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オクトパス・クライシス! 〜異世界でタコに転生しました。しょうがないので伝説の魔物目指します〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第2章 応用編

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22話 色々な素材を採取してみましょう

 二日後、〈冒険者ギルド〉のアイリーンさんから呼び出しを受けた。



「一週間前、レックスさんがソロで〈ネトルの森〉に入ったとの情報が入りました」



 それを聞いた瞬間、三人はそろって険しい表情をしていた。せっかく探していたレックスさんの行方がつかめたのに、なぜだろう。



「信憑性は?」


「〈カモミール亭〉のハロルドさんとメリーザさんのお二人からの情報なので、間違いないかと。閉店間際にふらっと現れて、これから行ってくるとおっしゃっていたそうです。やめるよう説得したそうですが……」



 カイルさんが、がっくりと肩を落として項垂れた。


 豪快でさっぱりした性格の店長さんと、天然で冗談が通じないタイプの店員かつハロルドさんの娘・メリーザさんの二人が、そろって嘘を言うとは思えない。



「あの野郎……! よりにもよって〈ネトルの森〉かよ! しかもソロで!」



 そばにあった椅子を蹴飛ばしたカイルさんの頬をつつきながら、「危険な場所なんですか?」と、聞いてみた。



「危険っつーか……あそこはめちゃくちゃ迷いやすいんだよ」


「へぇ……道が複雑になってるとか?」


「いや。単純に見えてそうでもねぇっつーか」



 首を傾げながら言うカイルさんの説明では、よく分からなかった。木々が鬱蒼と生い茂る森が迷いやすい場所というのは、当然ではないのか。



「一応開拓は済んでいるんだが、なぜか迷って出られなくなる者が続出しているんだ。悪戯好きな妖精の仕業だという話だが、本当のところは分からない」


「え……じゃあ、どうすれば?」


「入る前に、妖精が好むディルマという花を捧げれば迷わずに済むらしいが……」



 解説してくれたオリヴィアさんが、途中で言葉を切ってティムさんを見た。



「どうだろう。季節的にはギリギリだね」


「そっち手に入れる方が先だな。ちょっくら行ってくるわ」



 カイルさんが僕を肩に乗せたまま、ギルドを出ようとした。



「もう一点。皆さんがお持ち帰りになった宝石についてですが」



 アイリーンさんのその言葉を聞いて、カイルさんがギルドを出る手前で足を止めて振り返る。



「自然科学研究所の調査結果によれば、非常に純度が高いものだということが分かったそうです。なので、研究資料としてこのまますべてお預けいただくことになるかと」


「はぁ!? いくらかは俺らんとこに入るんじゃなかったのかよ!?」



 カイルさんが、アイリーンさんの目の前に移動して抗議する。



「謝礼は出すとのことです。お気持ちはお察ししますが……私共にはどうしようもありません。どうかご容赦ください」



 アイリーンさんが丁寧に頭を下げる。それを見て、カイルさんはゆっくりと首を後ろに傾けて、天井を見上げた。



「さすが不運男」


「やめろそんなふうに俺を呼ぶんじゃねぇ……!」


「だ、大丈夫ですよカイルさん! 次がありますって!」


「おう……! そんなこと言ってくれるのはお前だけだな、こんちくしょう!」



 半ばやけくそ気味に、カイルさんは「じゃあ花買ってくる!」と言って、ギルドを出た。


 次……あるといいなぁ。




 ◇◇◇




 なんとか花屋でディルマの花――黄色くて小さな花弁が特徴の可愛らしい花だ――の束を手に入れて、すぐに〈ネトルの森〉へと向かった。


 オリヴィアさんが言っていたとおりに、ディルマの花束を入り口付近に供える。僕は一人、触手と触手を合わせて目を閉じ、祈った。


 妖精さん、どうか僕らを迷わせないでください。



「お前たち、もしモニマニを見つけたら教えてくれ。持ち帰って売るから」



 オリヴィアさんがそう言ったところで目を開けると、彼女が大きめの麻袋を見せてきた。


 なんだろう、モニマニって。どこかで聞いた覚えがあるな。



「もにまに、とは?」


「キノコの一種で、この森でしかとれないんだ。ネトルという紅茶の原料になる」



 思い出した。先日、ミランダさんに飲ませてもらった紅茶のことを、カイルさんが「モニマニ茶」と呼んでいたな。


 確かに独特な香りと味がしたが、キノコが原料だったとは。ここでしかとれないから、森の名前がそのまま紅茶の名前になった、というわけだな。



「どんなキノコですか?」


「全体的に白くて、傘に赤い渦巻き模様がある」


「よく似た毒キノコもあるんじゃなかった? 見分けつくの?」


「ムニメニだな。そちらは、渦巻き模様が逆――左回りになっていて、根本が膨らんでいるのが特徴だから案外分かりやすいぞ。心配なら触れる前に教えてくれ」


「触れる前?」


「ムニメニの方は、触るとかぶれるかもしれないんだ。どちらにしても、とるときは手袋をした方が無難だ」


「……よく分かんねぇから、そっちはお前に任すわ」



 革製の厚手の手袋を意気揚々と装備したオリヴィアさんの一方で、カイルさんとティムさんは顔をしかめていた。


 そして、僕たちは落ち葉が舞い散る森の中へと足を踏み入れた。


 紅葉も終わりに近づいているようで、もうじき冬がやってくる気配がする。この国の冬は、どんな感じなのだろうか。タコは寒さには弱いから、寒すぎず、雪も多すぎないといいのだけれど。



