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オクトパス・クライシス! 〜異世界でタコに転生しました。しょうがないので伝説の魔物目指します〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第2章 応用編

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34話 フレンドと共闘してみましょう

「――と、いうわけです! レックスさん、ウェンディさん! 力を貸してください!」


「…………」



 飛び出していった僕をゆったり追いかけてきてくれた二人と落ちあって、すぐにわけを話した。


 が、無反応だった。というか、呆れているように見える。そりゃそうか。



「すみません、勝手なことして! でも、どうしても放っておけないんです……!」



 わたわたと触手を動かしていると、ウェンディさんがその場にしゃがみこんで、僕の後ろにいる怯えた様子のロンと視線を合わせた。



「ロンさん、とおっしゃるんですね。まずは、そのケガの手当てをさせてもらえませんか?」


「……っ」



 ロンは、声をかけられても動けずにいたが、しばらくしてそっと前に出た。



「ありがとうございます。すぐに治りますよ」



 ウェンディさんがロンの膝のケガに手をかざす。その手を下げた瞬間、傷は跡形もなくなっていた。まるで手品だった。



「治った……!」


「もう痛くないですよね?」


「うん! ありがとう、きれいなお姉ちゃん!」


「あら。ふふ、どういたしまして」



 さすがは聖女様。ちょっとした擦り傷程度、一瞬で、しかも呪文なしで治せるとは。


 そして、ロン。無意識だろうが、「きれいな」と形容した点にグッジョブと言ってやりたい。



「では、参りましょうか。ロンさんのお兄さんを捜しにいかないと」


「そうだな。チビのお前さんは……リズと一緒に待っててもらうか」


「それがいいですね」



 ロンは、ウェンディさんに手を引かれて、リズさんがいる馬車に乗った。顔をのぞかせたリズさんは、少し驚いた様子だったが、ウェンディさんからわけを聞いたらしく頷いていた。



「……あの、いいんですか?」


「いいもなにも、約束したんだろう? 子供との約束は守るのが大人の役目だ」


「そうでなくても、あのようなか弱い子供を放っておけませんよ」



 ウェンディさんが、「いいことをしましたね」と言って、僕の頭をなでた。



「いいこと、といいますか……あの子のお兄ちゃんの名前がルイだって知ったから、放っておけなかったんです」


「……なるほどな」



 レックスさんが、一瞬目を細め、頷いた。



「じゃあ、そのルイって奴を捜してたら、カイルも見つかるな」


「それはどうでしょうか……カイルさんとルイくんが一緒にいるとは限らないじゃないですか」


「カイルさんたちは、ブルーノさんにお任せしましょう。優先すべきは、ロンさんのお兄さんです」


「分かったよ」



 レックスさんは、ウェンディさんの言葉に二度頷き、地面にいる僕の頭をつかんで持ち上げ、着ているコートのフードの中に入れた。



「よし、行くか」


「待ってください?」



 なぜここに入れた? 肩に乗ってはだめなのか?



「お前さんの姿を晒すわけにはいかないんだよ。〈ロディオラ〉では、魔物はすなわち食材と思ってる奴らが多いんだ」


「……食材」


「見つかったら、問答無用で捕まって切り刻まれるぞ」


「よく理解しました、じっとしてます」



 事前に知っておきたかったよ! だったら、行きたいなんて絶対思わなかったのに。問答無用で切り刻まれるなんて、嫌に決まっている。


 まだ刺身にはなりたくないので、大人しくレックスさんの服のフードに身を深く沈めた。



「ついでに言うと、獣人は差別の対象でな」


「……差別?」


「ああ。獣姦の末に生まれた穢れた生き物、とか平気で言う奴もいる」



 ぞわり、と肌が粟立つ感覚がした。それは、恐怖などではない。むしろ、怒りだった。


 オリヴィアさん、トリスタンさん、そしてロン。彼らが穢れているなんて、そんなわけがないのに。



「〈ロディオラ〉は、昔から自給自足が成り立っていた強い村だからな。長い間、他からの影響を受けずにいたせいか、価値観や考え方が置き去りにされているんだろう」


「でも、他国から輸入した商品も取り扱ってるんですよね? 少なからず影響は受けてるじゃないですか」


「それは、ごく最近の話だ。昔からの風土は、そう簡単には変わらんものなんだよ」



 それ以上、言葉は出てこなかった。


 オリヴィアさんが言っていた、「二度と行きたいとは思えない」という言葉を思い出す。彼女は以前、なにかがあってここに来たときに、誰かにひどい言葉をかけられたのだ。そう考えると、なんだか胸が締めつけられるような感覚がした。



「多くは望んでおりません。しかし、私はこの〈ロディオラ〉の方々にも分かっていただきたいと思っています。命は、すべて平等なのですから」


「それが、アストラ教のおしえですか」


「ええ」



 ウェンディさんが優しく微笑んだ。


 宗教に関わる部分は、よく分からない。だが、ここの人たちはもっと知ればいいのにとは思う。少なくとも、僕の知っている獣人たちは、強くてたくましくて優しい。そんな人たちだから。



「……お願いします。早くルイくんを見つけてあげてください!」


「分かった分かった」



 レックスさんの縛った髪を引っ張って、急かした。


 どうか、ルイくんが無事でありますように。ロンくんに再び笑顔が戻りますように!


