと使えないのかな?




 童話とかに登場する魔法のマナだとか、魔力だとか言われる力のタンクみたいに、キューブにもタンクがあるとすれば……炸裂も同様か?




 キューブが発生し、捕らえられなかったと理解したら即座に解除するあたり、やはりいつまでもは残しておけないものなのだろうな。展開したら回収して容量を回復させないと、タンク内へ返さないと再展開させられない仕様…かな?



『随分と愉快げに笑うではないか』



 パチンと左側から音が鳴り、地中の広域が沸き立ち始め火山が噴火したかのように炸裂。僕は他のブーイ達共々、宙空へと打ち上げられた。そして矢印が発生し、空中で不可視な部屋へとご招待。器用なことに、身動きが取れないようひと一人分のキューブの内部に収監されたのだ。




 やはり苦手だ、この広域攻撃クソイベ



『ふっ!』


「っぶぁ……!?」



 宙へ固定され身動きが取れなくなった僕へ向かい、直線的に矢印が伸び、トロペオがほぼ同時に到達。羽根のカタチへ変えていた腕を振りかぶり、その瞬間だけ腕のカタチへ直しキューブを解除。そのまま殴り抜けられてしまう。




 ギリのギリまで身体を固定されるとどうにもならないな。ガードが追いつく前に腹部をやられた。やはり一撃を貰うだけでもかなりしんどいな。久しぶりに血を吐いてしまったじゃないか。




 それにだ、自身の独壇場へ持っていくためだろう。更に空高く打ち出すように殴り抜けて来ていた。勢いが弱まる前にまた身体をキューブで固められ、慣性で脳が揺れかける。これは、かなり不味いかもしれない。



『そう簡単に終わるでないぞ?クラム・メリオス!』



 トロペオから矢印が伸びる。腕はまた羽根のカタチへ変わり、僕の位置よりも高く飛翔してみせた。そのまま矢印と同時に到達。今度は地面へ向かい蹴り落とされる。




 間髪入れずに空中で身が固定され、慣性により中身が揺れる。



「かはっ…!」


『ふははっ!なかなかに良い顔になってきているではないか!だが…終わるな。まだ死ぬでないぞ?』



 固定した僕の身体の上。いや、キューブの上かな。そこへ降り立ち人の悪い笑みを浮かべるトロペオ。矢印を待たなくても解る。今から奴は。




 指を鳴らし僕を固定するキューブ、その内部全域を炸裂させた。一度や二度ではなく、幾重にも、そして疎らに、敢えて雑に炸裂を繰り返す。




 焼けるような痛みに、殴打を受けているかのような空気の重み。今の気分はピザ窯で焼かれるピザそのものだ。それだけではない、立ち込めるのだ、煙が。呼吸がうまく出来ないのだ。




 けれど、炸裂にも限度があることを知れた。




 酸素だ、酸素がなければ使用できないんだ。トロペオの炸裂による攻撃は、あくまでも炸裂そのものを発生させるのではなく、酸素を要する着火程度のナニカでしかないのだ。もっと、もっと詳細を考察したい。




 こんな状況でも知的好奇心が止まらない。貴重な酸素をこんなことに使うのはかなり勿体ないと思うけれど、本人ぼくが有意義だと感じているのだから良いだろう。



『………なぜ』


「…ははは…はは…」


『なぜ笑える?』


「ねぇ、トロペオ。君は…あぁ、そうか。キューブを隔てると音も通らないんだったね」



 炸裂が止み、トロペオがその姿を変える。腕のカタチから羽根へ、偶蹄目のような脚のカタチから跗蹠ふしょのようなカタチへ。そして、人間のような頭部も奇々怪々な変貌を始める。




 後ろへ流れていたオールバックな髪の毛がウネウネと伸び、上向きに…打ち水の柄杓ひしゃくのように形成されてゆく。




 ニヤリと笑みを浮かべて、フードを被るように後ろから前へ髪を流すトロペオ。そこからは目を疑った。成ったのだ。柄杓のようなカタチへ伸びていた髪が、前へ流した途端に翼竜のくちばしへと成ったのだ。




 生気を感じ取れない純白さを持ち。現存するどの生物の羽根よりも大きなモノを持ち。そして、象に引けを取らない…いや、むしろ追い越している程に巨大な体躯を兼ね備える、白亜を生きた翼竜の姿へ彼は成ったのだ。




