表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オクトパス・クライシス! 〜異世界でタコに転生しました。しょうがないので伝説の魔物目指します〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第2章 応用編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/76

27話 昇格試験に挑戦してみましょう②

 槍使いが狙いを定め、カイルさんを襲った。カイルさんは難なくそれを受け止めたが、槍使いはリーチの長さを生かして猛攻撃をしかけている。


 よし、ここは後ろに忍び寄って絡みついて動きを止めよう!


『カモフラージュ』を用いながら、急いで近づいていく。



「うぇっ!?」



 槍使いの陰から飛び出てきた剣士が、こちらに向かってきた。すぐさま振り下ろされた剣に襲われ、かわすものの間に合わず、一本の触手を巻きこんで剣が地面にめりこんだ。


 ちりっとした鋭い痛みとともに、触手が一本切り離される。



「マリネ!!」


「心配ご無用!」



 すぐに『自己再生』で、切れた触手を復活させる。すっかり元どおりだ。


 どうだ、と腰に手を当てて自慢するポーズをしてみせると、心配して名前を呼んだカイルさんが、ほっと胸を撫でおろしていた。



「この……っ気色悪いケダモノが!」



 ケダモノ!? そこまで言うか!?


 抗議する間もなく、剣士はさらに剣を振るってきた。僕はよけるので精一杯で、反撃する余裕はない。



「うひゃっ! くえっ! おぐっ!? ふぁやっ!」



 変な掛け声? 勘弁してほしい。もう一度言うが、こっちはよけるのに精一杯なんだ!



「この……っ!」



 剣士が苛立ち始めていた。こんなに攻撃しているのに、かすりもしないのは確かにもどかしいだろう。


 人間時代、ドッヂボールでよけるのがうますぎて、「逃げのプロ」とか「敵前逃亡者」なんていう、なかなか不名誉なあだ名で呼ばれていたのは伊達ではないぞ!


 ただ、よけているだけでは勝てない。なんとか反撃のチャンスは訪れないものだろうか。相手は顔を守るものを身につけていないから、『ブラックアウト』を当てれば攻撃のチャンスはさらに広がるはず。うまくいけば、自滅を誘えるかもしれない。



「いい加減に……っ死ねぇ!!」


「わ!? わあっ!」



 縦攻撃からの素早い横攻撃。これはよけきれない!


 とっさに剣士の腕に絡みつくと、彼の背後に回った。そのまま背中に吸盤で貼りつく。



「…………」



 人の背中に貼りつくタコの図。はたから見ても、かなりシュールな絵面だろう。わざと……では、ない。切羽詰まっていたから、仕方ないのだ。



「離れろ、汚らわしい魔物がぁ!!」



 剣士は背中を振ったり剣を刺そうとしたりして僕を払おうとするが、いかんせん背中側でよく見えないせいか、手こずっている。


 彼が暴れるので、こちらも離れるタイミングを完全に見失った。離れたところで、先程のかわしまくるゲームがまた始まってしまうだろうし。どうしたものか。



「動くな! 俺がやる!」



 そこへ、救世主ならぬ重戦士が、斧を振り上げた状態で、ガンガンと音を立てながら駆け寄ってきた。走る音も豪快だ。


 剣士が、彼に背中を向ける。


 待って! 斧はヤバいって!



「っ!?」



 斧が振り下ろされた直後、僕はなんとか寸前で剣士の背中から飛んで離れた。


 すると、どうなるか。


 振り下ろされた斧は、見事に剣士の背中にクリーンヒット。鎖帷子を身につけていたので、斬られて激しく流血、とはならなかったのが幸いだった。しかし、衝撃はもろに受けたようで、悲鳴らしい悲鳴を上げる間もなく、剣士は地面に倒れこんで、そのまま動かなくなった。



「…………」



 え? なに、この微妙な空気。僕のせい、ですか? 違いますよね?



「〈氷よ、閉ざせミチェーリ・ウヴェール〉」


「ぐっ、あああ!!」



 ティムさんが呪文を唱えて、呆然と立ち尽くしていた重戦士が氷漬けになった。見事な氷像の完成である。


 これ、大丈夫かな? 死んで……ない、よな? 二人とも。



「なめくさってた割には、大したことないね……第三分隊じゃなくて、三流部隊に名前変えた方がいいんじゃない?」



 ティムさんが、サイラスさんの方を見て鼻で笑って言い放つ。



「き……! 貴様ぁ!! 我が部隊までも愚弄する気かぁ!!」


「先に吹っかけてきたのはそっちだろ。記憶障害でも患ってんの? いいね。自分に都合のいいことだけ覚えてればいいなんて。さすが三流部隊。よく今まで生きてたもんだ。逆に尊敬するよ」


「……!!」



 サイラスさんは、激しい怒りでもはや言葉が出てこない様子だった。


 さすが。口ゲンカでは、ティムさんが一枚も二枚も上手だ。ほんの少し、サイラスさんに同情したくなったのは内緒にしておこう。



「おめーも煽ってんじゃねぇか!」


「うるさいな。さっさとそいつなんとかしなよ」



 槍使いを必死に押さえつけているカイルさんの言葉をあしらって、ティムさんがこちらを向いた。


 助かりました、と意味を込めて、頭を下げる。すると、ティムさんが口元を上げ、笑った。いたずらっ子がいたずらに成功したときのような顔だった。


 もしかして、僕のために言ってくれた……のか?


