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繋いだ手は  作者: くいな
4/4

だけど

「コンシリエーレを撃ち、娘を誘拐したオルコスに対しての対応が緩すぎます。彼は我々を裏切ったのですよ?こんな状況、内部の人間がどう思うか…万が一外部に漏れればこの隙を狙うのは間違いないでしょう」

 ロワは部屋の椅子にゆったりと座って静かに微笑んでいるボスに臆することなくそう言い放つ。彼は現コンシリエーレのセギルが療養中のため、代理として仕事をしているのだった。いつもならその状態でも仕事をこなすのがセギルなのだが、なぜか今回の事件はロワに全て押し付けたのだ。これが解決出来れば一人前だ、と言って。そう言われてしまえばやらざるを得ない彼は、ボスを見つめて淡々と喋っていた。

「そうかい?毎回追っ手を向かわせてるじゃないか」

 穏やかな笑顔のままそう返すボスに、ロワは表情を少しも変えずに話す。

「幹部レベルでないと歯がたちません、こちらの怪我人が増えるだけです。ボスも分かっているはずです、彼がウチで一番強かったことを」

「あぁ、もちろん分かっているよ。私の右腕になれる男だ」


 分かっているなら何故、などとは聞かない。セギルさんにボスの感性、考えは通常とは少し違うと聞いているので驚く理由も疑問も湧かない。ただ、組織としてここまで依怙贔屓されては不平不満も募るという話だけでは済まない。ボスに苦言を呈するのもコンシリエーレの役割だ。異例の代理だが、ボスも無碍には扱えないだろう。

「次は俺…私が選んで送り込んでもいいですか」

 ロワがそう提案すると、ボスはちらりと彼の眼を見つめる。ロワの黒い瞳には光がないのにただ鋭く光っていた。

「…いいよ、でもきっと彼らが勝つさ」

「……裏切りを許してないポーズだけでもしっかり取ってください。そろそろ、隠すのも限界です」

 ボスとオルコスの間に何があるのか、この状況の原因はなんなのか、今の自分にはまだ分からない。だけどボスの態度で分かる、これは裏切りではないと。

「もちろんだとも、ウチのにも他所にも舐められては困るからね」

 二コリと微笑んだボスに俺はただ会釈をした。


 ロワはボスとの話を終えて部屋から出ると、はぁ、と大きなため息をついた。自分がオルコスのもとへ行かせるつもりの人物に、本当はこの件を教えるつもりがなかったからである。しかし背に腹は代えられない、それに彼女ならこの任務を絶対に引き受ける。ただキレて言うことを聞かない可能性があるがそこは自分の腕の見せ所である。

 彼は一度だけ深呼吸すると準備をするために会議室に向かった。癖のある同僚達をどう使おうかとギリギリまで考えながら。



 会議室として使っている二階奥の少し薄暗い部屋は、スワッグバランスがついたワインレッド色のカーテンが並んでいるのも合わさって厳かな雰囲気をしている。そんな部屋の中央にある円卓を囲っているのはロワを含めて三人。部屋の奥に彼、その右側に青い髪を結って短いラビットスタイルにして後ろ髪はおろしている女性。その反対にはココア色の髪をした男性が先ほどからタブレットをいじっている。

 二人が来てから二時間はたっただろうか、準備を終えて残り一人を待って別の仕事まで終わらせたがまだ揃わない。おかげでこの二人に話しておきたい事は言えたのだが。


「それにしても、今までよく隠せてたよね。テリアは前から知ってたけど」

 暇を持て余しているのだろう、テリアと名乗った青髪の女性がロワに話しかける。彼女が知っていたのは彼女がオルコスの部下だったからである。彼女はオルコスの裏切りから数日後に連絡を受けていたらしく、それを今までこちらに黙っていたのだ。

「…僕も知ってた、オルコスさんとリスィの通信見たから」

「それプライバシーの侵害って言うんだよ、ルーユ」

「怪しくなきゃ見ないよ、皆の生活とかどうでもいいし」

 ルーユと呼ばれた男性はずっとタブレットで何か作業をしている。時々ピコンと通知音がなっているが、彼はこの組織のシステム関係の責任者なので連絡事も多いのだろう。

 二人が知っていたのは想定内だったので何も困らないうえに、説明の手間が省けてむしろ助かった。なにより今回は異例の異例、ただの裏切りと片付けるわけにはいかないので、実力があり客観的な考えも出来る彼らが同僚でよかったと思う。問題は残る一人なのだが…。


 ロワがそう考えているとノックもなしに扉が勢いよく開けられる。ルーユはタブレットから視線を反らさなかったが、ロワとテリアは部屋の入口の方を向いた。赤髪をローツインテールにした背の高い女性が黒い瞳でロワを睨みつける。

「説明しろよ」

「…ロシュ、まずお前は遅れてきたのを謝れ」

「んな状況か!?オルコスがアンダーボス連れてったって!俺が居ない間にアイツ…!」

 ロシュはオルコスさんの次に強く、オルコスさんを敵視していた。そんなロシュをどう見ても裏切った形のオルコスにぶつけるのが俺の選択だ。もちろん、ロシュには本当の作戦は教えない。どうせ教えようが教えまいが、お前は勝手に動くだろう。


「ロシュ」

「んだよ」

 相変わらず謝る気のない彼女は今にも噛みつきそうな様子でこちらを見ている。下手なことを言えばこっちを殺す気でいるのが見て取れた。

「お前に指示を出す」

 彼女を自分で動かせる駒とは思わない、だけど


「今回の件、お前の好きにしろ」

 俺の掌の上にはいてもらうぞ。

一人だけ血の気が多いです

普通に挑めばオルコスが勝ちますが…

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