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迷える君を 望む場所へと(書き直し前)  作者: 差氏 ミズキ
飛空艇編
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五話・Part6 息が止まる その理由




 飛空艇の浴場。




 八咫烏のメンバーと共に、広いお風呂に肩を並べて浸かっている。右隣に細マッチョのアグル、対面に一番目のやり場に困るワメル、そして…



「リワレちゃーん、何でそんな隅にいるのさ!こっち来なよ。これじゃ、会話もままならないよー?」



 広いお風呂の隅の隅、俺が浴場に上がるなり露骨に嫌な顔をしてからソコに移動をしたリワレ。




 なぜあそこまで初対面の人物を嫌えるのか…なにかをしてしまった?いや、初対面だからそれはないはずだ。




 …いや、したな。リワレと呼び捨てで呼んだ。初対面で。アレは…今考えるとかなりリスキー、いや、失礼だった。改めなくては。




 少し呆れたような表情を浮かべてアグルはリワレを呼ぶ。



「まぁ、気持ちは解るけどさぁ。ちょっと…だけね。それでも、態度はきちんとしようよ」


「フン…ソッチで勝手にじゃれてれば良い」


「……じゃあいいや」


「…っ…い、行くよ」


「え〜?いいの?やったねカナメくん、会話がしやすくなるよ」



 スンッと表情を無くし肩をすくめながら、じゃあいいやと発言したアグルに対して、どこか慌ただしい様子のリワレはすぐに彼の右隣へと移ってきた。左から、俺、アグル、リワレ。俺の正面にワメル。




 …上下関係とはまた別…恐怖に近い。ナニカで躾をしているのだろうか?それもかなり厳しく。




 …身体に痣や傷は見受けられない。…暴力は振るわれていない。精神的な調教?言葉による暴力だろうか?いいや………それも違う。感覚的に違和感を覚える。



「わざわざ隣に来るんだね」


「じゃあドコに行けば良いんだよ」


「彼の隣とか。ソレで、綺麗に囲めるでしょ?」


「…ああ…わかった。そうする」


「ありがと、リワレちゃん」


「アグルはいっつも…ズルばっかして…」


「ズルじゃないさ。というか、眼の前で棘のあるコトを言われると……ん?…いや、これはこれで…?いいや!やっぱ傷つくね。…うん、傷つく傷つく」



 リワレが心もとないタオルで色々と隠しながら俺の前を横切り、隣に座った。これで…両隣と前方に八咫烏、つまりは囲まれるような形になった。後方は空いているが…八咫烏の力は未知数だ。恐らくは敢えて気にしていないのだろう。




 もしナニカが起きても、俺を無力化出来る自信がある。…と、そう仮定すればこの配置にも合点がいく。




 現状…一に警戒すべきは誰だ?いや、戦闘をするでもないが……この世には、備えあれば憂いなしという言葉もある。つまりは…身構えてもなんら不自然ではない。




 そもそも八咫烏とは初対面である。更に周りを囲まれている。つまりは…身構えたとしても別に不自然ではないのだ。




 いつでも戦闘出来るように準備しておこう。心の準備を。



「さて、早速訊こうかな」



 首だけを軽く此方に傾けて言い、そのままアグルは続けた。



「カナメさん…君は敵か?それとも味方か?どっちだい」


「それは…誰の敵で、誰の味方だと仮定して言っているんだ?」


「…そうだな〜…確かにそうだ。じゃあ、強いて言えば…」



 今度は真っ直ぐと目を合わせながら。



「カイ様とか」



 ジッと、軽く微笑んで此方の瞳を覗きこむアグル。その笑顔の下は警戒一色といったところか。回答次第では、今ここで襲われそうだ。




 そんな彼からの質問に、俺は迷わず答える。




 そう。これは迷う必要がない。



「当然味方だ。俺は常に…カイの味方として生きている」


「本当に?」


「ああ。俺はずっとカイの味方であり続ける」



 少なくとも…そのつもりだ。



「……テイがいれば判りやすいんだけど、まぁ、コレで嘘だったら僕は何も信じられないかな」



 アグルは手をヒラヒラさせて、今度は残念そうに肩をすくめた。彼の期待した回答では無かったのだろうか。




 にしても…テイ…か。彼は今頃、どうしているだろうか。メイと上手く、兄妹生活を楽しんでいると良いのだが。




 …さておき、次は此方から質問させてもらおう。まずは、カイについてだ。



「次は俺から質問させてもらう」


「うん、いいよ。なにかな?」


「俺の質問は……」



 額をトントンと…少し考えるかのような素振りをしてから訊いた。



「カイの右腕は…どうなっていた?」



 …八咫烏とカイが本当に接触していたのかを疑っているという訳では無いのだが、彼等が本当にカイと出会っているのならば、金色の厄災により消失した…俺がその手を握る事により千切れた腕は、機械の様になっているのではないか…と思う。




