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迷える君を 望む場所へと(書き直し前)  作者: 差氏 ミズキ
飛空艇編
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五話・Part1 その襲撃者 強きを知る



 飛空艇に乗り、空を飛び立ってから数時間ほどが経過した。現在は…既に大陸を抜けて、青々とした大海原の上を…飛空艇は進んでいる。




 そして、俺…ヨウは、昼食を摂りに…自身に割り当てられた部屋から、生活スペースへと移動をしている。セイとヤンちゃんも一緒だ。




 生活スペースの扉を開くと、他の乗組員の人達も、それぞれが思い思いの場所で楽しげに食事をしている。




 …想定よりも、この飛空艇の乗組員は少なさそうだ。交代制で食事をしていると仮定しても、俺達を含めても…十数人程度しかいない事になる。




 …と、思考を巡らせながら、空いているテーブルセットに向かい…ハク船長から配膳を受け取る。聞く話によると、コレは全て…ハク船長が作っているとのこと。




 お盆の上には、湯気を立てている食事が並んでいる。因みに…サラダにスープ…パン…そしてミルクといった、バランスの良い献立である。更に言えば、足りなかったら…おかわりは自由だ。お盆上のソレラは、一見した限りではあるが…お腹を満たすには足りなさそうだったので、実に有り難いと言える。



「おお…!美味しいね、ヨウ」


「ああ、かなりうまい。特に…スープとパンの相性が良い。浸して食べる手が止まらないな」


「おかわり貰ってきます!」



 ハク船長の作る料理は絶品だった。




 一口食べれば食欲が湧き、二口食べればもう虜だ。飛空艇に居る間は、毎食このクオリティのモノが食べられると思うと…喜びの感情が心の底から膨れ上がる。今から夕食が楽しみである。



「どう?美味しいかしら?」



 此方向かい、テチテチと…短い歩幅で歩み寄るエプロン姿の童顔…ハク船長。幼く映るソレからは、船長という肩書や…この料理の腕前、タバコを嗜む姿にギャップを感じてしまう。



「ああ、どれも絶品だ。毎日でも食べたい」


「あら、想定していたよりも好印象じゃない。ふふふ、美味しいならそれで何よりだわ」


「ねぇヨウ…ハクちゃんも娶ってよ」


「……も?…まだ、ヤンちゃんすら妻にしていないが…」


「……別に私を娶っても良いけど、そういう行為は出来ないわよ?個人的な諸事情があるの。それでも良いなら考えてあげるわ」



 手を合わせて軽く謝る素振りをするハク。身振り手振りが多い人だのだろう、先程からそういった印象を受ける。



「娶ってもいいって。ヨウ」


「…………」




 …俺はどう答えれば良いのか。



「俺は…正直に言うと…」



 もう、十分だ。




 …と、口走りそうになったタイミングで…突如として飛空艇が大きく、ぐおんと揺れた。まるで、クルーザーの操縦が上手くいかずに…氷山にぶつかってしまった時のようだ。




 甲殻類や貝類を獲ろうと、おじさん達が極寒の海に潜っている間…ダイビング中の時は俺が船の操縦をしていたのだが、あの時はかなり肝が冷えた。




 …と、昔の事を思い出していると、生活スペースの扉が勢いよく開け放たれた。



「ブーイだ!」



 たった今入ってきた、外で見張りをしていた乗組員のターバンの男が声を大にして告げる。




 ブーイ?……空に?




