第二話
《1》
——ロフィア・リトルレッド。
これはかつて悪魔が住まう《冥界》と、天使が住まう《天界》の衝突が起こっていた時代の話。天使は悪魔を殲滅するために、後に《サイダーズ》と呼ばれることになる、最悪の兵器を生み出した。ロフィアは《冥界》がそれを模倣しようとした際に生まれた、「失敗作」とでも言うべきモノだった。
常人では前に立つことすら許されない、圧倒的な戦闘能力。収まることを知らない闘争本能。誰も彼女を扱うことができず、力を封じられた。その副作用によって、容貌は幼い少女の姿に固定された。しかしそれでも彼女の暴走は収まる気配を見せず、更に封印を施すことで、事なきを得たらしい。
それが六年前、偶然封印から逃れ、《冥界》から抜け出したロフィア自身の口から聞かされた、彼女の今までの歩みだ。しかしながら、私は知っている。そこに綴られることは今までなかったが、確かに存在していた、ロフィアの物語を。
それを聞かされたが故に、私はこの少女に言ったのだ。「私があなたを守ってあげる」、と。彼女が核兵器にも喩えられる力を持っていたとしても、それでは守ることのできない脆い心を、私が守ると。
「——それが、これ、ってことか?」
「『これ』って言わないで。……でも、そういうこと。この子がロフィアちゃん——『忌数』の悪魔、ロフィア・リトルレッドよ」
私は隣に立つキョウカちゃんに、私のベッドの上に横たわる幼い少女の持つ名前を告げた。
ロフィアちゃんは私に抱きしめられた後、安心したようにそのまま気を失った。彼女につけられた傷は相当なもので、《特別生徒会》の救護班が扱える治療では、回復
「……あんたに借りができちゃったわね」
「なんだよその言い方。まるで借りなんて作りたくなかったみてぇじゃねーかよ」
「……」
彼女の怪我は、《廃悪劣等》の《ツインズ》能力者の手引きによって、治療に成功した。その能力者が、私に応急手当てをした生徒と同じ人物だったというのに、私は驚かされることになったのだが。
「……どうして黙ってたのよ」
「自分が能力者だって公にひけらかす《ツインズ》能力者なんてそうそういねーんだよ。そういうヤツは大抵、怪しげな組織に能力を奪われたり、陰謀に巻き込まれたりするのがオチだからな。そういうのから守るために、アイツが能力者だってことは言いふらしたりしない。他の奴らに関しても、だ」
「何よそれ。よくある創作じゃあるまいし」
「でもテメェは今、その創作みてーな事件に巻き込まれてるじゃね―か。だったらあり得ねー話じゃないだろ」
「…………それも、そうね」
私は改めて、ベッドの上に横たわるロフィアちゃんの顔を覗き込んだ。未だ、彼女の意識が回復するような気配はない。怖いほど穏やかな寝顔で、少し目を離してしまえば途絶えてしまいそうな呼吸を続けている。
その姿は、今なら私でも——特殊な力を何も持たない、ちょっと腕っぷしを鍛えただけの私でも——彼女の命を終わらせられてしまいそうな気さえ起こさせた。
「しっかし、妙だな。アイツの《マゼンタ・ポーション》ならすぐに回復させられるもんだと、勝手に思ってたんだけど」
「人間と悪魔とじゃ、必要な……その、『生命力』っていうの? が違ってくるんじゃない? とにかく、気長に待ちましょう……どうせ私たちにできることは、もう待つことくらいしか残ってないんだから」
「そうか? でも……いや、そうか。そうだな」
その時、キョウカちゃんが何を思ったかを私は知らない。無理にでもロフィアちゃんを起こすつもりだったのかもしれない。でも彼女は踏みとどまった。それがこの学校に厄災をもたらしかねないことを、分かってくれたのかもしれない。
「……あのよぉ、無粋なこと聞いてもいいか?」
「何よ、急に」
「お前、今日どこで寝るつもりでいる?」
「何言ってるの? この部屋に決まってるじゃな……あ」
その時になって、私はようやっと、自分の寝床がなくなっていることに気がつくことができた。
「……やっぱり、テメェは一回賢くなった方がいい」
「やめて……今ものすごく恥ずかしいから」
《2》
その日の晩。
私はシャワーを軽く済ませて、部屋着に着替えた後、寮の食堂へと向かっていた。この学校は三棟も量を抱えているというのに、さらにその全てに食堂を併設するという、トチ狂った手厚さのサービスを寮生に対して提供している。それもこれも件の卒業生の方々さまさまなのだが、どうにも納得できないところもある。
といってもそれに助けられているのも事実なので、今日もこうして列に並ぶ私なのであった。
(——えっと、今日は金曜日だからー……?)
