表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある娼婦の矜持

作者: つなや

初投稿です。

思いつきでざざっと書いてみました。

宜しくお願いします。

設定ゆるふわです。

女性暴行未遂描写ありなので苦手な人はブラウザバックをお願いします。

「アローラ!!今日という今日は君との婚約を破棄させてもらう!!」


この国の第一王子ダレルに宣言されたアローラはまさかそんなという気持ちとやはりこうなったかという気持ちだった。


いつからかこんな日が来るのではないかと予想しなかったわけではない。

しかし自分の式典でもない先輩方の卒業式でこんな宣言をするとは思わなかった。


そもそも王家からのつよい要望で王太子妃として婚約を結んだのが10年前。ダレル、アローラ共に8歳の時だった。

3代前の王に似て負けん気が強く向こう見ずなところがあるダレルを補佐できる、公爵家の優秀な令嬢として中立派のアローラに白羽の矢が立ったのだ。

3代前の王はそれはそれは負けん気が強く向こう見ずであちこちに種をばら撒いてしまい先々代では王位継承権争いが悪化、先代でようやく沈静化し、現王が新たに無闇に種をばら撒けないよう法律を整備した。

そのくらい破天荒な3代前の王に似てくる第一王子に周りは頭を抱えた末の選考だった。


アローラは愛情は持ってはいなかったが王家の一員としてダレルを丁重に扱った。求められれば笑顔で応え、例えキツ目な見た目を詰るような言葉を投げかけられても決して顔を曇らせることはなかった。

そもそもダレルはアローラの釣り気味の目や気の強そうな口元が好みではなかった。そこへ来て第二王子のノルン王子やアローラの優秀さが気に食わないのもあったのだろう。

アローラにダレルはどんどんと横暴になっていった。

プレゼントや手紙は贈らない。

お茶会はすっぽかす。

押し付けた仕事の手柄は全てダレルのもの。


すっぽかされたお茶会のテーブルでアローラは1人考え込む事が多かった。自分が婚約者だからこそ王太子でいられるのになぜこんなに短慮なのか。

気に入らなければ婚約破棄してもらって結構なのに。

ああ、わかっているから破棄はしないのか。

こちらの立場からはまだ婚約解消は願いでられない。

一生お守りをしなければならないのかと考えると暗澹たる気持ちになった。


そんな時空いた席に座り、話し相手になってくれたのは第二王子のノルンだった。

ノルンは優秀でどうすれば国を良くできるかをよく2人で話し合った。

同じような政策を提案したり、全く違う意見に圧倒されたり。

2人で話す時間はあっという間に過ぎていった。


ダレル殿下もノルン殿下のように聡明であれば…


何度そう願ったかわからない。


だからあの日見限ったのだ。

将来の伴侶としても王族としても人としても。

最後に残った王子を支えていく気持ちが底をついた時、彼女に話を持ちかけた。

そもそもは彼女のため。でもそれ意外にも、もうどうにでもなれという気持ちがなかったわけではない。


だから

まさかという気持ちとやはりという気持ち。


ダレルの横にはアローラが話を持ちかけた一歳年下の元侯爵令嬢、ミランダがみっともなくぶら下がっていた。

ふわふわのピンクブロンドが可愛らしく庇護欲をそそる困ったような眉と潤んだ目。


そもそもミランダは侯爵令嬢だったが父親が不正を働き侯爵位は遠い親戚に譲渡された。

不正を行った父や兄は投獄されたが無関係だと証明されたミランダだけは現侯爵に託された。そして高級娼館を営む男爵に養子として体よく売り飛ばされたのだ。

元侯爵令嬢の娼館落ちは国中の下卑た視線を集めた。


そんな悲劇の元侯爵令嬢を救ったのがアローラだった。

侍女見習いとして雇い入れ日中はミランダが通うはずであった王立学園へ入学させた。

ミランダが一年遅れて入学してからダレルと側近達はあっという間に彼女に夢中になった。

元侯爵令嬢の娼館落ちというセンセーショナルな事態の渦中にいる彼女に一言二言優しい言葉を掛ければいいようにできるかもしれない、とよからぬ夢想をした者達から王子と側近達が守った。

まさにミランダからして見れば本物の優しい王子様だったのかもしれない。


ミランダはあろう事か恩人であるアローラの婚約者とベタベタといちゃつき始めたのである。


当然アローラ本人は関わらなくとも第一王子派閥の令嬢達は気に食わない。

ストレートに苦言を呈する者、こっそり持ち物を捨てる者、水をかける者。何度アローラに止められても嫌がらせは止まなかった。

しかし苦言を呈した者は元侯爵令嬢との舌戦に敗北し、捨てられた持ち物は次の日には王家の印が入った同じ物に代わり、水をかけられたらすぐに新しいドレスが王家より用意された。


