表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷える君を 望む場所へと(書き直し前)  作者: 差氏 ミズキ
飛空艇編
13/34

五話・Part4 その神様 世界の王に達する



 何処からともなく現れたるは、黒い飛空艇である。




 三本脚の烏のマークが飛空艇の側面に描かれており、その飛空艇の甲板には三名のヒトの姿が窺えた。




 三名ともに、三本脚の烏のマークが背中にある…黒いローブに身を包んでおり、俺達のいる飛空艇の上からでは、肌の部分が視認できない。




 今警戒すべきなのは、彼等が、たった今迫ってきている隼魔同様に…敵なのか、それとも…味方なのかである。




 俺的には後者である方が断然喜ばしいのだが…果たして。




 そして…耳に届く砲弾の音。轟く空気。一体欠けた隼魔側の援軍。



「…味方のようだな」


「…アレは…」


「何か知っているのか?セイ」


「…はい」



 …なるほどな。




 纏めると、彼等は。




 ヅェッツライト帝国所属……



 対空魔専門特殊部隊・第三番隊・ 八咫烏。



 対空魔特化型の戦闘部隊であり、第一から第四番隊まであるとのこと。…今回はその第三番隊が通りかかったようだ。



 第三番隊・八咫烏は、卓越した砲撃の命中精度が売りの部隊であり、比較的、四つの部隊の中では…空のパトロールを一番真面目に行っている部隊とのこと。



 乗組員数は三名のみであり、まさに少数精鋭といった布陣である。




 今回は、第三番隊の八咫烏が駆け付けてきてくれたのか。なにはともあれ、大助かりである。こうして、セイの饒舌に耳を傾けている最中にも、一体、また一体と隼魔は撃墜されていっている。




 あの…二体二でも手間取った隼魔を、いとも容易く…撃ち落としている。




 …にわかには信じ難いな。こうして見ていても、まるで…何かのショーでも見ている気分になってしまう。




 そうして、



「…凄いな…八咫烏…」



 隼魔側の援軍は、随分と呆気なく一掃されてしまった。なんて並外れた威力の砲台なのだろうか。核の位置なんて関係ない…全身を木っ端微塵に吹き飛ばす威力なんて、俺にも出せない。



「…あ、どうやら、この飛空艇に用があるみたいですね」


「どうやら、そのようだな」



 海上で…船と船の間を行き来するために、ソレ同士を近づけて、橋を掛けるなんてことは良くあった。特に、他の密漁者グループと揉めた際には。




 飛空艇でも同じようなことをするようで、八咫烏の飛空艇は…ビタッと俺達の方の飛空艇の傍らに船体を寄せ…甲板にいたローブ姿の三名が船尾側の柵をまたいで此方へと乗り込んだ。




 俺とセイは、船尾の方へと降り立ち、事の成り行きを見守る。



「助かったわ。…貴方達が、八咫烏かしら?」


「…………」


「…えっと…違ったかしら…?」


「…………」


「…あ~…わ、私は、この飛空艇の船長をしているハクよ。取り敢えず、中に入って話しましょう?」



 ローブ三名の内の…他二名よりも比較的小さい、中央の人物がコクリと頷き、ハク船長の案内に従って後に続く。それに習い、他二名も続いて飛空艇内へと足を踏み入れた。




 …俺達も様子を見に行こう。




 飛空艇の修復をして、忙しなく動き回っているターバンの男や乗組員達を尻目に、俺とセイは船内へと向かう。…つもりだったのだが、上の方から声を掛けられた。



「ヨウ〜!僕も一緒に〜!」


「…ヤンちゃんか、そんな所にいたのか」



 にしても…何故、高所にいるのだろうか?高いところは怖いのでは…?いや、司令塔か何かとして名乗りを上げたのかもしれない。ヤンちゃんは知る力を所持している為…全体を俯瞰して、かつ、全体に声が通るあの場所は最適だろう。




 鉄の翼を展開して、高台へと飛び立つ。



「カナメ、抱っこ」


「ああ…」



 安堵の表情が可愛らしい…ヤンちゃんを抱き上げて、そのままゆっくりと降り始める。



「…どうしたの?」


「…頑張ったんだな。ヤツテ。偉いよ」


「………ふふん。僕だって、役に立てるからね」


「俺は…いつも助かっている」


「…そう?」


「ああ。助かっているさ」


「ふふん。カナメもお疲れ様」



 …なんだ?この違和感は…?




