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オクトパス・クライシス! 〜異世界でタコに転生しました。しょうがないので伝説の魔物目指します〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第4章 混迷編

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49話 装備品はランクを考慮して調達しましょう

 全体的に黒で統一された衣裳。マントを羽織り、その下の着衣の胸には大きな紋章が描かれていて、腰のあたりでベルトのような紐でくくっている。下半身部分はスカートのようになっているが、真ん中に長いスリットが入っている。胸元上部――鎖骨のあたりには、いくつもの勲章がつけられていた。



「よく来てくれた。そなたらが『レジェンズ』か」


「ああ……はい」



 カイルさんが、歯切れの悪い返答をするのは、わけがある。否、見てのとおりだ。


 僕らの目の前にいるのは、言わずと知れたフェンネル騎士団団長もとい、パルマローザ家現当主のヴィンセント・パルマローザ氏だった。


 中年らしく年相応に皺があるが、髭は丁寧に剃られている。髪は、限りなく黒に近いグレーだ。実年齢は予想以上に高い気がする。当てられる自信はまったくない。


 衣裳にも、目がひかれる。他の、副団長のエリオットさんを含めた団員たちは白で統一された軍衣なのに対し、団長は真逆の黒。彼が放つ威厳を際立たせているようだった。


 本格的な戦闘が始まろうとしているときに、なぜそんな人と会っているのか。それは、ひとえにあちらに呼ばれたからだった。



「団長が、是非君たちに会いたいとおっしゃっている。差し支えなければ、私と一緒に駐屯所まで来てもらえないだろうか」



 そう言ってきたのは、図書館爆破事件の際に世話になった、第五分隊隊長のアーノルドさんだった。伝言を聞いたとき、僕らは目をひんむいて言葉を失った。


 団長からのお誘いを、簡単に蹴るわけにはいかない。そこで、こうして会う運びになったのだ。



「エリオットから話は色々聞いている。それで、少し興味をもってな」


「そうか――そうです、か」


「触れても構わないか?」



 カイルさんが慣れない敬語でもたついている間に、団長さんはそんなカイルさんに近づき、肩の上にいる僕を見て聞いてきた。


 先に会ったエリオットさんに、「隠れる必要はない」と言われていたので、最初から『カモフラージュ』は使わずにいたのだ。いい意味で――そうだと信じたい――好奇の目を向けてくるその人に、おずおずと頭を下げる。


 すると、団長さんは僕の頭を指でつまんだ。そして、なにか熱いものに触れたかのように、すぐに離し、険しい顔をした。



「ふむ……奇妙だな」


「……も、もったいなきお言葉です?」



 返事として合っているか自信がなかったので、語尾が上がり調子になった。



「そなた、『巨大化』のスキルを持っているというのは本当か?」


「えっ?……いえ、そんな。ど、どこでそれを?」



 背後にいるティムさんからの圧を、ひしひしと感じる。無闇に認めるな、とでも言いたいのだろうと察し、どちらともとれそうな曖昧な言い方をしてみた。



「昇格試験の際、私の友人が観客の中にいたのだ。彼はそんな突飛な嘘をつく者ではないはずだが……私の考えが間違っていたのだろうか?」


「え……えと……おっしゃるとおり、です」



 鋭い目でまっすぐ見つめられたら、肯定するしか道はなかった。


 無理です、ティムさん。これ、嘘ついてもすぐばれるやつだから!



「で、でも、まだ素質があるってだけですよ。あのときはまぐれでできただけで……自分でもよく分からないんです」


「そうか。それは残念だ。『巨大化』できる魔物が味方にいれば、戦力として大いに期待できるところなのだがな」


「好き勝手言ってんじゃねぇよ。マリネは俺の従魔――仲間だ。あんたらの道具じゃねぇ」



 眉間に皺を寄せて険しい顔をしたカイルさんが、一歩前に出て団長さんを睨みつけた。


 カイルさん? お相手、誰だか分かってます!?


