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オクトパス・クライシス! 〜異世界でタコに転生しました。しょうがないので伝説の魔物目指します〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第2章 応用編

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35話 フレンドにお礼をしましょう

 棍棒を持った男に襲われていたキツネの獣人の子は、やはりロンのお兄ちゃんのルイだった。


 母が好きな魚を売っている店を見つけて買おうとしたが、人に自分の姿を見られるわけにはいかない。そこで、声をかけずにお金を置いて商品を持っていこうとしたのだが、持っていこうとしたところだけを店主の男に見られたために、泥棒だと勘違いされたようだ。



「これでお分かりいただけましたね。この子は泥棒などではありません。どうか、怒りをおさめていただけませんか」


「……っだ、だがよぉ! そいつは獣人で――」


「そうです。獣人の子供です。それがなんでしょうか?」



 ウェンディさんが仲裁に入ったおかげで、店主の怒りは瞬く間にしぼんでいった。獣人の「子供」と、強調して言ったのが効いて、店主は「……いや、なんでも……ねぇよ」と言葉を濁していた。



「お許しいただき、ありがとうございます。その寛大な御心に感謝して、私からせめてものお礼をしたいと思います」



 ウェンディさんは、手の平を合わせた祈りのポーズをして目を閉じた。



「アストラ様。どうかこの方々をお救いください……〈祈りよ、届け(アナスタシ・サナーレ)〉」



 呪文を唱えると同時に、目を開けて腕を広げた。瞬間、温かな光がウェンディさんを中心とした周囲に広がっていく。



「うえっ」



 なんだか嫌な感じがして、レックスさんのフードの中に再び隠れた。


 聖女のウェンディさんが使った魔法だから、間違いなく聖魔法に属するだろう。魔物の僕にはきつすぎる……う、お腹がゴロゴロしてきた。



「おお、なんてこった……!」


「腰の痛みがなくなったぞ!」


「見てくれ、俺の古傷が跡形もなく消えたぞ!」


「すごい……! 聖女様万歳!」



 一人の人が言い出した万歳コールは、周囲にすぐに広がっていった。おかげで、その場を退散するのにとても苦労した。


 人ごみから離れて町の外に出たところで、ようやくフードから出た。



「カイル、さん……」


「は!? マリネ!? なにしてたんだお前!?」



 がくがくと震える体のまま、カイルさんになんとか触手を伸ばす。落ちそうになったところを、ナイスキャッチしてもらった。



「ウェンディの復活魔法にあてられたな」


「すみません……! マリネさんがいたことを失念しておりました」



 ウェンディさんが、カイルさんの手の上でぐったりしている僕に詰め寄る。



「大丈夫、です……ちょっとお腹がゴロゴロするだけで」


「変なもの食べたみたいな言い方するなよ」



 カイルさんの後ろから、またまた聞きなれたトゲのある言葉が降りかかる。ティムさんだ。相変わらず、不機嫌そうに眉をひそめている。



「ティムさんも……お懐かしい」


「なに言ってんの。まだ半日しかたってないのに」



 呆れたように細めた目をしてため息をつくその姿を見られて、落ち着いた。おかげで、少しだけ腹の調子が良くなってきたようだ。


 ふう、と大きめに息をつくと、触手を命綱のようにして伸ばして地面に下り、カイルさんの足に絡みついているキツネの獣人の子と目を合わせた。



「ルイくん、で合ってるよね? 弟のロンくんが君を探してたよ」


「……! ロンが!?」


「うん。僕たちの友達と一緒にいるから……ほら、あそこ」



 ちょうど、馬車からリズさんと一緒にロンが降りてきた。ルイの姿を見た瞬間、目に涙をいっぱいためて走り寄ってきた。



「お兄ちゃあん!」


「ロン……! バカ! 母さんの看病してろって言っただろ!?」


「だってぇ……っ兄ちゃん遅いんだもん!」



 ロンはルイにしがみつき、わんわん泣いた。緊張の糸が完全に切れたようだ。


 そして、ロンが落ち着いたところで、キツネの兄弟とは別れた。



「もう一人でこんなとこに行こうなんて考えるなよ。母ちゃんのそばにいてやれ」


「うん。ありがとう、カイル兄ちゃん」


「ありがとう! マリネときれいなお姉ちゃんと、あと髭のおじちゃんも!」


「……おう。気をつけてな」



 ロンに、「おじちゃん」と呼ばれたレックスさんは、口元を若干引きつらせていた。とはいえ、最後にロンの笑顔が見られたので、こちらとしては大満足である。



「なんでカイルが兄ちゃんで、俺がおじちゃんなんだ? 三つしか違わないってのに」


「そりゃ見た目のせいだろ。若く見られたきゃ髭剃れよ」


「こいつは俺のアイデンティティなんだよ」


「なーにが、アイデンティティだ。人を散々無駄に走らせた罰が当たったんだよ」


「……ああ。いや、しょうがないだろ? こうなるなんて誰が予想できた?」



 レックスさんが苦笑して、怒り心頭といったような様子で舌打ちをしたブルーノさんの肩に手を置いた。が、すぐに振り払われていた。



「あれ……スティーヴさんは?」


「先に帰った」


「え? 護衛は?」


「必要なかったみたい。買ったものは全部、転移魔法で送ってもらえたから」


「そうですか……えっと、じゃあ報酬は……?」


「片道分しか発生しないね。それもたぶん、あってないような額程度」


「…………」



 現実に打ちのめされ、真上の空を見上げながら呆然とするカイルさんと、そっぽを向いて舌打ちをするティムさんには、かける言葉が見当たらなかった。



「で、でもほら。おかげでルイとロンは助かったわけですし!」


「そーだな、それはなにより……じゃ、ねぇだろ」


「へっ?」



 カイルさんが、僕の頭を鷲づかみにした。



「な・ん・で、お前がここにいるんだよ? オリヴィアと留守番してろって言っただろ?」


「言われてません。成り行きでそうなっただけです」


「あん?」


「そいつを怒ってやるな。俺が無理矢理連れてきたんだよ。お前に話があったから」


「話?」



 カイルさんの、僕をつかむ手の力が緩んだ。


 レックスさんは、ウェンディさんとブルーノさんに先に馬車に乗っているように声をかけた。了承した二人がリザさんのいる馬車に乗りこんだところを見届けると、再びカイルさんを見て口を開いた。