 なんだ…?




 いつもよりも、少し重い?いや…気の所為だろうか?…いや、重たいな。なぜ…?




 そうして…セイの傍らへと降り立つ。すると、突然にもセイは素っ頓狂な声を上げた。何かに驚くかのような、そんな素っ頓狂な声を上げた。



「ふぇぇぇっ!?」


「…ん?どうしたんだ、セイ?」


「あ…あ…!そ、それ…って!」


「…ソレ?」


「あ…ああ…!ヤンちゃんに足がぁ!?」


「「え?」」



 ヤンちゃんと顔を見合わせて、それから、セイの指の指す方向へと視線を移す。



「なっ!?」


「…えぇ!?足がついてるぅ!?」


「……本物なのか…?」


「あっ、ちょっと…!ん……擽ったいよ…」


「な、なぜ…?いったい……ヤンちゃん、何か心当たりはあるか?」



 うーん…と、俺に抱き抱えられた状態で腕を組み、過去の出来事を振り返る…そんな素振りをするヤンちゃん。




 やがて、あっ!…と声を上げて俺の耳元へと口を近づけて、囁くように話し始める。機密な情報なのだろうか?



「カナメ、僕ね…」


「ああ」


「世界王に会っちゃってさ…」


「…ああ」


「なんか出会ったオマケ的なモノで、足が治った…?んだと思う」


「……ああ」



 なるほど。わからない。




 世界王はビブリカルのことだろう。




 ……………………………………………?





 いやまて…誰だ?ビブリカル?




 世界王…ビブリカル…

















 スクヴァー…?



「っ…!!」



 今までとは比にならない程の頭痛が俺を襲う。痩せ我慢なんて出来ない程に、激烈な痛みが頭部全体を襲う。思わず顔が痛みに歪んでしまう。






 称号タイトル…超越者…!


 冠位ランク…世界王……!


 名を…ビブリカル・スクヴァー…………!






「っぅ゙〜ぐぅ……!」






 僕の友人で…


 僕の魔神トモダチのことを嫌っていて…


 俺に〝回帰の力〟を与えてくれた張本人で…


 俺を海の上に〝移動させてくれた〟神様だ。






 やがて…突発的な頭痛は収まり、周囲の視界が鮮明になっていく。作業の手を止めて、此方を心配そうに見やる乗組員達や、誰よりも心配そうな面持ちのセイやヤンちゃんが視界内に映った。彼女達は俺を宥めるように、その身を寄せてくれている。……どうやら、何かを喋っているらしく、その口がパクパクと動いている。



「…すぅ~……ふぅ~〜〜ぅ…………そうか、あの世界王が…」



 あのビブリカルが…




 わざわざヤンちゃんに会いにくるなんて…



「いったい何をしたんだ………?」



 世界の根幹に触れたか?それとも…ただの気まぐれか?




 片手で半分だけ前髪を掻き上げて、そのまま撫で付けるようにして側頭部に向かって片手を流す。何故かそのまま固定されたようで、撫で付けた前髪は降りてこない。



「…………」



 まぁ…彼はそういう神様だ。彼の所有物モノにさえ干渉しなければ…怒りもしない優しい神様で、常に興味深いモノを求めているフシがある。




 もしかしたら、ヤンちゃんの知る力に興味を覚えたのかもしれない。




 …その仮説が一番しっくり来る。



「ヨウさん…?」


「どうした?セイ」


「だ、大丈夫ですか…?」


「ああ、問題無い」



 故郷に近づいているからなのか、段々と記憶が戻って来ている。どれも断片的なモノに過ぎないが、どれも重要な記憶だ。



「ヨウ…えっと…落ち着いたなら…」


「おっと、無意識だった。すまない、ヤンちゃん」



 俺はヤンちゃんの太ももから手を離した。




 赤くくっきりと跡が残ってしまったな。…それほど強く掴んでいたのか。……回帰の力を使おうにも、コレがどう直るのか判らない。相手の記憶通りなのか、俺の記憶通りなのか…はたまた別か、判らない。…………これからは、ヤンちゃんに対して…安易に力は使えないな。




