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迷える君を 望む場所へと(書き直し前)  作者: 差氏 ミズキ
スタット大陸編
3/31

二話・Part2 浅深の中 出会うのは



 朧気な…誰かの声。




 赤い瞳…白い…肌と髪…黒い…尻尾と羽根。




 何かを求める…俺。




 それ相応の…リスクを背負った……俺。




 …リタンと…リスクの内容は……



「…朝になったか…」



 窓から差し込む陽射しを受けて、俺は目を覚ました。




 …ん?窓辺の椅子に…セイが座っている。




 何やら…物憂げな表情で…外を眺めている。




 悩み事でもあるのだろうか…?




 未だ寝息をたてている…ヤンちゃんを起こさないようにソッとベッドから降り、台所の無料のコーヒーを2人分淹れる。



「おはようございます、セイ」


「あ…おはようございます…ヨウさん」


「コーヒーを淹れてきました。インスタントですが…良ければ…どうぞ。砂糖やミルクもココに…」


「コーヒー…ありがとうございます」



 どこか気力の感じない声だな。具合でも悪いのだろうか…?




 …いや、目の下に隈を見つけた。




 …寝不足か。…ストレスによるものだろうか?…自殺を考える程の事を体験している…と仮定すれば…もしかしてだが、数日は眠れていないのでは…?




 眠れていたとしても、睡眠が浅く…身体が休まっていないとか…?




 先程も…俺がベッドから降りて、尚且つ…コーヒーまで淹れていたというのに、セイは…全く気が付いていなかったようだ。




 これは不味いな…。




 行動を共にするのなら…体調不良を起こされるのは…勘弁してもらいたい。休養の為に病院に寄らないといけない…数日は安静に過ごさせないと駄目…そんな事になっては、申し訳無いが…時間がもったいない。




 …無理にでも寝かせた方が得策か?




 ミルクを足して、黒から茶色に色を変えたコーヒー…を口に持っていこうとするセイの手を取り、カフェインの摂取を止めさせた。…俺が持ってきたのだが…。



「え…?ど、どうしました?」


「セイ、どれくらい…眠れていない…ですか?」


「…………」


「セイ…教えてください。俺は君の事を…俺自身よりも大切に考えてます」



 セイの目と俺の目を合わせて、セイの手からコーヒーを取り…俺の両手で…セイの両手を掴んで訊いた。



「た、たたた…大切に…ですか!?私の…事を…!?」


「ああ。……こんなにも…可愛い顔に隈があるなんて、俺個人としては…気が気でない…です」


「かわっ…か…!可愛い顔…!?」



 さて…ここからだ。




 どうやって寝かせようか…。




 この流れから…ベッドに寝かせるまでの間。それを考えないといけないな…。




 …いや……深く考える必要は無いか。




 心配なのも…可愛いと思っているのも…本心。




 このまま、素直な気持ちをぶつけるだけで…解決出来るだろう。




 ラストスパートだ。少し強引に…畳み掛けてみよう。



「とにかく、睡眠をとりましょう。眠れないのなら、俺が…セイが眠れるまで…側で、お腹をポンポンしますから」


「可愛い…私の事…ハッキリとそう言った…」



 俺が食中毒になって苦しんで…それでずっと眠れなかったとき…おじさん達は、俺のお腹をポンポンとリズムよく叩いてくれた。




 するとなぜか…お腹の痛みが…身体の不快感が消えた気がして、すぐに眠れたんだよな。



「失礼…」


「ふぁぅ…!?」


「このままベッドまで運びますね」


「ふぁ…ふぁぃ……!」



 強引にお姫様抱っこをして、セイをベッドまで運んだ。



 枕を頭の下に入れ込んで…ファサッと毛布を被せる。



「も…もう既に夢見心地です…!」


「では…そのまま眠りましょう」



 お腹をポンポンしたいが…毛布の上からだと、どこがお腹なのか…分かりづらいな…。




 …此処だろ。…多分。




 大体の目安をつけて…それらしいあたりをポンポンと叩く。力加減が解らないので…丁度いい塩梅を模索しながらしている。



「…んっ…ふっ…んぅ…す、すみません…!さっきから変な声が…!んんっ…」


「…?」



 もう少し上か?



「そ…そこがお腹です」


「…顔が赤い…です」


「わ、わぁ~……!」


「…熱い…ですね。でも、風邪とはまた違う…」



 単に…温まってきただけか?それとも…額同士をくっつけるやり方だと…上手く計れない…?




 だが…好都合だ。…温かいほうが、寝付きが良いだろう。




 このままポンポンし続ければ、自然と睡魔がきて…そのまま眠りにつくだろう。




 …………前にも…したな。こんなこと。





 弟に…カイに…していた…ような気がする。




 そうして数分が経過し、やっと寝息をたて始めたセイ。



「…寝たか」



 さて、お昼頃に戻れば丁度いいだろう。




 図書館で…調べ物の続きをしよう。



「ヨウ…セイに優しいよね」


「…起きていたのか。…コーヒー飲みますか?」


「…僕も、なぜだか寝不足だな~。寝かしつけてくれないかな~?」


「…………」


「…なんだ。僕にはしてくれないんだ」



 セイを起こさないように…ヤンちゃんを抱き上げて、図書館に向かう…為に部屋の扉に手を掛けた。




 コーヒーは…一息に2杯飲み干した。



「なにかあったら起こします。それまで、俺の腕の中で申し訳ない…ですが、寝ててください」


「…ふ~ん……じゃ、遠慮なく寝るよ」


「はい、おやすみなさい。道中は…出来るだけ、揺れないように気を付けますね」


「…………うん」



 ヤンちゃんの力は…ひ…必須級だ。




 詳しくは解っていないが…知る力…または、それに準ずる力だろう。




 俺には…彼女が必要不可欠だ。俺は、人の基礎から…記憶がないからな。文字や…その読み方すらも…記憶喪失では、忘れてしまうモノなのだろうか…?




