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オクトパス・クライシス! 〜異世界でタコに転生しました。しょうがないので伝説の魔物目指します〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第2章 応用編

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24話 他の冒険者とも交流してみましょう②

 距離をあけて向かい合って立っている二人は、どちらともなく剣を抜いた。カイルさんはいつもの大剣を、レックスさんは腰に差していた片刃の剣を。


 レックスさんの剣は、日本刀のように刀身に波のような模様があり、切っ先に近いところの幅が広くなっている。彼がその剣を構えた姿は、まるで自身の腕前を研鑽するため旅をしている浪人、みたいな風貌だった。



「赤くてちっこいの」


「……はい?」



 レックスさんに呼びかけられ、「赤くてちっこいの」といえば僕しかいないと思い、返事をする。



「始めの合図を頼むぞ」


「え……僕が、ですか」



 いいんでしょうか、僕で。


 レックスさんとカイルさんを交互に見る。異論はないようなので、一度咳払いをする。



「それでは……始めっ!」



 僕の合図と同時に、カイルさんとレックスさんが駆け出した。


 カイルさんが大剣を振り、それをレックスさんが易々と受け止める。鉄と鉄がぶつかり合う音。生じた風が、こちらまで届きそうなほどの勢いだ。


 レックスさんが、剣を横に振って払った。すぐにカイルさんは二撃目を繰り出すが、それも簡単にかわされた。


 かがんだレックスさんが、剣を鞘におさめ、抜きながら振ってくる。


 居合い斬りだ!


 カイルさんが後ろに跳んでそれをよけ、間髪入れず剣を縦に振った。再び剣と剣が交じり合い、音が辺りに響き渡る。


 すると、カイルさんが少しバランスを崩してよろめいた。レックスさんが、急に力を緩めたようだ。


 カイルさんの剣が簡単に払われる。


 背後にあった岩に飛び乗ったレックスさんが、高くジャンプしてその勢いを利用しつつ剣を振り下ろしてきた。


 剣で受け止めつつガードしたカイルさんが、すぐに振り払う。しかし、一歩後ろに下がると、背後の木に気づいて舌打ちをした。


 そこを、レックスさんの刃が襲う。


 ギリギリで受け止めたカイルさんだったが、鍔近くに当たったために、バランスを崩して剣をはじき落とされてしまった。


 丸腰状態。身を守るものがない!



「カイルさん!」



 しかし、カイルさんは冷静だった。腰のダガーナイフを素早く抜き、レックスさんのとどめとばかりの攻撃を受け止めた。


 レックスさんが、目を見張って一瞬動きを止める。


 カイルさんが、剣を受け止めた状態からナイフを滑らせてレックスさんに近づき、その勢いのまま横に振った。後ろに仰け反ってよけたレックスさんの横髪が、ほんのわずか切れて落ちる。


