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迷える君を 望む場所へと(書き直し前)  作者: 差氏 ミズキ
スタット大陸編
2/31

二話・Part1 その悪魔 神に達する



 訪れた7つ目の街。




 あれから日を跨いでの昼下がり。




 俺…ヨウは、初めて食べる唐揚げに感動している。




 カリカリで…ジュワッとしていて…とても美味い。




 唐揚げ…とても気に入った。



「ヨウ、これも美味しいよ」


「おお…!これも…サクサクで、ホロホロで…美味しい…!です!」


「ヨウさん、これもおすすめです」


「こっちも…!美味しい…です!」


「ヨウ、可愛い」



 朝食の時も感じていたが、この街は…他の街よりも食べ物が美味しい。全体的に…く…クオリティー?が高い。




 味も…見た目も…薫りも…食欲が唆られる。




 白米が進む。どんどん胃の中に吸い込まれていく。



「ヨウ」


「ヨウさん」



 色々な食べ物を俺に差し出す2人。




 食欲がないのだろうか?




 …なら、テーブルにある分は…ササッと食べてしまおう。なんだかんだで…次の予定が押している。




 食事に…こんなに時間がとられるとは…全く思わなかった。




 最後の一皿を掻っ込んで、飲食店を出た。




   ▲   ▲   ▲   ▲   ▲




「ヨウ、大丈夫?苦しそう…」


「ああ、調子に…のりました」



 少し食べ過ぎて、苦しいながらも図書館で調べ物をしている。完全に食べ過ぎた…お腹が目で見て判るくらい…膨らみを見せている。




 どうやらここの図書館は、学校と直接繋がっているらしく…昼食を終えて、館内に足を踏み入れた際には…チラホラとそれらしい制服の若者達を見掛けた。



「これ…なんて読む…です?」


「これは…健康」


「この字が健康…ありがとうヤンちゃん」



 膝の上にいるヤンちゃんの頭を撫でた。




 嬉しそうだ…。この調子で好感度の管理をしよう。




 好かれ過ぎは別に良い。嫌われないように…それだけを意識している。



「…………」



 ……セイにも訊いておこう。先程から…視界の端に、此方をチラチラと伺う姿が見えている。




 ページが進んでいない…何で本を開いているのか…。



「セイ」


「ふぁい…!な、なんですか?」


「…この文字なんだが…ですけど、どう読めば良い…ですか?」


「これは…魔神…ですね。神の域にまで達した悪魔の事です」


「なるほど…ありがとうございます」


「この本の場合は…〝取引の魔神〟についての記述ですね…」


「な、なるほど…ありがとうございます」


「ちなみに…」



 間違えた…。こういうタイプだったか。




 終わるまで相槌を打っておこう。



「セイ、話長いよ」


「あ、すみません!つい…」


「いや、俺は構わないのだが…」



 ヤンちゃんにポンと足を叩かれた。




 で、気が付いた。



「揺れ…すぎ……もう…」



 どうやら貧乏揺すりをしていたようだ。




 ……気をつけねば。気分を害してしまってはいないだろうか…?



