ep.6 私の好きな人。
こんにちは!晴春述です!
更新しましたので、是非ごゆっくり〜〜!
「雪ー。おきなさーい」
今日も佐野 雪は母親の声で目を覚ます。そして急いで朝食を平らげ、髪をセットし、歯を磨き、着替えて、家を出る。風がそよそよと吹いて、気持ちいい。これから夏なので、制汗シートを持っている。
最近、私は二人の男子に見られている。
一人は石谷。
もうひとりは、田村だ。
たまに田村のことを考えてしまう事がある。ふとしたときに、脳裏で田村が笑っているときがある。
「雪ちゃーん」
走ってきたのは、大森咲だ。
「あ、なんかかお赤い」
「嘘っ!」
「好きな人でもできた?」
「ま、まあね」
「ええええっ!………………だっ誰?」咲が顔を覗き込む。
「近っ……えっと……………………た、田村……」
「ああ!田村雅彦か!陸上部屈指のイケメンだかんなー女子に人気あるからな」
「えっ……田村はバド部だよ?」
「は?ああ、なるほど……まず、田村って二人おんのよ」
「ええっ」
「陸上部――おそらく雪の知らない方が女子に人気のイケメン田村雅彦。もう一人がバド部の、田村晴人」
「なるほど……」
「でも、雪も物好きだね、あんな少し影のうすそうな田村晴人が好きだなんて」
「えっそお?」
「そうだよ、雪ちゃん学年で男子からも女子からも人気があるからさ、田村晴人くんよりももっといて楽しいひとがいるよ。もっと好きになるのにふさわしい人がいる」
「そ、そんなことないよ――――」
途端、涙が溢れ出た。涙が勢いを増し、声が漏れる。悔しい、というよりは、我儘だ。現にどうしてもお菓子を買ってもらえなかった子どもの泣き声みたいな。そういう、もうあなたの声を聞きたくない、ていう我儘。
おそらく、咲は踏みにじってはいけないものを踏みにじったらしい。と自覚する。
雪ちゃんにとって、大切なものを、大切なひとを。
「ごめん、ぜんぜん雪ちゃんの気持ちに気づかなかった…………」
「いいよ、ありがとう………………少し一人にさせて」
二人は、バラバラになった。
そして、バラバラのまま学校についた。
「だ、大丈夫……?」晴人が気を使って訊いた。
「咲と喧嘩した」
「大森さんと?」
「なにがあったの?」晴人は聞いてきた。ものすごく真剣な表情で。
私は今まであったことを話した。もちろん田村の名前は伏せて。私の好きな人を侮辱してきた、と。晴人は少しふてくされて言った。
「仲直りしなよ」
「でもそれが案外難しいんじゃん?」
「じゃあさ、――――――」
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「佐野さんが呼んでるよ」田村晴人が呼びに来たのは、朝の会の後だった。少し顔が赤い。
多少の不安を抱きつつ、私は雪ちゃんのもとへ向かった。
「ごめん、咲っ。急に朝泣き出しちゃったりしてさ」
「ごめんは私の方だよ…………。変なこといってほんとごめん」
「じゃあ、林間学校、私と一緒の班になろ!」
「うんっ!」これはもう、即答。
「そういえばさ、とうの本人、田村晴人をパシったようだけど?」
「ええ、それは、その…………好き、だから?」
雪ちゃんがそう言うと、ふたりともクスクスわらいだしたのだ。笑い声が、青い快晴の空へ溶けていった。
どうも、晴春述です!
お読みいただきありがとうございました!
それでは次回もお楽しみに!