「例の、〈シルフィウム鉱山〉に捨てられていたダンデレウスとレッドビーナの元の飼い主が分かったぞ」


「っ! 本当か!?」


「ああ。その件でコーネリアス様に大層喜ばれてな。お前らにもなにか褒美をしたいとおっしゃってたぞ」


「ペンドリー辺境伯が……? なんで?」


「それがまた面白いんだよ。その犯人っていうのが、〈ゴツコラ〉の領主の跡取り息子だったんだ」


「〈ゴツコラ〉の……そういうことか」



 ティムさんはすぐに事情を把握した様子だが、カイルさんの頭上には、いくつものクエスチョンマークが浮かんでいるように見えた。僕は地図を取り出して、カイルさんに見せるように広げた。



「ペンドリー辺境伯さんがおさめてる領地がここ、〈ハーツイーズ〉。で、〈ゴツコラ〉はその隣ですよね」


「ああ……で? だからなんだ?」


「〈ハーツイーズ〉と〈ゴツコラ〉は、元々一つの領地だったんだ。それが昔、二つに分裂して未だに和解しないまま、異なる家が代々それぞれの土地をおさめてる。ここまで聞けば、なんとなく分かるだろ?」


「……はーん。つまり、〈ハーツイーズ〉側は嫌いな相手を責める口実が手に入ったってわけか」



 カイルさんがそう言いながらレックスさんを見ると、レックスさんは苦笑しながら頷いていた。



「近いうちに公表されるらしいから、大きな騒ぎになるぞ」


「ダンデレウスとレッドビーナはどうなった?」


「処理された」



 カイルさんが目を見開き、顔を俯けて「……そうか」とだけ言った。


 それを見たレックスさんが、肩をすくめる。



「お前のそういうとこ、嫌いじゃないぞ。けど、場合によっては枷になりかねんからな。気をつけろ」


「知ってる」



 レックスさんは、カイルさんの返事を聞くと、次に僕を見た。



「カイルのこと、よく助けてやれよ。まぁ、分かってると思うが、一応な」


「はいっ」



 触手を一本、警察官の敬礼のように挙げてみせた。


 レックスさんは、満足そうに微笑みながら、背を向けて馬車に乗りこもうとした。



「ありがとな! 助かった」


「ありがとうございました!」



 レックスさんの背中に向かってカイルさんが叫んだので、続けてお礼を言った。馬車の踏み台に足をかけた状態で振り返ったレックスさんが、微笑みながら手を挙げて返事をした。


 色々教えてもらったし、ずいぶん助けられた。次はいつ会えるだろうか。


 馬車が走りだし、それを見送った。すると、窓が開いてウェンディさんが顔を出した。



「マリネさーん! また会っていただけますかー!?」


「はーい! 喜んでー!」



 返事をすると、ウェンディさんは満面の笑みを浮かべて手を振った。見えなくなるまで、ずっとそうしていた。



「ずいぶん聖女に気に入られたね。早死にしないといいけど」


「う……」



 ティムさんに言われ、再び腹痛がぶり返してきたような気がした。否、腕に抱かれていたときはなにも感じなかったから、彼女の魔力にあてられなければ大丈夫だろう。



「にしても、あいつら……わざわざさっきの話をするためにきてくれたのか?」


「いえ。なんか、〈ロディオラ〉は本来の目的地の途中にあるから、寄り道すればいいと言ってくれて」


「本来の目的地?」


「はい。〈エキナセア〉っていう場所らしいんですけど、ご存じですか?」



 その瞬間、カイルさんとティムさんが、目を大きく見開いて固まった。わけも分からず、狼狽える。



「……本当、か?」


「え?」


「本当に、〈エキナセア〉って言ったのか?」


「はい。間違いありません、けど……?」



 次の瞬間、カイルさんが僕をがしっと両手でつかんで持ち上げた。



「〈エキナセア〉……〈エキナセア〉だってよ!!」


「は、はい?」


「おっしゃあ! とうとうあの迷宮が開拓されるんだな! これで行けるようになるぞ!」



 カイルさんは興奮して、ひたすら僕を高い高いし続けた。酔いそうだ。あと、わけが分からない。



「てぃ、ティムさん助けて。あと、〈エキナセア〉ってそんなすごいとこなんですか? 地図には載ってなかったんですけど?」


「立入禁止になってるから当たり前だよ。俺も噂でしか聞いたことないけど……地下深くまで続く大迷宮で、未開拓のダンジョンの中でも一番謎が多いダンジョンって言われてて、冒険者の間じゃ有名なんだよ」


「トリスタンに聞いてもはぐらかすばっかだったしな……! けど、それもレックスたちが攻略すりゃなにもかも分かるっつーわけだ!」



 連続高い高いの次は、空に向かって僕を放り投げ、キャッチしてまた放り投げの繰り返しだった。これどんなアトラクション。降ります、やめてください。

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