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オクトパス・クライシス! 〜異世界でタコに転生しました。しょうがないので伝説の魔物目指します〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第5章 佳境編

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63話 相手の出方を見つつ有利に事を進めましょう

 カイルさんからの突然の、「手を組まねぇか」発言に、ラルゴさんとリタさんは困惑していた。


 そこで、まずは僕らについて説明した。キャラウェイ王国からきた点を念頭に、エルダーの居場所を特定して反撃するのが目的だと、簡潔に。



「キャラウェイから……? まさか、あの〈サイプルス〉の砦を通過してこられたのですか?」


「いや。マリネの『巨大化』のスキルを使って、谷を越えてきたんだよ」


「『巨大化』……!? 神からご加護を受けた証とされる力を、お持ちなのですか!?」


「へっ!?」



 目を見開いて身を乗り出してきたラルゴさんに対し、こちらは仰け反った。


 神からご加護を受けた証って。確かに、リオネサーラ様から力を授かったわけだから、そういうわけなのか?



「神のご加護……!? 本当なのですか?」


「いや、あの――」


「当然だろ。うちのマリネは『聖獣』なんだからな」


「聖獣!?」



 ラルゴさんとリタさんの声がかぶった。


 カイルさぁん! 余計に混乱させてどうするんですかっ!



「いえ! でもその、公認されたわけじゃない、のでっ」


「ですが、事実……と」


「え……ま、まぁ……はい」



 ラルゴさんもリタさんも、驚いた顔のまま僕を凝視している。困ったな。



「……だからさぁ。そうやって自慢げに言わないでくれる? 恥ずかしい」


「恥ずかしいってなんだよ。主人が従魔の自慢して、なにが悪いんだよ?」


「相手、誰だか分かってる?」



 指摘してもなお、頭上にクエスチョンマークを浮かべているような様子のカイルさんに、ティムさんは諦めたとばかりにため息をついた。オリヴィアさんとレックスさんが、それを微笑ましく傍観している。



「それが本当なら、力を貸していただけるのならありがたい限りです。しかし……なぜ?」


「決まってんだろ。このくだらねぇ戦争を終わらせるためだよ」


「たった四人で、危険を冒してまで?」


「あんたが言うのかよ。っていうか、当たり前だろ? 俺たちは冒険者だ。てめーの目的のためなら、どんな危険だって乗り越えてみせる」



 カイルさんは、一度僕ら全員と顔を見合わせた。


 オリヴィアさんとレックスさんは頷いていたが、ティムさんだけは、呆れたようにそっぽを向いていた。


 ラルゴさんは、口を半開きにして感心した様子で沈黙。その後、表情を曇らせた。



「お気持ちだけ、受け取らせていただきます。残念ながら、我々には貴方方を雇うほどの資金が――」


「誰が雇えっつったよ。手を組もうっつってんだろうが」


「……手を組む……とは?」


「宮殿の中がどうなってるか、知ってんだろ? あんたはその情報を俺らに渡す。俺らは戦力を提供する。それでお互い様だ」



 カイルさんの言葉に、ラルゴさんは目を見張った。



「最終目的が同じなんだ。得はあっても損はねぇだろ?」


「だから、どっからくるのかなその自信は……」


「あん!? お前らも人任せにしてねぇで、なんとか言えよ!」



 呆れて呟いたティムさんに、カイルさんが立ち上がって吠えると、どこからか小さな笑い声が聞こえてきた。


 それが誰なのかは、すぐに分かった。ラルゴさんだ。顔を俯けて、肩を揺らしている。



「面白い」


「……!」



 顔を上げたラルゴさんは、不敵な笑みを浮かべていた。


 それを見たリタさんが、目を大きく見開き、僕たちも息をのんだ。


 うまくは言えないのだけれど。人の上に立つ人の威厳のようなものを、肌で感じたような気分だった。



「王宮内部は、エルダーの命で手が加えられて複雑な構造になっているようです。危険な任務になるかと思われますが……よろしいのですね?」


「何度も言わすな。俺らは冒険者だからな。そんなのむしろ、望むところだ」


「……勝つには、エルダーの居場所を特定する必要があります。ですが、我々だけでそれができるかといえば……正直、不可能に近いと思っておりました」



 ラルゴさんは、そう言ってしばらく考え込んでから、まっすぐカイルさんの目を見つめた。



「お名前を、伺っても?」


「あ? ああ。俺はカイル。で、こいつが従魔のマリネ。それと、ティムとオリヴィアとレックスだ」



 さくさく話を進めたいせいなのか、カイルさんが全員分の紹介をした。うん、もうちょい丁寧にした方がよかったのでは。



「カイル殿。それから、皆さん。どうか、我々に力を貸していただきたい」



 立ち上がったラルゴさんは、最初に会ったときと同じように、腰を九十度近く曲げて頭を下げた。


 ひええ。一国の王子様もとい次期王様に、二度も頭を下げさせてしまった!


