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オクトパス・クライシス! 〜異世界でタコに転生しました。しょうがないので伝説の魔物目指します〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第2章 応用編

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26話 昇格試験に挑戦してみましょう①

 試験に向けて、三人はそれぞれのやり方で調整をしていた。


 僕ももちろん、なにもしなかったわけではない。〈鍛錬場〉に通い、〈薬のミョンミョン〉や〈コーデリア商店〉で働きながら、強くなる方法を模索していた。


 結果、なんと四本の触手を一度に伸ばせるようになったのだ!


 これで、八本のうち半分を同時に伸ばせるようになったわけだ。クラーケンに進化するのに、また少し近づいたのではないだろうか。


 そして、いよいよその日がやってきた。


 Aランクの昇格試験当日、僕たちはある建物の前にきていた。その名も、〈闘技場〉。ボリスさんとレベッカさんの〈鍛錬場〉と同じくストレートな名前の施設。分かりやすくていい。


 外観は、全体的に白い石造りで、頑丈そうな柱が円形状に並んで何本も立っている。中はどんな感じになっているのだろうか。


 建物を気にしているのは僕だけのようで、カイルさんたちは一様に無言で、前だけ見つめていた。



「行くぞ」



 カイルさんの呼びかけに、二人が無言で頷いて応じる。そして、中へと進んでいった。


 暗い渡り廊下を進み、階段を下りていく。まもなく明かりが見えてきた。そこをくぐると、薄茶色の砂がまかれた開けたフィールドに出た。ここが、戦いの場だ。


 見上げると、内部は円形状に高くなっていて、座ってこちらを見下ろしている人たちの姿が確認できた。


 あの人たちは、一体誰だろう。見学者か?



「カイルさん、あの人たちは? お知り合いですか?」


「なわけねーだろ。観客だよ」


「観客?」


「昇格試験もな、連中にとっちゃ観戦して楽しむ競技の一つなんだとよ」


「連中って?」


「王族とか貴族」



 言われてよく見てみると、確かに観客らしい人たちは、ほとんどがきらびやかな服装を身にまとっていた。羽がついた帽子をかぶっている人や、輝くアクセサリーをたくさんつけている人もいる。誰も彼もセレブか。



「見世物、ってことですか?」


「まぁ、ほぼそうだね。もっと昔には、罪人と生け捕りにした魔物を戦わせるなんて悪趣味な遊戯もしてたっていう話だし」



 ティムさんの補足説明を聞いて、背筋に寒気が走った。


 どこかの遠い国にも、似たような施設があった気がする。どこの世界でも、時代が変わろうとも、人の欲とは変わらないものなのか。



「なんだ、マリネ。怖いのか?」


「い、いえ。そんなことはないですよ」


「無理しなくていいぞ。なんなら、お前も客席で見てればいい」



 カイルさんが、へらへらと笑いながら観客席を顎で指した。


 こんなときにも過保護発動か。いい加減許さないぞ!



「嫌ですっ! 僕も戦いますから! っていうか、皆さんこそ。僕は盾にはなりませんからねっ。自分の身は自分で守ってくださいよっ」


「ははっ! 言うじゃねーか」



 カイルさんが頭を軽く叩くように手を乗せてきた。ぐう、乗せられた感が半端ない。


 そうしていると、僕たちが出てきたところとは向かい側にある出入口から、馬に乗った人を先頭に、後ろから鎧を着た歩兵が三人やってきた。



「ただいまより、チーム『レジェンズ』のAランク昇格試験を執り行う!」



 馬に乗った騎手の人が、会場内に響き渡るような大声で宣言する。途端に、観客がそろって歓声を上げる。うるさい。スポーツ選手の気持ちが少し分かった気がする。



「まずは――」


「その試合、待て!」



 騎手が続けて説明をしようとしたのを遮り、彼らが出てきた出入口の奥の方から、高めの鋭い声がした。辺りが一度静まりかえったと思ったら、またすぐにざわつきはじめた。


 白馬の騎士を先頭に、白を基調とした鎧や鎖帷子で武装した歩兵――あわせて四人が、新たに登場した。



「あれって……」


「知ってんのか」


「知ってるもなにも――」



 ティムさんの言葉は、途中でかき消された。


 歩兵の一人――ガチガチに鎧をまとって全体的に丸っぽい体型の重戦士が、手にしていた大振りの斧の柄の先を地面に叩きつけたせいで、地響きのような大きな音が会場に響き渡ったからだ。



「フェンネル騎士団第三分隊所属、サイラス・パルマローザだ! この試合、我らが請け負う!」



 再び観客席がざわついた。


 パルム……なんだって? 「第三分隊」は確かに聞こえたけれど。


 しかし、なぜ第三分隊の人が出てくるのだろう。昇格試験を担当しているのは第五分隊ではなかったのか?