 モデルはトロペオグナトゥス。図鑑等とは多少の差異はあれど、確かにそのなりを彼はとったのだ。



「へぇ、そーやって成るんだね。中々に厨二的じゃないか。…って、こうやって喋るのにも、もう余裕が無くなってきたな」


『もしも…だ、これで生きておったら、直々に賞賛してやろう』


「えぇ!?なんだって~?聴こえないよ!もっと大きな声でお願いするよ!この中にも届くくらいの声量でねぇ!」


『ふん。そう暴れずとも、今すぐ恐怖から解放してやろう。肉体は地に還り、魂は天へと堕ちるのだ』


「だぁかぁら!聴こえないって!」



 翼竜は羽根を広げ、月が輝く夜空へと大きく飛翔。雲上から旋回し、空中へ幽閉しているエディ目掛けて滑空を始める。空気抵抗に従わず、ぐんぐんと重力加速度的に速度を上げゆくその姿は、通過した道に業風を巻き起こすその姿は、白亜紀に舞い降りた風神が如く。




 加えて、自分自身の加速を手伝うように、その翼竜は器用に炸裂を運用している。爆発のエネルギーをそのまま運動エネルギーへ変換し取り、己が力を手に余らせることなく活用しているのだ。




 彼の見据える先に浮かぶのは、人間にしては異常に頑強な存在。既に虫の息のように見られる傷だらけの全身は、未だ元気に跳ね続けている。キューブ内部は自由なスペースがない故、ソレは痙攣けいれんのように見えてしまうのだが…この人間に限っては違うだろう。そう断言できる。そう断言せざる行いを平然とする。




 ただ、種が人間であるだけの化物だ。



『ぬぅぅ!』


「がぶぁっ…!」



 衝突寸前でキューブを解除し、エディの身体をくちばしの先端で捉え突進。これで身体を貫けないのは誤算だったようだが、翼竜にとってはほんの誤差。これから行う戦略には何の影響もない。むしろ、楽しめる時間が長引いたとさえ彼は考えているようだ。




 落雷のような一撃にも耐えうる肉体を持つエディ。あっという間に地面へ叩きつけられたと思えば、ソレは勘違いでまだ中空。キューブの不可視な壁の上。流石の強靭な身体を持ってしても、これにはたまらず血を噴いたようだ。




 壁は無くなりまた押し込まれ、なおも不可視な壁は出迎える。地面へ到達するまでの短い距離で何度も打ち付けられ、その都度意識がトびかける。今、彼を現世に繋ぎ止めるのはいったい何なのか。



『さぁ……フィナーレと行こうではないか!』



 トロペオはそう言うと、エディをくちばしで挟み込み羽根をSの字に展開した。間髪入れずに翼竜自身の手元に炸裂を重ね、その場で鼠花火のように高速回転し始める。




 計り知れない遠心力に振り回されるエディはそれでも冷静だ。ギリギリまで耐えていた無呼吸を解き、深く息を吸い、浅く力強い息を吹く。どれだけ血液の流れが乱れようとも、ただそれだけに注力している。




 空気を切る鈍い音。天高く昇る人為的な竜巻。延々と聴こえる炸裂音と愉快に満ちた笑い声。紐を引き抜いた独楽こまのようによく回り、しかし独楽こまとは違い加速する。




 段々とソレは角度を変えて縦回転となり、地面に向かってエディを射出した。自らが撃ち放ったエディを炸裂させ、火力とダメージの後押しも忘れない。



『大地の一部となるがよいわ!』



 瞬きをする間もなくクレーターは広がり、ブーイ達が掘った道ごと崩壊。立ちこもる土煙が視界を埋め尽くし、狼煙のようになっている。




 翼竜が降り立ち、ヒトのカタチへ姿を変えた。はげた地表を闊歩し向かう先には血溜まりがあり、その源泉には血と土に塗れた男の姿が。瞳は開いたままに虚空を見つめ、土煙の中でも閉じることはない。眼に入って反射的に閉じることもない。




 漆黒の髪に光を映さない漆黒の瞳。血の色に染まってゆく肌。力が抜けたように広がり、硬直するように柔らかく丸まった手。



『ぬぅ、なおも肉体を保っているとは誤算であるな。…死んだか。だが、驕ることはせぬ。確実に葬ってこそ、貴様との戦いに終止符が打たれるのだ。…しかし、惜しいな。このまま消してしまうには……惜しい』



