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19話 同じ種族とのふれあいも大事にしましょう

タイトルを若干変更しました。

 宝石がパンパンに詰まった袋を一人一つずつ抱えて、僕たちは麓へと帰還した。


 すでに夕方になっていたので、急いで〈サントリナ〉の町に戻り、〈冒険者ギルド〉に寄って事の次第を受付嬢のアイリーンさんに話した。


 彼女は、最初は信じられない様子だったが、カイルさんにこっそりと大量の宝石を見せられると、言葉を失っていた。



「本当、なんですか?」


「さっきから言ってるだろ。とにかく、レックスと話がしたい。どこにいるか知らねぇか?」


「……一か月に一度、欠かさず顔を出していただいてはいますが、今どこにいらっしゃるかは当方では分かりかねます」


「そこをなんとか調べる方法はねぇのか?」


「難しいですね……パトロンのペンドリー辺境伯に協力をあおいで、お声がけいただけたら呼び寄せることは可能でしょうが」


「難易度高すぎる……むしろそっちに謁見する方のが無理じゃん」


「なんだよ、『へんきょーはく』って」



 ティムさんの口から、「そんなことも知らないの」と、言葉の刃が飛び出て、僕とカイルさんを襲う。


 見かねたアイリーンさんが、眼鏡を上げつつ解説してくれた。



「コーネリアス・ペンドリー辺境伯。〈ハーツイーズ〉の領主です。帝国と唯一国境で接している地域なので、その警備という国防において重要な任務を負っておられます」


「ほーん……なんとなく分かった」



 そんな人がパトロンにつくなんて、Sランクの地位がすごいのか、それともレックスさんそのものがすごいのか。あるいは、両方か。



「こちらとしましても、危険な魔物を野放しにしておくわけにはいきません。無断で放流した方がいたのであれば、なおさらです。私の方でも手を尽くしてみますが……あまり期待はされませんように」


「おう。頼んだぜ」


「期待は、しないでくださいね」



 念を押すアイリーンさんに対し、「ちょっとはするけどな」とカイルさんが言って、踵を返した。



「お待ちください。そちらをお預かりします」


「はっ?」


「数量と重さを調べて、許可が出た分だけのちほどお返しします。他にもあるなら全部お出しください」


「……あー。はいはい」



 アイリーンさんに言われ、カイルさんのだけでなく、ティムさんやオリヴィアさんが持っていた宝石入り袋も提出させられた。


 どれくらい戻ってくるのか具体的な量は分からないけれど、期待はしてもいいと思う。


 そして、僕らは〈冒険者ギルド〉をあとにした。



「次はどうするんだ?」


「レックスの居場所について、知ってる奴がいねぇか聞き込みしてみるか。オリヴィア、トリスタンのおっさんに聞いといてくれるか?」


「分かった」



「トリスタン」とは、オリヴィアさんが働いている喫茶店のオーナーだ。前に夕食の席で話題に上がったときに聞いただけだが、かなりの物知りらしい。一度会ってタコについて知らないかお話ししてみたいと思っている。



「ティムの方は難しそうか?」


「……そうだね。レックスが図書館で目撃されたっていう話は聞いたことがないから。でも一応それとなく聞いてはみるけど」


「悪いな、頼んだぜ……んじゃ、ひとまず……」



 カイルさんは腕を空に向け、体を思いきり伸ばした。



「今日のところは飯食って休んで、明日からな。頼むぜ」



 ティムさんとオリヴィアさんが頷いて返事をした。誰もなにも言わないのに、三人の足は迷わず〈カモミール亭〉へと向かう。たった二日しか空けていないのに、なんだか懐かしい気持ちになった。


 その日の宿は、もちろんいつもの〈夜魔の歌声〉。カイルさんは、魔法使いの係員が照明をつけようとしたのを断り、すぐにベッドに横になった。間髪入れずに寝息が聞こえてきたので、やはり相当疲れていたようだ。