 図書館に到着して…俺は世界地図と、その各地名が載る…専門書?を開き、故郷であるスクヴァー村を探した。だが…最後の方の…頭文字から特定しても、俺の故郷は見当たらない。




 現在は名前が違うとか…?




 この本は…近年に刷られたモノのようだが…もしも、その仮説が正しければ…それが、故郷が見当たらない理由なのだろう。




 …名前が変わっている可能性…か。考えてもみなかった。




 あり得るな…。



「…おっと…もうこんなに時間が…」



 お昼あたりの時間帯になった事を確認し、膝の上で寝ているヤンちゃんを…ソッと抱き上げた。



「ん…」


「おっと…すまない…です。起こしてしまいましたか…?」


「一生…離さないでぇ…」


「…?…ああ、なるほど」


「結婚…しようよぅ~…」


「…半分寝ているのか。…俺も3年前くらいに…経験したな…」


「ヨウの赤ちゃん…欲しいぃ…」


「おっと…そこは触るんじゃない。…意識が覚めるまで…時間が掛かりそうだ…」



 宿まで歩いている間に…目が覚めていると良いのだが。



「匂い好きぃ……」



 目が覚めたタイミングで、コレを覚えているのか…はたまた、忘れているのか。



「へへ…僕もヨウの事…だぁ~いす……き?………ん?あれ?」


「目が覚めたか?」


「あ……。ああ…!?ああああぁぁぁ…!!」


「街中ですよ。叫ばないでください」



 ここの通りは、ただでさえ…人通りが多いんだ。変に注目を集めると…どこから狙われるか…。



「死ぬぅ…もう僕、死にたい…」


「そんなこと言わないでください…」



 …死なれたら普通に困る。




 …夢の内容的に、俺への…好感度は想定よりも…高めのようだ。なら…後は、しばらくそれを…維持出来れば良いのだが………会話とスキンシップを増やすか…?




 腕の中で悶えるヤンちゃんを宥めながら、宿へと戻ってきた。




 セイを起こして…それで…先ずは昼食を摂ろう。



「セイ、お昼になりました。睡眠はとれ…ましたか?」


「……ん…ヨウさん…?」


「良かった…ちゃんと眠れたみたいですね」



 ハンカチで…セイの口から垂れていた涎を拭いた。



「え…あ、涎が…」


「起きた後は、お風呂に入ると気持ちいい…です。なので、ゆっくり浸かってみてください。その後は…3人で…昼食を摂りましょう」


「は、はい……えと…ですね」


「…どうしました?」



 ハンカチが硬かったか…?いや、フワッとしているモノを使用した筈だ。




 なら…そもそも、拭き取るという行為が…良くなかった…?…あり得るな。




 人間の心は…一度距離が開くと、なかなか縮まらないモノだ。ので…ソレは出来るだけ避けたい。




 何が不満だったんだ?



「…一緒に…入りませんか…?」


「入る…ですか?何にでしょう?」


「お風呂に…ふ、2人……あ、…いや、3人で入りませんか?」


「入る。ヨウも入るでしょ?」


「そうだな…」



 俺的には…セイやヤンちゃんがお風呂に入っている間に…次なる目的地を設定し…足りない荷物の補填を行う…をしたい。




 だが……誘われたのを断るのは…関係の悪化に繋がるのか…?いや、…そもそも断ること自体がマイナスな印象を与えてしまうだろう。ならば…俺も一緒に入るべきだろうか?



「俺は…」



 正直に言えば入りたい。凄く。




 ヤンちゃんの寝汗が衣服に染み付いて…その匂いが鼻に来る。…勘弁してほしい次第だ。




 本当に御免被る…残念な話だが…俺は男だから。



「俺も入ります。良ければ…背中を流しますよ」


「ふぇ!?い…良いんですか……!?」



 なんだろうな…。




 少しずつ…セイが喋るようになってきている。




 …コレは良い事だ。




 …だが、色々と…隠さなくなってきている…気がする。俺個人の…感覚に過ぎないのだが…。




 そのうち…前も洗うと冗談を言っても、冗談として受け取らなくなるのでは?




 ………好感度は高い分には良いのだが…ペースを間違えたようだ。




 メーターの大きさは人それぞれ。セイやテンのように…簡単に好意を持ってくれる人がいれば、ヤンちゃんのように…ゆっくりと好感度が上がる人もいる。…そして、全く上がらないタイプもいるだろう。




 …と、考えると…テンも危ういのか…?



「ヨウ、早くお風呂行こう。食べる時間減るよ」


「ああ…」



 ヤンちゃんを抱き上げて、浮足立っているセイに続いてお風呂に入った。




 色白の綺麗な背中で…小さい背中で………。




 ああ…こんな感じだった。弟と…カイとお風呂に入った時は…。




 やはり…セイは俺にとって必要な人だ。




 一緒に居るだけで…記憶がたちまち蘇る。




 故に…この旅には必要不可欠だ。



「セイ…」


「はい、どうしましたかヨウさん?」


「俺に対しては、遠慮はしなくていい…です」


「え…?」


「些細な事でも、何でも言って…ください。頼りないかも…ですが、俺は必ず協力…します」


「…………」



 …なんだ…?何を考えているんだ?




