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オクトパス・クライシス! 〜異世界でタコに転生しました。しょうがないので伝説の魔物目指します〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第2章 応用編

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23話 他の冒険者とも交流してみましょう①

 なんとか抵抗して逃れられはしたが、そのまま放置するのもしのびなかったので、川にいた魚を捕まえて差し出した。


 すると、その人は落ち葉をかき集め、手慣れた様子で火打ち石を使って火をつけ、魚を炙ってかぶりついた。一匹では明らかに足りなそうだったので、追加で二匹。



「はぁ……生き返った」



 三つの焼き魚を平らげた彼は、満足したらしい。体を後ろに傾けて手をつき、空を見上げる格好になって呟いていた。と思ったら、川のそばに這うようにして移動し、顔をつっこんで水を飲んだ。



「すみません、手間かけさせちゃって。すぐに食べられるものがあったらよかったんですが」


「本当にな……いや、冗談だ。なにはともあれ助かった。感謝する」


「ど、どういたしまして」



 その人――襟足のところで結んだ、くすんだ紫色の長い髪とあごの不精髭が特徴の男性は、顔を上げてこちらを見てにやりと笑った。



「それにしても、驚いたな。なにか近づいてきたら、捕って食ってやろうと思ってたんだが……まさかの人語が喋れる魔物ときたか」


「へんちくりんな奴ですみません」


「まったくだ。会ったのはこれで二人目だ」



 二人目、とは。どこかに同じように人の言葉を喋れる魔物がいるのか? それは、是非会ってみたい。


 ロングヘアーの男性は、腰にさしていた剣を鞘に入れたまま抜いて、杖のように使ってゆっくりと立ち上がり、腰を回して準備運動のような動きをした。



「それで、お前さんどこから来た? この森に棲んでいる奴じゃないな?」


「はい。ちょっと人を探しに――」



 そこまで言って、はっと気づいた。



「まさか、あなたがレックスさん……なわけ、ないですよ、ね?」


「お察しのとおり、俺がレックスさんだが?」



 そのまさかだった! カイルさん、見つけましたよ!



