幕間 エディ=クラム・メリオス Part8
…………………おはよう。
どこまで話したんだっけ?もう覚えてないや。
「全体的に押され気味だった前線を、十数年前までの前線の位置に押し返したところだよ、エディ」
そうだっけ?…そうだった気がする。
君が言うのならそうなんだろう。
……そう、僕は大戦果を上げた。
ヅェッツライト騎士団の団長として皆を率いて指揮を取り、最小限の被害でブーイを殲滅した。…やってることは大した事じゃないよ?ただ一日十上位種をノルマにして駆けていただけさ。
…で、呼ばれてしまった。
誰に?
それは、
グランドライト大帝国の帝王陛下から直々に。
僕の上げた成果が、ユグニル・セニフォス・ラ・グランドライト帝王陛下の目に入ったらしくてさ、過去に類を見ない活躍をしたって称賛された。
数をこなせば良いわけでもないのに。他の人達だって表彰されて良いと思った。だから、当時の僕は帝王陛下に具申したんだ。「僕だけではなく、今も前線で命を賭してゆく者達にも、そこから生きて帰って来た者達にも賛美と祝福を求めます」って。
全員は流石に厳しかったけど、帝国内の〝ブーイと戦闘をする者〟の、その六割くらいは褒賞金…………まぁ、ボーナスみたいなものかな?ソレが贈られたって風の噂程度に聴いたよ。なんでも、陛下が直々に一人ひとりの家を訪問したんだってさ。
良い人だよね。
訪問される側は緊張するだろうけど、翌年以降の支持率がグンッと跳ね上がったらしいんだ。コレはティリオニアスさんから………いや、ヅェッツライト大公から、
「わざわざ言い直さなくていい。どうせ聴こえているのは僕だけなんだし、好きに話したらいいさ」
そうかい?なら、そうさせてもらうよ。
さっきの、支持率の話はティリオニアスさんから聴いたんだ。……政治だとかに興味なかったから曖昧な記憶なんだよね。
けど、政治に興味を持たざる終えない事情が出来てしまうんだ。
話を戻して、帝王陛下から呼び出された理由なんだけど。コレは称賛や表彰だけじゃないんだ。
僕…授爵されちゃった。
男爵になっちゃった。
いやー、面倒だったよ。挨拶まわりとかさ、礼儀礼節だとかさ、知らない人たちが列をなして挨拶待ちしてるの圧巻でしかなかったよ。
それに…メリオスと関係を持っておきたい輩ばかりでなんとも………まぁ、ちゃんとしていた人達も居たけどね。
五代氏族の方々とは別日に静かで荘厳なお屋敷で挨拶した。
セシアライト家、オムニライト家、オールライト家、サンライト家、ヅェッツライト家の領主とその後継ぎ的な立場の人がそれぞれいて、戦場のほうが気が楽だったよ。
ヅェッツライト家が一番厳しかった!身内じゃないか!挨拶の腰の角度とか、言葉遣いだとか、歩き方まで!ティリオニアスさんとお義兄さんにはもっとご容赦してもらいたかったね。
いや、本当に厳しかったんだ。
帝王陛下もさ、自分がいたら緊張するだろうからって途中で退室しちゃうから皆やりたい放題さ。
お陰でマナーが良くなりました。一回で覚えれば二回目は受けなくて良いからね、助かったよ。パパ、ママ、覚えが良く産んでくれてありがとう。
…重たい?いや…君は良いかなって。いつまでも引きずるより、ブラックジョークにしてた方が周りの人も気が楽っぽいし。そもそも、僕の両親について知ってる人数えるまでもなく生きてない…………いや、
「なんだよ」
ここに居たね。隅から隅まで僕を読んでる君。
脱線が多いのは御愛嬌で許してよ。書いてないでしょ?こんなこと。得したって考えなよ。……にしても似てるね。皆そうなの?
ごめんって。
爵位得たあとは領地も運営することになった。
初めの数カ月は、ティリオニアスさんがお手伝いさん(義妹)を寄越してくれて大助かりしてたんだ。その子凄いんだよ。物心ついたときにはすでに政治とか領地運営だとかの勉強してたんだってさ、しかも自主的に。
……誘ってくるのは流石に勘弁してほしかったけどね。瞳を紅くして、肩を両手で鷲掴みにしながら強めに叱ったら、ソレが良かったみたいで逆効果だよ。なんで?最終的には愛する人を見つけられたみたいで助かったけど。
ありがとうセシアライト。
…それで、数年くらい男爵として領地の運営。加えて団長として各部隊に指示を出したり鍛えたり。たまに騎士団の皆が緊急要請してくれるの本当に息抜きとしてありがたかった。不謹慎で申し訳ないけども、身体を動かせて良かった。
正直…箆魔以降のブーイはなんか物足りなかったんだ。一振りで…いや、小突けば終わる。「え!?さっきのブーイ、上位種にしようか検討してたの!?」「これだからメリオスは……」って、よくなったよ。
……………。
楽しかった。
凄いね、血も涙もないを体験出来るとは。でも今は感謝する。涙を流していたら周囲の人は無意識的に心配するから。良い人たち?…そうだね。だから、弱みを見せたくないんだ。
えー…で、二回目の呼び出しが来た。
今度は爵位のお話ではなく、騎士としてのお話。
ヅェッツライト騎士団からグランドライト騎士団に編入して欲しいってさ。良い待遇だし、先んじてティリオニアスさんから許可得ていたみたいだし、何だかんだ僕もロマンを感じて二つ返事で了承した。
騎士団の皆とお別れして、新しい団長を選抜して決めて、グランドライト騎士団員に。
感覚的には近衛…?たしか、騎士としては最高地点に位置してた気がする。
帝王陛下の懐刀なんて通り名がすぐに広がって、人の情報伝達の速度に驚いた日だった。即日に新聞刷るって可能なの?文章とか写真とかもあって怖かったよ。
撮られたのはその都度察知してたけど、文章は凄い。よくもまぁ、あんなにも長々と。
先輩の騎士団員に挨拶して、自分の所属先?いや、配属先…?配属先かな?…が、正式に言い渡されたんだ。
グランドライト騎士団の第零番。
名をソロモン。
メンバーが僕一人だけだから、第零番で切れて〝隊〟が付かないんだって。
…僕を同じ土俵に置くと、他のメンバーのやる気が削げる可能性があるらしい。だから、特設で第零番を作ったって後で聴いた。
自覚はあるよ。強いって。けど…寂しいや。
すぐに慣れるんだけどね。あはは。
「ふぅん」
脱線とかには興味ないタイプね。
「いや、そういうわけでもない。感情を出すのが面倒なんだよ。そもそも、一定のラインを超えないと感情って出ないもんじゃないのか?」
そういう人もいるね。
「………来客が来たらしい」
そんな頭痛が痛いみたいな。
じゃあ、話の続きはまた今度かな。僕からすれば一瞬なんだけど。
「……でも、もう〝充分読ませてもらった〟よ。全部ね」
……………………あはは。
君と同じ時代に産まれていたら、僕は埋もれていたかもしれないな。イチが君で二が僕で。まったく…君には一ミリたりとも敵いそうにないや。
「……そうか」
うわっ、いまの「…そうか」が彼とそっくり。
力の扱い方は百八十度反転してるけどね。
「ん?あぁ、今行くから茶でも用意してやってくれ。………じゃあ、さらばだ英雄。また会えたら、手合わせでも願いたいよ」
ふあぁぁ………眠い。
また会えたら……か。その時は手加減してね。
じゃあまた。
廻要。




