幕間 エディ=クラム・メリオス Part3
試験会場となる城壁沿いのハッデン地区にて。
革の防具と額当ていった軽装に身を固めた、人の良さそうな試験教官が、よく通る声で高らかに言葉を発した。
「よし!参加希望者はこれで揃ったな?」
参加者をぐるりと一瞥して、参加予定者数に相違がないか確認をしている教官。今回は六名。別に少なくはない。寧ろ、前年度と比較すれば多すぎくらいだ。
「念の為、点呼確認をする!名を読み上げられた者は返事をしろ!」
一人目…
五代氏族のオムニライト族といった名家出身であり、齢一桁歳でありながらも一流の騎士を剣技で圧倒している剣技の天才。
歴代最年少の参加者であり、期待の星と目されている神童。
オムニライト家、三男。
「スェリオス・レシャテーゼ・ラ・オムニライト!」
その名を読み上げられた一人が不満気ながらも返事をする。
「呼び捨てかよ。はーい」
あどけなさを残している中性的な顔立ち。
思わず肘置きとして使用してしまいそうな背丈。
スポンジ生地のような、黄色っぽい色合いの髪に、同じく、やはりスポンジ生地のような黄色っぽい瞳の色をしている。
「ここでは身分なんてクソ食らえだ…特に、戦場ではなぁ!」
二人目…
遠い、遠い、海を跨いだ先から此方へやってきたという変わり者の兵。これまでの試験(本来なら段階を飛ばさないので記録がある)では、驚異的とも言えるポイントを稼いで、他の参加者のやる気を著しく削いでいたようだ。
歴代初となる、異国の…異大陸の人間であるので、騎士や傭兵のような国家武力を纏め上げている組織、その上層部からは品定めをするかのような目で見られているらしい。
漢字を名前に使う殲滅の兵士。
「総要!」
返事の声は上がらない。…だが、ただ一人だけ、手を上げる者はいた。
「……………」
その立ち姿は、片目が隠されている髪型と相まって、どこか貴公子然とした風采を宿している。
寝不足なのか元々なのかは定かではないが、その人物は半開きの目をしている。世間一般ではこれをジト目と言うのかもしれない。
穏やかな草原が如き鮮やかな緑色の髪と瞳。ところどころに、まるで草原に疎らに自生している蒲公英のような模様がある。
「…あー…まぁ、居るならいいか。次!」
三人目…
我らがヅェッツライト大公の子供達の内の一人。大公閣下に勝るとも劣らない射撃の名人。空軍戦ならば軽く三隻の飛空艇を撃ち落とせるだろう。
明晰廻廊な立ち回りで数多くのポイントを稼ぎ、歴代でもトップの成績を収めている長距離狙撃手。
ヅェッツライト家、次女。
「メリルタルア・ズィフォッグ・ラ・ヅェッツライト!」
控えめな、可愛らしい声が上がった。
「は、はい!」
身体のラインが強調されている衣服に身を纏っている。…が、身体の成長は芳しく無く、どこも控えめといった具合だ。
ロリータファッションが似合いそうなロリロリとした童顔と体躯。ぱっちりなお目々が陽光を反射してキラキラと輝いており、その目で見つめられたら庇護欲を唆られることだろう。
苺のようなピンク髪、そして瞳と唇。常にモジモジしていて、落ち着きがないように見える。
そよ風になびくたびにチラリと見える耳にはピアスが開けられており、なんともギャップを感じられた。…彼女の困り眉がそのギャップをさらに強めているように思える。
「大公閣下の御息女といえど、遠慮なく試験は進めさせてもらうからな!さて、次!」
四人目…
銃も剣も所持していないが、その拳はブーイの身体を破裂させる程の威力を持つだろう。本試験までの過程を見ると一目瞭然な完全な武闘派タイプだ。
頑強な身体をしているため、その身体は生半可な砲撃や斬撃は通さないらしく、逆に弾き返したり、その刀身を欠けさせるほどだ。
顔を覆っている仮面の下にはどんな表情が張り付いているのか。
ブーイ以上に武術を操り、人類の中でもハイクラスな格闘技を披露できる者。
「タタマキ・ヒェイカー!」