 俺は疑問が湧いた。なぜ、ブーイが空にいるのか。まさか、飛空艇を操縦している訳ではないだろう。




 …では、だとすれば何か。



「数は?」


「特異種のウィングブーイが8体!上位種のペレグリンブーイが2体!陣形は〝レイド〟です!」


「レイド…なら、皆、配置について!先にペレグリンを撃ち落とすわ!」


「了解!」



 ゾロゾロと…ターバンについていく乗組員達。俺も取り敢えずそれに続いた。そして…乗組員の一人に訊いた、ウィングとペレグリンについて。ついでにレイドも。






 特異種ウィングブーイとは…


 両腕が鳥のような翼に…両足が跗蹠ふしょに変異している、空を自由に飛ぶブーイ。


 その移動速度は馬と並び、体当りされれば即死は免れず、その跗蹠から繰り出される引っ掻きは、鉄の鎧をガリガリと削り取る。


 聴いた限りでは強敵なのだが、かなり知能が低く、比較的…普通のブーイよりも討ち取りやすいらしい。


 統率者…今回の場合はペレグリン…と、一緒にいることが多いとのこと。





 上位種ペレグリンブーイとは…


 小柄な体躯で、翼魔ウィングブーイと同様に…両腕が翼になっており、その足も跗蹠になっている。実質的な…翼魔の上位互換のブーイである。


 その移動速度は…MAXで時速200キロメートルを上回るとされている。先程の大きな揺れは、隼魔ペレグリンブーイが飛空艇に突進を仕掛け…それで起きたとのことだ。


 主な攻撃は、滑空による超高加速から繰り出される…一撃必殺の即死蹴り。通称、二百蹴ツーハンドキック…と、乗組員から訊いた。


 俺のキカイな身体でも、首を狙われたら容易く歪まされる可能性がありそうだ。同じ上位種の王魔キングブーイに…首を凹まされた経験があるからこそ、嫌でも緊張してしまう。


 ……今回は、絶対に油断しない。


 そして、隼魔は基本的に、手下を引き連れて行動しているらしい。






 レイドとは…


 隼魔が組む陣形の一つであり、レイドはそのままの意味だ。隼魔がチーム同士で協力し、足りない戦力を埋めてから、予め定めた標的を襲いに行くらしい。


 奴等の知能が、人並み…またはそれに近しい程に高いという証拠だ。流石は上位種と言うべきか…かなり厄介な存在である。






 …船首側と船尾側の2方面から、それぞれ…前者に上位種2体、後者に特異種8体の構成で襲撃を仕掛けてきているらしい。




 ……ので、




 俺が船首側に…セイと2人で対応すると言った。残りの船尾側の特異種8体は乗組員とハク、そしてヤンちゃんに任せる…とも。




 勿論、素直に聞き入れてもらえる…なんて事はなかった。乗組員達の猛烈な反対意見が、俺に向かって雨あられと降り注いだり、シンプルに…ハク船長から危険だとダメ出しを食らったりもした。




 …だが、俺が目で…絶対に問題ないと訴えると、少し溜息をしながらも…ハク船長は了承をしてくれた。後で飛空艇内の掃除をするという罰を架せられたが…別に良い。元々、掃除くらい手伝う予定だったから。




 そして現在、船首側にて…上位種ペレグリンブーイと接敵を果たした。



『ギィ…ギァウゥ゙…?』

『ギイゥ…ギュギ…』



 何方も飛空艇から一定の感覚を開けて滞空しており、幼く整った顔からは…警戒の色が窺える。



「…あれが、ペレグリンブーイ…」


「思っていたよりも小柄な体躯だな…」


「あの…ヨウさん…!」


「何ですか?セイ」


「本当に私だけで良かったのですか?…正直、私は…あまり戦力になれるとは思えませんし…」



 何を言うか。セイはもう、一端の戦力だろう。少なくとも…船尾側に向かった乗組員達よりは遥かに戦力になる。確実に。




 しかしどうやら、セイは自らの持つ力に対して、あまり自信がないようだ。



「セイ、君は…この戦闘の勝利における要だ。先ずは…俺の作戦を聴いてください」


「は、はい…!」



 本当は、ここに来る前に伝えたかったが…俺達が船首に到着するほうが早く、道中に組んだ作戦を共有できていなかった。隼魔が人語を理解してる様子は見られない為、手短に、且つ簡潔に内容をセイに伝える。




 今回の作戦として構築していたモノは…




 セイの持つ氷の力で…隼魔の純白で歪な翼を凍らせて、更に言えば、いつかの男衆の一人にしてみせたように…1体を丸々氷漬けにし、俺がとどめを刺す。




 シンプルだが、効果的だろう。余裕があればアドリブでも構わない…とも伝えている。




 因みにだが、船首側を…俺とセイの2人だけで対応すると言った理由は、セイが力の扱いに慣れていない可能性が高いからだ。…この戦いで何かを掴んでくれると良いのだが。




 …と、他にも理由はある。それは、俺もセイも、周囲…例えば乗組員達に対して、戦闘中に誤って被害を出してしまうかもしれない。不意に炎の噴射が暴発する可能性や、セイが…力を制御出来ずに周囲を敵味方問わず凍らせる可能性がある。




