あるヘンテコな魔物に転生した元人間の話
最近、たくさんの方にお読みいただいているようなので、番外編最新話を更新します!
お楽しみください。
俺は人間、だった者だ。
現世で交通事故に遭い、気づいたら海の中だった。
どうやら、イカに転生したらしい。
意味がわからん。
神よ。なにがどうして、俺をイカに転生させたんだ?
もっと分からないのは、詳しくは知らないけれど、明らかにイカの寿命を超えて生きていること。
「また魔物だな……タコの次はイカか」
「なんだって?」
「お前さんと同じ奴がいたってことだ。ここより、陸に上がったほうがいいと思うぞ」
通りすがりのウミガメはそう言って、優雅に泳いでいった。
……俺はイカだぞ。
陸になんて、上がれるわけがないだろう。
――しかし。
あるとき、漁師の仕かけた網にかかり、「ゲテモノだな」と言われて捨てられたのをきっかけに、陸に上がるはめになった。
……なぜだ。普通に、息ができるぞ。
俺の体は、水陸両用か。それはいい。
……よくない。これからどうしろと?
海からも遠く離れてしまったようだ。どう行けば戻れるのかも分からない。
そもそも、歩くのが……不便すぎる。吸盤が! 貼りつくんだよ、地面に!
「あら……これはまた変わった子ね」
見上げると、人間の女が俺を見ていた。
変わった子、だって? この女、イカを知らないのか? 変わっているのはお前のほうだ。
「うちに来ない? 困っているんでしょう。このままだと干からびちゃうわよ」
「……そう言って食べるつもりか?」
「うちには、あなたみたいな子がいっぱいいるのよ。一人じゃないから大丈夫」
……話が通じない。当然か。
怪しさはマックス。
でも、断ればこの強い日差しの中、ろくに動けず干からびるのは目に見えている。さすがに、そんな死に方は嫌だ。
「しょうがない。ついていってやる」
「この反応……来てくれるの? よかった。さぁ、行きましょ」
俺の体を両手でむんずとつかんで、そのまま連れていかれた。
そこは、女の言うとおり、様々な動物――ならぬ、魔物が住んでいる家だった。
ここはなんだ? 魔物動物園か?
「研究所だよ」
女に意味もわからず魚拓をとられたあと、一羽の白いフクロウが話しかけてきた。
白いフクロウか。幻想的だな。魔法使いの肩に乗っていそうだ。
……いや、待て? 研究所、って言ったか?
「研究所って、なんの研究所だ?」
「俺たち魔物の、に決まってるだろう。ここから出るには、冒険者の従魔になるしかない。そうじゃなけりゃ、ずっと研究体のままだ」
おいコラ、冗談じゃないぞ!
干からびるよりマシ……いや、そうとも言えなくないか!?
研究体って、なんだ? 人が再生能力持ちなのをいいことに、何度も切り刻まれるのなんて嫌だぞ!
「……どこ行く?」
「逃げるに決まってるだろ!」
「無理だな。お前、もう手続き済んでるだろ」
「手続き!?」
「さっき、魔法の墨を塗られただろう。あれは契約の一種。お前はもうここの一員」
「だから、それがなんだ!」
「さっき言っただろ。ここから出るには、冒険者の従魔になるしかない。自力じゃ出られないんだよ」
「…………」
ウソだろ。
じゃあ、出る! さっさと俺をもらってくれる冒険者、こい!
……いや、待て? それはそれで、結局自由の身に戻れなくなるんじゃないか? 同じことじゃないか!?
ど、どうする? どうすればいい!
――いい解決法が見つからないまま、時間だけが無情にすぎていく。
「邪魔するぜー」
「あら、二人ともいらっしゃい。よく来てくれたわね」
ある日、女とは違う人間がやってきた。
冒険者か!? 頼む! 俺を解放してくれ!
水槽に入れられ、連れていかれた先にいたのは――
「……なんだよ、それ」
「魔物みたいなんだけど。どう? 見たことないでしょ?」
男。肩に赤いものをのせている。
いや。あれは……タコだ!
なんの冗談だ。タコを肩にのせている奴なんて、初めてだぞ。
その男が、水槽から出された俺に顔を近づけて、つついてくる。
……ヘラヘラ笑いやがって。なめてんのか!
「カイルさん、離れてくださいっ」
イカ墨噴射!……残念、外れたか。あのタコのせいだ。
……今、人間の言葉を喋ったか? あいつ。
不思議に思っていると、水槽に戻されたあと、そのタコが下りてきて、近寄ってきた。
「こんにちは。陸上デビューおめでとうございます」
「……なにが陸上デビューだ。こっちは散々な目にあってんだぞ。こんな、怪しいところに連れこまれて。なにされるか分かったもんじゃねぇ」
「え? いえいえ、そんなことないですよ。ここは安全なところですよ」
「嘘つけ」
「嘘じゃないです! 本当です」
触手を二本上げて、必死に否定してくるタコ。
胡散臭い。
「お前は自由の身だからいいけどな……俺は、ここから出られないんだぞ」
「そうですよね。大変ですよね」
「はん。お前に俺のなにが分かる?」
「ちょっとだけなら。僕も元々ここにいましたから、不安になる気持ちは分かります」
「……お前もここに? そうか。あの弱そうな奴の従魔になったからか」
「弱くないですよ。カイルさんは、勇者なんですから」
「……勇者?」
「はい! 一番強い冒険者です!」
そのタコは、自慢げに、腰に触手を当てて胸を張った。
こいつが、勇者の従魔だと? こんな、とぼけた奴が?
「どうやって従魔になったんだ? どんな媚の売り方したんだよ?」
「媚は……別に売ってませんけど」
「じゃあ、どうやって? あいつと戦って、倒されて捕まったのか? どっかの電気ネズミみたく」
「だから違いますってば! ボールの中に押しこまれて、君に決めた! とか言われて戦わされるアレとは違いますって! っていうか、なんでそんなこと知ってるんですか!? あなたもしかして……!」
タコが、ぎょっとしてこちらを見てきた。
……話が通じた?
ってことは、こいつも転生した身か?
こいつは勇者の従魔で、俺は研究体ってか? なんだよ、この差は。
しばらくして、タコは主人の勇者とかいう奴とともに、慌ただしく出ていった。
「あいつは『巨大化』の持ち主らしいぞ」
「『巨大化』?」
白フクロウが、また話しかけてきた。
こいつ、なにかとちょっかいかけてくるけど、何なんだ。同じ白い体同士だからって、仲間だとでも思っているのか?
「魔物の中でまれに使える奴がいる特別なスキルだ。お前も似たような見た目だし、使えるようになれるんじゃないか?」
「本当か?」
「さぁな。でも、どの道誰かの冒険者にならない限り、無理だろうけどな」
……巨大化。
巨体のタコ? それは……クラーケンか?
いやいや。クラーケンはダイオウイカだとする説が有力のはずだ。
……じゃあ、俺か!? やっぱり俺、素質あるんじゃないか!?
こうしちゃいられない。さっさと俺を従魔にする奴を捕まえて、なってみせる!
魔物界の王者級の存在、クラーケンに! 待ってろ、タコ野郎!
ありがとうございました。これにて本当の完結です。
完結して1年あまり、ここにきてたくさんの方々に読んでいただけて、嬉しいの一言に尽きます。
よろしければ、他の作品もぜひお読みください。
本当に、ありがとうございました!




