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迷える君を 望む場所へと(書き直し前)  作者: 差氏 ミズキ
魅夜編
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幕間 エディ=クラム・メリオス Part14



 今日はいい天気だ。誰に言われたでもなく、自分で発言したわけでもない。…が、この青い空がソレを物語っている。この、雲一つのないスッキリとした青空が。




 上に向けていた顔を下の方へと動かした。




 鮮血の池に白い肉塊。ソレラが私の視界に嫌でも入り込み、情報として脳へと侵食して来る。覚える必要もないし、覚えておきたくもない。それなのに…まぶたの裏にも張り付いており。




 ブーイの血の匂いは正直苦手だ。人のカタチで、人のように肉弾戦を行い、人と同じ血の色をしているからなのかもしれない。実際は全然違う匂いなのかもしれない。…が、この眼に視えるモノや…こいつらの重さが、連想しやすい一番近しいモノへと勝手に変換させて来ている。




 毎回想像してしまう。私は今切り払ったのは人間ではないのだろうか?…と。こんなにも感情に富んでいる種族ならば、和平の交渉だって持ちかけられるのではないか?…と。




 兵舎の皆はコレを鼻で笑い、娼館を紹介してくる。私は疲労していると勘違いされたらしく、その事実に身体が苛立ちに震えた。尺度の違いや価値観、感性の違いに孤独を感じて震えた。




 そも、娼館など行かなくとも私には妻がいる。帰りを待ち、今もなお戦線の真っ只中にいる私を想ってくれているであろう最愛の人がいる。




 疲労しているのは事実だが、そこまで極限状態というわけではない。逆にだが、己のポリシーに相反する情報に対して否定的なあいつらが極限状態と言えよう。




 相談できる相手や、共に考察出来るような人がいれば良いのだが、生憎なことに私は人を寄せ付けない性格をしている。私は彼らと違い、己を自覚して息をしているのだから、当然といえば当然なのだが。



「畜生…」



 小さくこぼして、べちょべちょと音を立てながら次のポイントへと歩みを進める。完全に水没して赤く染まっている靴と靴下は、不愉快以外の何物でもなく…ひたすらに吐き気を催す。この匂いも相まって尚の事。




 …むっ。アレは人か?ブーイか?




 発見した対象は、鮮血に全身を染められているが故に区別が付けられない。近づくのは悪手だろう。私はあいつらとは違う。慎重に堅実に事を進めるのだ。



「そこの兵士よ!所属と階級、己の名だと言えるモノを言えっ!」



 閑散と静まり返った空間内で呼びかけをした。流石にこちらの声は届くだろう。他言語の人族だとしても、何か回答をするはずだ。




 …しかし、ただぼーっとうつむいているばかりで大した反応がない。聴覚を失った兵士なのだろうか?だとしても近づく気にはならないがな。




 その場でしゃがみ込み、血の池の下から小石を一つ拾い上げ、そして対象の付近へと投げた。俯く視線の先に着水し、小さな飛沫が上がったのでこれでこちらに気がつくだろう。




 さっさと次のポイントでブーイを狩りたいのだが、コイツがそうかも知れない以上放ってはいられない。ブーイは一匹でも逃がしてやるつもりはない。




 ブーイはこの世から全て駆除だ。大切な娘を奪われた恨みを、私は一生忘れることはない。私と同じような思いになってしまい、恨みつらみに溺れる一般人を一人でも減らしたい。故に私は兵士となったのだ。



「ようやく気がついたか。ノロマが」



 のっそりと地面から私の方へと顔を向けた対象。運が良かったとでも言うべきかは分からないが、コイツはブーイで確定した。恐ろしいほどに白い顔をしている。赤い血液が流れているはずなのにも関わらず、病的なまでに色素が白濁としているのだ。




 ブーイと分かればもう躊躇ためらいなんていうものは存在しなくなる。動きを見せる前に脚を切り払い、上位種を警戒して復活しないように首を断つ。もう何度も行い、身体に染み付いた動きだ。




 表情を変えずに二、三歩踏み込み距離を詰め、その動きを実行。今回は首ががら空きなのでソコを初めから狙う。



『…ギィァ?』


「…は?」



 振りかざしていた剣を薄皮一枚でビタリと止めて、そのブーイの顔を…瞳孔をも開いて注視する。永遠にも感じる一瞬、そのほんの少しの間だけ、



「………」



 やけに見覚えのある〝顔〟を注視する。




   ▲   ▲   ▲   ▲   ▲




 第零番ソロモンに出陣命令が飛んできた。久々の戦線で身体が動くか心配だけれども、きっと息抜き程度にしかならないだろうし、平気かもしれないね。




 念のために装備を整えて、戦線での正装へ…と言っても鎧とかは着ないけれど、僕なりの正装へ着替えて現地へ駆けていく。




 家々の連なっている場所は、諸事情により怒られてしまうので本気で走れないが、ソコを抜けたら持ち前の健脚で落雷の如く駆け出せる。




 今回の任務をさっさと終わらせて、更に政務もちゃちゃっと切り上げて早くアグルとメリルと遊びたい。…最近アグルが歩き始めて子供の成長スピードに感動していました。言葉も簡単な単語なら発せられるし、めちゃくちゃ可愛いんだなぁ…これが。