 下を向いて俯く彼女は…何やら思い詰めている様子だ。




 セイは…あまり感傷的な部分を見せないな。あの日、崖に立つ理由になった…何か、も…俺は全く知らないし、ソレは…あえて訊く事でもない。




 俺が出来ることは…なんだろうか。



「…………」



 ただ無言で…手を握ってくるセイ。…解らないな、本当に。



「僕、気まずいな」


「…それは…そうですね。俺も思う」



 お風呂を出た俺達は、昼食を摂るために…適当な飲食店へと踏み入れ、モグモグと…揚げ物類の食感を楽しみながら食事をしている。




 これで最後の一つか…名残惜しいが、次の街の設定を済ませないといけない。それと…荷物の補填に…云々…。




 そうして最後の一口を…自身の口に放り込むと、バァンッと音を立てて…飲食店の扉が開かれた。




 …美味かった。…1つ目の街の…ケーキと、同じくらいの衝撃だな。揚げ物…完全に気に入った。



「手を上げろ!金を出せ!」



 さて…と、会計を済ませよう。




 セイとヤンちゃんは十分前には…既に食べ終わっている。…ので、その時に…俺も残りをパパッと口の中に放り込もうとしていた…が、2人はゆっくり食べてて良い…と言ってくれた。




 どうやら…俺の食べる姿を眺めるのが好きなようで…終始ニコニコ笑顔で見つめてきていた。




 人の食事を眺める…それの何が楽しいのか…。



「少しでも怪しい動きをしてみせろ!もしもそんな事をしたら…即刻撃ち殺す!からな?」


「会計を頼みたい」



 席を立ち、財布を取り出して言った。



「おい、お前!何をしている!撃ち殺すぞ!?」


「…俺か。何をしているか…?…会計待ち…ですが?」


「そ、そんなことは聞いてねぇ!頭沸いてんのか?」


「悪いが俺…は…時間が大切で仕方ない…です。なので、強盗のごっこ遊びに付き合う気にはなれない…です」



 俺の額に…銃口を突きつけて、即引き金を引いた強盗。




 響く銃声、耳を劈く誰かの悲鳴、過ぎゆく時間。




 驚くほど痛い額…。少しして床に落ちる…ぺしゃんこの弾丸。



「へっ!俺をバカにしやがるからこうなるんだ!」


「どこの街も…駄目だな。1つ目の街くらいだ、何も無かったのは…」


「なっ!?」


「お前を対処する。覚悟してください」


「ふ、ふざけやがってぇ!」



 銃が効かないと理解した強盗…だが、その手は止まらない。




 次に懐から取り出したのは…ハンマーやトンカチを彷彿とさせる鈍器だ。




 …鈍器だ。



「ぬるぽっ…!?」


「おっと…すまない。つい、腕を折って…しまいました」


「っ~…!この野郎…!!」


「…………」



 別に…片腕も両腕も変わらないだろう。



「ガッ!?」


「今から自首しに行くならば…両足はそのまま…にします」


「わ、分かった!すまなかった!俺はもう…自首しに行く!流石に勘弁だ!」


「物わかりが良いようで良かった…です」



 ……なるほど。これは…ダークヒーローだな。




 呆然と眺めていたセイと…強盗に憐れみの目を向けているヤンちゃんを連れて、飲食店の外へ出る。




 もちろん会計は済ませてある。




 そうして、やっとこの現場に到着した…この街の警察とすれ違う。



「これまた…髄分と重役な」


「まぁ…俺も思うところはある。…が、別件で忙しかったんでしょう、ヤンちゃん」


「だとしても…」



 首を横に動かして、言葉を続けるヤンちゃん。



「昼休憩になったばかりの学生と、同じタイミングで到着するのは…流石にどうかと思うな」



 その視線の向く方へと、俺も自らの視線を動かす。




 こうして向いた先に見えたのは、此方に向かい駆けて来る赤髪の少女……テンの姿だ。



「師匠~!大丈夫っすか!強盗が出たと訊いて……みたんすけども…」


「既にその件は終わった。………テンは、これから暇…ですか?」


「暇っす!あと1時間くらいは…っすけどね…」


「俺達の買い物に付き合うか?次の目的地までは…馬車でも数日掛かると訊き…ました。なので、水と食料を軽く購入しようかなと…」


「あ…」



 俺の話を聴いて、途端に元気さを失くすテン。



「そうっすよね…次の街…」


「…寂しいか?」



 ほんの1日、少しの間だけの関係というのに…。




 学生であるテンは、簡単には…俺達と旅を共にするなんて言えない筈である。



「もちろん…寂しいっす」



 気持ちを切り替えるようにして…または、この時間を…楽しもうとして、テンは話を変えた。



「私…昨日、やりたい事が出来たっす」


「…どんな事をしたいんだ?」


「私は…この街の平和を守る!ヒーローになるっす!犯罪率を…減らしたいんで…」


「ふむ…」



 この街に限った話では無いのだが……




 あまりにも犯罪が横行し過ぎている。




 虐め。


 性犯罪。


 人攫い。


 殺人…及び…殺人未遂。


 泥棒。




 たった今も…裏路地に入れば、何かしらが起きる可能性が高いだろう。…これは俺の偏見であって欲しかったが…本当にそうなのだ。




 …となると、各街の平和を維持するとしたら…個人が立ち上がる必要がある。…見ての通り…騒ぎを聞きつけた学生や野次馬の方が…警察よりも早かった。




 警察のその時の場所次第ではあったが…今回の件では、前者…学生の方が遠い場所に居たはずである。




 先程の飲食店から交番まで凡そ…半キロメートル。




 図書館…学校からだと、2キロメートル。




 ………たまたま、街の端にいて…情報の伝達が遅れて到着遅かった、のなら良いが…この街の警察は1人な訳が無い。




 …何処に居るんだ?他の治安維持者は?