「あれって……まさか」



 先頭を歩いていたカイルさんを追い越して、ティムさんがある木の根元に駆け寄った。彼の頭上には、丸くてトゲが無数についた栗のような形の実があった。



「カイル、あれとって」


「いや、自分でとりゃいいだろ」


「見て分かんない? あんなとげとげしたやつ素手でとれるわけないだろ。お前の剣で落として。実を傷つけたら承知しないよ」


「なんで人に頼む側なのにそんな偉そうなの、お前?」



 カイルさんはしかし、口元を引きつらせながらもティムさんの言うとおり、枝と実がつながっている茎らしき部分を斬って実を落とした。


 ティムさんは、それを靴で揉むように踏んだ。すると、薄橙色で楕円形の実が出てきた。



「なんなんだよ?」


「クリンカの実、知らないの? 魔力回復薬の原料になるやつだよ。冬が近いから、自生してるやつはもうないと思ってた……」



 それを見つけて感動している様子のティムさんは、顔を上げて周辺の木を見回した。似たようなとげとげした実が、まだたくさんある。



「ねぇ、カイル。今まで散々俺らを連れまわして色んなトラブルに巻き込んだ負い目あるんだから、もちろん協力してくれるよね?」


「はいはい、喜んで……っつーかお前ら! 本来の目的忘れてんじゃねーだろうな!?」



 カイルさんは、さも当然と言わんばかりのティムさんと、例のきのこを見つけたらしくせっせと採取しているオリヴィアさんに言った。


 言わずともがな、「本来の目的」とは、この森のどこかにいるはずのSランク冒険者・レックスさんを見つけることだ。



「大丈夫です、カイルさん。僕はちゃんと分かってますから」


「おう……お前だけが頼りだからな……」



 遠い目をして呟くカイルさんが、なんだか気の毒だった。


 しかし、結局カイルさんはティムさんの木の実採集に付き合わされ、レックスさんの捜索どころではなくなった。僕も、オリヴィアさんと一緒にモニマニ探しに夢中になっていた。



「これは……左巻きだから、毒のあるやつですか?」


「そうだな。だんだん分かってきたじゃないか」


「えへへ」



 褒められると、やはり悪い気はしない。


 それにしても、オリヴィアさんは「案外分かりやすい」と言っていたけれど、生えはじめの頃のものはあまり違いがないので分かりづらい。いくつも見ていると、左巻きがどちらで右巻きがどちらなのか、こんがらがってくる。目が回りそうだ。


 毒のあるキノコ――ムニメニをじっくり観察する。触るとかぶれるという話だが、それはタコにもあてはまるのだろうか。


 好奇心に負けて、一本の触手の先でつついてみる。



「う……?」



 しばらくして、むずむずとしたかゆみに襲われた。そら見たことか。



「どうした?」


「なんだかかゆくて」


「……もしかして、触ったか?」



 眉を寄せるオリヴィアさんに、素直に頷いた。



「そこに川があるから、洗ってくるといい。私はここにいるからな」


「はい、すぐにっ」



 オリヴィアさんが指さす方にある川に、急いで向かう。ちょろちょろと流れる川に、かゆみのある触手をつけて洗う。冷たくて凍えそうだ。



「うひぃ……あれ?」



 水から引き揚げて、冷えた触手を別の触手とこすり合わせていると、川の向こう岸の茂みから物音がした。反射で顔を上げると、なにかの塊のようなものが落ちている。


 魔物かと思い、素早くそばの木に隠れて様子をうかがった。いつまでたっても動く気配がないので、そっと前に出て様子をうかがった。


 くすんだ紫色の長い髪を襟足のあたりで結んでいて、薄茶色のところどころ破れたマントのようなものを羽織っている。


 って、おい。待て。あれは、人だ。人が倒れている!


 すぐに、向こう岸の木に伸ばした触手を巻きつけて、倒れている人のそばに移動した。



「大丈夫ですか?」



 体を軽く揺らしながら、尋ねた。反応はない。


 肌に触れると体温を感じられるし、息もあるのでまだ生きてはいるはずだ。目立つケガもない。持病の発作かなにかだろうか?


 とりあえず、倒れている人を見かけたら……人工呼吸? いやいや、まずは助けを呼ぶのが先決だ。ここから叫べば、オリヴィアさんならきっと気づいてくれるはず。



「オリ、ヴぃいいっ!?」



 倒れている人に背を向けて、名前を呼ぼうとしたそのとき、後ろからつかみ上げられた。


 心臓が止まるかと思った!



「美味そうな魔物だな……焼いて食うか……」



 地を這うような、低音。目には生気がない分、舌なめずりをする姿が余計に異様に感じられた。


 人を助けようとしたら、食べられそうになるという大ピンチに陥った模様。なんでこうなる!?

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