返事の代わりに武術を披露し始める者が一人。
「っふ!ほっ…!」
仮面に覆われているため、どのような顔立ちなのかは定かではないが、その髪は三つ編みポニーテールになっており、綺麗な茶髪をしている。
演武の際に漏れている声は高めで、女性のような印象を受けてしまう。
引き締まった筋骨のたくましやかな体つき。ソレから繰り出されている打撃は、宙に打ち放っているはずなのに、なぜだか鉄板を打ち付けているかのような音が響いている。
「今回は豊作だが、その分変わり種が多いか…?…えー、次!」
五人目…
あの武術の天才、ヴァタル・メリオス伯爵閣下のもとに突如として現れたお孫さん。周知の事実として、ヅェッツライト大公閣下もメリオス伯爵のお孫さんであるので、かなりややこしい立ち位置の人物である。
これまでの過程をスキップして本試験に臨んでいるため、他の参加者や試験運営達は彼のことをダークホースとして一目置いている。
メリオス伯爵から叩き込まれているであろう武術、腰から下げられている珍妙な銃剣。いったい彼はどのような戦闘法を扱うのだろう。
メリオス家の跡継ぎ、神に認められし者。
「エディ=クラム・メリオス!」
よく通り聴き取りやすい声で。
「はい!ここに」
漆黒に染まった髪と決意に満ちた瞳。スラリと伸びた細身の身体は、服の上からでも判るほどに鍛え抜かれており、生半可な覚悟で試験にしているわけではないと理解できた。
腰から下げられている懐中時計からはメリオス伯爵の面影を感じられ、彼が本当にメリオス家なのだという証明にもなっている。
「あの、メリオス家の…謎のお孫さんが、ついにお披露目か。嫌でも期待しちまうな。…えー、最後!」
六人目…
どこか異様な雰囲気を醸し出している、男性か女性かの区別がつけられない容姿の人物。いや、これを〝人物〟と呼称しても良いものか。
まるで作り物かのような貼り付けた笑みで他の参加者や教官、この場にいる者すべてに視線を送っており、どこか不気味な…不思議ちゃんな印象を受ける。
この人物もまた、エディと同様に過程を飛ばして本試験に臨んでいるらしく、いったいどういう戦法や性格なのかいまいち把握出来ていない。
精巧に創られた人形のような人物。
「ビブリカル・スクヴァー!」
エディの方をじ〜っと見つめながら、その人物はあくび混じりの声を上げた。
「はぁぁぁ〜……ぃ…」
夜空とその星々、更にはオーロラが掛かっているような情景が想起できてしまう藍色の髪。ぼんやりと光っているように視えるのは目の錯覚か、はたまた。
神々しいとはまさにこの事か。その真紅の瞳はタレ目がちな眼の内から輝いている。もしも目を合わせたのなら、気の弱いものならば一瞬で魅了されてしまうだろう。
やる気の感じられないラフな服装をしており、大した得物も見当たらない。格闘技を得意としているのかもしれないが、その華奢な身体に目をやると不安が募るばかり。
「よし…六名全員揃っているな!」
六名全員を見据えながら、その背後に広がる平野を睨みつける教官。細かに瞳孔が何かを捉えているかのように動いており、教官の視力の高さが有り有りと窺える。
「…ぅ〜ん…そ…ろ…そろ…」
教官は自身の股引のポケットをあさり、一つの手のひらサイズの時計を取り出りだした。そしてそのままウンウンと唸りながら、何かを待つようにして針を見つめ始めたので、本試験に臨む予定の参加者達は思わず困惑してしまう。
だがしかし、エディだけは冷静に周囲を見渡す。
そして、理解した。
「……なるほど」
腰から下げた銃剣を片手に移しながら、エディは地平線に向かい歩き始める。もう片方の手には懐中時計が握られており、彼も教官と同様にナニカを確認しているらしい。
多分…そろそろかな。そろそろ、到達して見えてくるはずだね。
………二秒前。
「…………今」
エディは自身の足に集中し体勢を低く構え、ミシミシと…およそ人体から鳴ってはいけないような音を響かせながら、高く、大きく前方へと跳躍してみせた。