 なら、力のある自分がソレになろう。そう思うのは…積極性や正義感が高いテンなら…あり得る話だろう。




 先日には実際に、彼女自身が危地に陥っていた…というのに、本当に…偉くて強い子だ。




 俺は…後押しする事しか、元より考えていない。ここは素直に背中を押して…褒めて…やる気を上げさせよう。



「良い案だ。テンがヒーローとして…その活動を始めたとすれば…この街の犯罪率は、他の街よりも圧倒的に低いモノと…なりますよ」


「おおぅ…師匠って本当に、頭撫でるの好きっすよね~!しかも褒めながらとか…ふふふん。私、ヒーロー頑張るっす!」


「ああ、応援します。頑張って…ください」


「ねぇ、君達。目の前でイチャイチャされる身にもなって欲しいかな。…嫉妬しそうになる」



 嫉妬か…。




 羨望と似て非なる、な…難儀な感情である。




 今回の場合なら、テンと俺が…親しく会話をしていたことに対して…の嫉妬だろう。先程の発言から考察するに、羨ましい…とも言い表せるかもしれない。




 なら…会話の量を増やすべきか?…それとも、スキンシップをするべきだろうか。



「すまない、ヤンちゃん。セイも…待たせてしまい、すみません。荷物の補填に行きましょうか。…何を購入するのかは、決めてましたか?」


「僕は…ヨウがいれば、生活には困らないかな」


「では…ヤンちゃんは特に無い…と」


「私も…ヨウさんがいれば良い…ですけど、護身用に…何か簡単な得物が欲しいですね」


「では…荷物の補填が済み次第、反動の少ない拳銃…を購入しましょう」



 セイの身体つきは…一言で言えば…華奢…だ。




 筋肉の量も…一般人より劣るだろう。




 …だが…セイは、ヤンちゃんを抱えて移動することが出来る。




 筋力…はあるんだ。



「拳銃ですか?」


「ああ、距離が遠いならより有利に…尚且つ、近くても強力…です」



 銃の撃ち方は心得ている。…狙撃銃でも、機関銃でも…6年間で色々学んでいる。




 おじさん達の中には、拳銃を…肌身はなさず…常備している人がいた。




 …その人は、お兄さんと呼ぶべきか…おじさんと呼ぶべきか…それくらいの年齢の人物である。




 その人は、拳銃の解体や組立の方法…構え方…狙うべき所等々、訊いてもいないのに…ツラツラと教えてくれた。




 魚を捕る際には使用しないが…同業者…別の密漁者達とかち合った時には、彼の…異常な程の腕前が大活躍していた。




 密漁船の用心棒…それがその人の役割だったな…。




 …危ない。




 また性懲りもなく…物思いにふけていた。



「撃ち方は、俺が手取り足取り教え…ます」


「ててて、手取り足取りですか…!?やった…!今からとても楽しみです!」


「…………ですか。なら…良かった…?です。うん…」



 荷物の補填を済ませ……拳銃を購入し…今。




 調べ物をする為に、図書館を訪れている。




 静かに本が読めるスポットを探し、そこに荷物を置き、セイとヤンちゃんを座らせた際のこと。




 適当な本棚へ向かおうとしていたところに、テンからある事を訊かれた。



「ヨウさん!1つ…訊いてもいいっすか?」


「なんだ?…俺で良ければ、何なりと…訊いてください」


「訊きたい事…なんすけども…」



 何やらモジモジとし始めるテン。




 やがて、覚悟を決めたかのような面持ちとなり、口を開いた。



「ヨウさんって…か、彼女さんとか…いるんすか?」



 少し頬を朱に染めて…俯きがちに…上目がちで、そして真剣そうな面持ちで…訊いてきた。




 さて…どう答えたものか。




 聞き耳を立てる他の面々。




 昼休憩に入った学生達と…セイとヤンちゃんが俺に注目しているこの状況。




 さて…ここは素直に答えよう。



「いない」


「ふぅ~ん…?そうなんすね…」



 目を細めて、ジーッと俺の顔を見つめるテン。




 嘘を付いている…と、思われたのだろうか。



「な、なら…私と…」



 テンがソレを言いかけたタイミングで、何かを察知したヤンちゃんが…テンと俺の間に口を挟み込んだ。



「ヨウ、僕と付き合わない?ヨウだったら絶対に、僕のことを置いていかないと思うし…それと、僕は普通に…ヨウのこと好きだから」


「えっ、ちょっと…私のターンだったじゃないすか!」


「早い者勝ち」



 ……困ったな。



「ヨウ、どうするの?」


「俺は…やめておけ」


「…え」


「やめておけ。それだけ伝えておきます」


「僕…振られた…?」


「好きに解釈してもらっていい。もし付き合ったとして、ヤンちゃんは後悔するだけ…ですけど」


「え、それだと…僕次第で恋人出来ちゃわない?」


「何方でも…お好きなように。…それでは、俺は調べ物をします…ので、本を探してきます」


「お好きな…ように…」



 今回調べたいのは〝金色の厄災〟についてだ。




 それについての本が…この図書館に在るとは限らないが……なんとか見つけることが出来た。



「単純なタイトルだな…」



 『金色の厄災について  出版者 国家防衛委員会 災害対処部門 特殊災害対処課 海洋グループ 近海チーム所属 ググ・レ・カス』




 もはや…タイトル名よりも、出版者の方が頭に残る。




 俺はその場で軽く開き、パラパラとページを捲る。



「なるほど…」



 金色の厄災とは……




 世界中の人々が…世界の??を望むと発生する…




 広く捉えると??的なモノであり…



「…ふむ…?」



 厄災の後は何事も無かったかのように、建物やヒトが元通りになる。




 …が、倒壊した筈の建物…厄災後に元通りとなった建物は、金属のように…硬く……




 これは…飲み込まれた筈のヒトも同様であり………



「…………」



 金色の高波は…密度が際限なく変化する。…故に、全てを飲み込み沈ませる…




 そして波に飲まれたモノは…




 波の影響により失なった部分が…金属的物質に変換される。



「…終わりか」



 後々で…俺の正体を調べたかったが、この新事実のお陰で…難しくなってきたな。




 被災者であり…生還者?であり…金属の様に硬い身体で…でも、柔らかく熱を持っている…正しくキカイな存在。



「そんなに事例も無さそうだというのに…よくここまで、信憑性の高い情報を調べられたものだな」



 …おっと!