 足が…無くなるかもしれないから。



「いや、謝らなくていいよ」



 …と、ヤンちゃんは言い、お姫様抱っこの状態のまま、俺の耳に口元を寄せる。



「なんか…よく分からないけど、ゾワゾワして…良かったから…」


「………そうか…」



 どう答えろと?




 流石に、素直な気持ちをぶつける訳にもいかないだろう。もう一度、改めて掴みたいなんて…な。流石に、ヤンちゃんでも…不快な気分にさせてしまうだろう。



「…歩けるのか?」



 俺は話題を変えるように、気持ちを切り替えるように、ヤンちゃんへと問いかけた。無意識のうちに緊張しているのか、少々口ごもってしまっている自分に驚く。



「た、確かめてみる…」



 コクリと頷いたヤンちゃんは、その足を…爪先から、そっと甲板に降ろして…久しぶりに、彼女は〝足場〟に触れた。



「っ…!?」


「っ大丈夫か…!?」



 俺はヤンちゃんをヒョイと持ち上げ、再度お姫様抱っこの姿勢に直す。




 こんなに震えて………足に対する刺激が強かったのだろうか?……だとすれば、先程の俺の無意識行動ワシヅカミは…かなりの苦痛だったのではなかろうか。




 いや、太ももは違うのか。……良かったらしいしな。




 …なら、足先が…過度に反応してしまっただけ?久々の刺激に、脳が異常を起こした可能性が高い。




 足の裏が擽ったく感じる。ソレが、何倍にも増したモノを…ヤンちゃんは体験した?その上で、靴下や靴を履くなんて………もしもソレ通りならば…彼女には出来ない可能性がある。




 ……もしも、仮説通りなら…今まで以上に生活に支障が出る事になるだろう。ベッドの上やお風呂等々…足が確実に触れる所では特に。




 腕の中で小刻みに震えるヤンちゃんと目が合う。



「…杞憂だったか」



 自身でも気付かぬうちに強張ってきていた顔が、元に戻っていくのを感じる。




 ようは、俺は…ホッとしたんだ。




 なぜなら…




 …彼女の表情は、俺までつられて…つい嬉しくなってしまう程に、歓天喜地といったモノであったからだ。俺は今…微笑んでいるのかもしれない。



「もう一回…やってみるか?」


「うん…!」



 再度…ヤンちゃんを甲板へと降ろす。




 足の先が着いて…そして…一気にビタリと、足裏を甲板へと着ける。




 …と、そこで、ヤンちゃんを支えていた手を離した。



「っととととと……」


「っ大丈…」


「待った!…よっと…!よし!」



 ヤンちゃんは、蹌踉よろめきつつも、直立できている。上手くバランスが保てないのは、余りにも長い期間…その経験が欠如していたからだろう。



「よっ……と…」



 右足を前へと動かし、一歩だけ踏み込んだヤンちゃん。…左足も続けて前に出し…また、右足、左足…と、順々にソレを繰り返す。




 その場でくるりとターンをしたり、ジャンプをしたり、後ろ向きに歩いたり、走ったり、しゃがみ込んだり…やがて、俺の傍らに並んで、抱きついた。




 …想定していたよりも、身長が高いな。目線の高さが、俺とあまり変わらない気がする。




 抱きついたまま、顔を向けるヤンちゃん。ニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべているが、なぜだかその顔は…少しだけ、名残惜しそうなモノに見える。