 狼狽えるこちらとは対照的に、カイルさんは「やれやれ」といった様子で笑い、首を横に振った。そして、ラルゴさんの前に立つと、屈んだ彼の視界に入るようにするためか、少し下げ気味に手を差し出した。



「そんな簡単に下手に出るなよ、王子様。これで十分だっつうの」


「……っはい」



 ラルゴさんは、さらに突き出されたカイルさんの手を、がっしりと握り返した。少し顔をしかめていたようだけど、大丈夫だろうか。カイルさん、馬鹿力だからなぁ。



「あとで、不敬だなんだって怒られませんかね?」


「なに言ってんの。今さら遅いよ、もう」


「確かに」


「……それを指摘するのは、ほとんどが王族本人じゃなくて周囲にいる臣下だからな。大丈夫だろう」



 ならば、外で待機している市民の方々には、あとで非難轟々かもしれないな。


 少しげんなりとしつつ、まるで新しい友達ができたかのように嬉しそうにしているカイルさんを、ぼんやりと眺めた。




◇◇◇




 宮殿内部の情報提供のため、実際調べ上げた軍人たちを呼び寄せるので少し待機していてほしいと言われたので、僕らは一旦地下道から外に出た。



「おい……なにまた泣いてんだよ」


「……っ申し訳、ありません……!」



 一緒に出てきたリタさんは、先程から顔を手で押さえて一人静かにしくしく泣いていた。


 カイルさんが困惑しながら尋ねると、リタさんは袖で涙を拭ってこちらを向いた。その顔には、意外にも晴れやかな笑顔があった。



「なんだか、とても懐かしくなってしまって。先程の兄の顔……『面白い』と言った瞬間の顔が、往年の父にそっくりだったので」


「……確かにな。偉い奴のオーラみたいなのがあったわ」


「語彙力皆無かよ」


「うっせぇな!」


「カイルの語彙力はともかく、ラルゴ王子が無事に王位を奪還すれば、この国は立派に再建できるだろうな」


「そうかもしれんな。芯の強い王女様もいるしな」



 レックスさんが言うと、リタさんは目を見開いた後、顔を綻ばせた。



「皆さん……ありがとうございます」


「礼を言うのはまだ早いだろ。これからだっての」


「……本当に、行かれるのですか」


「当たり前だ。エルダーをぶっ倒して、戦争を終わらせる。俺たち自身のためにもな」


「カイル様……」



 憧れのような眼差しを向けてくるリタさんに、カイルさんは「なんだよ」と言って、肩をすくめた。


 おや。カイルさんって、意外と初だったりして?



「……なんだ、マリネ。その顔は」


「いえ、別に?」


「許さん。潰す」



 にやにやしていたら、カイルさんからアイアンクローを食らった。いや、潰れる。冗談抜きで潰れる!



「あのさ。すごい勘違いしてるみたいだから一応言っとくけど、エルダーの『居場所』を特定するのが俺たちの仕事だからね?」


「分かってるっつーの。けど、最終目的はぶっ倒すことだろ?」


「そればかりに気を取られるな、カイル。『マシュデルに蹴られるな』、だぞ」


「お前ら……そんなに俺が信じられねぇってのか!」


「違う。信頼しているからこそだ。お前が無事でいてくれなければ、絶対に成し遂げられないと」



 自暴自棄になって吠えたカイルさんは、オリヴィアさんに真面目な表情で諫められて、「……そうかよ」と言って大人しくなった。


 さらっと出てきた諺らしき言葉が気になって、触手を動かしてこっそりレックスさんを呼んだ。



「なんですか、『マシュデルに蹴られるな』って」


「ああ。お前さんはそういう言葉の類いは知らんだろうな。『一つのことにとらわれて視野を狭くしてはならない』という教訓だ」


「へー。面白いですね」



 マシュデルとは、ヒツジに似た見た目で、比較的大人しい部類の魔物だったはず。すなわち意味は、「それに蹴られるとは、相当周りが見えていないようだから気をつけろ」だろうか。