 だから、不安定ながらも高火力で戦に挑めて、上位種に確実なダメージを入れられるであろう…俺とセイの2人だけにした。…まぁ、ハク船長や乗組員達の強さを知らない上での判断ではあるのだが…。



「なるほど…私の力で…」


「ああ、そうだ。頼りにしている」



 そして、〝戦闘中は会話をしない〟こと…コレも伝えた。




 上位種や特異種は、種類にもよるが…人間と遜色ない程に高度な知能がある為、声を真似る可能性が高い。それで、前回の反省を踏まえて、今回は戦闘が終わるまでお互いに会話をしないことにする…と。




 …さて、伝えるべき事に漏れはない筈だ。…恐らく。



「ここからは会話は無しでお願いしたい…です」


「はい。ヨウさん」


「では…」



 俺は背中に意識を集中させて、〝鉄の翼〟を展開した。根本から生えてくる噴射口から、シュウと空気の音が聴こえ、ボッ…と炎が噴射される。それに加えて、急加速により隼魔へと接近した。



『ギィギ!?』

『ギュギィ…!』



 それぞれが俺を避けるようにして、右へ左へ動き始める。滑空さえされなければ、俺のほうが速度は上だ。…ので、賢い上位種は別の方…下へと滑空しに行くだろう。セイのもとへと。人質でも取りにな。



『ギュグー!』



 俺が率先して追いかけていた個体とは別、敢えて甘く距離を空けて追いかけていた個体が、セイのもとへと滑空を始め…瞬く間に加速していく。




 …やはりな。少し知能がある分、逆にソレが裏目に出たみたいだ



『ギャイオー!』



 セイに向かって凄まじい速度で滑空していた隼魔が、ぐるりと体勢を変えて、二百蹴ツーハンドキックを仕掛ける。これでも隼魔かれらにとっては、まだまだジョギング程度のスピードであることが末恐ろしい。




 だが残念なことに、その隼魔が…女だからと侮って襲いかかっているのは………



「まだ器用な事は出来ないので…『フロズム』…!」


『ギュ……?ッギァ!?ギュイア…!?』


「氷漬けです!」



 鍛え上げればの話だが…俺の炎をも凌ぐほど強力な、セシアライト王家で代々遺伝してきたらしい…〝氷の力〟を所持している人物だ。



『ギギァ…!!』



 セイに襲いかかった隼魔は、自身の跗蹠ふしょ、その爪の先から段々と身体へと伸びてくる氷に、戸惑いを見せている。




 …が、流石は上位種。そんじゃそこらのブーイとは格が違う。




 例えば…






 自身の脚を失う覚悟とか。



『ギィィアァァァァッッ…!!!』



 ほう、身体に届く前に砕いたのか…。



『フギュー…!フギュー…!フギュゥウァー…!!』

『ギュギュ!』

『………ギュ!』



 体勢を持ち直すように…または、セイから距離を取るようにして、再び高高度へと上昇を謀る隼魔。残る片脚で、完全な…最高速度の二百蹴を仕掛けにいこうとしているらしい。




 …と、俺が追い掛けている方の隼魔もグンと高度を上げ始めた。遅れを取らないように、あくまでも同じ高度を保ちつつ…俺も続いて上昇する。



 