「まぁ…無意識なら仕方ないけど…」


「あ…ああ、気を付け…ます」



 どうして息が少し荒くなっているのだろうか…。こころなしか…顔も赤い。えー……艶っぽい?と言うのだろうか。




 …この本にも7年前の事については載っていないな。




 突然鳴る鐘の音。



「なんだ…?」


「学校が終わった時の音」


「これが…」



 チャイムというモノか…。




 おじさん達は撤収だったり、集合の時に鳴らしていた。先程の鳴った音とは…音色が全然違うのだが。




 …と、ゾロゾロと…図書館に制服姿の若者が、次々と入口から中へと入ってきた。




 途端に騒がしくなる館内。



「うわっ…!あれ見て、ヤバくない…!?」


「何あの美男美女グループ…!」


「あのクリームみたいな色の人…何処かで…」


「声掛けてみよう…!」


「行こう行こう…!」



 何人かの女子が、俺達のもとへ集まってきた。




 なんだ…?この香り…頭が痛くなってくる…。香水…と言うやつだろうか……俺には合わないな。



「あ、あの!」


「なんだ…?ですか?」


「キャ~!声も格好いい!」



 要件をさっさと言ってほしいのだが…。



「え…あれ?この子、足なくない!?」


「え、本当だ!」


「あ、あの!訊いても良いですか!」


「何…?」


「えと…その…あ、足…についてなんですけど」


「あー…」



 わざわざ訊く事でも無いだろうに…。



「災害で無くなった…と思う」



 でも…と言葉を続ける。




 どうしてか俺の首に腕を回すヤンちゃん。



「この人が、今の僕の足。…ね?ヨウ」


「ああ、勝手ながらサポートさせてもらっている。不満に感じるところが、無ければいいのだが…ですが」


「無いよ。僕に良くしてくれてありがとう」


「キャ~!」



 どうして叫ぶ…?苦手なタイプかもしれない。うるさすぎる…。



「さて…本を置いてくる。ちょうど…読み終わりました ので」


「僕も行く」


「…そうだな…」



 移動したら女子がついてくる可能性が高そうだ。




 今回は申し訳ないが…残ってもらおう。セイも居るし、会話の相手には困らないだろう…。



「待っていられるか?…少し離席するだけ…ですから」


「…早く戻ってきてね」


「ああ、元の場所に戻しに行くだけだ。然程時間は掛かりません」



 本を元あった本棚へと返還。




 あとは、海岸によって…夕食を摂って…。



「や、やめるっす…!」


「お前最近調子乗り過ぎな…?分かったら返事しろよ!」


「ターくんに恥かかせやがって…」


「調子乗り過ぎって…私が何したって言うんすか…!」


「うるせぇ!黙って殴られてればいいんだよ!」


「反省しろや…!」


「ゔっ!…」



 苛めの現場に遭遇した。




 どうしてこうも…面倒事に巻き込まれるのか…。




 赤い髪の女子が俺を見つけた。



「あ…た、助けてほしいっす!」


「げ…」


「なんだコイツ」



 方や床に押し倒され、方やそれに馬乗りに。




 その傍らにもう一人が立っている。




 まだ此処には滞在する予定だから…助けなかった事による悪印象は避けておきたい。



「お願いっす…」



 潤んだ黄色い瞳が俺を見つめる。



「あーあ…見られちゃった」



 立っている方のいじめっ子が俺の肩に腕を回した。



「見られちゃったからには…ねぇ?」



 馬乗りになっている方へと視線を向けるいじめっ子。



「ああ、解らせねぇとな。この状況を」


「あ…ああ…そんなつもりじゃ…」


「……時間の無駄だ。来るなら…さっさと…やってください」


「おっ…!かっこいい~!…んじゃ、遠慮なく」


「死ねやオラァ!」



 振り出される拳、直立不動の俺、申し訳なさそうに此方を見つめるいじめられっ子。




 聴こえる…苦痛に悶える声。



「気は済んだか?」


「て、てめぇ…!」



 もう一人も来た。俺の足に蹴りかかる。



「っ~~…!!!」


「え、え…?」


「立てるか?怪我をしているなら見せてください。簡単な治療が可能…です」


「あ…え…?」



 床に伏しているいじめられっ子に手を差し伸べた。




 イマイチ状況が掴めていないらしく、目をパチクリとさせている。



「立てないのなら…」


「わ…わわ…!」


「座れる場所まで運ぼう」


「た、立てるっす…!」



 いじめられっ子を抱っこして、近くの椅子まで運ぼうと考えていると…腕の中でジタバタとし始めたので…床に降ろした。



「怪我はしていないか…?」


「だ、大丈夫っす…」


「そうか…ではこれにて…」


「あ、待ってほしいっす!」


「なん…ですか?連れを待たせている…のですが」


「先程は助かったっす!それで…えと、わ、私を弟子にしてくださいっす!」


「でし…?」



 でし…ってなんだ?でしは…するもの…?




 此方に頭を下げてきたが…でし…?単位の話ではないのだろう?後でヤンちゃんにでも訊いてみよう。



「いいですよ。何をすればいいのか…分かりませんが」


「…!やったぁ!」


「…では、俺はこれで」


「お、お供するっす!」


「…別に…構わない…ですが」


「私の名前、テンって言うっす。師匠の名前は…?」


「ヨウだ」



 ししょう…?は俺の事だよな?