「なんだよ、あいつら」



 カイルさんが不満げに、サイラスと名乗った白馬の騎士を睨みつける。一方の白馬の騎士は、それを平然と受け止めて鼻で笑っている。



「第三分隊に、パルマローザ家の者なんていたか?」


「最近入隊したばっかのはずだよ。他の奴らもたぶん」


「パルムドール家って、有名なんですか?」


()()()()()()()、ね。有名なんてもんじゃないよ。騎士団創設者の血筋で、名家中の名家だよ」


「……創設者の血筋、ですか」



 相変わらずカイルさんと睨みあっているサイラスさんを見る。創設者の血筋となれば、尊大な態度にもなるだろうな。



「あいつは次男か……少なくとも嫡男じゃないね。当主は第一分隊の団長で、跡取りが副団長をやってるはずだから」


「どの道親の七光りじゃねぇかよ。まぁ、どーせそんなこったろうと思ったけどよ」



 今度はカイルさんが鼻で笑う。


 どうなるのかと様子をうかがっていると、先に出てきた茶色い馬に乗った騎手が、白馬のサイラスさんと一言二言話した後、下がってしまった。なにやら威嚇された模様だ。



「喜べ、冒険者のクズ共。この俺と戦う栄誉を与えてやるのだからな!」



 サイラスさんが声高に叫んだ瞬間、近くで「ぶちっ」となにかが切れるような音が聞こえた気がした。気のせいだろうか。


 おそるおそる横を見ると、口元を引きつらせて額に青筋を浮かべたカイルさんがいた。


 すごい。こんなに怒っているカイルさんは、見覚えがない。激おこだ。



「ずいぶん上から物言いやがって……かえって清々しいな。人に挨拶するときの仕方も教えてくれなかったのか? おめーの親は!」


「……なんだと?」



 サイラスさんが歯ぎしりをする。


 言い返されるのに慣れていないのだろうか。お願いだから、挑発に乗ってえげつない手段をとらないでほしい。



「挑発すんなよ、ばかじゃないの……」


「言われっぱなしは癪だろうが」


「権力を笠に着てなにかしてきたらどうするんだって言ってんだよ」


「んなもん知るか! こちとら王侯貴族のために冒険者やってんじゃねぇんだよ!」



 カイルさんとサイラスさんが、再び睨みあって火花を散らす。



「厳しい戦いになるな。気を引き締めないと」



 真面目な顔をしたオリヴィアさんが呟く。


 どうか、お手柔らかにお願いします、と叫びたい。嫌な予感をひしひしと感じながら、カイルさんの肩から地面に下りた。


 そして、互いに前へ進んで近づき、五十メートルほど距離を空けたところで止まった。中央には、黒い燕尾服のような服装をした審判が立っている。



「チーム『レジェンズ』。お相手となる騎士団の方々を全員屈服させることで、Aランク相当の実力を兼ね備えていると認められます。メンバー全員が戦闘続行不能と判断された場合、その時点で試合終了となり、不合格とみなします。よろしいですね」



 審判に尋ねられ、カイルさんが無言で頷く。


 続けて、審判は反対側のサイラスさんたち第三分隊の面々と目を合わせ、頷きあった。



「それでは……始めっ!」



 審判の掛け声の直後、全員が各々の武器を抜いて構えた。


 相手の騎士団の人たちは、白馬の騎士のサイラスさんがダイヤモンドのような透明な宝石がついた剣を、重戦士が大振りの斧を、鎖帷子の歩兵が細身の片刃の剣を、鎧の歩兵が槍を携えている。



「〈この者の力を解放せよコンフォルターナス・デュナミス〉!」



 サイラスさんが剣を振りかざし、剣士に魔法をかけた。


 そんなばかな。剣で魔法をかけるなんて、ありなのか? 「魔法使いイコール杖」が当たり前だと思っていたのだが。それとも、あの宝石の力のおかげとか?



「いきなり強化魔法かよ……!」


「援護頼む!」



 舌打ちとともに悪態をついたティムさんの横を通り過ぎて、カイルさんが剣士に斬りかかった。



「ふんっ!」


「……っ!」



 剣士の力はすさまじく、カイルさんは足をしっかり踏ん張っているはずなのに、押されている。



「カイルさん!」



 触手を二本伸ばして、カイルさんの両手に絡みつく。力を加えると、剣士側がバランスを崩しかけた。


 その瞬間を狙って、カイルさんがさらに力を加えて跳ね返した。


 剣士は、もたつくように後ろに数歩下がり、悔しそうに歯を食いしばった。


 カイルさんがこちらを見て、親指を立てる。それに僕は頷いた。


 それにしても、ものすごいパワーだった。あれでは、カイルさん一人では歯が立たなかったぞ。



「〈炎よ、焼きつくせ(プロクス・トルメンタ)〉!」



 ティムさんの炎魔法が炸裂し、バリケードのように僕たちと騎士団の人たちを隔てた。



「いきなりつっこんでいく奴があるか!」


「斬りかからなきゃ始まらねーだろ!」


「だからって、もうちょっと――」


「〈闇よ、飲みこめマザラム・ヴェダヴァロート〉」



 ティムさんがカイルさんに抗議していると、炎の壁が黒い波のようなものにのまれて打ち消されてしまった。


 黒い波が消えると、こちらに剣先を向けているサイラスさんの姿があった。



「闇魔法かよ……! くそめんどくさいな!」


「ゾウがアリを踏みつぶすなど容易い。だが……今は観客もいるのでな。せいぜい楽しませろ。でないと貴様ら下賤な者どもに価値など――」



 サイラスさんの相変わらずな高飛車なセリフは、途中で切れた。それは、目を閉じて腕を空に向かって広げた直後に、彼の頬をなにかがかすめていったからだ。


 奥の壁に突き刺さったそれは、明らかにオリヴィアさんの放った矢だった。



「よく喋るゾウだな。誰に芸を仕込まれた?」


「……っ! この……っ汚らわしい獣風情が!!」



 オリヴィアさんが声を張って言うと、サイラスさんは般若の面のような、怒り狂った顔をして剣を振った。斬撃が風になってこちらに飛んできそうな勢いだった。



「オリヴィアまで……! なに言ってんの!?」


「いい加減、奴の言動は腹にすえかねる!」



 オリヴィアさんは少し歯を食いしばり、新しい矢を弓にかけた。


 ティムさんと並んで冷静なはずの彼女まで、こうなるのか。これは、この場特有の雰囲気のせいでもあるかもしれない。



「はっ! 乗ってきたな!」



 カイルさんが不敵な笑みを浮かべて、剣を地面に突き立てた。


 いえ、僕は逆に不安しかなくてちょっとテンション下がりましたけど。

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