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迷える君を 望む場所へと(書き直し前)  作者: 差氏 ミズキ
魅夜編
30/34

幕間 エディ=クラム・メリオス Part10



 目を覚ましてびっくりだ。周囲は一面黒一色で、失明してしまったのかと一瞬勘違いしてしまった程だ。暗視が効き始めてから…というか、瞳が紅く染まり始めなければ、この勘違いに気がつけなかっただろう。



「…………」



 取り敢えずは気絶しているふりを継続したほうが良さげだね。




 鉄製の檻じゃないな…石を掘り出して作った牢屋っぽい?感覚だと洞穴に似ているな。…見世物にでもなった気分だよ。実際観察されているし。檻の外からずっとね。




 …収容されているのは僕だけじゃないらしい。いや、この檻の中は僕しかいない。けど、数多くの人の声と〝命の矢印〟が視認できている。簡単に言えば寿命かな。ソレが視えている。


 …視界の端から端を埋め尽くすように並んでる。




 嫌な景色だ。幸いなのは…皆にはこの光景が視えていないこと、暗すぎて捉えられていないことだろう。


 あの人とか、すぐ隣にある蝿のたかった…うじだらけの遺骨とかに気がついていない。ちょっぴりだけど、眼球の周りに肉が残ってたみたいで、そこら辺を重点的に解体してるっぽい。


 …こういうスカベンジャーを見てると、なんだか不快になってくるのは何故なんだろう?心理的なもの?人間以外でも、野生動物の死骸とかに蛆が湧いていても一歩引いてしまう。彼らがいないと死体は亡くならないのに、それでも見ると消えてほしくなる。




 あぁ、そうか。分かった。理解した。平和な村を襲い…人間をむさぼっているブーイに重なって見えるんだ。人をわざとむごたらしく殺してみせるブーイに、否が応でも記憶が重なるんだ。




 ………で、どうしようか。




 部屋?の隅っこなのが幸いして周囲の状況はよく見える。たったいま檻から出された女性だったり、幼い子供だったり、傷だらけの男性だったり、多種多様の人たちが見える。




 あの人は兵士としてブーイと戦闘して捕まったんだろう。両の腕がひしゃげている。…目も死んでいる。


 あの人は性のはけ口にでもなるんだろう。ブーイが何か硬化的なものを渡して、それで買われて行ったっぽい。ブーイにも貨幣とかの概念があるのか。


 あれは…あからさまに知性がないな。普遍種がいる。あぁ、檻の中の女性を見た途端に大暴れだ。すぐに上位種?のブーイに静止されて…あ、殺された。




 頭が痛くなってきたな。二十代になったばかりだと思っていたんだけど、結構最近身体にガタが来ていてね。…けど、去年よりも一昨年よりも身体は頑丈だし、強くなっている。不思議だよ。


 思ってるよりも精神的に疲労してるんだろうな。




 死臭や獣臭、汗や汚物の臭い、それらに混じって潮の香りがする。湿度が高いのは閉鎖空間だからってものあるんだろうけど、もしかして、上に削ったら海に出るのでは?



「…………」



 そういえば銃剣ルジカ無いなった。




 削るで思い出したけど、そういえば無いな。あれぇ〜?気絶してたとしても、得物は絶対に離さないんだけどな。




 …というか、



「腕…無い?」



 感覚がない。痺れているのだろうか?ほら、腕枕をした後に砂嵐みたいに麻痺するアレみたいにさ。………希望的観測なのだろうか。




 血の匂いも感じてたし、正直身体中痛い。




 …早くどこかに行かないかな。




 ずっと目の前で僕を見つめているこの子。



「…………」



 ………珍しいね。名前があるブーイなんだ。



『どうした息子よ』


「ロペ、こいつは人間なのか?」


『うむ。我が仕留め、我が持ってきた、我の納品物よ。コヤツが人間かどうかは知らぬがな』



 …トロペオ・ヤッシュゲニア。…こんな見た目なんだ。表情が豊かだね…つい、人間味を感じてしまうよ。




 僕はコイツに不意を突かれてしまったわけだ。最上位種だろうか?…最上位種なのだろう。コイツもヤッシュゲニアの姓を持っている。




 エリアスとかいうタフが取り柄なだけのブーイとは違うな。スピードが売りなのだろうか?