 ついてくるというのなら…この街の案内でも頼もうか…。



「すまない、待たせました」



 ヤンちゃん達のもとへ戻り、周りのしつこい女子達を振り払って外へと出た。




 どうしてあんなに距離が近いのか…セイくらいの距離感が…一番接しやすく、扱いやすいのだが。





 日が落ち傾いた空。この時間帯から…加速度的に赤く暗くなり始める。




 これから向かうのは海岸だ。一応、何か記憶が呼び覚ませないかと思い、向かっている。



「ヨウ…モテモテだね」


「あ…そうだった…ヤンちゃん、でし?って何か解るか?教えて…ください」


「弟子?…先生と生徒みたいな関係で、その生徒の方って言えばいいのかな…」


「え…師匠、弟子の意味を知らなかったんすか」


「ああ、時間が惜しくてな。すぐに…戻ると伝えていた…ですので」


「そう…っすか…」


「なぜ肩を落とす?別に解消するなんて言わない…ですけど」


「ほ、本当っすか!では…改めてよろしく頼むっす!師匠!」


「ああ、何が学びたいのかは知らないが…よろしく頼む…ます?…頼…みます」


「おおぅ……し、師匠って…見てて思ってたんすけど、スキンシップが活発っすよね…」



 おっと…頭を撫でるのが癖になっていたみたいだ。




 だが…嫌な顔をしている訳では…無いようだ。西日のせいか…?顔も赤く見える。



「すまない、気を付けます」


「あぁ、いや…別に嫌な訳じゃないんすけどね…」


「ヨウ、もっとしてあげて」


「…?分かりました…」


「っ~………!す、凄いっすね…先輩達はいつもコレを?」


「えっ…あ、私は……された事…ないですね。なので、少しだけ…羨ましいです」


「僕は今のところ毎日かな」



 毎日と言っても、出会ってから一週間も経っていないのだが。…まぁ、好感度が…維持できているという事?…なのだろう。



「羨ましいなら、すぐに言ってくれ…ください。セイとは、是非とも…もっと仲良くなりたい…です」



 セイは、いつまで一緒に…行動するのか判らないが…此方から誘ったんだ。出来るだけ、不快な旅にはさせない…予定だ。




 とにかく…タイミングが合っているかは…さておき、撫でておいてもいいだろう。



「ひゃぁ~…!?すみません、すみません…!お、おお…お気遣いを…!」


「何故顔を隠す?表情は見せてほしい…です」


「うぅぅ…」


「師匠…容赦ないっすね…」


「ううぅ…まじまじと見ないでください…」


「おっと…すまない。可愛くて…ついジッと見てしまい…ました」


「か、かわ…!?」


「ああ…セイが死んじゃう…」



 顔を隠されると困る。表情が見えないと、止め時が判らないんだ。




 …このくらいで良いだろう。




 セイとは…どれくらい絡んだほうが良いのか………ヤンちゃんは、現状維持で構わないだろう。




 そして…



「わ、私はもう満足っすよ!?海岸に行くんすよね…?日が落ちる前に早く行くっすよ…!」


「ああ、行こう」



 …テンとはどう接するのが良い塩梅なのか…。




 場所は変わり海岸。




 波打つ音と沈む夕陽。




 どこも知らないな。全くと言っていいほど…ピンとこない。無駄足だっただろうか…?



「綺麗っすね…」



 綺麗…?