私はいつも日替わりセットを注文する。前は偏食しがちな私だったが、ここに来てからというもの、多少は健康に気を遣ってみようと様々なものを食べられるようにした。おかげで以前に比べて(体感)頭のキレが良くなった気がする。とにかく、感謝しかない。
金曜日のメニューは、一週間の頑張りを讃える、日本中どこを探しても「嫌い」と言う人がいないであろうキング・オブ・フード、カレーライスだ。もちろん私の好物でもある。しかも今週のカレーは、わんぱく高校生に嬉しいがっつり系カツカレーである。
(——絶対おかわりしてやるんだから! ……と思ったけど、なんだか今日はお腹が空かないわね)
どうにも色々あって精神的に疲れたせいか、折角大好物で腹を満たすチャンスだというのに、私の食欲は期待に応えてはくれないらしい。そんなことを考えながら、私は配膳待ちの列に並んだ。
この並んでいる間は無益な時間だと思われがちだが、普段から個人的なことや生徒会役員としての責務などについて考える私からすれば、有益な時間に早変わりする。むしろ、これほど思考に適した時間はないと思わせられる、希少な時間だといって良い。
(——ロフィアちゃん、大丈夫かな……)
しかし、今日の私の頭の中に巡るのは、例の獣耳の幼い少女のトピックただ一つだった。
(——一応、あの《廃悪劣等》の救護担当の子につきっきりで看病してもらってる……けど、もし容態が急変したりしたら、あの子が《ツインズ》を使っても……いや、だめ、だめよムツハ! そんな「最悪の事態」なんて考えたら、現実に起こっちゃうかもじゃない!)
頬をペシン!と叩いて正気を取り戻すと、もう私の前の子がトレーを手に取り、食堂の係の方へ注文を伝えるところだった。
(——……まずい、まずいかもしれない……私ったらいまの今まで悩んでたせいで、ライス何盛りか全く考えてなかったッ!?)
顔から血の気が引いていくのが、手に取るように分かった。
(ええと、ここはもちろん大盛り……って言いたいけど、すぐに部屋に戻ってロフィアちゃんの容態を確認したい気持ちもあるから小盛り? でもそれだと十分な食事を摂ったとは言えないんじゃ……)
「あの……大丈夫?」
「ふぇ……?」
話しかけられてようやく、前の子の注文などとうに終わっていて、私の順番が回ってきていることを理解した。
「あッ……!?だっだだ大丈夫です、大丈夫ですよもちろん!えっと、日替わりセットをお願いしますぅ!」
「日替わり……カレーですね。ご飯は何盛りにしますか?」
「えっと、大! ……じゃなくて小? いや、えっと、その……そう、そうです! 二つの間をとって中にすれば——」
全てが言葉として表に出ていることに気づかない私が、食堂の方の生暖かい視線を浴びながらそこまで言いかけたところで。
——ドドドドドドッ!