 人間の肉体をまるっと覆うようにキューブを出す。




 トロペオ・ヤッシュゲニアのトリミングは種類がある。



 空間を隔て分ける。


 空間と空間の境をつくる。


 空間の内側を消す。



 この三つはメインとして使う種類。




 そして、



『今宵は月がよくえる。それに照らされる血の華はなんと優美な仕上がりか。我に贈る華としては少々花弁の質が物足りぬ。…が、敢えて受け取ってやろうではないか。我と対等に渡り合えた強者、クラム・メリオスよ』



 四つ目、空間の保存。




 エディが初めて地底内部に連れられた際に、トロペオがルジカを得るために両腕ごと切り取った力。そのものである。




 それを今度はエディを保存する為に使用するというのだ。神の名を冠した化物は、壮絶な戦闘の中で、不死性のある化物に魅入られてしまったらしい。



『我が宮殿の宝物庫へ置いてやろう。ほかの皇帝は我のコレクションに歯を噛み締め、どうか譲ってほしいっ!…と、そう懇願するであろうなぁ?』



 エディから片時も目を離さずに大層心地良さげな声で語るトロペオ。気分が高揚しているのだろう。些かオーバージェスチャーで語り続けている。




 周囲のブーイはただ眺めるしかできず、事の終わりを察してかいそいそと移動を始める者までいる始末。仲間だったモノに関心はなく、その頭の中に存在するのは次の戦地。そこで人間をどれだけ始末できるか。ただそれのみ。




 エディの傍らまで歩み寄り、その場でしゃがみ込みながらつらつらと言葉を述べ続ける。



 賛美。


 冷笑。


 嘲笑。


 自慢。


 比較。



 モードに入ったようで、いつまでも語りかけ続ける。己の聡明さやしたたかさを。人間の脆さや愚かさを。始祖への尊敬や執着を。他の皇帝とエディが相対した場合の結果を。




 そうして語り尽くしたトロペオは、名残惜しそうに、丁寧にキューブの下準備を始めだす。四角よつかどの位置を、血の華を削らず、見目美しく額縁へ収まるように。



『ぬぅ……うまく収められぬな。うむ、不要な部分は切ってしまえば良かろう。華を飾るに切る択も一つの道よ』



 華の形をあまり崩さないように、細心の注意を払いながらエディの足を掴み上げ、そして〝矢印〟を発生させる。



「おはよう」


『なぬぅ!…っぐぁ!?』



 掴んだ腕を振りほどき、そのまま腹部を蹴り飛ばす。勢い良好。トロペオは既に屋敷の壁に打ち付けられている。




 まるで蜂蜜の水たまりの中から立ち上がるようにして、力なくふらつきながらも身体を立たせると、身体の節々の骨を折ってしまっていることに気がついた。当然痛いし、動きづらい。




 それに目が痛い。ずっと開きっぱなしでいたからだろう。水で洗いたいけれど、そんな時間の余裕はない。




 自分の倒れていた場所を見やると、凡そ人から出てはいけない量の血の池が出来ており、思わずゾッとせずにはいられない。自分の中に残る量はあとどのくらいで、どれだけの量が出たら終わりを迎えるのか。考えそうになるが、考えたくないな。



「はぁ…少し死んでたな。…でも、なんか戻った。つまりは勝てということなのだろうさ。生き残れではなく、やり遂げろって………」



 瞳を閉じて大きく息を吸い、ゆっくりと瞳を開きながら息を吹く。



「第二ラウンドと行こうか。僕はまだ、死ねないらしいからねぇ…確実に天命を迎えたはずなのに、強制的に引き戻されてしまったよ」



 壁から身体を引き剥がしながら、驚愕と歓喜が入り混じった表情の相手。白髪に深紅の瞳の…純白の悪魔を一点に見据えて、黒髪に真紅の瞳の…漆黒の兵士は問い掛けた。



「君は、死を体験したことがあるかい?トロペオ・ヤッシュゲニア」


『クラム・メリオス…!』



 深紅と真紅。しかし、方や紅より紅く光る。もはやそれは真紅を超えた別の瞳。




 二面性を司る古の神の名を冠するソレは、太陽神眼リュガミュール。




 燃え盛る太陽のような燦々とした瞳である。





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