 ……そうか………そうだな。



「…………」


「ん…なんすか?もしかして…私に見惚れたんすかぁ?」


「…初心を思い出した」


「初心っすか…?」



 6年前の拾われてすぐ。船の上から見た夕陽の美しさに…俺は胸を打たれていた。




 おじさん達も、この時間は好きだと言うくらいだった。




 いつから…こういうのを、素直に楽しめなくなったのだろう。



「おおぉぅ…ま、またなんで急に…撫でるんすか?」


「見失ってたモノを思い出せた。コレは…さぁ、なんで動いているのか…俺にも解らないです」


「な、何すかそれ…おぁぉ!?」


「猫じゃないんだから…」


「あ…でも、顎の下…案外、悪くないっす…」



 少しだけ……記憶以外の何かを、取り戻した気がする。



「な、長いっすね…!私は、私は構わないんすけど…!気持ちいいんで…………あと、師匠イケメンなんで…」


「ヨウ、微笑んでる。鉄仮面が常だったのに」


「……どうせ変な顔なのだろう?俺に…笑顔は似合わない…です」


「ううん。素敵だよ…ヨウの笑顔」


「……そうか…なら、その特等席からよく見ておくといい。滅多に見られない代物…ですから」



 今日のこの夕陽は…忘れない。




 俺の記憶の中を探っても……こんなに…綺麗な…




 こんなに…綺麗…な… 



「ヨウ?どうして泣いてるの?」



 夢で見るあの崖で…俺はよく遊んでいた…らしい。




 走り回る俺と…カイ。


 後ろから微笑んで見ている…両親。


 微かに聴こえる鳥の鳴き声。


 楽しくて…楽しくて…未だ時間を知らなかった…


 家族の…幸せな…大切な空間。




 頬を伝う温かな液体。少し開いた口。夕陽を飲み込む…黒く潤んだ瞳。




 こんな感情を…俺は言い表せない。




 無駄足なんて…取り消そう。ぜ…?前言撤回…?というモノだ。




 来て…良かった。



「さて…戻ろう。夜間の犯罪率は、日が出ている時間に比べても、桁違いです。なので…テン、君を家まで送り…ます」


「え…!わざわざいいんすか!じゃあ、お願いするっす。師匠が隣にいるなら…怖いものなしっすからね!」


「…そうですか、そう言ってもらえると…ありがたいです。皆さん、空が赤いうちに行きましょう」



 海岸を後にして、テンの案内に従い…民家が並ぶ通りに出た。




 空は既に藍色に移り変わっている。




 民家の並ぶ…人目の多いこの場所で、犯罪が起きるなんて思えない…が、気を抜くのは拠点に戻ってからだ。




 これは海と同じ…いつ何が起きるのか分からない。




 おじさん達のうちの一人が、眼の前で鮫に襲われていたところを目撃した事がある。




 魚影も何も無かったのに。




 船の真下にくっついて泳いでいたらしい。




 その日の晩は、鮫ステーキを食べたっけな…。




 おじさん達…本当に強いからな。




 マグロしか捕れない俺は…まだまだ未熟だ。鮫に噛みつかれたのに…そのまま持ち上げて神経を断つなんて芸当…何年経っても、俺には無理そうだ。




 で…そうして…警戒を解いて、過去の思い出に浸っているところが…俺の本当に未熟な部分だ。




 突如揺れる脳みそ。




 頭が割れる…ような感覚。




 聴こえるセイとテンの悲鳴じみた声…。




 薄れゆく…意識。




 最悪だ……油断した…!!



「ヨウ…重たい…動け…ない…」


「すまない…少し…動けそうに…無………い…」



 必死に保とうとするも…確実に、少しずつ離れていく俺の意識。




 やがて身体の感覚も消え、俺は完全に気を失った。




   ▲   ▲   ▲   ▲   ▲




 やばいっす!やばいっす!!




 人攫いっす!



「へへへ…大人しくしていれば、痛くはしませぬぞ…?まぁ、最初は痛いかも知れませぬがねぇ!」



 師匠の頭をハンマーで叩くなんて…!




 師匠…無事だといいんすけど…。



「誰かー!!助けてっす!!」


「おうおう…耳に響きますな~…まぁ、この部屋防音だから…意味ないんだっけどぉ~!!」



 縄で両手両足を縛られて…服も剥がれて、こんなの最悪っす…!もうお嫁に行けないっす…!



「あの…!もし…お、襲うなら、私からでお願いします!」


「おお?…そんなこと言われたらぁ~…俄然、赤髪の子から犯したくなるんだよねぇ…僕は!」


「え…そ、そんな…ごめっ…!そんなつもりじゃ…!」


「い、嫌っす…!止めるっす!」


「ホホホォ~…いい顔」



 ズボンを下げて出てくる[自主規制]。



「うわっ…臭っ!ソレ…ち、近づけないで…!」



 私の太ももをガシッと掴み…



「ひぃっ!」



 力で無理やり開く。



「おほっ…!いい感じに[自主規制]ておりますなぁ~!香しいことこの上なし」


「ひぃっ!や…やめて…嫌っす……初めてが、こんな…」


「おやおや[自主規制]ですかな!?…では、今日は記念日ですなぁ」



 誰かっ!?誰かいないんすか!?




 あ…まずい…まずいまずい嫌だ嫌だ嫌だ…!!!