ある時複数の令嬢がミランダにわざとぶつかり

「あらやだこんな所に娼婦を呼んだのはどなたかしら」と取り囲み手を出そうとしたところをダレルが見咎め騒ぎになった。

幸いアローラはその日王妃教育のため登城して不在だったが後から怒鳴り込まれて顔を張り倒された。


この事で正式に公爵家から苦情を入れたため婚約解消となるかと期待したがもう少し様子を見てくれと王直々に頭を下げられ婚約は継続となってしまった。


思い起こせばいい事なんてほとんどない婚約生活だった。

いいことと言えばノルンとのお茶会だけ。

国の行き先を心配せざるを得ない形に決着しそうだがもうどうにでもなれ。


「婚約解消、謹んでお受けいたしますわ」


言った。

この重く苦しい枷を外せたらどんなに気持ちいいのだろうと思い願ったこの一言を言えたのだ。

侍女が慌てて走り出すのが見えた。きっと頬を張られた時に用意しておいた婚約解消の書類を取りに行ったのね。

あとは修道院でも後妻でもなんでも受けて立とうじゃない。

と気持ちを新たにしている所に水を差す声が降って湧いた。


「貴様が有責の婚約破棄だ。馬鹿者め。」


それは聞き捨てならない。わざと婚約解消と言い直した所を直されるとは…

自分はどうなってもいいが家にまで波を立たせるつもりはない。


「お言葉ながらどのような責が…」


「この期に及んでまだ惚けるか。

ああ、貴様はいつだってそうだった。この可憐なミランダに嫉妬してさまざまな嫌がらせを行なってきたであろう。」


「身に覚えがございません」


「ミランダを救い出した事は褒めてやろう。

しかし自分の思う通りにいかないからと言って取り巻きの令嬢を使って罵ったり持ち物を捨てたり嫌がらせをするなど、王太子妃として看過できる事ではない。」


「どれもこれも身に覚えがございませんわ」


「貴様ぁ!!まだシラを切るか!!あの時頬を張ってやったのに何もわかってないのか!!」


そんな事があったのかとオロオロし出す派閥の令嬢や信じられないという目を殿下に向ける令息達。

そこへ息を切らした侍女が婚約解消の紙とペンを持って入ってきた。


「殿下、お話は一旦置いておいて婚約解消の手続きならできます。賠償と処遇についてはまた後ほど話し合う事にして今ここで婚約をなかった事にした方が国民も混乱しなくて済むと思うのです。新たな婚約発表もされるのでしょう?」


「…貴様の言うことを聞いたんじゃない王子としての合理的判断だと思え。賠償と処遇については期限を切って話し合う事を追記しろ。」


そして衆人が見守る中書類にサインを終え、侍女と騎士が教会へと走った。


アローラは皆を見回し

「さて、皆様大変お騒がせ…」

このしょうがない騒動をお開きにしてしまおうとした時またダレルが余計な口を挟んできた。


「これで逃げられたと思うなよ!!貴様の罪はしっかり償ってもらうからな!!」

無礼なほど指を突きつけダレルが怒鳴る。


アローラは新たな環境の前の残務処理がチラついて疲れてしまう。

「それでは全ての出来事に私が関わったと言う証拠をご用意くださいませ。」


ダレルはますます激昂して叫ぶ。

「証拠などこのミランダの証言で十分だ!!実際貴様のところの令嬢達がミランダを取り囲んで!

よりにもよってし…娼婦呼ばわりをしていた所を見たんだぞ!!」


「あら?私はその場に居りませんでしたしミランダ様の証言も直接聞いておりません」


「貴様あああああ!!!何をぬけぬけと!!!!」

一歩踏み出し拳を振り上げるダレル


「そうなんですの?ミランダ様?」


「言われたのも本当だしぃ、言われた事も本当だしぃ

殿下ってば本当に気が付いてなかったのぉ?私娼婦なんだけどなぁ?」


ダレルの振りあげた手は行き場を失った。


「は?は?ミランダ何を言ってるんだ?」

オロオロし出すダレルとざわめく衆人に囲まれながらも飄々と答えるミランダ。


「だってぇ未来の王妃様に頼まれてお給金まで出してもらってるのよぉ?