 そう祈っていると、レックスさんが「行くぞ」と言ったので、改めて人から見えないようにフードの中に隠れた。



「むぐっ」



 人ごみの中に入ったらしく、何度も押しつぶされている。必死に声を出さないようにしているが、無理がある。



「らっしゃいらっしゃい! 帝国産の上質な布が入ってるよ!」


「おいしいお茶どうぞー。今なら引きたてネトルもありまーす」


「とれたて新鮮な海産物! 安いの色々あるよ! どうぞ見てって!」


「お兄さんお兄さん! あんたに似合うのあるよ!」


「そこのきれいなお姉さん! この首飾りなんていいんじゃない?」



 活気があるなぁ。


 僕には声しか聞こえないから、どんな物があるのか分からない。お土産を買うのは無理かもしれないな。


 否、それよりも。



「……本当に、誰もレックスさんたちのこと気づきませんね」


「な? 言っただろう?」



 レックスさんもウェンディさんも、あからさまに顔をさらしているのに、誰もSランク冒険者だの聖女だのと騒いで近寄ってこない。本当に、売り手は客引きに、買い手は色々見て回るのに夢中なのか。



「あら。きれいなブレスレットですね」


「おや、お姉さんお目が高いね」



 レックスさんの後ろをついてきていたウェンディさんが、ある露店の前で立ち止まった。それに合わせて、レックスさんもすぐに止まる。



「可愛らしい……ローズクォーツですか? ずいぶん安価ですね?」


「うちは鉱石ショップとは違うからね。透明度が低いやつを中心に仕入れてるから、こんだけの値段で売れるんだ」


「そうなんですね。ちょっと持ってみてもよろしいですか?」


「どうぞ。試しにつけてみなよ」



 ウェンディさんが何かを持って、レックスさんに見せてきた。



「いいんじゃないか? オリヴィアの土産に」



 レックスさんがそう言ったので、フードからほんの少しだけ顔を出し、ウェンディさんが掲げているものを見た。淡いピンク色の丸い石がついたブレスレットだ。値段は五十オーロらしい。


 宝石付きのアクセサリーがたったの五十オーロとは、確かにかなり安価だ。もちろん、手持ちのお金でも買える額だ。



「……お願いします」



 がま口ポーチから銀貨を一枚――これでちょうど五十オーロになる――出して、ウェンディさんに渡した。



「では、これをくださいな」


「はいよ。毎度あり」



 値札を切ってもらったそれを、ウェンディさんからこっそり受け取った。


 いいお土産が買えてよかった。オリヴィアさん、喜んでくれるといいな。



「待ちやがれ!!」



 傷がつかないようにと、そのブレスレットを大事にがま口ポーチの中にしまったときだった。近くで男の野太い威嚇するような声がして、緊張が走った。



「承知しねぇぞ、この泥棒ギツネが!!」


「泥棒……キツネ!?」



 レックスさんのフードから顔を出した。幸い、周囲の人たちはその声がした方向に釘付けになっているので、僕の姿など誰も見ていなかった。


 人ごみのせいで、現場がどこなのか、なにがあったのかさっぱり分からない。



「レックスさん!」


「分かったから、隠れていろ」



 レックスさんは、ウェンディさんとアイコンタクトをして頷きあい、人ごみをうまくかき分けて前へと進んだ。


 まもなく見えてきたのは、地面に尻餅をついているボロボロの服をまとった子供。ロンと同じく、頭に耳、背中側にふさふさの尻尾がある。その子を標的に、エプロン姿の男の人が持っている棍棒を振り上げていた。



「マリネ。しっかり捕まっとけよ?」


「……! はい!」



 レックスさんが腰に下げている剣の柄に手を置いたのを見て、言われたとおりフードの奥にもぐり、飛ばされないように吸盤で貼りついた。


 直後、レックスさんが突風のように素早く動いた。目を閉じてしがみついていた僕には、なにも見えない。しかし、これだけは分かった。


 懐かしい、というか、覚えのある気配。



「おう。やっぱりお前もいたのか……カイル」


「レックス!? なんでお前がここに!?」



 覚えがありすぎるその名前と声を聞いて、心の底から安堵した。

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