「安心してくだされ。[自主規制]を切り開くだけですぞ」



 狙いを定めたソレが…私の入り口に触れた…。



「無理無理無理…!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…!!!」


「さて…一息に、[圧倒的自主規制]まで突き上げますので…心しておきなされ。これが![自主規制]というモノであ…」




   ▲   ▲   ▲   ▲   ▲




「嫌っ…!!…だ……?」



 あれ…?此処…どこ?




 セイさんは…?




 なに…此処?



「hi、初めまして。テン」


「え…だ、誰…?」



 赤い瞳…白い肌…白い髪……黒い尻尾と、黒い羽根…?



「私は〝取引の魔神〟と呼ばれる存在です」


「え…?」


「さぁ、何を欲しますか?」



 取引の魔神…?




 実在していたんすか……じゃない!




 この好機…逃すには惜しいっす!



「何でも良いですよ」


「…私を…魔法使いに…してほしいっす!」



 魔法…御伽噺の中の…空想上の力…。




 ……無理…っすかね…。



「魔法使いですね。因みになんの魔法ですか?」


「え…あ…か、雷!雷の魔法使いっす!」


「雷の魔法使いですね。はい、了承しました」


「っゔ…痛てててて…」



 頭が…痛い。取説的な情報が…一気に流れ込んできてるっす……!




 これで…あの[自主規制]魔を…!



「さて、リタンの工程は終了です。では、リスクの工程に移ります」


「…え…?」


「…私のは取引の魔神です。まさか無償で願いを叶えるとでもお思いで?」


「い、良いっすよ。なんのリスクを負おうとも…!」


「左様でございますか。では…私が架けるリスクは…」


「は、はいっす…!」



 何でも良いっす…!早くするっす!




 元の世界がどうなっているのか…心配でならないっす…!




 そうして告げられたリスクの内容は…想定よりも重く…想定よりも単純なものだった。



「寿命の半減です。それでは、bye」


「え…寿命…すか?」



 赤い瞳が細められ、身体から何かが抜けていく感覚が鋭く走る。




 コレが…取引の魔神の力…!




 魔神の指パッチンの音と共に、私の視界が変わった。




   ▲   ▲   ▲   ▲   ▲




「さて…一息に、[圧倒的自主規制]まで突き上げますので…心して…」


「え…えれ…」


「…ぬ?どうされましたかな?えれ…?」


「『エレズム』…!」



 [自主規制]魔の[自主規制]に向かい人差し指を伸ばし、焦点を合わせてソレを唱えた。




 間髪入れず聴こえた、パンッという何かが弾ける音。…そして、声にならない…蚊のような呻き声。




 数秒後に泡を吹いて気絶する[自主規制]魔。



「縄も焼き切って…『エレズム』…!」


「た、助かったんですか…?」


「縄、今解くっす…!」


「その力はいったい…?」


「信じてもらえるか分からないんすけど…さっき、取引の魔神と会ったっす」


「…取引の…魔神」


「それで、寿命が少し縮んじゃったんすけど…見ての通り、雷の魔法が使えるようになったっす!」


「ほ、本当に…いるんですね」



 よし…縄が解けたっす…!




 後は服を探して…



「あ…」



 突然にも部屋の扉のノブが回った。




 身体が強張り、無意識にセイを庇うようにして…扉とセイの間に割り込んだ。



「セイさん…私の後ろから動かないでくださいっす…」


「は、はい…!…え…、は…羽根が…?」



 ガチャリと開かれる扉。そこから顔をのぞかせたのは…



「駄目ですぞ、駄目ですぞ…!撮影中に殺傷は!やいのやいの!」


「『エレズム』!」


「ぬぅっ…!…………っふぅ」


「…え…どうして、効いて無いんすか…?」


「某の身体よりも、電気の流れやすい物質を身に着けて…受け流しているからに御座いまする」


「な…」


「さてさて…大人しくしてくださいね…?知識に劣る…お嬢様方?」



 そ…そんな…魔法を…自然の摂理で打ち消された!?




   ▲   ▲   ▲   ▲   ▲




 兄ちゃん!起きて!朝だよ!今日の朝ごはんはね………



「カイ…!ん…ぐ…っは!」


「ヨウ!やっと起きた!案内するから、指示通りに進んで…!」


「あ……?………っああ………よろしく頼む!」



 油断した…!…今、助けに行く!