 慌てて、カイルさんの頬を触手で軽くつついて、首を横にぶんぶん振った。



「……失礼。私としたことが、語弊のある言い方をしてしまったな。今のは訂正しよう」



 冷静な口調で言う団長さんに対し、カイルさんは不愉快そうに目をそらし、舌打ちをした。もはや、相手がかなり目上の人だという意識はどこかへすっ飛んでしまった様子だ。


 しかし、団長さんは気にも留めず、姿勢を正して改めて僕らを一人ずつ順番に見つめた。



「君たち冒険者の力なくして、この国は守れぬ。よろしく頼むぞ」



 きりっとした真剣な眼差しを向けられ、どう返すべきか迷ったが、カイルさんがゆっくりと頷いただけで、うまくまとまった。


 そして、司令部で会議があるそうで、団長は一足先に去っていった。



「広場まで送ろう」



 団長さんの後ろでじっと控えていたエリオットさんが、先に歩きだした。



「あんたは出なくていいのかよ? 大事な会議に」


「問題ない。父上――団長からの命だ」



 エリオットさんは、こちらを振り返らずにそう言った。


 この人も、忙しいだろうに。わざわざ僕らを送るよう命じるなんて、大丈夫だろうか。お父上の尻に敷かれているのだろうか。


 そこで、団長と会って最初に思った疑問を思い出した。



「エリオットさんって――」


「あんたら、似てねぇな」



 カイルさんと言葉がかぶった。が、聞こうとしていた内容はおおむね同じだったようだ。


 念のため言っておくが、僕は「お母さん似ですか?」と、遠回しに聞くつもりだった。



「本当に親子なのか?」


「ばかだな。嫡男なんだから、そうに決まってるだろ?」


「いや、違う」



 呆れたティムさんの言葉が、エリオットさん本人によって否定されると、一瞬で場の空気が凍りついた。無遠慮に切り出したカイルさんでさえ、顔を引きつらせている。


 違うって? え? エリオットさんと団長さんは、親子では、ない?


 混乱するこちらに対し、構わず先を歩くエリオットさんは、ふ、と笑ったように息をもらした。そして、「手短に話そう」と言った。



「私は、パルマローザ家の親戚筋の家に生まれた者だ。故郷は〈ガラナ高原〉で、茶葉を育てて生計を立てていた」


「〈ガラナ高原〉……」



 地図をポーチから出して、確認する。〈ガラナ高原〉は、ここ〈サントリナ〉の北にずっと行った先にあった。紅茶の茶葉の一種・ガラナの生産地か?



「じゃあ、養子に入ったってこと?」


「そうだ。父上と母上の間には、なかなか子ができなかったそうだ。そこで、年齢などを加味した上で私が選ばれた」


「サイラスさんと一緒に養子になったんですか?」


「いや。私が養子に入って一年がすぎた頃に、母上が懐妊したのだ。それで生まれたのが、弟だ」


「……なんとも複雑だな」



 オリヴィアさんが、ため息まじりに言った。


 奥方は、養子を迎えて跡継ぎ問題が解決し、そのストレスから解放されて見事懐妊、といったところか。おそらく、誰も想像していなかったのだろう。



「養子縁組は解消されるものだと思っていたが、そうはならなかった。父上も母上も、実の子のサイラスを可愛がる一方で、私にも同等の愛情を注いでくれた……お前が嫡男だと告げられたときは、不覚にも涙が止まらなかったよ」



 歩きながら話しているため、エリオットさんの表情は見られない。だが、その声色から分かる感情は、紛れもなく「喜び」だった。



「そのときに誓ったのだ。私は、パルマローザ家嫡男として、この家を――この国を守る。弟が立派に成長し、私を追い越す日がくることを願い、見守っていこうと。それが、今となっては生きがいなのだ」


「生きがい、なぁ……」



 カイルさんが、困惑したように眉を寄せ、頭を乱雑にかいた。


 いきなりこんなお家事情についての話になるとは、思わなかった。僕らが聞いていい話だったのかな、本当に。



「俺はよ。貴族連中なんて、どいつもこいつもお高くとまって気に食わねぇ奴らだと思ってた。まぁ、実際そういう奴が多いってのは間違いねぇだろ。さっきのあんたの親父とか」