 まずい、長居しすぎた!




 俺は適当な本を、タイトルを見ずに数冊抜き取り…セイ達の元へ戻った。




 それから時間が経過し、街を歩いていると…警察の男性に呼び止められた。




 因みに、セイは一足先に宿へ戻っている。



「おい、そこのお前!」


「…はい、なんですか?」


「お前…人攫いだろ!」


「はい?」


「ヨウは人攫いじゃないよ、警察さん」


「…可哀想に…脅されているんだな…!」


「えー…」


「堂々と犯罪をするとは…許せん!署で事情聴取に付き合ってもらうぞ!」


「…行くしかないか?」


「ヨウ次第」


「行くしかないか…」



 警察の男性に連れられるまま…俺達はそれらしい建物の中へと入り、ヤンちゃんを別室に待機させ…俺は何故か、写真を1枚撮ってから留置所に通される。



「なぜここに…?」


「そこで大人しく待っていろ!今から、誘拐されそうになっていた少女に、詳しい話を訊きに行く!」



 それだけ言い、警察の男性は…檻の中に俺を放置して部屋を去っていった。




 薄暗いな…照明の1つも無いものだろうか…?



「…………」



 ……時間が勿体ない。




 早く終われば良いのだが…。



「…………」



 夕食はまだ摂っていない…ので、宿に居るセイを待たせる事になってしまう。




 先に食べていて良いと言ってはいたが…




 性格上、彼女は俺達の帰りを待って…夕食を摂らずにいるだろう…。




 今回の外出の理由も、セイにとっては良くない印象を与えかねなかった…ので、自ら宿に戻ってくれていたのは、かなりのチャンスの筈だった。




 …というのに。




 パパッと購入して、サクッと戻ろうと考えていたのに…




 …まぁ、逆に考えると…




 犯罪率の高い街で…足のない少女を抱えて、日の落ちた街を歩んでいるというあの状態…勘違いされても…仕方が無い?のだろう。




 にしても…掛かるな。



「…………」



 貧乏揺すりが…いつの間にか始まっている。




 …はぁ。




 …明日ここを出る予定だとはいえ、脱獄なんて…してはいけないだろう。…そもそも、指名手配に掛けられる可能性もある。



「……長いな」



 なるだけ早く行きたいのだが……店が閉まっている可能性が、少しずつ…着実に上昇の兆しを見せている。




 犯罪率の高い街で…夜に商売をしている所は少ないだろう。




 早く向かいたいのだが……。



「……?…今…何か…聴こえたか?」



 ………………。



「…ヤンちゃん?」



 ……………。




 …!叫び声!



「今行く!」



 俺は牢屋の檻を押し曲げて部屋を出た。




 ドアごと、壁ごと、声のする方へ向かい真っ直ぐに…愚直に突き進む。




 重要そうな柱を避けながら進むこと暫く…俺は広く…冷たいスペースに辿り着いた。



「倉庫か…?」



 あたりをぐるりと見渡すと、目に入るのは…馬車数台。




 ここから見える出口の先には、揺らぐ月と波打つ海岸が伺える。



「コレ…怪しいな…?」



 馬車の内側を怪訝に思った俺は…各馬車の扉を外して回った。



「なるほどな…」



 警察の男性の正体は…人攫いのベテランか…。




 …だが、周囲に人攫いの姿は無い。




 口を塞がれた女子供が…十と少し、そして…その中には、ヤンちゃんも居た。



「ヨウ…?」


「すみません…!遅れ…ました…?」



 ヤンちゃんを抱き上げようとして…腰に手を回すと、薄暗くて気が付かなかったが…全身が濡れている。



「…何があったか、言えますか?」


「…両腕を縛られて…水槽に…」


「……ですか」



 俺はヤンちゃんの服を脱がして、自身の羽織っていた上着を着させた。




 濡れた服を身に纏ったまま放置するのは…かなり危険だ。




 俺が海に落ちたときも…おじさん達は、服をすぐに変えさせてきた事を記憶している。




 他の人達は特に外傷も拘束具も見られない。




 自身の足で動けるだろう。




 ヤンちゃんを抱き上げて、海岸出口から外へ出た。




 誘拐犯は何処へ…?