…の…だが、待ったの声が掛けられる。焦った声で、よく響く声でエディを止める声が掛けられる。
荒々しく感じられるが、同時に冷静さが感じられる、そんな声のする方へとエディは空中で身を捩り向き直った。
全身が革の装備という、動きやすさに重視しているかのような、手練れの衛兵が視界に映る。……本試験の教官だ。
彼がエディを静止したのである。
「まだだ!開始の合図までまて!」
「は、はい!すみません!」
「いや…お前を侮っていた俺にも責任はある!あのメリオス家だもんな…くそっ…舐めてたぜ…」
「じゃあ、今戻りますね……」
その瞬間。エディが地面に到達しようとしている…その瞬間。
『ギュギュアァ…!』
地面がボコボコと音を立てて、ガバっと勢いもよく地中から全身が土に塗れたブーイが飛び出してきた。
白い肌に白い髪、黄色い瞳といった典型的な見た目の愚かなブーイが、地上の様子もろくに確認もせずに飛び出してきた。
あぁ…愚かな。なんと愚かな。
身体を地上に出したまでは奇襲性が高く、中々に良さげな愚考をしている。だが、所詮は普遍種。馬鹿だ。愚かなまでに馬鹿ものだ。
なぜならば、ブーイが地中から身を投げだした所には、
「よっ……と」
『ギ…』
エディが降りてきていたのだから。
「…うぅっし。教官が見てたのはこいつだね。………あ、もしかして試験内容コレだったり…?」
串刺しにしたブーイ。身体を勢いよく横回転させて銃剣を振り回し…その遠心力でソレを外したエディ。念には念を入れ、地面に落ちる前に数発撃ち放つ。
その数発全ては正確な照準で放たれていたモノだったらしく、全弾が普遍種の首を貫き…胴と頭を泣き別れにした。
酷いかもしれないが、これは実際…いい判断である。
上位種と普遍種は基本的に外見的特徴は変わらない。白い髪に白い肌、動物の様な下半身だがケンタウロスの様な下半身ではなく…例えるならばカンガルーの様な二本脚、額には角、そして赤か黄の瞳。
全てのブーイが基本的にはその特徴なので、斬り倒したとしても、討ち取ったとしても、無気力に転がるソレに馬鹿みたいにのほほんと近づいてはいけない。
もしもソレが上位種ならば、無防備に近づいた途端に起き上がり、お得意の体術で身体の骨を曲げられて、巣に連れ帰るかその場で殺害される可能性がある。
故に、エディはかなり良い判断をしたのだ。
「戻らないとな」
足に力を込めて、行きと同様に跳躍。
しようとしていた時、不意に声を掛けられた。
しかも隣から。
「凄いね君!エディ=クラム・メリオスだっけ?」
「え?う、うん。エディです。よろしくね、ビブリカルさん」
いつの間に隣に?全く気が付かなかった。今だって、隣りに並んで立っているはずなのにまるで気配がかんじられない。
しかも真紅の瞳だ。
お爺ちゃん(メリオス伯爵)や天使さんと同じく、真に紅い瞳の持ち主だ。
つまり彼…?彼女………?は只者ではないのだろう。
「よろしく?面白いことを言うね」
「面白いかなぁ…?まぁ、教官が読んでるからさっさと向かおう。ちょっと触るね」
取り敢えず試験の内容を確認したい。もしも先程のブーイがそうだったとしたら…………まぁ、難易度が思っているよりも低いなぁ…とは思う。
でも流石にそんなわけないはずだ。大公の騎士団に入団するための試験のはずだから。ヅェッツライト騎士団に入団するための、その試験のはずなのだから。
エディは少し身を屈ませて、ビブリカルの膝裏に…背中に、自身の腕を回した。
「細いなぁ…簡単に折れそうだ。てか身体やわっこ…」
「失礼じゃないか?そもそも、身体に触れること自体が…まぁ、いい。跳ぶのだろう?」
「うん。すぐに着くから」
軽い。柔らかい。細い。いい匂い。目を合わせていると不思議と心が落ち着いてくる。夜空を切り取ったかのような髪と瞳だな。
なんだこの人は?いや…人なのか?