「此処を曲がって…そのまま直進、あの青い屋根の家に居る」


「解った!」



 ヤンちゃんの指し示す青い屋根の家まで一直線に飛び、勢いそのままに扉を蹴破って中に入った。




 衝撃で足が折れた…ような痛みが襲ってきたが、俺は依然として無傷。身体がおかしくて良かった。



「この部屋の中に居る」


「ここか…!」



 ノブを回すが鍵が掛かっている。



「内側からだね」


「どっちだっていい…」



 ノブごと扉を外して、部屋の中へと入った。




 半裸の男性と…全裸のセイと…全裸のテン。



「…なっ…!?誰です!私時間マイタイムズ侵害インベーションする不届き者は!」


「初めして、ヨウです」


「あ、どうもご丁寧に。マイ名前ネームは…チソk「そして…さようなら」


「…え」



 俺の手首がパカッと開き、そこから細い筒が姿を表す。



「ぎ、ギャアアアーー!!!」



 筒の先から噴射される炎が、男性の身体を黒くしていく。




 …知らない筈なのに、知っていた。都合よく、記憶の中に出てきた。




 筒の形と、炎の噴射のされ方的に…正面から見れたならば、夕陽の様になっているのではないだろうか…。



「ギャアア…アア…ア…ァ…」


「気絶したか」



 焦げた肉から、たった今から被害に合う寸前だったテンに向き直る。



「…未遂」


「そんなのも判るのか」


「し…しょう?…………うっ……うう…」


「すまない、2人共。怖い思いをさせて…しまいました。すみません…でした!」


「師匠~!!」



 全裸のまま俺に抱きつくテン。




 俺とテンの間に挟まれて、苦しそうな声を上げるヤンちゃん。




 戸惑う俺。



「怖かったぁ~!!」


「そ、そうか。本当に申し訳ない…!セイも…すぐに駆けつけられなくて…申し訳ない!」


「ちょっ…テン!色々…!色々、自主規制されちゃうモノが僕に当たってるよ…!」


「うえぇ~ん…!!」


「セイは、だ…大事ないか?」


「は、はい…」



 部屋の隅で、モジモジと…手で身体を隠しているセイ。




 どこにも傷は無さそうだ…。良かった……。



「テン…」


「師匠~!」


「なんだ…?その、まずは服を着ないか?」


「ふ…服?…っうあぁ!?」


「やっと離れた…でも…まだ感触が残ってる……」


「み、見ないでくれると…助かるっす…!…まぁ…師匠なら?…多少は見てもいいすけど…」


「服は…あそこか」



 部屋の隅に、乱雑に積まれている衣類を手に取った。…なるほど。



「うわぁ…」


「新しい服を買いに行こう。2人のお守りを任せていい…ですか?」


「うん…早く帰ってきてね」


「ああ。……これは焼却しておこう」



 汚れた服を消し去ってから、俺は服屋で色々と繕った。何が良いのか解らないから、目に入ったものをレジに持っていっている。



「お願いします」



 女物の服しか持ってきていないが為に、け…怪訝そうな顔で此方をチラリと確認する店員さん。



「急ぎなんだ。早急に頼めますか?」



 レジが終わったモノから次々と手に取り、会計を済ませて…青屋根の家…クズの掃き溜めに戻って来た。



「テンはこの服を…セイには…コレを」


「ありがとうございます…!」


「お金は払うっす!」


「気にするな。俺が燃やしてしまった服の…その弁償だと思ってほしい…です。俺は廊下で待ってます」


「抱っこして」


「ああ、ありがとう…ございます。2人の緊張を解いてくれて…感謝します。ヤンちゃん」



 ヤンちゃんを抱き上げて、撫でながら部屋を出た。




 服に不満が出たら…その時は改めて服屋さんに向かおう。男の俺には解らない文化だからな。




 少しして、2人が部屋から出てきた。




 良かった…双方ともに満足そうだ…。



「サイズに違和感は無い…ですか?」


「………ヨウ、普通に服選びのセンスあるよね」


「大丈夫です。この服…大切にします!」


「こっちも問題ないっす!にしても…よくぴったりな大きさな服を持ってこれたっすよね?」


「ああ…そのくらい、見てれば判る」


「そういうもんなんすか?」



 ……?……逆に判らないのか?




 人を見れば…大体の身長が知れる。動物も同じだ。




 それくらいの…技術とも呼べないくらいのモノ…普通のことだろ?