 街へと戻り服屋さんに向かおうとしている道中、フルプレートに身を固めた、騎士のような男性に声を掛けられた。




 あれから…ヤンちゃんは、俺の胸元にもたれ掛かるだけで…これといった反応をしてくれない。…息はしているし、脈もある。そこには安心である。



「そこのイケメン君、ちょっと話を訊いてもいいかな?少しだけ…ねっ?」


「ああ、少しだけ…ならば、構わない…ですが」


「ああと…案外素直に進むな…で、率直に訊くけどさ…」



 少し声色を落として、続きを述べる騎士。



「君とその子、どういう関係だい…?まさか…人攫いなんかじゃあ…ないよね?」


「どういう関係か…?そんなもの…見て判るだろう?」



 一呼吸をおいて、ハッキリと応える。




 際しては、ヤンちゃんを力強く抱き上げて…騎士に見せつけるようにして…答える。



「ご覧の通り、ただのカップルだ。それ以外の何者でもない」


「…!?」


「ふぅん?にしては…彼女さんの方は、驚いているようだけど…?」


「さぁな、恥ずかしいんだろう。付き合って間もないんだ」


「…なら…本当に付き合っていると仮定しよう。…すると、彼女さんの…緊張した表情と、上着1枚のみの装いに疑問を抱くよ」



 俺からヤンちゃんの方へと対象を移して…問い掛けるように騎士は言う。



「本当に…君は、彼と、付き合っているのかい?君からも確認させてほしいな」


「……うん…僕から告って、オッケーしてもらった」


「…微妙だね。半分は本当で…もう半分は嘘といった具合かな?…判るんだ、そういうの。……で、告った方を本当だと仮定しよう。それは、心からの…本当に彼が好きでの行いかい?」


「うん。僕はヨウの事…本当に好きだよ」


「………まじか。本当に?」


「なら…観てて」



 騎士からの疑問を晴らすように、ヤンちゃんは俺の頬へ手を伸ばし…顔を向けさせて…




 冷たく暖かい…口づけをした。




 長く…長く…息が止まりかけるほどに、口内を侵食されている。




 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。




 おっと…思考が勝手に503を起こしていた。……止まっていた。



「待て待て待て待て…もう判ったよ。解ったから止まってくれないか?……おーい!こりゃ…まいったな…」



 生々しい音を立て…一本の繋がりを残して離れた口。




 感覚がまだ残っている。




 …だが、ここで狼狽えては…それはそれで疑われるだろう。



「と、こんな感じだ。疑念は晴れたか?」


「ああ…そりゃあ、偉いもん観ちまったよ。……ならさ、コレって何なの?」



 懐からパッと取り出した1枚の紙。




 そこに載っている顔には見覚えがあった。




 そう…俺だ。



「指名手配犯…罪状は…人攫い、暴行…酷いな」


「暴行はあながち…間違ってはないよね」


「確かにな」


「…何だって?暴行は間違いではない…って言ったのかい?」


「正義の為に、致し方なくしたものだ」


「…どうやら、嘘はついていないらしいね。でも、控えるように」



 この騎士…〝真実を見抜ける力〟を身につけているのか?それとも…これがメンタリストというモノか?



「あ、いた…!ヨウさん…!大丈夫ですか!」


「セイ?」


「な……!?」



 ついに、痺れをきたしてしまったのだろうか…長らく待たせてしまっていた自覚しかない。




 そして…待たせていたのはセイだけではない。




 ヤンちゃんの服もまだ購入出来ていない。




 本来の目的も果たせていない。




 ない…ばっかりだ。



「ふと、窓から外を眺めたときに…こんな張り紙が目に入って!」


「そっちの方にも有るんですね。………あぁ、もしや…」



 偽の署に案内された時に…写真を1枚撮られていたな…。




 うむ…画角も、光の具合も記憶と一致している。




 ……随分と慎重で、ずる賢く…回りくどいやり方だな。




 人攫いの計画としては…




 ある程度の人数を集める。


 現場に案内をして、写真を撮る。


 街で写真をプリントし…指名手配書を配るか貼る。


 ソイツが捕まり…そのうちに自身は逃げる。




 コレが正しいならば…捕まったかどうかを確認しないといけない。




 だが…逮捕の知らせを待つほど、流暢にはしていられない。なぜなら、集めた人達が衰弱するか…助けを求めて逃げ出すかもしれない…。




 一応、水責めの恐怖で逆らえないようには…しているらしいが、それもいつまで効力を保つか…だから、早く捕まるように大量に張り紙をする。




 そして…物陰から捕まるところを見守る。



「…コレが正しいならば…」



 ヤンちゃんに声を掛けて、居場所を突き止める。



「…そこ」


「了解」


「ひ、あ、ち、ちょっと君達!何処に行くつもりだい!まだ職質は……って、速っ…!」



 鉄の翼を展開し、トップスピードで首根っこを掴み地面に叩きつけた。




 やはり…観ていたらしい。




 人攫いの男性と顔が一致。声も同様に。



「確保。このまま騎士に突き渡そう」


「や、やめろ…!指名手配だー!ここに、手配書の人物がいるぞー!」


「…………おい」


「ア…」


「悪いが、このダークヒーローは…あんたに対して恨みがあってな」


「ンデェ゙…!?」



 人攫いの左足を外した。



「ルゥ゙…!」



 次に右足。



「センゥ゙…!」


「そして、右腕」


「ぐっ~…!!」


「さて…騎士に連行してもらうとするか」



 そう考え、人攫いを片手で引きずろうとすると…ガッシャガッシャと音を立てて、先程の騎士が此方に来ていた。



「こいつが今回の件の真犯人だ。連行してくれ…ませんか」


「君、これはやり過ぎだ。過剰も過剰…暴行罪で逮捕する。俺は警察じゃないけど、権利は持っている。さぁ、ついてきなさい。素直に従わない場合は、公務執行妨害罪が増えてしまうからな」


「今回はどうする?」


「さてな…どうすべきか…」


「さぁ、悪いようにはならないとは思うから、俺についてきなさい」



 ……服屋さんで服を購入…次に目的の品の購入…次に夕食を摂る…後の予定が渋滞中だ。




 とにかく…第一に服だな。




 人攫いを騎士に渡しながら、一言伝えた。



「俺を連行するのは構わない…ですが、先ずはヤンちゃんの衣服を確保したい…です」


「あ~ね…別に良いよ。っていうかさ、元々そこに入る予定だったよね。俺が止めちゃったんだけど」


「ああ、服が諸事情により着れなくなって…しまったので、新しいモノが必要でした」


「なら、立ち寄るとするか。金あんの?出そうか?」


「不要だ。蓄えなら十分に…あります」



 そうして、服屋さんに向かって歩き出したところで、息を切らしながらも…セイが到着した。




 思い返すと…確かに距離は離れていた。鉄の翼のお陰ですぐに来れたが……………となると、この騎士は何なのだろうか?