……まぁ、いいや。行こう。
体勢を低く保ち、両足からミシミシと音をたてながら、お姫様抱っこ状態のビブリカルを身体で少しだけ押し潰してしまいながら、着地地点を見据えて彼は宙に舞った。
身体全体で風を切り、ほんの一秒で教官の前に。
「よし。すみません教官さん」
なんとも言えない表情で構えている教官へと頭を下げる。そのままビブリカルと目が合い…思い出したかのように地面へ降ろした。
「ビブリカルさんもすいません。潰してしまいましたよね」
「いいや、悪くなかった。いい経験ができた」
「で、ですか…」
若干引き気味に言葉を返したエディ。
…と、そこで咳払いの音が耳に届いた。音のした方へと首を向けると、そこにいたのは教官である。眉間によったシワを指で解している最中の教官である。
彼は気を取り直して言った。
「本試験は、二チームに分かれて行ってもらう。メンバーは既にこちらで決めているから、今から読み上げる。聴き漏らしのないように」
「教官さん、さっきのブーイは何だったんですか?」
エディが手を上げて問いかける。
「アレは試験とは関係ない。ただ、その時間だったから、試験の邪魔にならないよう処分しようとしていただけだ」
「なるほど。ありがとうございます」
この人も〝時間が読める〟のか。なら、その実力は本物なのだろう。
「では、Aチームを言う」
Aチーム
メリルタルア・ズィフォッグ・ラ・ヅェッツライト
スェリオス・レシャテーゼ・ラ・オムニライト
タタマキ・ヒェイカー
「リーダーは、ヒェイカー家のお前。タタマキにやってもらう。メンバーを死なないようにリードしてやれ」
「オーケー、任せてよ教官。あたしがこいつらを先導するからよ」
仮面を付けている三つ編みの武闘派…タタマキ・ヒェイカーが、やはり女性的な声でリーダーを承認した。おそらく、彼女は女性で確定してもいいだろう。
…だが、自身がリーダーではないことに憤りを感じているのか、歴代最年少の少年が不満の声を上げた。
「はぁ~〜!?なんでだよ!」
ビシッ…と、タタマキを指さして、スェリオス・レシャテーゼ・ラ・オムニライトは言葉を続ける。
声変わりがまだ来ていない、なんとも可愛らしい声を上げて、オムニライト族の彼は言葉を続ける。
「こんな素性の知れないやつがリーダーとかごめんだぞ!何だよこの仮面、気味が悪くて従う気になれねぇっての!そもそも、リーダーを務めるべきはこの俺だ!オムニライト家だぞ?」
「オーライ。この仮面が駄目なんだな?なら、君にしか見えない角度で外すから、見るだけ見て、納得してくれよ」
「はぁ?俺はリーダーを譲れって…言って……」
「ソーリー、悪いけどリーダーはあたしが任せられたものだから、諦めてよスェリオスちゃ~ん」
スェリオスに近づいて、彼にしか見えない角度で仮面を外すタタマキ。
「………っ…は?美女かよ」
「イェス、集中出来ないだろ?視界の端にコレが映ったら、思わずそっち見ちゃうよな」
「あんた歳は?俺は八だ」
「あたしはそれより三つ上だよ。女性に年齢を訊いたら駄目って知らない?」
「………」
仮面を戻してスェリオスの頭を撫でるタタマキ。だが、続いた彼の言葉にその手を止めることになる。
頭に置いていた手と、更にもう片方の手を、自身の仮面…その頬のあたりに置くことになる。
「試験が終わり次第、お前を嫁にもらうことにした。オムニライトの領地に顔を出しに来いよ。なんなら、俺から迎えに行ってやろうか?」
「ワーオ…これはこれは…仮面をつけてて良かったなぁ」
「耳でバレてるけどな。赤くなってるぞ?」
その言葉を受けたタタマキは、仮面の両頬に置いていた手を自身の耳を覆い隠すように置き変えた。
「…まぁ、リーダーは譲ってやる。その顔に免じてな」