「マリネー! どこだよ! 返事しろ!」



 あわあわと軽くパニックに陥っていると、カイルさんが僕を呼ぶ声が聞こえてきた。どうしよう。返事してもいいのかな。


 ちらりとロン毛の男性を横目で見る。彼は、「呼んでやれ」と言って、顎を前に動かした。


 それなら、遠慮なく。



「カイルさーん! こっちでーす! レックスさんもいまーす!」



 大きな声で返事をすると、「はぁっ!?」と、カイルさんの動揺したような声が聞こえた。姿は見えないけれど、近くにはいるようだ。


 しばらくして、川の向こう側、草木や落ち葉をかき分けてカイルさんが姿を現した。



「マリネ!……と、レックス!? ホントにいたのか!?」


「よーカイル。久しぶりだなぁ」



 驚きを隠せない様子のカイルさんに対し、のん気に手を振って挨拶するレックスさん。



「今そっちに行きますね! レックスさん、ちょっと失礼」


「うん?」



 訝しげに少しだけ眉間に皺を寄せたレックスさんの腰に、伸ばした触手を絡ませて、別の触手をカイルさんがいる近くの木に伸ばして巻きつけて、川を飛び越えた。



「ほう……便利だな」


「どうもです」



 まだまだ発展途上も甚だしいですけどね。


 そうこうしているうちに、ティムさんとオリヴィアさんも駆けつけてきた。オリヴィアさんは、まず僕に謝ってきた。



「私も付き添えばよかった。すまない」


「いえいえ! おかげでレックスさんを見つけられましたし!」



 はぐれて危険な目に遭っているのでは、と心配していたらしい。こちらこそ、心配かけてしまって申し訳ない。


 オリヴィアさんとの謝り合戦を終えて、改めてレックスさんを見る。



「あんたを探してたんだよ。頼みたいことがある」


「手合わせか? 今、たらふく食ったばかりだからな。食後の運動にはちょうどいい」


「おう、望むところ――じゃねぇ! その前に大事な話があるんだよ!」



 剣を抜こうと構えたレックスさんに対し、カイルさんは条件反射で背中の剣を抜こうと手を伸ばしたが、横にいるティムさんに肘で突かれて我に返った。


 出鼻をくじかれて不満そうに目を細めたレックスさんだが、ひとまず話を聞く気になってくれたらしく、その場にあぐらをかいて座った。



「……ダンデレウスとレッドビーナか」


「ああ。狩るんじゃなくて、元の棲家に戻せねぇか?」


「ありえんな」



 レックスさんがため息をつきながら、にべもなく言い放つ。



「ダンデレウスもレッドビーナも、害にしかならない奴らだ。危険を冒してまでやることじゃない」


「……だよな」



 カイルさんは、残念そうに目を伏せた。



「捨てた奴を特定するのはできるだろうけどな」


「っ、本当か?」


「ああ。あの山は、王族だろうと貴族だろうと誰だろうと、とにかく申請しないと入れないからな。まずは、ダンデレウスの大きさとレッドビーナがどれくらい繁殖してるかを調べて、捨てられたおおよその日にちを特定する。あとは、申請記録を辿ればいい」


「本当にできるの? そんなこと」


「研究所の連中に声かければ、なんとかなるだろう。その二匹が間近で見られると知れば、喜び勇んで行きたがる奴がいるはずだからな。まぁ、絶対とは言えないが……」



 レックスさんは一旦そこで切って、カイルさんの方を改めて見た。



「俺ら冒険者にできるのは、それくらいだ」


「……分かった。頼めるか?」


「構わんよ」



 レックスさんの返事を聞いて、カイルさんは少し顔を俯けて、ため息をついた。


 やはり、あのダンデレウスとレッドビーナは討伐されるしかないのか。人の手に渡り、人の都合によって倒される運命なんて、胸が痛い。そんなふうに感じるのは、傲慢だろうか。


 しょんぼりと俯いていると、カイルさんが頭をなでてきた。どこか悲しそうなその顔を見て、なにも言えなかった。



「いいコンビだな」



 声をかけられて顔を上げると、レックスさんが顎に手を当てて興味深そうに僕とカイルさんを見ていた。



「お前がまた従魔をもつ日がくるとは、感慨深いな」


「……大げさだろ」


「そうか? ルイのこと、まだふっきれてないんだろ」



 その瞬間、空気が張り詰めたような感覚がした。息をのんだカイルさんの前に出たティムさんが、なぜか睨みつけるような鋭い視線をレックスさんに向けた。


 ルイ、とは誰だろう。レックスさんは、「また従魔をもつ日がくるとは」と言っていたが、僕の前にカイルさんの従魔になった魔物がいたのか?



「いいコンビというか、いいチームと言った方がいいか。Aならソロで入れるところはいくらでもあるだろうに」



 ティムさんの睨みをもろともせず、レックスさんがのんびりとした口調で言った。



「まだAじゃねぇよ」


「ん? そうだったのか?」


「レベルが足りねぇんだ。山行きゃ上がるかと思ったけど、ギリギリ届かなくてよ」



 カイルさんが腰に手を当てて、頭を振った。


 下山後に確認したところ、三人そろってレベルが七十四になっていたらしい。〈シルフィウム鉱山〉に登る前は七十ちょうどだったオリヴィアさんのレベルが四つも爆上がりしたのは、カイルさんが手出しできない魔物を代わりに進んで討伐していたからだろう。逆にあまり積極的に戦いに出なかったティムさんは、最後のダンデレウスと戦ったのが大きかったのではないかと思われる。



「Bでもそれなりにうまい仕事見つかるだろうに……ああ、相変わらず貧乏くじ引いてるんだな?」


「うるせぇな、そのとおりだよ!」


「どら、一肌脱いでやろうか」



 レックスさんは、自身の荷物であるツギハギだらけの麻袋に手を入れて、中から銀色の腕輪のようなものを二つ出し、それをティムさんとオリヴィアさんに向けて投げた。



「これは……なんだ?」


「そばで戦った同じパーティーの奴と経験値を分けあう効果がある装備品だ。帝国産だが、効果は実証済みだから安心してくれ」



 受け取ったティムさんとオリヴィアさんが、説明を聞きながらも怪訝そうな顔をしてレックスさんを見た。レックスさんは、構わず不敵な笑みを浮かべている。



「と、いうわけで……カイル。手合わせしようぜ」


「……一肌脱ぐって、そういうことかよ」



 カイルさんも似たような笑みを浮かべつつ、ティムさんとオリヴィアさんを見て、目だけで頷きあった。


 僕は、オリヴィアさんが片手を差し出してきたので、その手に乗り、肩の上に移動した。


 冒険者として最高のSランクに位置するレックスさんとの手合わせだ。カイルさんも当然、本気を出さざるをえないだろう。大丈夫だろうか。


 胸が高鳴るのを感じつつ、障害物のない川原に移動した二人を見つめた。

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