 または、俺の干渉により補われずに…つまり、厄災で失ったという判定にならずに、腕がないままの状態なのか。




 もしもこれで、両腕共に普通だったと言われれば、俺は彼等を疑う。八咫烏が出会ったソレは本当にカイなのか?…と、疑う事になる。




 この質問は…彼等が本当にカイと接触しているのか。本当にそのヒトがカイなのか。カイは今どういった状態なのか。




 ソレラを調べる為の質問だ。



「別にカイ様の腕は普通だったな」



 …と、左隣で湯に浸かりながら体育座りをしているリワレがその口からボソリと溢した。…そしてすぐに、先の答えを訂正するかのように言葉を続ける。



「…いや、右腕の話か…どう言い表せばいーのか…」



 ブツブツと情報を言い纏めながら此方へと向き直り、突然にもワシっと俺の左腕を掴んだリワレは、ピタッとその身を硬直させた。



「は…?いやいや…おかしいだろ…」



 目を見開き、驚いたように口を開き、ジロジロと…その金色の瞳を俺の顔と腕を行き来するように動かし始める。




 その反応を不思議に思ったアグルも、俺の腕をガシッと掴み、



「…ん?あれ…?えぇ……?」



 俺の腕をニギニギと、その手の中で軽く揉み始めた。




 続いて…正面にて胡座をかいていたワメルも、此方に身を寄せ…前傾姿勢となり目のやり場に困る状態をさらに増々(ましまし)にさせながら、俺の両頬をグニグニといじりだす。




 本当に目のやり場に困る。せめて、タオルの一枚でもその腰に巻いてくれれば。本当に…目のやり場に困る。



「リワレちゃん、こんな感じだったよね?カイ様の右腕って」


「そうだな…まさに…こんなんだった。……何でコイツは全身がソウなってんだよ」



 肩や首などをガシガシと掴みながら、困惑の表情を浮かべるリワレ。…一番困惑しているのは俺なのだが。まさか、急に八咫烏の面々から全身を触られるとは想像もしていなかったので。



「興味深いな、まさか股間もそうなのか?」



 …と、ワメルが変な事を訊いてきた。皆が敢えて言わなかったであろう事を、サラッと言ってきた。




 …何を言ってるんだこの人は。…え?何を言っているんだこの人は。



「ッブファ…!?」


「ちょっ…ワメルさん!デ、デデリ、デリカシー!!ごめんねカナメさん!いや、マジで!本当に!ガチで!」



 リワレが盛大に吹き出し、アグルが問題児の頭をペシンッと叩いて俺に謝罪を始めた。




 …なんだこの状況は。俺はただ…カイの右腕について質問しただけなはずなのだが……?今の俺の視界内は混沌が極まっている。




 まぁ、とにかく…だ。カイの右腕はしっかりと有り、尚且つ、俺と同様にキカイな右腕となっているらしい。…で、彼等、八咫烏が本当にカイと出会っている事も確認できた。



「痛いんだが…どうして叩く必要があるんだ」


「ワメルさんが変と事言い出すからですよ」


「変な事?俺はただ…彼の…」


「だから!!コラッ…!」



 スパァァン!と今度は本気マジの力加減。



「痛えって…!…え?っおぉ…?」



 アグルが問題児をヒョイと抱き上げて、浴場の外へと連行し始めた。…どうやら、質問の時間は過ぎたようだ。まだ訊きたい事があったのだが……あの問題児のお陰で、それどころの雰囲気ではない。



「じゃあ、ごめんねカナメさん!僕等は出るから、ごゆっくり!いや、本当にすまないと思ってる!じゃっ!」


「おい待てアグル、俺はまだ湯船に浸かりた…」



 更衣室に繋がる扉が閉められ、問題児の声が途切れる。耳を澄ませば、恐らくは更衣室の会話を盗み聴くことは出来るだろう。…まぁ、ろくな事を話してはいなさそうだから、しないんだが。




 で、俺は今…気まずい空気の中に取り残されている。




 何故か?