 …と、街を抜けたが…もう少し距離を稼がないと窓がガタつくって怒られるから、あと五百メートルしたら本気で走ろうかな。踏み込みが強すぎて大地が揺れてしまっているらしい。でも戦線だと、広範囲の敵の足を奪えるからさらに強く踏み込むんだけどね。




 軍務や政務や家族との時間以外にも鍛錬してますから。流石に机に向き合うだけじゃあ、身体がなまっちゃうからね。ときたま動かしておかないと。…いつ最上位種ヤッシュゲニアが出現したって良いように…ね。




 昨年の戦闘でその脅威度を思い知ったからこそ、日々の鍛錬に精が出る。後進の指導にも力が入る。





 目指しているのは、誰でも上位種を撃破できるくらいの知識と技術、そして体力の確保さ。だから、身体だけを鍛えさせているわけではないんだ。頻度で言えば鍛錬のほうが多いんだけど、その合間を縫って、僕が講師として兵士達に座学も叩き込んでる。




 上位種と普遍種の判断方法とか、対峙した場合の動き方だとか。カオスブーイの楽な見分け方だとか。とにかく、ブーイとの戦闘を行う上で必要不可欠な知識をスパルタで詰め入れさせている。




 情報はかなりの力となる。無いよりも有ったほうが良い!とかではなく…ソレが無くては勝てやしないというレベルでね。




 零知識で上位種を打ち倒そうとしても、核の存在に気がつくまでは、または、偶然にも核を破壊するか首を跳ね飛ばすまでは、絶対に討伐することは出来ない。無限に再生と復活を繰り返していくのだ。




 精神を破壊することは可能かもしれないが、彼らに心なんて無い。故に、精神を崩壊させて再起不能にするのは不可能と言っていい。混沌魔カオスブーイなら…あり得るかもしれないけれど。結局は個体次第かな、混沌魔は思考も外見も、一番人間に近いからね。



「よし、ここから先はいくら走っても平気だね」



 駆けていた足の、今から地面に到達する方の大腿筋に力を込める。筋肉の密度を上げて、肥大化させ、そしてメリメリと音を鳴らす。意図して鳴らしているわけではないんだけど、りきむと鳴るんだから仕方がない。




 そうして地面に届いた片足。今度はもう片方の、地面から離れたばかりの足へ集中。先ほどと同様に力を込めて、地面を蹴るように踏み込む。




 あまり宙に浮かないように、上ではなく前の方へと突き進んでいく。身体が浮いている間は次の一歩が踏めないからね。なるだけタイムロスを減らしているのさ。




 一歩だけ前へと進むたびに、周囲の景色が濁流の如く後方へと流れて行く。



「そろそろペース下げないとか…」



 気がつけば、目的となる街が既に視界に入ってきていた。




 走る速度を馬レベルにまで落として街の中へ。




 メリオス子爵領を抜けて、また別の貴族が運営する領地。その、今回の任務の目的地となる家屋は、藍の三角屋根の家。与えられた情報は少し心許ないが、来てみて納得。ぽつんと一軒、藍の屋根。周囲が白いだけにかな~り目立つぞ。




 そう、ここが第零番のソロモンに与えられた任務の目的地点なのだ。普段ならば、見なくても明らかに驚異的な問題が発生してしまっているときに呼び掛けられるものなんだけど………今回はぱっと見では分からないな。




 とはいえ、第零番のソロモンが出動する程度には国家的にも最重要なモノのようだ。…まぁ、ちゃんと任務の内容にも目を通したから…………帝王陛下が何を危惧しているのかよくよく理解できる。




 第零番に降りてくる司令は全て、帝王陛下から直々に請け負うものだ。だから…勅命?だったかな。そういう扱いになる。たとえ他の仕事をしていたとしても、ソレを辞めて直ちにその勅命を果たさなければならない。



「………」



 今回の任務は………………国家機密になるだろうなぁ。




 …内容を端的に話すと、グランドライト大帝国が管轄している一人の兵士が、目の色を変えて一匹のブーイを匿っている。速やかにブーイを排除し、兵士を拘束せよ。…とのこと。




 しかも階級が割と高くて……って言っても、大帝国内の階級は細かいからイメージしづらいだろうけど、くだんの兵士の階級は上から数えたほうが早い。…ということだけは理解してほしいかな。



「……この家…かぁ」



 目の前の、藍の三角屋根の近辺の住人にはあらかじめ別所に避難してもらっている。それも、察されないようにごく自然な雰囲気でね。主婦は買い物に行くふりをしながら…だとか、そんな感じで。




 下調べでは、奥さんとお爺さん、そして兵士の三人で暮らしている家だそうで、お爺さんは歳により戦闘継続が不可能と下された兵士上がりのお方らしい。




 …で、十代中頃の娘が数年前にブーイの手により命を落としているようだ。地中から家の床を突き破って、悲しくもその娘しか家に居ないという不幸が重なった事件。…この事件以降、大帝国内の床の素材が一軒残らず張り替えられたよ。




 衝撃的な事件だったから…今でも記憶に新しいや。まさか、家の中すら平穏とは程遠いなんて。




 …で、その被害がこの目の前の家で起きた。



「…はぁ…お涙ちょうだい的な展開は、避けたいところだけど」



 ブーイには顔がある。




 そりゃそうさ。あいつらは皆、人間の生まれ変わりなんだから。




 ブーイには、顔が、ある。




 …いやぁ、初めての事例だな。



「………すぅ~」



 大きく息を吸い、腰から機関銃…クレイを引き抜き手に取った。













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