 流石に俺のほうが速かったが、騎士の方も然程…到着の時間に差異が無かったような気がする。



「そ…その逮捕………待ってください…」


「やっぱり、似ているんだよな…この子」



 ゼーハーの呼吸を整えて…セイは自身の衣服のポケットから、月の明かりに煌めく…水色の紋章が彫られた…掌サイズの純白のプレートを取り出し、ソレを掲げた。



「…え…ソレ…え、じゃあ…!」


「私は…セシアライト王国の王女、セイ・レイフォン・ラ・セシアライト…その人です」


「本当に…姫様…!?………よくご無事で…!」


「ヨウさんは、私の命の恩人です!その人を連行する事は、私が許可しません。彼を解放してください」


「はい、そりゃもちろん!…で、姫様!探していましたよ!早くセシアライト王へ顔を見せてあげてください!」



 …姫様?セイが…?




 これは…後々、説明してもらおう。



「…まぁ、こんな時間ですし、また後日に伺わせて頂きます。それまでには…そうですねぇ…城に顔を見せに帰るか、このまま彼等と共に過ごすか、決めておいてください。俺は正直…姫様の自由が確約されている方が良いので、断然後者なんですけど…」


「そうなんですか?」


「ですです。でも…顔を見せるくらいはしたほうが良いんじゃないかと、俺は具申しますよ。王を安心させたげてください」


「なら、顔だけ出して…そのまま、ヨウさんと旅を続けます」


「それが安定ですね。…てか、俺の事覚えてます?」


「…………ごめんなさい」


「ですよね~…では、俺はこれで…コレを持っていかないと行けないんで、失礼します。また明日」



 人攫いを引きずりながら、何処かへと去っていく騎士。




 取り敢えず解決したのだろう…今回の人攫いの騒動は。



「では、服を買おう。もう少しだけ…待っていてください」



 服屋さんへと入り、適当な服を次々手に取る。




 即購入し…店内の試着スペースで着替えさせてもらった。



「似合ってますよ」


「ヨウのセンス凄いよね。僕を可愛くするなんて…」


「さぁ?元より、素材が良いのでしょう」


「だろうね。後さ、これからもよろしくね…僕の彼氏くん」


「ああ、任せろ」



 服屋さんを出て、ヤンちゃんをセイに預けてから、パパッと本来の目的の品を購入しに行った。




 店が開いていてよかった……。




 そして…どうにか入手出来た。




 セイとヤンちゃんと合流し、そのまま宿に戻り…軽く夕食を済ませてから、部屋に戻った。



「セイ、姫様とは…何の話だったんですか?」


「あぅ…実はですね…」



 セイから詳しい話を訊いた。




 隣国の…セシアライト王国の王女様である事。


 


 まさかお姫様なんてな……全くの想定外だ。…だが、だからといって、これからの態度を変えるつもりは…微塵もない。




 俺が知るのは…俺が今接しているのは、…隣国のお姫様ではなく、セイという1人の女性である。



「……では、なぜ…あの時に、地面に座り込んで…蹲っていたんですか?」



 少し…踏み込み過ぎている気がしなくもないが、一国のお姫様が…どういう経緯で…あの場に辿り着き…身投げ寸前までになったのか、誰でも…訊きたくなるだろう。




 俺の問い掛けの答えを…頭の中で纏めているのか、はたまた、踏み越えてはいけないラインを越えてしまったのか…返事が来ない。




 いや……杞憂だったか、どうやら…前者の方らしい。



「お忍びで家族旅行をしていました。…それで、野盗に襲われて…お父様とお母様を目の前で亡くし………ですが、私はどうにか逃げ延びました。………知らない街を歩き回り、疲れ切って蹲っていたところで、ヨウさんの声が耳に届きました」


「なるほど…野暮な事を訊いてしまったな」


「いえいえ!今はこうして…立ち直れてますので!…どれもこれも、貴方のお陰です。今生きているのも、自由に…なんの気兼ねもなく動けるのも、ヨウさんがあの時に助けてくれたお陰です。本当に感謝してもしきれないです」