「うわっ——!?」
突然、寮の建物を激しい揺れが襲った。
「何、何が起こったの!?」
「もしかして地震か!?」
周囲の生徒たちの中からそんな声が聞こえてくる。私だって、最初はもちろん地震か何かを疑った。しかし、私は知っている。これほどまでに大きな揺れを、たった一人で引き起こすことのできる人物が、この建物の中に紛れ込んでいることを。
「まさか……ッ!」
「え? あちょっと、どこ行くの——!?」
私はトレーを置いて、困惑する食堂の方の声を背中に浴びながら、すぐさま自室のあるフロアへと走り出した。
建物から避難しようとする生徒の流れに逆らう形で、私は階段を駆け上がり、更に先に広がる長い廊下を走る。その中では当然、向かい合う生徒に声をかけられることもある。
「ちょっと待て……奥に行くのは危険だよ!?」
「止めないでください、これは《特別生徒会》の役員としての責務です! 建物に取り残された人がいないか、確認しなければ!」
私はその瞬間、自分の空回りがちな正義感に従って《特別生徒会》の一員になったことに、普段とは異なる意味で助けられたと感じた。
《3》
ようやく自室が近づいてきたというところで、私はあの時と光景を鮮明に甦らせる、信じられない光景を目の当たりにした。
「アハハハハ! おねえちゃん、つよいね! ロフィアとこんなにながくあそんでくれるひと、ずっといなかったもん!」
「ハハッ……《廃悪劣等》のカシラ、あんま舐めてっと派手に怪我するぞ、赤い頭巾のお嬢ちゃん……!」
私が目にしたのは、散々荒らされた廊下の真ん中に立つ、すっかりボロボロになったキョウカちゃんの背中だった。トレードマークの改造制服はところどころが裂け、その下の肌につけられた生々しい傷があらわになっている。
そして彼女が相対している、キョウカちゃん越しに見えた、人に似た形の、人ならざるシルエット。若草色の髪の中から狼の耳を生やし、フードのついた赤いマントで身を覆った、年端もいかない幼女の姿。それは確かに——ロフィア・リトルレッドのそれだ。
彼女は両の腕に握る、明らかに彼女の身の丈か、それ以上の長さを誇る巨大な刀身を持つ大太刀を大きく振り回す。
「ロフィアちゃん、ダメ——ッ!」
私は思わず叫び声を上げた。しかし、それが彼女に届いた様子はない。かき混ぜられた空気は渦を作り上げて、私たちの方へと無情に襲いかかった。
私は思わず顔を覆った。その暗闇の奥から、キョウカちゃんの声が響いた。
「《リグレット・オブ・イエローチューリップ》、まだまだ手伝え!」
——ブォンブォンブォン!
気流が乱れる音が迫り、私たちに襲いかかる——前に、別の気流を乱す「何か」を前にして、それは急激に勢いを失った。
「うオオオォォォォォォォォッ!」
「え——?」
私は恐る恐る顔を覆う手の隙間から、その「何か」の正体を見た。
(——あれがキョウカちゃんの……《ツインズ》!?)
キョウカちゃんは、一振りの日本刀を巧みに操っていた。しかしこれだけでは、彼女の悪魔へ果敢に立ち向かう姿を表しきれたとは言えない。
彼女は刃のない日本刀、言うなれば鋼鉄製の木刀のような鈍器を、それと繋がれた鎖の端を持ち、振り回すことによって、迫りくる気流の渦を打ち砕いていたのだ。時折、チューリップの花びらを模した鍔がきらりと閃いていて、それが私には、希望の願い星のように見えた気がした。
「あはは、アハハハハ!」
「笑ってんじゃねぇ、ぶっ飛ばすぞ!」
満足げに高笑いするロフィアちゃんへと、キョウカちゃんは怒りに顔を歪めながら突っ込む。鎖のリーチ分の遠心力も加わった日本刀のスイングが、ロフィアちゃんへと襲いかかった。
彼女はそれを大太刀で軽く受け流すと、小さな体で一気に間合いを詰め、巧みにキョウカちゃんの懐へと潜り込み、地面に突き刺したそれらに体重を預けて回し蹴りを放った。
「ぎッ……!」
足先はキョウカちゃんの脇腹へ深々とめり込み、彼女を壁へと叩きつける。しかしキョウカちゃんもタダでやられたわけではなく、あらかじめ体に巻きつけておいた鎖で直撃を逃れていたようだった。
そして追撃に走るロフィアちゃんへと、彼女は即座に鎖を巻いた拳を叩き込んだ。ちょうどそれはロフィアちゃんの顎へとクリーンヒット、幼い少女の体は天井へと叩きつけられる。ここで、おかしなことが起きた。
「あれ……ロフィア、てんじょーにたってる?」
天井に叩きつけられたロフィアちゃんの体が、まるでそこを地面にするかのように天井から離れなくなってしまったのだ。「上」を「下」にして立ち上がった彼女は、困惑の表情を隠せない様子だ。
そんな彼女へ、キョウカちゃんは宣言する。
「それがアタシの……《リグレット・オブ・イエローチューリップ》の能力、『重力ベクトルの操作』だ。驚いたか?」
(——そんなのアリなのー!?)