 攻撃の矢印は、その攻撃をやろうとしたタイミングで現れる。少しでも企てた時点で発生する。さっき…いや、気絶する前に見たのは…確か零コンマ二秒。と…なると、トロペオはスピード型だろう。




 こいつも巨大な生物に変身出来たりするのかな。




 …あれ?息子って言ってたけど…



「コイツの名前はなんて言うんだ?」


『知らぬ。大した脅威たりえんでな、覚えずとも良いだろう』



 この子…ヤッシュゲニアじゃないんだな。




 瞳も違う。トロペオは暗い紅、この子は明るい紅をしている。


 それに、名前の形もあまり見ないタイプだ。読んでいると…ソウヨウを思い出す。漢字を使用しているスタイルは向こうの大陸くらいでしか見かけないから、ゴル大陸から来たのかと思った…が、この子はブーイ。そんなわけがない。




 前世が人間だった名残だとしても、今までこういった状態…前世の名前が載っている状態は見たことがない。




 可能性があるならば、ブーイの皮を被った人間か、はたまた…人間の魂のままブーイに転生した人間か、この子が産まれてからそういう名付けを受けたのか。




 ブーイは名付けを行わないから三つ目はないな。


 ブーイの皮を被ったにしては精巧すぎる。さらに言語まで普通に理解しているところをみると、ここでの生活は長いように伺える。…一つ目の線も薄い。




 なら二つ目。コレはどうだろう?


 エルクブーイという前例がある以上、転生しても魂が残っていたりする可能性は高い。彼の場合は………死に際になってようやく名前が載る程度の、薄い魂だったけど。




 この子は魂が色濃く、いや、そのまま残っているっぽいね。フルネームで載っているところをみると…あと、普通に人語で話しているところをみると、うん、そうだ。


 この子は人間だ。




 ……はぁ〜…信じたくなかった。仮説のままでいて欲しかったかな。個人的に。




 やっぱり、ブーイは人間の来世だ。全員が全員そうというわけでもないだろうけど、死んだ人間の魂は、薄れて、削れて、ブーイを動かすための核となる。


 嫌な…命の循環の新定義だ。




 人としての魂が薄れて…しかし削れなかったのが上位種となる。


 薄れて…動物の魂と混交し薄さを補い合ったモノが、または濃い状態のままのモノが、特異種や混沌種となる。一律して特異種と呼称しても良いだろう。


 薄れて…削れたのが普遍種となる。


 そして…ヤッシュゲニアが最上位種。



 …と、いったところか。




 う~む…紙とペンが欲しい。




 …で、目の前のこの子は何だろう?人間だけどブーイだし、カオスブーイのように容姿が人間に近しいわけでもない。


 カオスブーイの逆転?




 混沌種だと…その逆は、秩序種?


 安直に名付けるならオーダーブーイになるのか。名付けの権限なんて持ち合わせていないから出来ないけども。




 枠組みって深掘りすると中々に面白いんだけど、どうやらそんなに悠長に考え事をしている暇はないらしい。




 見えちゃった。視界内に。



『コヤツの持つ武器が類を見ないデザインをしておってな、我の宮殿に額でもつけて飾るつもりだ』


「腕ごとか?」


『う~む…本来ならば外したいところなのだが、コレが全く離れぬのだ。故に、腕ごと貰っておいたのだ。どうだ?これはこれで中々に味があるであろう?』


「いい趣味してんな」


『そうだろう。我のセンスはピカイチだからな』



 僕の腕…断面図綺麗だな。お陰でどう失ったのか理解したよ。まさか、両方いかれてたなんてねぇ。これから動きづらくなるじゃないか。




 にしても、やっぱり良いデザインしてるよね。ルジカは。改良に改造、分解からの再構築、調整や整備…強度確認から何から何まで色々したし、当然が如く愛着も湧く。




 ……だ…か…らぁ〜、あまり親しくない人には触れて欲しくないかな。




 いや、今はまだ止めておこう。流石に手負いすぎているし、此処はブーイの本拠地だ。数的有利は相手側に軍配が上がってしまう。




 僕を中心に周囲三十キロメートル。その円の中に居るブーイの数が百万だけなら僕は脱走してこの本拠地を人類に伝えに行く。



 …千万なら、この地底の天井を支えているであろう柱や、重心が一番強いところを満遍なく蹴り砕きに行く。目指せ!ソロ討伐八桁代!って感じでね。


 いや…八桁か…揺らぐな。…でも、このルートだと僕も崩れた天井の下敷きになってそのままお陀仏してしまうんだよね。




 あ、そういえば不思議だな。どれくらい気絶していたのか知らないけど、両腕を切断…?されて失血死していないなんてさ。




 でも、血の匂いはするんだよ。よく分からないね。




 空間を切り取ったみたいに見えるのに、血の匂いは……うーんと?疑問が増えたぞ?




 どうしてトロペオが持っている僕の両腕からは血の匂いがしないんだろう?