 だが…テンの物言いから、か…鑑みる?に…珍しいのかもしれないな。俺の普通と、他人の普通が同じな訳ないし…そういうことだろう。




 考えを改めよう。



「ああ、俺の場合は…スリーサイズも大体把握できる」



 お陰で、彼女達の下着を繕うのには…全く手間取らなかった。




 着痩せだとか、そういうモノを考慮して…それで少し大きめの服を選ぶ。




 それだけ…。



「うえぇ!?スリーサイズが目で見て判るんすか!?」


「今更手で隠したところで…もう遅いだろうに…」


「ヨウ…そういうのは言わないほうがいいよ」


「な、何…だと…!?」



 ミスった!…これはまずい…!




 自分でもシビアだと感じていたが…まさか…アウトだとは…!



「す、すまない!不用意な発言をしてしまいました…!」


「あぁ、いや!私は…全然気にしてないっすよ!むしろ…その…なんか、よく…見てるんだなって…嬉しくなっちゃったっす。変かもしれないんすけど…」


「私も別に…ヨウさんにならですけど…知られても問題ないですから…!頭を上げてください…!」


「今後…気を付けます」



 反省だな。




 …ん?あの男…[自主規制]が爆発していないか…?




 ソレに近づいて確かめた。




 息はしている…気絶か…。[自主規制]は何があったのだろう…?爆発するなんてケース…俺には想像もつかない…。



「その人は、テンちゃんがやっつけてくれたんですよ!本当にかっこよかったです!」


「テン、本当…ですか?」


「はい!もうだめだ~…ってなった時に、取引の魔神が現れて、それで…雷の魔法が扱えるようになったっす!…まぁ…電気の逃げ道を作られると…どうしようも無いんすけどね…」



 魔神…?取引の魔神…図書館で読んだな。




 取引の魔神…。




 リスクリタン…確か…名前はそうだった。




 気まぐれで現れて、望むもの…リタンを与えてくれる魔神。…だが、代償…リスクは魔神が…決める。…だった筈だ。




 本には記載されていない…何故か知っている情報。




 それで…雷の魔法を得て…この[自主規制]爆発男が誕生したのか。




 南無三…。




 そして…




 オマケをあげよう。



「え…ヨウ?」


「傷口を閉じています。…焼いて…ですけど」


「まぁ、止めはしないよ。…ヨウも、人のために苛つけるんだね」


「死ぬなんて…楽な道は選ばせません。ただ…それだけです」


「ふうん?」



 …で、問題は…リスクで、テンに架せられたモノについてだ。



「テン」


「はい師匠!」


「…自分の身体は、出来るだけ大切にしなさい」


「はい…」


「だが、友の為ならば…躊躇わずに身体を張るんだ。今回みたいにな」


「っ!はいっす!」



 良い子だ…。



「そして…改めて…言います。身を削ってまで…怖い思いをしてまで…セイを護ってくれてありがとう…ございます。その勇気溢れる行動に…俺は尊敬を…表します」


「そ、そんなに褒めなくても良いっすよ…!…それに、それに…私は…ギリギリになった時に、自分の事しか考えられなかったっす…」


「何いってんだ?…ソレが人間ですよ。そして、結果的に2人とも助かったでしょう?こういうのは、胸張ってなんぼ…です」


「師匠……いいんすか?そんなに言って…私、自分で言うのもなんなんすけど…惚れっぽいっすよ…?」



 テンの頭を撫でる。サラサラな赤髪が…よく似合う。



「私…好きになっちゃうっすよ…ヨウさんの事を本気で…」


「誰が誰に恋しようと自由だ。好きにするといい…です」



 ふと、外を見る。




 もうこんなに日が落ちたのか。



「さて、帰りましょう」



 クズの掃き溜めを脱して…テンを家まで送り…夕食。



「ヨウ、食欲ない?」


「ああ、全く食欲が湧かない…セイも同じか?」


「はい…せっかく注文してもらったので、このお皿だけは食べますが…」


「2人共、こんな気持ちの時は、お酒が一番だよ」


「あぅ、私…まだ未成年なので、お酒は飲めないです…誘っていただいたのに、すみません」


「俺も未成年だ。酒は不要…です」


「そっか…酒飲み僕だけなんだ。…まぁ、僕も成人してないけど」



 じゃあ駄目じゃないのか?