 魔物を使った言葉遊びみたいなものか。ケイティさんなら、他にも色々知っているだろうから、あとで聞いてみようか。戦争が終わって、ゆっくりできるときがきたら。



「お待たせいたしました」


「うおっ!?」


「ひゃっ!?」



 地下道の穴から突然人がひょっこり出てきて、僕とカイルさんが声を上げた。


 見た目は、薄い茶色の短髪に垂れ目で、かなり若そうに見える。こちらを向いて、右手を挙げて敬礼のポーズをした。



「失礼いたしました。準備が整いましたので、お越しください」


「お、おう」



 その人は、それだけ言ってまた地下道へと引っ込んでいった。


 なんだか、独特な雰囲気の人だった。敬礼した姿とか、きびきびした喋り方から察するに、ラルゴさんが言っていた、こちら側に寝返った軍人のうちの一人だろうか。


 地下道に入り、先程ラルゴさんと会った部屋に戻ると、テーブルの上いっぱいに大判の地図が広げられていた。座っているラルゴさんの左右の、少し後ろに下がったところには、先程呼びにきた黒い軍服姿の人と――ほぼ同じ顔の人が、もう一人控えている。


 え? 分身? まさか、ドッペルゲンガー!?



「お待たせいたしました。どうぞおかけください」


「その前にそいつらについて説明してくんねーか」



 カイルさんに言われ、ラルゴさんは頷き、背後に控えている二人とアイコンタクトをした。


 その二人は、手を後ろに回して組んで、少しだけ胸を張った。



「私はディーン」


「私はフォックス」


「エストラゴン王家に命を捧げた者であります!」



 最後のセリフは、まるで何度も練習したかのように、二人そろって一字一句がぴったり重なった。声もそっくりだった。


 こちらから見て右側にいる、左目の斜め下に泣きぼくろがある方がディーンさんで、左側にいるのがフォックスさんらしい。ちなみに、先程僕らを呼びにきてくれたのは後者だ。


 へたをすれば、二十歳前後。カイルさんたちよりも若いかもしれない。そんな若さで強い忠誠心を抱けるとは。意志の強い人たちだな。



「そういう軍人もいたんだな」


「当然です」


「我々には、王家に命を救われたご恩があります」


「それに報いるため、最後まで命を賭して戦い続ける所存です」


「ラルゴ様が王位を取り戻し、国が復興を遂げるそのときまで。必ずや!」



 シュバッと音を立てて敬礼した二人の勢いに押されて、僕らはそろって引いた。


 卒業式かなにかのセレモニーでの掛け声のように、きちっと交互に言い合って、息ぴったりだった。意思疎通がしっかりできている、否、まったくと言っていいほど同じ気持ちなのだろう。分身でもドッペルゲンガーでもなく、双子でよさそうだ。



「宮殿内部の調査をしたっていうのは、この二人?」


「そうです。じかに話を聞いた方が分かりやすいかと思いまして」


「構わんが……あんたらは、俺らを信じてもいいと本気で思っているのか?」



 レックスさんが、試すような鋭い目を双子軍人に向けた。


 しかし、二人が動じる様子はなかった。



「なにをおっしゃるのですか」


「言うまでもありません」


「リタ様をお救いくださった方々を」


「ラルゴ様が信じるとおっしゃった方々を」


「信じられないはずがありますまい!!」



 再び、最後の言葉で二人の声がぴったり重なった。


 だから。卒業式の掛け声か。


 さすがのレックスさんも、「よく分かった」と言いつつ、口元を若干引きつらせていた。



「なんか……えれー奴らと関わっちまった気がすんだけど」


「だから、今さらだって」



 感心したりげんなりしたりしつつ、それぞれが好きな席についた。ラルゴさんの左隣にカイルさん、右隣にレックスさん、カイルさんの隣にティムさん、レックスさんの隣にオリヴィアさんが座り、リタさんはオリヴィアさんの隣に座った。先程とおおむね同じだ。


 核心に迫る重要な作戦会議が、始まった。

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