 二人は再び距離をとって、カイルさんはナイフを大剣に持ちかえて構えた。



「……っ」



 カイルさんは、肩で息をしていた。一方、レックスさんはまだまだ余裕そうに、片手で剣を構えている。


 手に汗を握る戦いとは、これだ。この後、どうなるのだろう。カイルさんは勝てるのだろうか。


 そして再び、二人は駆けだして距離をつめた。すかさず剣を振るカイルさんだが、レックスさんはそれを受け止めず、カイルさんの背後に回った。


 カイルさんがすぐに振り返る。しかし、そこにいるはずのレックスさんは、いなかった。


 まずい、と思った瞬間には、レックスさんの剣が、カイルさんの顔の右側に突きつけられていた。



「勝負……あったな」


「……っくそ……!」



 レックスさんが呟くと、カイルさんの表情が苦悶に歪んだ。そして、その場に膝から崩れ落ちる。


 たまらず、オリヴィアさんの肩から飛び下りて、駆け寄った。


 肩で息をしているカイルさんは、しかし、満足そうに笑っていた。



「レックス……あんた、やっぱ最高だな」


「こっちのセリフだ」



 レックスさんが手を差し出し、カイルさんがそれをとって立ち上がり、握手したまま互いを称えるように無言で見つめ合った。


 なんて素敵な友情だろう。今の二人には、決して誰も立ち入れない。そんな不思議な感覚がした。



「で、どうだ? 上がっただろ」



 離れていたティムさんとオリヴィアさんも近づいてきた。二人して自身の冒険者カードを見ている。



「上がったね。ちょうど七十五だ」


「私もだ」


「おー……俺なんて七十六になってんだけど」



 カイルさんも自分のカードを確認し、感嘆の声をもらした。


 七十五を飛び越えて、七十六なんて。〈シルフィウム鉱山〉では期待していたよりは上がらなかったのに。やはり、上のランクの人と戦った効果は絶大だ。



「それはよかった」


「この腕輪のおかげだ。ありがとう」



 オリヴィアさんとティムさんが借りていた腕輪を返そうとしたが、レックスさんは受け取らなかった。



「それはお前らが持っていろ。これからも必要だろうしな」


「……なめてんの?」


「ん?」


「この先も、カイルに戦わせて私たちだけ楽をしようなんて思わない。強くなるなら、自分で努力する」



 二人に腕輪を眼前につきだされ、目を丸くしたレックスさんだったが、すぐに「そうか」と言って、受け取った。



「やはりいいチームだな。俺が惚れ込むだけはある」


「当たり前だろ。俺が選んだメンバーだからな」


「なにその神様視点。別にお前が選んだわけじゃないだろ」


「いや、そんなようなもんだろ。俺が誘ったんだから」


「恩着せがましい……」


「別に恩なんか着せてねーよ!」



 騒ぐカイルさんと、うっとおしそうに手を振るティムさん。オリヴィアさんと僕がそれを見守る。


 そうでしょう、レックスさん。うちのパーティー、いいチームでしょう。



「じゃあ、待ってるからな」



 レックスさんが立ち上がりながら、言った。



「ちゃんとお前らの席、用意しとくからな。絶対受かれよ」


「……おう。次はぜってー勝つからな」



 カイルさんが、レックスさんに拳を差し出す。レックスさんがそれに応じて、同じように拳を作ってカイルさんの拳に当てた。


 そして、レックスさんの去っていく背中を見つめながら、考えた。昇格試験、僕も力になれるだろうか。なりたい……否、なるんだ!



「待て。あの先は確か崖では――」



 オリヴィアさんが言い終わる前に、レックスさんの姿が突然消えた。



「っあの、ばか野郎!」



 真っ先にカイルさんが駆け出した。


 そして、崖から落ちたレックスさんを僕が救出し、痛めた腰をティムさんが魔法で治した。さっそく役に立ててよかった……よかった、のか?




 ◇◇◇




 レックスさんと別れた後、僕らも〈ネトルの森〉を出て、町に戻ってギルドに直行した。



「アイリーン」


「はい……ああ、お帰りなさい。レックスさんにはお会いできましたか?」


「おかげさまでな。そっちの用はもう済んだ」


「それはよかったですね。他になにかご用でしょうか?」


「昇格試験の申請、頼む」


「はい。では皆さんのカードを拝借します」



 窓口のアイリーンさんに、三人そろって冒険者を差し出した。アイリーンさんの目が少しだけ見開かれる。



「確認しました。おめでとうございます。それでは、申請手続きを進めますね。Aランク昇格試験ですので……」



 アイリーンさんが書類を出してきて、カイルさんが説明を聞きながら書いていく。


 ふと視線を移すと、掲示板の前のスペースにいた数人の冒険者と思われる人たちが、こちらをじろじろ見ているのに気づいた。


 僕か? 僕がそんなに変なのか?



「Aだってよ」


「本当なのか?」


「あいつら確か、『レジェンズ』だよな」


「そういやBだったよな……嘘だろ、もうAかよ」


「すげぇな……俺はいつになったらなれるんだろ」


「お前は当分無理だろ」



 聞き耳を立てて彼らの話を聞いていると、どうやら僕のせいではないようだ。よかった。


 そうだよな。Aランクといえば、上から二番目の高ランク。Sは規格外なので、それを除けば一番上のランクともいえるのだから。注目の的になるのは必然だ。


 申請手続きが終わったようで、そろって〈冒険者ギルド〉を出た。あとは、申請が通る知らせを待つだけだ。



「昇格試験って、なにをするんですか? 誰かと戦うんですか?」


「ああ。騎士団の連中とな」


「騎士団!?」


「正しくは、フェンネル騎士団第五分隊ね。冒険者関連の取り締まりを担当してて、他の部隊とはほぼ独立してると言っていい」



 ティムさんが補足してくれたので、納得した。


 騎士団とは、国防に携わる自衛隊のようなものだと認識していたのだが、冒険者専門の取り締まり機関もとい部隊なんていうのもあったのか。



「強そうですね」


「まぁな。俺らもBのときは一回落ちて――」



 カイルさんの言葉と足が、不自然なところで止まった。後ろにいるティムさんとオリヴィアさんが息をのむ音が聞こえた。わけも分からず、狼狽える僕。



「どう、しまし、た?」


「……なんでもねーよ」



 カイルさんは再び歩きだしたが、僕とは頑として目を合わせようとせず、どこか遠くを見ているかのようだった。

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