観戦していた私は、思わず心の中で叫んでしまった。まさか自分に近しい人物が、そんなインチキな「異能力」を宿していたなんて到底想像などしていなかったからだ。
しかし、あるところで納得もしてしまう。そんな大それた力を持っていれば、確かにこの学校の不良の頂点に上り詰めることなど容易いだろうと。そして、私という友にその力を使うことも、まあ躊躇われるだろうな、と。
しかしそんな私と違って、ロフィアちゃんは能力の影響を受けている当人であるにも関わらず、驚いたり恐怖したりする様子を見せなかった。
「あはは、おねーちゃんすごーい!」
まるで公園の遊具ではしゃぐかのように、彼女は呑気に楽しそうに笑っている。笑いながら、何度も「上」から「下」に向かって飛び跳ねては、その奇怪な状況で、遊んでいるように見えた。
「……チッ」
これに気分を害されたのは、能力者のキョウカちゃんだった。《ツインズ》は自分の武器の一つだと、誇らしげに語っていたキョウカちゃん。その彼女からすれば、今の状況は、耐え難いもののはずだ。
トレーニングに使っていた大切な竹刀を弟に貸したら、その先端で犬のフンをつつかれたときの私と同じような感覚を、きっと彼女は感じたのだろう。
「……遊んでんじゃ……ねェッ!」
いきなり彼女は前傾姿勢になると、斜め前方向に跳んだ。その瞬間彼女は、自分の体に《リグレット・オブ・イエローチューリップ》を使ったのか、その跳んだ向きに落下するように飛行を始めたのだ。
そしてその勢いを保ったまま、すれ違いざまに頭の上に構えた鈍器を振り下ろした。自分の状況に気を取られていたロフィアちゃんは、それに気づくよりも先に、殴打を真正面から受けた。
「一ッ!」
「いたっ……!?」
キョウカちゃんが天井に着地すると、ロフィアちゃんの体が天井から離れ、正しく下へと落下する。それに合わせて、日本刀が上から下に叩きつけられる。
「二ィ、三、四ッ——」
改造制服の裾を翻す《廃悪劣等》の長は、そのままロフィアちゃんの周りを、鏡張りの部屋の中を乱反射するレーザー光線のように、天井、壁、床を縦横無尽に飛び跳ね、落ちながら、次々とロフィアちゃんの小さな体へと打撃を叩き込んでいく。獣耳の少女はキョウカちゃんの緻密な重力操作によるものなのか、空中のある一点に固定されたままだった。
「——八、九、十ッッ……ドラァァァァッ!」
そして十発目を打ち込んだ彼女は地面に足をつき、ロフィアちゃんの体へ、場外ホームランでも達成しそうなフォームで最後の一撃を叩き込んだ。その瞬間に重力制御も解除され、ロフィアちゃんの体は廊下の突き当たりまで、激しい砂埃を上げながら吹っ飛んだ。
「……きょ、キョウカちゃん……?」
私は壮絶なラッシュを叩き込み終え、まだ息を荒げている彼女の名を呼んだ。
「……あいつ、ウチの救護を殺しかけたんだよ」
「え?」
「何、驚くほどのことじゃないだろ、お前の言ってた通りになったんだ。……悪童を殺す悪童、虫を潰すように人を屠る悪魔。それがロフィア・リトルレッド、『忌数』の悪魔ってやつなんだろ?」
「……」
私は何も言葉を返せないまま、静かに頷くことしかできなかった。
「ロフィアちゃんは……命の価値が分からない子なんだ。だから、びっくりしちゃった時とか、咄嗟に身を守ろうとした時とかにも、うっかり殺しちゃうことがあるんだ」