『用は済んだのか?我が息子よ』


「…ああ、目的は済んだ」



 …ブーイの言語を理解しながらも、人語で会話をするブーイの容姿の人間。こんなの誰も信じてくれなさそうだ。



『ならばもう良いだろう?今日は初陣をめでたいものにするために必要なコトについて学習させてやるつもりなのだ。初陣予定まで一年を切った。本格的な教育を施そうではないか』


「俺はそんなこと頼んだつもりは毛頭ない」


『人前でその完璧な人語を話してみよ。相手は驚き、隙が生まれる。そこを突くのだ』


「…………」


『ここから何匹か人間を買ってやってもいいな。人体についての勉強もしたほうが良さそうであるからな。種類は…女に子供…老人、男といったところか。瞬きをする間もなく殺す方法を教えてやろう。では…宮殿に帰るとしよう…』


「………ああ」



 トロペオは随分と教育熱心に見えるな。ブーイがブーイに執着や興味を見せるなんて珍しいね。最上位種ヤッシュゲニアだからこその〝人間味〟だったりするのかも?


 コレはエリアスの時も感じたね。



「俺は…もう少し見て回る。ロペ、アンタは一人で下手くそな鼻歌でも歌いながら帰ってろ」



 見て回ると…そう言いつつも、この子は僕の檻から離れる気配は無さそうだ。目的はなんだろう?実は起きているのがバレていたりして…?




 ……あぁ、僕の腕が遠くに行ってしまう。油断している今なら一蹴りで全身を散らせるかな?股下から頭部に向かって真っ直ぐうえにぐイメージだね。




 やろっかなトロペオ。硬くないし。




 僕へ向いている意識が途切れる瞬間に、この檻を蹴破ってそのまま刹那の一撃を与えてみようかな。そして腕とルジカを回収して……口でルジカを咥えて回収して、酸素の通り道か地上水源への通り道から脱出を謀る流れでさ。




 それとも〝天井を崩そう〟かな?…でも…この上は海だと思うしなぁ…どうしよう?出る場所次第では何日間も泳ぎ続けなければならないし、水棲すいせいのブーイがいないとも限らない。


 それに今天井を壊したら、落下するようにして入ってくる海水が、ここにいる人達を一人残らず飲み込んでしまうだろう。皆檻の中だから逃げ道ないし…酸素がなくて溺れてしまうだろうな。


 …なら〝ソレ〟は最終手段にしておくか。もしものときが来てしまったら、できるだけ多くの檻を破壊しながら泳ぐけど。




 さて、彼の油断が迫ってきている。




 ……三秒前……二……一、



『む、人間に興味を…』




 トロペオの意識が別に向いた瞬間。


 トロペオによる僕への注意が途切れた瞬間。


 そのほんの少しのコンマ以下の秒数の油断を逃さない。…意趣返しになるかもだけど、零コンマ二秒よりも小数点がさらに右へ。圧倒的な速度で蹴りを決め込む。


 身を起こして檻を蹴り砕き、石の地面に足の跡を残しながら対象との距離を詰める。急停止して足を振り上げた。


 股の下から胴体、首を経由して頭部へ振り抜く。




 日頃からしてて良かった。柔軟体操を。


 お陰で百八十度の開脚が軽々できる!




 霧散したトロペオの身体は綺麗に腕だけ残した。僕の両腕と銃剣ルジカを回収するためにね。…腕がくっつくのかは定かじゃないけど、一応手元に保管しておきたい。


 治らなくてもアテはあるしさ。




 トロペオの手から外れ、支えを失って落ちていく銃剣ルジカを即座に口に咥えた。犬みたいに口が長くないから、シンプルに顎力で持ち上げている。


 顎は鍛えてなかったからね。コレはもって半日程度かなぁ。


 水中になったら更に負荷がかかる。深ければ圧力もあるし、鼓膜や眼球も痛くなるかもしれない。


 野原直通の出口でもないかなぁ〜。




 さて、現在零コンマ二秒の経過。



「…で」



 どうするかな。




 檻を全部破壊する。


 天井をぶち抜いて海に脱走。


 この地底内を駆け回って出口を目指す。


 重心がかかっているところを重点的に破壊して地底を崩す。


 時を戻すか。




 そうだなぁ。流暢に考えている暇なんてないからね、ここは直感を信じるよ。




 この部屋にいるブーイを殲滅して、全員の檻を破壊し、皆を先導しながら地底内を進み、脱出を謀る。




 もちろん、手負いで動けなかったり恐慌状態に陥っていたり、耳の聴こえない人がいたりするかもしれない。


 その人達は置いていく。




 うん。置いてく。




 構っている時間がもったいないからね。今は一秒も、コンマ秒ですら大切なんだ。説得したり落ち着かせたりする時間は必要ないかなって。


 言い訳になっちゃうかもね。個人的には合理的だと思うけど。




 よし、実行しよう…トロペオが完全に再生する前に。矢印によると復活まであと数十秒。…こいつはエリアスよりも回復力が遅いんだな。



「…………」



 トロペオの返り血を全身に浴びているせいで、随分と物騒な風貌になってしまっているけど、あと口に腕付きの銃剣咥えてるしさ…それでも、極力怖がられないようにしつつジェスチャーで避難誘導しよう。




 よーし、ヤル気充分。血液不充分。




 どこまでやれるかな。ハイスコア目指して頑張っちゃおう。

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