「十代前半からお酒飲んでる子…僕だけなのかな」


「偶然だな。俺もヤンちゃんと同じくらいの年頃だ…確かですけど」


「え…私が最年長…何ですか…!?」



 夕食を終えて、お風呂。




 そっちの方がお得と訊いて、3人一緒の入浴だ。




 ヤンちゃんは溺れそうで心配だったので、俺の膝の上に乗せている。本人は大丈夫だと言っていたが…コレばかりは心配が勝る。



「ふぅ……」


「ヨウ、流石に疲れてるね」


「ああ、今日は…いや、今日も疲れ…ました」



 お風呂に入りながらの会話。




 セイも一緒だ。…隅の方でちょこんとしているが…。



「私が…最年長………最…年長…」



 ボソボソと何かを呟いているセイに声を掛けた。



「セイ」


「っふぁい…!?な、何でしょう!」


「どうして、そんなに距離を開ける…んですか?」



 嫌われた…?




 確かに…テンばっかりに構っていたからな。




 …なら、今はセイと話をして…好感度が下がらないようにしないと…だな。



「隣に行ってもいいですか?距離があると、会話がしづらいので…」


「えっ、あっ…!は、はい…!どうぞ…!」


「では…」



 膝の上のヤンちゃんを抱き上げて、セイの隣に移った。




 ヤンちゃんは…下手したら溺れてしまうからな。それで、膝の上が本当に…丁度いいんだ。




 本人は恥ずかしそうだったが…これは仕方のない事だろう。



「セイ…悩み事があるなら相談してみてほしい…です。俺じゃなくても良いし…ヤンちゃんや…テンでも良い。話してみるだけでも、心は軽く…なりますよ」


「ヨウ、相談していい?」


「何でしょう?」


「…次からはセイの膝に乗りたい」


「…え!私ですか…?」


「うん…僕にも羞恥心はあるからね」


「な、なるほど…では、私の膝で良ければ…お貸ししますよ」


「よし…」



 腕だけの力で隣に移るヤンちゃん。




 そうだったな…そういえば、ヤンちゃんはチンピラを一人で撃退したんだった。




 テンも…自衛の方法を得ていたな…。




 雷の魔法…か。




 機械…?の俺とは相性が悪そうだ。




 テンの好感度は高めを維持したほうが良いだろう。




 テンの気分次第では…俺の身体が爆発するか…故障するか…可能性としてはパワーアップも視野に入る。




 食らってみるのもアリか…?いや、だが…リスクが高すぎるな。良い結果が一割…残りが悪い結果。



「あ、あの!ヨウさん…!」


「…ん?何ですか、セイ」


「あの…えと…も、もしも私が!」


「はい」


「………や、やっぱり…何でもないです…!すみません…」


「そうですか…。では、気持ちの整理がついてから…再度言ってみてください。…俺に言わなくても良いし…ヤンちゃんでも、相談に乗ってくれると思います。…なので、そんなに謝らなくても大丈夫…ですよ」


「はい…」



 何を言いかけたのかは知らないが…セイにとっては、伝えるべきだと感じた内容なんだろう。




 ならば…訊くよりも、聴くに徹した方が吉だろう…。



「…ん…?」



 …そっと隣から…手を握られた。




 それに気が付き、チラリと…セイの方へと目を動かすと…頬を朱に染めて俯く…そんな彼女と目があった。



「…………」


「………あと十秒したら出ましょう。これ以上は…のぼせてしまいそう…ですので。セイも…ヤンちゃんも…………………俺自身も」


「はい…」



 セイは…少し残念そうに目を逸らしたが、俺の手を…強く…離れないようにと、握っていた。




 はぁ…おかしいな、俺は…。




 機械なんだか…人間なんだか…。



「ヨウの顔、少し赤いね」


「……少しだけ、のぼせた…のかもしれませんね」


「大丈夫そう?」


「問題ない…です。では、上がり…ましょうか」



 お風呂から上がり、宿の寝室へと移る。




 ベッドは一つしかないが…セイとヤンちゃんは、別に良いの一点張りだったな。




 …今日はもう寝よう。




 おやすみ…皆…。




 兄ちゃんだけ…ごめんな…カイ。



「カ…イ…」



 ああ…ごめん…!助けられなくて…兄ちゃんだけ生き残って…



「ご…めん…」



 ………………



「…して…くれ」



 あの日の弱い俺を…




 


 どうか…









 ……消してくれ。

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