 俺は、隼魔との追いかけっこで気をつけていることが幾つかある。






 一つは、追いかけられる側にならず、追いかける側に徹すること。




 これは単純に、背中、主に後頭部側を見せると…死角を狙われると、当たりどころが悪ければ、意識が暗転して…ダウンしてしまうからだ。


 二百蹴は、滑空により時速200キロメートルに達した状態で本来の威力が発揮されるが…


 先程…セイにしてみせた蹴りは、見た限りではあるが…時速80キロメートルに到達するかしないかの速さだった。


 しかも、氷の力を使用されてすぐに…その場にピタッと停止して凍っていく脚を砕いて、間髪入れずに上昇していた。




 つまり、隼魔は空中での急制動が可能であり、その衝撃に耐えられるほど身体が頑強である。更に、速度を出すだけなら…そこまでの高さは必要ないということも解る。




 さて…ここで、先の結論を踏まえて、二つ目の気をつけるべきこと言おう。




 それは、隼魔よりも下には行かないこと。


 これは言わずもがな、理解できるだろう。


 水平か、それよりも上の位置取りならば…相手は蹴りの為に加速できずに、こんなにも近くにいても容易にスルッと避けることが可能だ。



 …二つ目の注意点に関しては、俺ぐらいしか対応出来ないな。すっかり失念していた。



 話を戻すが…隼魔よりも下の角度に居るイコール隼魔の攻撃範囲内だと考えて行動したほうがいい。まぁ、どれくらいの射程があるのかは定かではないのだが。






 …さて、いったい何処まで上昇するんだ?ただでさえ、この飛空艇は雲の高さを超えているというのに、それよりも高く…高く…高く、俺以外なら…高山病に似た体調不良になりそうな程に高い所まで上昇をしている。




 このキカイな身体で、燃料切れが起きないとも言い切れない。こんなに長く空を飛ぶのは久しぶりだ。…もし落下しても〝回帰の力〟を使用すれば俺は助かる。…だが、落下地点にモノがあれば…ソレは即刻破壊され、瞬きをする間に…その機能を終えてしまうだろう。




 …ので、出来れば、これ以上の高度上昇は避けたい。…隼魔よりも高所をとるか?



『ギュヴィ…』

『ギゥゥ、キエ』


「…なっ…!?」


『馬鹿で助かったぜ』

『本当にな』



 なんてことだ!俺は彼等を…隼魔を無意識のうちに侮っていた!何故に隼魔が上位種という枠組みなのか、その意味を…俺は深く考えもせず、この程度なら一人でも対応出来るだろうと高をくくっていた…!




 俺は…この超高高所まで誘い込まれていたのか…!俺が確実に後を追って共に高度を上げるだろうと想定して………隼魔は俺よりも一枚上手だったか…!




 何が起こったのか?何の罠に掛かったのか?




 それは…彼等が唐突にとった行動を知れば解るだろう。






 ……隼魔は…上位種ペレグリンブーイは、急制動を掛け、目にも止まらぬ速さで…飛空艇へと滑空を始めた…!しかも、初速から最高時速の200、またはその前後の速度を出して…!俺は、最初から騙されていた…掌の上で踊らされていたのだ!




 敢えて遅めの速度で二百蹴を行うことで、ある程度の距離が必要だと…………脚を犠牲にすることにより、本来よりも弱い存在だと……………それぞれ誤認させられたのか…!俺は…!






 俺は急いで追いかけた。もう影も形も…俺の目でも捉えられない隼魔達を。



「…………っく…!」



 追いつけない…!彼等は…この数秒でいったい何処まで到達した?もう既に飛空艇の上に着地したか?なくはない話だ………なら、俺が辿り着く頃には…もう…手遅れなのだろうか?いや、ハク船長や乗組員達が既に戦いを…いや、落ち着くんだ。戦闘が始まってまでそこまで時間は経過していない。




 …詰み……か?




   ▲   ▲   ▲   ▲   ▲




 ヨウさんが空高くまで飛び上がってから数十秒が経過しました。




 彼は、無事なのでしょうか…?私は心配でなりません。…私ももっと、お兄さまみたいにこの力を扱えられれば、うまいこと…空を飛べたりするのでしょうか……?



「ヨウさん…」



 驚く程に澄んでいる青空を、私はただひたすらに…自身の弱さを嘆くように…睨みつけている。




 そもそも、あの一撃の時に私が丸っと氷漬けに出来ていれば、少なくとも1人は撃破出来ていた筈です。




 …テンさんの『エレズム』に肖って…私も、この力による攻撃の名前を『フロズム』と名付けましたが、やはり、『エレズム』の方が威力も効果速度も、別格に高く…速いですね。




 私も、少しは戦闘面でもお役に立てるかと、一戦力になれるかと期待を抱いていましたが…



「まだまだ厳しそうですね…」



 …あ!人影が見えてきました!