「…そうか。これからもよろしく頼みます。セイ」


「はい、喜んで。こちらこそよろしくお願いします。ヨウさん」



 次の目的地は元より、隣国の王都…と、ある程度決めていたが…まさか、セイの故郷だとはな。




 王都の方が、金色の厄災や…スクヴァー村について、より詳しいモノがあると踏んで、そこを目的地にしていた。




 だが…流石に距離がある。ので、馬車を利用し、幾つかの街を経由して行こうと考えている。…上等の馬車を利用すれば、経由する街は1つで済むが…如何せん高すぎる。




 利用出来なくはないのだが…いつ何か起きるのか分からないんだ。節約してなんぼだろう。



「セイ、僕…ヨウと正式に付き合うことになった」


「…ふぇ?」


「ああ、恋人関係になった。…だが、あまり気にしなくても良い…です。気まずいかもしれませんが…」



 朝に出発する予定なので、もうそろそろ就寝したい。




 …と、そう考えていたところに、ヤンちゃんが突拍子もない事を言い始めた。



「何なら、セイとも付き合っちゃおうよ」



 膝の上から…仰け反るようにこちらを見上げ、スンとした表情で言われた。



「僕はソレが1番平和だと思うな」


「わ、私とヨウさんが…付き合う…ですか!?そ、その前に…お2人は正式に恋人にって…頭がパンクしてしまいます…!」


「別に今答えられなくても、後々の好きなタイミングで答えてくれればいいよ」



 俺の意思を考慮していないところに疑問を抱いてしまうが、悪くはないと…悪い考えが浮かんでしまったのも事実。




 だが、後々の好きなタイミングで…と言うのなら、その時が来るまでは…気にしなくても良いだろう。



「もう寝ましょう。明日の朝には…次の街へ向かう為に、馬車の予約をしに行きます。それに…個人的な用事もあります」



 ヤンちゃんを抱き上げてベッドに移り、セイも放心状態ながらそれに続く。




 さて…寝よう。変な気を起こしてしまう前に。




 そうして日を跨ぎ、朝。




 朝風呂に入り、目的を果たすために外へ出る。



「なんなんだい、さっきから。俺はただ、ヨウに提案を持ちかけようとしているだけだ…と言っているだろう?」


「なんの提案かを訊いているんすよ!怪しい以外の情報をよこすっす!」


「これがまた…あまり公には言えないものでね。すまないが………おう、起きたか。待っていたぞ」



 知らない青年とテンが、宿前で何やら口論をしていた。



「あ、師匠!おはようっす!」


「ヨウ、君に提案を持ち掛けに………待て、今師匠って言ったかい?」


「誰だ?」


「……あ、なるほど。俺は、騎士の格好をしていた者だよ。というか…俺の名前は言ってなかったね」


「先日の騎士か。…で、その騎士が俺になんの用だ」



 短く揃えられた金髪…右が俺と同じ黒の瞳…左が黄色の瞳といったオッドアイ。右耳に…穴を開けない、挟み込むタイプの黒いピアス…背丈は俺と近しいな。



「俺の名前はテイ、よろしくな。で、提案何だけど…俺は昨日、姫様の捜索任務が完了したんだよね。それで、王都に戻るんだけど…良ければ道中共にしないかなと。行くでしょ?王都に」


「ああ、幾つか街を経由するがな」


「あ~…そっちの馬車使うんだね。なら、俺金出すからさ、上等使おうよ。それなら…街の経由は一度だけで済むよね?それにお得だし」


「良いのか?…分かった、飲もう…その提案を」


「よし来た。お昼頃に出発の予定だから…それまでに荷物を纏めて、馬車通りまで来てくれ」


「ああ、お昼を食べてからでも構わないか?」


「もちろんもちろん、俺も昼食ってから向かう予定だから。それじゃあまた、纏める荷物が多くてね…」



 宿前から去っていく騎士…及びテイ。




 …そして、ヤンちゃんを抱えて…宿から姿を表したセイ。



「また揉め事…?懲りないねヨウは」


「いや、あいつは昨日の騎士です。…諸事情により、彼と王都までの道を…共にすることになりました」


「ふ~ん…ヨウ、抱っこして」



 セイからヤンちゃんを受け取り、テンへと向き直った。



「学校は良いのか?制服を身に着けていない…ようですが」


「今日は休んだっす。し…ヨウさんとの、最後かもしれない時間を楽しみたいんで」


「なるほど。……なら、今日はついて来ると良い」



 テンには申し訳ないが…経由する街についての情報を、図書館で調べようと考えている。



「や…休んだのに学校に来るなんて…思わなかったっす。なかなかに落ち着かないっすね…………この状態も」


「テン、これはなんて読むんですか?」


「え…ええ…と、これはっすね…」



 膝の上に座らせたテンに、色々と読めないモノを訊いたりしている。




 ヤンちゃんはセイの膝の上から、ムスッとした顔で此方を見つめている。




 それからお昼を摂り…別れの時間は早々にも訪れた。



「本当に…行っちゃうんすね…」


「…これを」


「…?これは…?」


「しばらく会えないので…簡単ながら、プレゼントを贈ります」


「プレゼント!わぉ…指輪っすか。…ふふん…大切にするっすね!」



 左の薬指に嵌めて、ニンマリと笑みを浮かべて俺に抱きつくテン。苦しむヤンちゃん。指輪を羨ましそうに見つめるセイ。



「おーい!もういいかなぁ…惚気くん!普通に置いてくよ?」


「では…また」


「またっす」



 テイの催促を受けて、俺の身体からやっと離れるテン。




 上等の馬車へと乗り込み、窓越しに…こちらに向かい手を振る彼女にならい…俺も手を振った。




 また会おう、テン。有意義な時間を過ごせた。



「さて、次の街についてなんだけどさ……」


「ああ、それなら…」



 テイと今後の予定を照らし合わせながら、俺達は7つ目の街を離れた。



「ヨウ」


「…はい?何でしょうか、ヤンちゃん」


「…こっちも構って」


「…はい。…テイ、予定の設定は休憩にしましょう」


「おけおけ。俺がいる事を加味したうえで…おセッセ以外でごゆっくり~」



 さて…休憩しよう。




 流石に頭が疲れたな……。




 だが…それが旅だ。




 …俺達は旅を…まだ続ける。




 …スクヴァー村…金色の厄災…知りたい事はまだ多い。……なぜ…セイといると記憶が蘇るのかも、テイの力についても…何一つとして判っていない。




 それを…知ることが出来れば良いのだが…少し時間が掛かりそうだな。




 …だが、近づいている。確実に。




 よし…予定の設定を再開しよう。




 もっと…ゴールへ近づく為に。




 夢の景色を……この目で見る為に。

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