殿下のぉ荒ぶる性欲のせいで婚姻前に花を散らされそうで怖いからってぇ」



アローラは16歳になった日珍しくダレルに呼び出された。一足先に16歳になったものの全く落ち着く気配を見せないダレルだったがついに誕生日のお祝いの言葉くらいは贈ってくれるのだろうかと期待半分、それともまた何か押し付けられるのだろうかと警戒心半分で登城した。


そして通されたガゼボでキスを迫られ体を結ぶ事を強要された。

幸い通りかかったノルンに助けられ身は清いままだったがこの件から執拗に王城への誘いが増えた。

そしていつか結ばれなくてはいけない相手だとしてももうダレルの事を見限ったのだ。


そんな時ミランダの娼館落ちの話を聞いたアローラは数多男性の相手をしながら暮らす娼館より侍女雇うので働きながら少しで良いのでをダレルの相手をしてくれないかと話を持ちかけたのだ。

もちろん在学中に体を開く事は後々の瑕疵にもなりかねないので卒業後にその気があれば妾妃としてバックアップすると約束して。


「正直ダレル殿下には軽蔑しかないけどぉ

私が頑張ればぁアローラ様は守れるしぃ

お金貰ってぇやる事やってたらぁそれは娼婦って言うよねぇ?」

とニヤニヤ笑いながら宣った。


「ちょっと!なんて事を言うの!?今から王妃になれる道をどうして潰すような事を!」

流石のアローラも驚いて顔を顰める


「あらぁ王妃教育を受けておられるアローラ様とは思えないお言葉ですわねぇ。王族が無闇に花を手折った事が証明されればぁその王族はそのお相手と結婚しなくてはならない法律がございましてよぅ。」


「確かにそれは現王様が王太子候補の乱立を防ぐ為に制定された法律ですが…

実際には証明するのが難しく有名無実のは…

っあなたまさか!!!!」


「ええそのまさかですわぁ。まだお客様は1人とは言え私も娼婦の端くれでございますぅ。腹を括ってしまえば1人に見せるも2人に見せるも同じ事ぉ。恥を忍んで第二王子派の産婦人科医に全ての一部始終を確認して頂きましたのよぅ。」


流石にアローラもミランダの覚悟に絶句する。ついでに見られていた事を知ったダレルも絶句している。


「あら、そんなお顔をしないでくださいませ。

これはアローラ様のためだけではございませんのよ。腐っても元侯爵令嬢ですもの。国の為に身を捧げた方がただ娼婦になるだけよりもよっぽど有益でございましょう?」


そう言うとミランダは今日見た中で一番の笑顔をアローラに向けた。


「私がダレル第一王子様に嫁げば後ろ盾は高級娼館持ちの男爵家のみ。元第一王子派は新しい旗印を求めるでしょうし、第二王子派もここで中立派のアローラ様が王太子妃になられれば盤石の地盤となるわけですわね。」

とたった今到着したノルンに顔を向ける。


「私不肖の義姉となるのかしら?お茶会は…きっと難しいですわね。

アローラ様に救って頂いた身を持ってご恩を返させていただきます。

私が学園で受けた嫌がらせも全てアローラ様がこのような話を持ちかけたからと謝罪されましたが、そんな事私全然気になりませんでしたのよ。なくなった私物もドレスもアローラ様が全てご用意してくださって。

誰よりも私を大切にしてくださいましたわ。


どうかノルン様とより良い王国へと発展させてくださいませ。どのような形であれアローラ様のお役に立てましたらこの上ない喜びでございます。」

誰もが見惚れるような最上級のカーテシーで礼をした。

そして振り向き様にまたダレルの腕に品なく巻き付く。


「処遇はまた追って決まるのでしたねぇ?良くて一代限りの公爵かしらぁ。それとも妻の元の実家が犯罪者であれば共に幽閉かしらぁ。共に永らく過ごしましょうねぇ。旦那様♡」


そこで青くなっていたダレルが白くなりそして泡を吹いて倒れた。


こうして王太子達が起こした卒業式の婚約破棄事件は幕を閉じた。


その春王家と公爵家により日を改めて卒業式は行われた。今度こそ卒業生達はきちんと祝われた。


その後新緑の映える爽やかな日に第二王子のノルンとアローラの婚約が発表された。

第一王子の無体からアローラを救ったノルンはとアローラは苦難を乗り越えて結ばれたカップルとして支持を得た。

そしてひっそりとダレルとミランダは表向き塔に幽閉され、ミランダは病死した事になった。


それは新たな王太子と未来の妃のこんな会話が発端だった。

「僕はずっと影から君を守っていくつもりだったんだ。ずっと手に入らなくても愛していた。

…でも彼女が全てをひっくり返してくれたんだな。」

「とても嬉しいわ。私もあなたが婚約者ならと何度も思っていたのよ。

…彼女の有能さや度胸、忠誠心どれをとってもこのまま幽閉しておくのは勿体無いと思うの」


ミランダは病死と発表されたあとはマリーと名前を変え王太子妃の影の護衛となるべく訓練中だ。

彼女が暗躍しアローラを助けていくのはまた別のお話。

お読みくださってありがとうございました。

評価ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