 少しずつ大きく、鮮明になっていく人影。…だがしかし、形は人の影というよりも、空を飛ぶ鳥に近しいモノだった。




 人影が見えた時点から……次の瞬きをした時点で、はっきりと形が解るほどに近づいている。…つまり、その迫りくる存在が、現在…飛空艇へ向けて滑空している隼魔であると、セイの頭の中で確定した。




 どうして、隼魔が!?…ヨウさんは…!?




 …と、取り敢えず!彼等をなんとかしなければ…!



「『フロズム』…!!」



 両手の掌を空へと向けて、氷の力を使用した。イメージするは一定の間隔で積層した氷のドーム。その丸い形で…少しでも衝撃を逸らす事、または、氷の分厚さで…層の量で…二百蹴の威力を減衰させる事、それがセイの目的である。




 …間に合って…!彼等が飛空艇に辿り着く前に…!



「…ぬぅぅぅう…!」



 一層、二層、三層…と、氷のドームを生成していく。見た目のわりに重くはないようで、飛空艇が傾くような事は起きていない。




 そして、四層目を汗だくで生成し終えた頃合いに、バリバリと氷が砕ける音と、何かが飛空艇の船首に、バンッ…と着地する大きな音が、ほぼ同時にセイの耳へと届いた。




 残念ながら…ソコに降り立ったのは、〝無傷の隼魔〟である。



『hi〜♪』



 片翼をひらひら振りながら翼魔が微笑みかけてきた。



「1人…だけ…?」



 刹那、後ろから首根っこを…跗蹠ふしょで鷲掴みにされ、そのままうつ伏せになるように押し倒された。どうやら…眼の前の隼魔は、敢えて着地の音を大きくしていたらしい。



「っ…!?」



 ゆ、油断してしまいました…!てっきり、氷のドームで二百蹴の威力を殺しきれなかった分、着地の際に大きな音が鳴ったのだろうとばかり…!



『キャハハハ!』

『アハハハ!』



 片脚立ちにて、身体をうつ伏せに押さえつけた状態の隼魔。彼の砕けて無くなった方の脚から、なんとも形容し難い…肉肉しい音が聴こえた。




 セイは辛うじて頭を動かして音の正体を確認。



「そ、そんな…」


『じゃ~ん!元通り!』

『キャハハ!良い顔してる!』



 脚が完全に再生されていた。彼が彼自身で砕いた脚が、この一瞬で生えてきたのだ。こころなしか、元々の脚よりも質が良さそうである。






 彼等は〝上位種〟ペレグリンブーイだ。



 知能も高く、言語を使用し、作戦だって普通に立てる。そして…核を潰さない限り、個体により時間は異なるが…いつでも損傷した箇所を再生出来る。






 コレを…本来ならば、ハクさん達が迎撃しようとしていたんですよね。…つまり、彼女達で対応出来るという裏付けになります。




 …どうして、ヨウさんは私を選出したのでしょう…一戦力として活躍出来ない私を…どうして?



『持ち帰る?』

『いいや?死にたいのかお前?』


「っあが…!?」



 押さえつけている脚で、背中をバンと踏みつけられた。際して…ミシッと嫌な音が身体に響く。




 私に出来ることは…何なのでしょう?氷を生み出すだけ?…全然…分かりません。




 ……いいえ、判ってはいますね。




 …空を覆う、穴の空いている四層の氷のドーム。…それを再利用して、無尽蔵に氷柱の雨を降らせれば…まだ抵抗出来ると思います。




 …ですが、それでは…飛空艇が大きく傾いて、ボロボロになってしまいます。



「…………」



 セイは、初めて氷の力を使用した時のことを思い浮かべた。あの時の自身は、自分でも気が付かないうちに、丸々一人を氷漬けにしていた。




 だが、先の使用時には、そこまでの速度で氷漬けには出来ていなかった。




 その違いとはなにか?