 僕は、なぜか逆に目が冴えてしまって、寝つけなかった。散歩したくなったが、深夜はどんな魔物が出るか分からないので、宿の中を歩くだけにした。


 廊下は、ほんのりと照明が点々とついているが、薄暗い。物音がほとんどしない中、窓からのぞく月と星を眺めながら歩いた。



「へあっ!?」



 突然、背後から頭をつかまれるような感覚がして、変な声を上げてしまった。触手を動かしてじたばたするも、抵抗虚しくどこかへ連れていかれる。



「どうしたんだ、ウルフ……おや?」



 ついた場所は、宿の受付の後ろにある事務室のような部屋だった。中は煌々と明かりが灯っていて、宿屋の主・フレッドさんが机に向かってなにかの書類を書いているところだった。僕をつかんで入ってきた誰かを見て、目を丸くしている。


 フレッドさんは、なにか病気をしたらしく痩せぎすの体型で、たまに咳をしている。奥さんのナターシャさんと二人で宿を切り盛りしていて、受付や経理などの事務仕事はフレッドさん、薪割りなどの力仕事はもっぱら恰幅のいい奥さんが担当しているそうだ。一般的には逆のパターンが多いだろうが、二人の体型を見れば誰もが納得するはずだ。



「お前さん、カイルんとこの従魔じゃなかったか?」


「そうです……」



 あの、頭。なんか食い込んで痛いんですけど。


 フレッドさんは、僕をつかんでいる――否、口でくわえているその人に、「離してあげな」と言った。途端に体が床に落ちて、吸盤がぺちょりと奇妙な音を立てた。



「うちのウルフが悪かったなぁ」


「いえ、大丈夫です」



 あんまり大丈夫じゃないけど。歯型、残っちゃったみたいなんですけど。


 振り返って、改めて見る。僕を誘拐した犯人は、白と灰色の毛が入り混じったもふもふの体の、オオカミに似た魔物。変異種ではない正統なルルフェンだ。


 しかし、オオカミ似の魔物につける名前が「ウルフ」って、安直すぎやしませんか。



「ウルフは夜の見回り役なんだ。怪しいと思ったらすぐこうでなぁ……ウルフ、お詫びに部屋まで送っておやり」


「いえ、大丈夫です! お邪魔しました。おやすみなさいっ」



 目を閉じて数回咳をしたフレッドさんの申し出を丁重に断り、挨拶をして事務室をあとにした。部屋に戻ろうと歩きだしたが、背後から誰かがついてくる気配がして振り返る。


 ウルフさんが、無言でついてきている。



「……ホントに、大丈夫ですよ?」


「ご主人の命令だ。部屋まで送る」


「いえいえ、大丈夫ですって――っえ?」



 あれ? 今、喋った? この人、今喋ったよな!?



「お喋りできるんですか?」


「できるに決まってるだろ。魔物同士なんだから」


「そうなんですか……」



 ウルフさんが、小馬鹿にしたように鼻で笑う。


 残念だ。てっきり、僕と同じように人にも通じる言葉が喋れる魔物と会えたと思ったのに。どうやらそういうわけではないらしい。



「他の魔物とはたくさん会いましたけど、言葉が通じる人とは初めてです」


「人じゃないし、当たり前だろ。同族ならまだしも、他の魔物と話したがる奴なんてそうはいない」


「確かに……魔物研究所にいた魔物たちも、山で会った魔物たちも、ちっともお話ししてくれませんでした」


「ん? なんだ、お前あの研究所出身か? マヌケだな」


「マヌケ?」


「あの金髪ババアに捕まったんだろう?」


「ババアって……ミランダさんはお若いですよ?」


「いいや、十分ババアだよ」



 某有名ファンタジー小説の主人公のような見た目をしている彼女を、「ババア」呼ばわりするなんて。ウルフさんの感性はめちゃくちゃだ。


 歩きながら話していると、まもなくカイルさんと泊っている部屋の前についた。



「手間をかけさせてしまってすみません。ありがとうございました」


「ご主人の命令だからな、別にいい」


「あの! よかったら、また今度ゆっくりお話しさせてもらえませんか?」



 お礼を言うも、ウルフさんはそっけない返事をして戻ろうとしたので、その背中に再度呼びかけた。彼が気だるそうに緩慢な動きで振り返る、



「構わんが、昼間はよしてくれよ。俺の眠りを邪魔したら承知しない」


「はい、気をつけます!」



 触手を一本挙げて振り、去っていくウルフさんを見送ってから部屋に戻った。


 友達、といえるところまではまだいっていないかもしれないけれど、ひとまず知り合いにはなれたと思う。嬉しくて、余計に目が冴えてしまったが、諦めて金魚鉢に戻った。

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