「…………」


「けど、あんたや……辺境伯サマに会ってよ、ちょっとだけ考えが変わったわ。あんたらが大事にしてるもんの中に、俺らと同じのもあるんだって分かったから」



 エリオットさんが振り返り、少しだけ目を大きく開いた。その彼に、カイルさんが拳を突き出す。



「俺たちは、俺たちの大事な、守りたいもののために戦う。それだけだ」


「……ありがとう。私たちも、そうしよう」



 エリオットさんは、一度目を閉じると、穏やかな笑みを浮かべてカイルさんを見て、その拳に自分の拳を軽くつけた。



「貴殿らには、礼をしなければならんな。なにか困ったことがあれば言ってくれ。できる限り対処しよう」



 エリオットさんは、きりっとした目をして言った。騎士団の副団長が味方につくとは、なんて頼もしい。



「じゃあさ、さっそくだけどお願いしてもいい?」


「なんなりと言ってくれ」


「新しい杖を探してるんだけど。前に持ってた『アメジストの杖』と同等か、それ以上の性能の杖」


「……『アメジストの杖』?」



 エリオットさんが立ち止まって振り返り、目を丸くする。


 ティムさんの面の皮は、一体どれくらい分厚いのだろう。



「騎士団なら、装備品は山ほど蓄えてるはずだよね? 一つくらいそういうのがあってもおかしくないと思うんだけど」


「……そうだ。いいものがある」



 少し俯いて考えていたエリオットさんは、部下を呼びつけてなにか指示していた。部下の人はすぐにどこかへ行き、しばらくして戻ってきたときには、長い箱を持っていた。



「これなら申し分ないだろう。開けてみてくれ」



 自信満々なエリオットさんに促され、ティムさんが箱のふたを開けると、中には白い布に覆われたものが入っていた。それを布ごと持ち上げると、オリヴィアさんの手も借りつつ布をとった。


 出てきたそれを見て、エリオットさん以外の僕らはそろって目を見開いた。



「ちょっと、待って。これって――」


「『ダイヤモンドの杖』だ」



 透明の輝く宝石がちりばめられ、まばゆい光を放っている杖だった。先端に拳大のもの、それを囲うように小さな粒状のものがあしらわれている。



「きれいですね。なんていうか……強そうです」


「治癒魔法以外の、すべての攻撃魔法と強化魔法が使える。貴殿らのランクなら問題なく扱えるだろう」


「へー。よかったですね、ティムさん!」



 同意を求めて顔をのぞきこんだが、ティムさんはもちろん、カイルさんとオリヴィアさんまでも口を半開きにして唖然としていた。



「よかったじゃないよ、無理だよ。こんなのもらえないよ」


「借りるっていう頭はねぇのかよ」



 カイルさんがぼそっと言ったツッコミは、ティムさんの耳には入らなかったらしい。エリオットさんに、その杖を突き返そうとしている。



「いや、是非もらってくれ。扱える者がいなくて、どうしたものかと思っていたのだ。このまま保管していても、宝の持ち腐れだろう」


「ならば、なぜそんな物を持っていたんだ?」


「自然科学研究所から寄贈されたのだ。なんでも、高純度の原石が手に入ったとか。それを使って試験的に生成したら、非常に優れたものができたから是非にと」


「……高純度の原石だ?」


「ああ。どこかの冒険者が〈シルフィウム鉱山〉で採取したものだと聞いた」



 エリオットさんを除き、互いに顔を見合わせた。


 それってもしかして、前に僕らが持ち帰って没収されたやつではありませんかね? それが巡り巡って返ってきたのか?



「あるんですね、こんなことって」


「…………」



 あってたまるか、とでも言いたげに、三人は目を細めて口元を引きつらせ、こちらを無言で見つめていた。

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