『にしても、馬鹿だよな。2人だけで俺達を止められるとでも?』

『どーせ、イキってたんじゃねぇの?』

『うわっ!それ、めっちゃぽい!』

『あの変な翼野郎がさ、女の子にいいとこ見せようとしてたんじゃねぇの?』

『ありえるわそれ!で、コレ。ダッセェ〜』

『キャハハハ!』

『アハハハ!』


「…………ぃぃぇ…」



 ヨウさんは…微塵も貴方達を軽くは見ていませんでした。




 ヨウさんは……




 ヨウさんは…!



「そんなヒトではありません…!!」


『アハハ……ア?アァ…ァァ………ァ……』

『キャハハ……は?…っこ、このガキァ…!』



 目の周りが…瞳の周りが熱い…




 氷漬けになっている隼魔に反射した私の瞳は…白目が黒くなっている。




 これは…?お兄さまと、同じ…



「うぶっ…!」


『やってくれたなぁ!?ゴラァ!』



 どうやって…隼魔を一瞬で氷漬けに出来たのでしょうか?もう一度氷の反射を見ても、瞳は普通の状態に戻ってますし…今、同じことをやれと言われたとしても、ソレは出来ないと…直感できます。何故か…出来ないと解ります。




 …この力は…感情の起伏と共に威力が上がっているのでしょうか?




 あの時も…激しい怒りが起因で、ひと一人を氷漬けに出来ました。…そして、今回も、激しい怒り…とまではいきませんでしたが、怒りは覚えていました。




 …怒らないと使えない…真価を発揮しないなんて、使い勝手が悪すぎますね。



「『フロズム』……」


『っ…!』



 蹴り出してきた脚に向かい、指を伸ばすでもなく…予備動作を起こしたわけでもなく、氷の力を使用した。




 …脚を砕いて、身体へと侵食することを防ぐのが、あまりにも速いですね。



「これでは…時間稼ぎにもなりませんか…」


『ギュギィガァ…!!余計なことしやがって…!』



 隼魔は、バサリ翼を開き…グオンと空高く浮上した。




 ああ…二百蹴が来ますね…でも、先程の一蹴り一蹴りで…色々と骨が折れてますし…動けません。……痛みを通り越しているのが、不幸中の幸いでしょうか。




 …ヨウさん……



『ギュグゥグ…!ギュァァァ!!』



 貴方に…会いたいです。



『bye!!』


「『フロズム』っ…!」



 氷の柱を二百蹴に伸ばす。せめて…即死は免れられれば。そう考えての氷の壁である。




 だが、やはりセイの氷は脆かった。どんなに、どんなに…何枚の氷の壁を彼女自身と隼魔の間に創ろうとも、隼魔にとっては…水溜りに張った薄氷も同然。いとも容易く割れるモノなのだ。



「『フロズム』っ!『フロ…」


『ギィアグ!』


「…あ」



 …あぁ…やっぱり、私の氷の力では…戦力になれませんでした…ごめんなさい、ヨウさん。貴方の期待に答えたかった…です…。




 ボギッと、背中に鈍く重たい音か響く。




 意識が…段々と…薄れていく…




 そして、頭に浮かぶのは…大切な大切な人の顔。




 お父さま…



 お兄さま…



 ヤンちゃん…



「…ヨウ…さ…ん…」


『キャハハハハハ!』



 いつ流れていたのか…一粒の涙が飛空艇の床に染み込んだ。…だが、二粒目はいつまで待っても流れてこない。どれだけ待とうと、絶対に流れる事は無い。




 セイ・レイフォン・ラ・セシアライトは死んだ。









 …おや?おかしい事が起きた。




 まだ少し…ほんの少し息をしている。もはや呼吸とも言えないモノだが、氷の壁はしっかりと威力を緩和していた?らしい。




 そして、




 セイが即死ではなかった事が…




 隼魔が標的をセイのみに絞ってしまっていた事が…




 それ以外の警戒を怠っていた事が…



 この隼魔の致命的な敗因ミスである。




 何故ならば、



「回帰」



 この場には彼が居た。



「……………」


「…気絶……したのか…?…ごめん…セイ。また、護れなかった」



 いつの間にか…元に直ったセイの傍らに、彼は居た。




 先程までとは雰囲気がほんの少し、些細な程度だが違って見える、強きものが…飛空艇の上に…居た。




 そう…〝居た〟のである。

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