 それは、先程更衣室に向かっていった仲間もそっちのけで、俺の下腹部の辺りにチラチラと視線を送り始めた……………リワレが隣にいるからだ。



「まったく…」



 …忘れ物なんて勘弁してほしい次第である。しっかり彼女も持っていって欲しかった。…という本音が、ついつい口から溢れ出そうになる。



「先程からチラチラしているアンタは一緒に行かないのか?」


「…あぁ?…あ…あれ?彼奴等……………って!み、見てないからな!私はドコも!本当だからな!?」



 ブワッとその顔を赤く染め上げて、声を上ずらせながら言うリワレ。なんて説得力のない姿だろうか。……そんな彼女は、ガバっと湯船から立ち上がり、その場をそそくさと後にして、仲間の元へ向かって行った。



「………まったく…」



 忘れ物なんて勘弁してほしい次第である。



「しっかりとタオルも持っていって欲しかった」



 更衣室にでも放置しておけば、後で勝手に回収しに来るだろう。






 …あと少し…か。



「…………」



 大きく息を吸い込み…自身の胸部を膨らませて、一息に吹き出し…肩の力を抜く。…俺はいつの間にか緊張していたらしく、想定よりも肩が下がった。






 もうすぐカイに会える。…ソレ自体は勿論嬉しい。…だが、故郷に近づくにつれて、自身でも気が付かないうちに…無意識のうちに、俺は小刻みに身体を震わせてしまう。……コレは、緊張…とも言えるが…少し違う。確かに緊張はしているが…やはり、






 違う。




 …コレの正体は、理解している。眠れなくなるほどに……自分自身を理解出来なくなるほどに、理解している。




 …言わばコレは、怖いだとか…恐れだとか…そういうたぐいのモノだ。申し訳ないだとか…村の皆にどんな顔をすれば良いのかだとか…そういうたぐいのモノだ。




 言葉少なな表現にはなるが…






 要はコレの正体はカイに対する…



 村の皆に対する…






 罪悪感…そのものだ。



 直接的か…または間接的か。俺が…引き起こしているであろうモノ。


 名を金色の厄災……金色の高波。



 ソレのせいで…俺のせいで…村の全てを沈めてしまった事に対する罪悪感。それこそが、この身体の震えの原因であり要因である。




「…………」




 蘇ってくる断片的な記憶を繋げると…俺が厄災の要因なのでは?…と、ソウ考えずにはいられなくなる。なぜなら、ソウだと仮定すると納得できるような記憶ばかり……不意に頭に浮かぶから。




 俺が厄災を引き起こす、なんらかの要因トリガーを持ち合わせている可能性は高い。それもかなり高い…と、そう踏んでいる。だが…何がトリガーなのか?ソレを考察するにはまだまだ情報が足りない。それも圧倒的に足りていない。




 …かなり低い可能性ではあるが、俺と厄災は無関係、且つ、高波が俺を避けて通ったのは地面の隆起…つまり単なる偶然だった。という、そんな愚説も可能性としては存在しうる。存在してしまう。




 ソレをゼロパーセントなんて言えないのはかなりもどかしい。空白の期間を、空白の記憶を、空白の情報を、その全て呼び覚ますまでは、どんな説もシュレディンガーの猫に等しい。



「…だが、残念な事に……………そのシュレディンガーの…」



 その猫は…




 カナメは悪者である!皆を沈めた!と…狭いキオクの中から地面を揺らす唸りを上げている。お前がムラの内に向かってタカナミを流しているのだ!と。






 やがて声が止まるとして、はてさて、ソレはドチラなのだろう。




 1、やはり毒ではなくて口をつむんだのか。


 2、本当に毒で耐えきれず息絶えたのか。


 3、一度息絶えて、復活までのクールタイム中なのか。



「…3」



 俺はそう思う。




 でも、しかしながら。




 おかしな事に。



「金色は世界に…大陸を跨いで知られている」



 ソコに関しては、俺の意思なんて関与のしようがない。そもそも、他の大陸なんて存在すら知らないのだから。いや、知っていたとしても、そこに厄災を起こそうなんて思わないだろう。




 …だが、金色の厄災は起きていた。文献では、奇しくも…七年前、ソレから現在まで、実験、解析、分析など、色々と研究が地道に進められている。




 俺は…当事者であるかもしれないのだが、厄災についてあまり理解出来ていない。




 情報が足りていない。



「…いや」



 頭を柔らかくしろ。




 理解はしなくていい。



「…もしかすると…だ」



 今も、世界の何処かで厄災が発生しているかもしれない。厄災が発生するメカニズムに俺がいたとしても、俺はソレラに関与していない。出来ない。




 ズキズキし始めた頭を片手で抑えながら。




 つまりコレは、



「この呪はもしかすると……」



 いいや、改めよう。コレは呪なんてチンケなモノではない。




 コレは、




 俺が〝あの日〟よりも前に取引していたのだと仮定して。その単語を口にする。




 もしかすると…



「リスク…なのか?」



 瞬間、脳を震撼させるような…灼熱の氷獄に閉じ込めるような衝撃が、頭部の内へと蠢き始める。




 頭痛がする。目眩がする。平衡感覚がなくなる。視界がぼやける。呼吸が荒くなる。身体が重く、自力で動くことさえ儘ならなくなる。



「リスク…そうか…」



 俺の、


 カナメヨウの脳内の、


 期間の、記憶の、情報の…






 空白が………







 また、ぼんやりと浮かび上がって…








 金色に染まり始める。

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