「…抱っこしてもらう機会…減っちゃうね」


「いつでも出来るだろう」


「…歩けるのは嬉しいけど……」


「密着している時間は、他で補えばいいだろう…」


「……ふぅ〜ん?本当かな?」


「それは、自分で〝調べて〟…確かめてみればいいんじゃないか?」


「………………ぁ」



 …ふん。




 そんな顔をされると、俺まで赤くなりそうだ。




 …〝何でも知ることが出来る力〟…それを縮めて、〝知る力〟なのだろう。今回の反応を見るに…未来についても、知れるのかもしれない。




 全知全能の力…か。




 ある日、世界王が言っていた事を不意に思い出す。






他の世界にも、当然ながら世界王はいるんだ。僕はそういった…〝別の世界の世界王〟を、親しみを込めて〝友人〟と呼んでいる。



その友人から小耳に挟んだ限りではあるけどさ、どうやら、〝全知全能〟の…〝魔法〟?が扱える人間が居るらしい。



ニギ・ナフカード…?とか言う、異世界の王様でさ、皆から愚王なんて呼ばれているらしくて……でも、どの代の王様よりも、〝世界の進化〟に対する貢献度は、その世界の中で…トップスリーに入る程までに高かったんだって。






 …と、そんな会話をしていた事を思い出す。





 となると、わざわざヤンちゃんのもとへ世界王が来た理由は、〝世界の進化〟に導いてくれると、〝全知全能の力〟と限りなく似て…それでも非なる力を所有している彼女に対して、希望を覚えた。…というモノだったのかもしれない。




 オマケというのも、そういった希望を含めての行動なのだろう。少しでも、世界を進化させる為に…発展させる為に、世界王は…彼自身の力で治してくれたのだろう。



「あ、あの…!ヤンちゃんの足が治った理由について、私も…訊いていいですか?」


「世界王が治してくれたんだ。それも、神経まで完璧に」


「…だ、そうだ」


「世界王……?訊いたことも…何かの本で読んだこともない王様ですね…」



 そうだろうな。世界王は…ビブリカルは、あまり、表舞台には顔を出さない神様だ。…ので、その存在も、世界王という響きも、セイに限らず…この世の生物にとって馴染みがないのは、至極当然な事である。



「簡単に言えば、神様だ。魔神のような…」



 …っと、魔神を神扱いすると…デコピンされるんだったな。紛い物…と、世界王は魔神のことをそう呼んでいたことを思い出す。



「いや、訂正する。世界王という肩書の…神様だ」


「神様…ですか?」


「ああ」


「つまり、ヤンちゃんは、そんな凄い経験をしたということですね…!私も会ってみたいです…」


「まぁ、誰にでも会える可能性はあるだろう」



 神も…魔神も、善悪関係なく、それこそ…大英雄の類から、大犯罪者の類まで、ソレラは対等に扱う。神は出向かって、魔神は呼び寄せて、それぞれ姿を現す。




 故に、〝誰にでも〟可能性はある。少なくとも…会える可能性は。



「…さて、ハク船長に続こう」



 ハク船長とローブ達は、もう既に船内へと入っている。




 ヤンちゃんを抱き上げて、俺はそこに向かって歩き出した。セイも隣でついてきている。



「ヨウ、僕もう歩けるよ?」


「そうだな」



 …声を小さくして、囁く。



「俺も…名残惜しくてな。…ので、船内までの少しの間だけ、こうさせてほしい」


「…ふぅん」



 ヤンちゃんはググッと身を寄せて、言う。



「じゃあ…少しだけ、甘えさせて」


「…ああ。〝人目がつくところ〟では、抱っこは……もうしないだろうから」


「…〝人目がつかないところ〟では?」


「……おっと。痛いところを突かれた気分だ…」


「っふふ…ふふふん。カナメって…思ってるよりは男の子なんだよねー」


「嫌か?」


「ううん…むしろ良い」


「………そうか」



 …なんて、他愛のない会話を小さな声でコソコソとしながら、船内へ続く扉を開けて…その中と足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