 とにもかくにも、彼の味方で心底よかったと思いながら、僕は胸を撫でおろした。



「離れろカイル!」



 そのとき、オリヴィアさんが叫んだ。カイルさんが槍使いから離れた瞬間、彼女が放った矢が、槍使いを襲う。


 しかし、当たらなかった。



「終わりだ!!」



 槍使いが体勢を立て直す前に、カイルさんが剣を振った。オリヴィアさんの狙いは、隙をつくることだったのだ。


 槍を横にして受け止めようとした槍使いに対し、カイルさんが突き攻撃をくりだす。槍使いは吹っ飛び、背後の壁に激突して、その場に崩れ落ちた。


 三人目、戦闘不能。これで残すは、白馬の騎士・サイラスさんのみとなった。



「許さん……っ俺たちが負けるなど、断じて許さん! 許されない!!」



 サイラスさんが剣を構えて突進してくる。狙いは、僕か。


 あとがなくなったからって、一番小さくて非力な奴を狙うのはどうかと思いますけど!



「マリネ、逃げろ!」



 カイルさんが叫びながら駆け寄ってくる。しかし、彼と僕とはだいぶ距離が離れている。


 ここはなんとか、カイルさんたちに援護してもらう態勢が整うまでなんとか切り抜けるしかない!


 近づいてきたサイラスさんの乗る馬の下にすかさず潜りこみ、前足に触手を伸ばして絡みつく。そして、引いた。



「っ!? 貴様!!」



 馬はバランスを崩し、乗っていたサイラスさんはたちまち放り出された。


 サイラスさんは鎧を身にまとっているので、『ブラックアウト』は通用しづらいだろう。あとは『カモフラージュ』を駆使してなんとか――



「消え失せろ、汚らわしい魔物が! 〈闇よ、飲みこめマザラム・ヴェダヴァロート〉!!」



 黒い波が目の前に迫ってきたのが見えた瞬間、なにも分からなくなった。




 ◇◇◇




 気がつくと、なにもない真っ暗な闇の中にいた。


 あれ? なにがどうなったんだっけ? 僕は一体? カイルさんたちは?


 辺りを見回しても、なにもない。なにも聞こえない。自分がここにいる感覚さえも、曖昧だった。



(――!!)



 遠くで誰かの声が、聞こえたような気がした。直後、胸の辺りがだんだんと熱くなる。


 そうだ。こんなところでのんびりしている場合ではない。僕は――戦わなきゃいけないんだ!!




 ◇◇◇




 白い煙が辺りを包む。それが風に飛ばされて晴れると、辺りの景色がよく見えた。


 観客席にいる大勢の人たちが、逃げまどっている。豆粒のように小さい。建物自体も小さくなったようで、僕の頭が吹き抜けの天井からはみ出ている。


 いや、待て。そうではない。


 触手を一本、少し上げて見てみると、だいぶ太くて長くなっている。そうだ。周りが小さくなったのではなく、僕が巨大化しているのだ!


 わけが分からず、真下の地面を見下ろした。カイルさんにティムさん、オリヴィアさんの姿が確認できた。三人とも無事なようだ。そして、敵側。尻餅をついた状態で後退りをしているサイラスさんの姿が見えた。他にも、倒されたはずの三人がサイラスさんの周りを囲っている。観客の甲高い悲鳴があちこちで聞こえるので、誰がなにを言っているのか、さっぱり分からない。


 えーっと……これ、どうしましょうか?


 考えていると、じわじわと体が重だるくなっていくような感覚がしてきた。なぜだかよく分からないけれど、早いところケリをつけなければならない。


 カイルさんたちがいる位置を気にしつつ、サイラスさんを中心に団子になっている敵の方に体を向ける。


 すると、サイラスさんが剣を空に向けて掲げ、なにかを言って振り下ろした。下ろした先にいたのは、重戦士。強化魔法でも使ったのだろうか。


 どうなるか分からないけれど、軽く吹っ飛ばせば一撃で勝負は決まるはず。どうか、死なない程度にきちんと防御してください!


 祈りながら、触手を一本、薙ぎ払うように横に振った。重戦士が防御のため盾を構えて丸くなると、その背後に他三人が隠れた。


 直後、四人は空高く舞い上がった。


 重戦士の盾は砕けてバラバラになり、防御の意味は成していなかった。次々と地面に落ちて、動かなくなる人たち。そのうち、サイラスさんとおぼしき人だけは、体をがくがく震わせながらもなんとか起き上がろうとしている。そこにめがけて、触手を挙げて振り下ろそうとする僕。


 え? いや、待って。もう十分だって!


 そう思っているのに、なぜか止められない。まるで、他の誰かに操られているかのようだった。さらに、視界がじわじわと暗くなっていく。


 だめだ。ここで意識を失ったら、どうなるか分からない。敵だからといって命までとりたくない。そしてなにより、カイルさんたちに危害を加えたくない!


 なにをどうすればいいのかは分からなかったが、とにかく体を動かさないように必死に抵抗した。すると、急激に力が抜けていくような感覚がして、まもなくおさまった。地面がすぐ近くに見える。


 これはもしかして、体が元の大きさに戻った、のか?



「マリネ!」



 カイルさんの声がそばで聞こえて、持ち上げられた。心配そうに、困惑したように、眉を寄せているカイルさんの顔がアップで見えた。


 ああ、よかった。なんともなかったんだ。


 なにか声をかけたかったけれど、自然と下りてくる重い瞼に抗えず、意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