「なんだよそれ。まるであいつのことを擁護してるみてぇな言い方だなァ。アタシの仲間に手ェ出したあいつを!」
「それは! ……それは……うん、そうだよね……」
言い返すことはできなかった。
私は知っているのだ。確かにロフィアちゃんは戦闘と殺戮をこよなく愛するジェノサイダーだ。しかし、彼女がそうなったのには、そうならざるを得なかったのには理由があるのだ。でも。
「……キョウカちゃん」
私は改めて、彼女の姿を見た。
ボロボロで、彼女が能力者で人より頑丈だということを知っていてもなお、今にも倒れそうなのではないかと思えてしまう姿だ。
きっと殺されそうになった救護の子も、同じようにボロボロなのだろう。ひょっとしたら、ロフィアちゃんの一撃をもろに喰らって、もっと無惨な姿になっているのかもしれない。
「許せない……よね」
キョウカちゃんが誰よりも友情を重んじることを、仲間を大切に思っていることを、私はよく知っている。だからこそ、私の持っている友情と、彼女の持つ友情が共存し得ないことを、私は知ってしまった。
「……ああ、許せねェよ」
「……ッ」
彼女が冷たく放った言葉に、体が強張った。やはり私の思った通りだ。ロフィアちゃんとキョウカちゃんには、絶対的な「溝」がある。
「ごめんなさい……私のせいで……!」
「なんでテメェが謝るんだよ。別にテメェに傷つけられたワケじゃねーくせに」
キョウカちゃんの口調は存外優しかった。だからこそ、私は自分が許せなかった。どうして、私がつきっきりでロフィアちゃんのそばにいようと言えなかったのか。
「だって……ロフィアちゃんの危なさを一番分かってたのは——!」
その時だった。
「いたた…………」
「おねーちゃん、つよいね……!」
「!」
土埃の奥から、ロフィアちゃんの声が聞こえた。
「まだ倒れてなかったのかよ、クソッタレっ!」
「あはは!『くそったれ』だって! ロフィアのことを『くそったれ』だって! やっぱりおねーちゃん、おもしろいね! でも——」
ロフィアちゃんの声音が、変わった。
「——このままやられっぱなしじゃ、ロフィア、おもしろくないの」
同時に、土埃の向こう側から、「キラッ」と小さな輝きが覗き見えた気がした。その瞬間、私の背筋に悪寒が走った。
「キョウカちゃん逃げて——!」
衝動で私は叫んでいた。
「はぁ? アタシを誰だと思ってやがる……ここで逃げたら《廃悪劣等》の名が廃るだろ!」
「そんなことを言ってる場合じゃないの! ロフィアちゃんが今何しようとしてるのか分かってから言って!」
私は《リグレット・オブ・イエローチューリップ》を掴むキョウカちゃんの右手をガッチリ掴んで、なんとかして逃がそうと彼女の体を激しく揺すった。
「ロフィアちゃんの力は、ロフィアちゃんの能力は——!」
——間合いを無視して物体を切ることなの。
それを言い終わる前に、「ジャギィン!」と、私とキョウカちゃんのいるところを、斜めに何か巨大なものが通過したような感覚が襲いかかった。
一拍遅れて、私は下半身の感覚を失った。キョウカちゃんの上半身が少し浮いた。寮の壁に線が入って、建物全体が少しずれて、それをきっかけに、ものすごい地響きが学校を襲った。
「ロフィアの《ツインズ》はね、《666》っていうの!」