そのやり取りを見届けたAチームの残りの一人である…メリルタルア・ズィフォッグ・ラ・ヅェッツライトは、ただただ、この後の事を考えて気まずそうにしている。
このチームで行動するのに、カプが出来てると動きづらいしなんともやりづらいなぁ…とか、私なんだか部外者感あるなぁ…とか、そういう事を頭の中で浮かべて、メリルタルアは大きくため息をついた。
Aチームは、武術のタタマキ、剣技のスェリオス、狙撃手のメリルタルアという、割とバランスの良さげなチームとなっている。
「あー…おほん!次、Bチーム!」
Bチーム
総要
エディ=クラム・メリオス
ビブリカル・スクヴァー
「リーダーは、エディ。お前がやれ。メリオス家の威厳を保てるか、見定めさせてもらおう」
「はい!貴方の期待の数倍以上の成果を上げましょう!」
「はたして、どうなるかな。俺個人として、前はかなり気になっている。本当に期待しているからな」
「任せてください」
メリオス家の威厳を保つだとか、そういうのは視野に入れてなかったな。危ない危ない。
冷や汗を拭いてほっと一息をついた。
「…………」
「…え?あぁ…どうも君は総要だったよね?」
エディの方へ歩み寄り…握手を求めたのは、蒲公英が疎らに生えている草原を切り抜いたかのような髪と瞳、片目が髪の毛で隠されている貴公子然とした風格の青年。
名を総要。
エディからの問い掛けに静かに頷き、そしてソウは口を開いた。先程とは少し違って見える様な、ほんのりと赤みを帯びている瞳でエディを見据えて。
コレにエディも共鳴するかのようにして、瞳がほんのりと赤く染まっているのだが、本人は気がついていないらしい。
「ああ、合っている。俺はソウだ。今回はよろしく頼みたい。エディ」
「うん!よろしくね、ソウ。そして、ビブリカルもよろしく!お互いに協力して、頑張りましょうね!」
「…うん?あぁ…そうだね頑張ろう。よろしく」
一連の挨拶が終えられた事を確認して、教官が試験の内容を発表し始めた。
Aチームは前線へと向かい、上位種の首を十体討ち取ること。
Bチームはヅェッツライト大公領の、ネルギエ湖へと赴き、その湖で大暴れをしている水魔を討伐すること。
いきなりの前線送りにエディは当然驚いた。
「けど…これをやったら、合格って事でいいのかな」
それだったら…簡単だな。…いや、油断も慢心もしてはいけないか。天使さんみたいなスピード特化のブーイもいるかも知れない。
エディは自身の両頬をバチンッと叩き、喝を入れる。そして、深呼吸をして前を向く。
城壁、地面、草、花、未だ説明中の教官、Aチームの方々、Bチームの仲間。
「よし、抜かりなく、だけど適度に力を抜いて…」
やってやる。
僕はできるだけ多くの人を救い、希望を与えたい。
そこに立つためのラインに今いる。
「…と、いうことだ。それぞれ、人類の糧となれるよう、生きて戻ってこい!では…」
スタートの合図は今、言い放たれる。
「行って来い!!」
「はい!!よし、ソウ、ビブリカル、前線の位置を教えてもらえるかな?」
…と、誰かがずっこける音。
そこに視線を向けると教官がいた。
「そうか、スキップして来たんだったな…」
革防具の装備の下から一枚の紙を取り出し、教官はソレを手渡す。
「ありがとうございます!どれどれ…」
どうやら、現在の前線の位置が記されている地図のようだ。消して書いてを繰り返しているのか、ところどころが炭か何かしらで黒く染まりつつある。
前線。向かう先はヅェッツライト大公領を越えて、ソレに隣接しているメリオス伯爵領を更に越えて、遙か先。
地図にはこの名が記されている。
「オールライト公爵領…」
グランドライト大帝国の五大氏族、その内のオールライト族の長が一人。テセルジウス・ギルヴァーチェ・ラ・オールライト公爵の統治している領土の広大なる平野。
そこに向けて、エディの率いるBチームは出発した。




