8.姪っ子に勉強を教えて見た。彼女は義妹と同じで物覚えが悪い。そして、彼女は住んでいる寮でも「いらない」を繰り返しています。
それから一か月の月日が流れた。
今、フィリアは使用人が住む寮の一室に住んでいる。
一応、私の専属奴隷という事で個室住まいだ。
……本音を言うと私の寝室の傍に住まわせたかったのだが、さすがに無理と言われた。
なので、寮に住みつつ王宮に通わせると言う方法を取っている。
「マリーナさん。フィリアはどうでしょうか?きちんと勉強している?」
私は、フィリアに教師をつけて勉強させている。
もちろん、奴隷である彼女に対し正式な教師を付けるわけにはいかないから、私の知り合いで既に現役を引退した知り合いの教師であるマリーナさんに個人的に頼んだ。
ちなみに給料は私の個人財産から出している。
ついでに言うなら、ばれないようにフィリアの仕事の合間に私の部屋で勉強させている。
「はっきり申しまして、物覚えは悪いです」
「そうですか……」
そう言えば、義妹も物覚えが悪く、いつも癇癪を起して教師を辞めさせていたっけ。
フィリアも、その悪い血をひいてしまったのだろう。
「ごめんなさい。大変とは思いますけど、辞めないでください」
「何をおっしゃられるのですか?」
「え?」
マリーナさんの言葉に、思わず驚いてしまった。
「確かに、彼女は物覚えが悪いです。私が教えて来た生徒の中でも悪い方です。ですが、あの子の学習意欲の高さは本物です」
「そうなの?」
「ええ、ご安心ください。学習意欲の高さは、物覚えの良さよりはるかに重要です。彼女はきっと優秀な人物になるでしょう。将来、ご子息が王位に就く際には、必ずやお役に立てる女性になるでしょう」
「そう……」
こうして、マリーナさんからいくつか報告をもらった後、彼女は退室していった。
私は思わず笑みを浮かべた。
そう言えば、義妹は自分がやりたい事……イケメンを落とす事には一生懸命だったっけ。
そして、彼女が落とせなかった男は一人もいない。
もし……もしも彼女が男を落とす為に使っていた努力を勉強に使えば…………優秀な人間になっていただろう。
私にはミリア以外にも息子がいるが、その子の側近になるもよし、もちろんミリアの側近になると言うのも有りだ。
あぁ、彼女の未来が楽しみだ。
そう思うと、笑みを浮かべる事を止められない。
ちなみに、専属奴隷が貴族や王族の配下として仕事する事は、奴隷制度がある国では珍しくない。
性格に問題があるが能力が秀でている人間を専属奴隷にして行動を束縛し、国の為に働かせる事はよくある事なのだ。
次に報告に来たのは使用人長のクーリアさんだ。
「寮でのフィリアの様子はどうですか」
「問題は起こしておりません。ですが……」
「ですが……何ですか?」
「彼女は既に寮内で孤立しています。いえ、望んで孤立していると言いますか……」
「と、言いますと?」
嫌な予感がした。
「彼女は最年少という事で他の使用人から注目されていたのですが……彼女は人と喋る事を好まないようでして……。それだけでは無く、他の使用人がお菓子とかをあげようとしても、いらないと言って絶対もらおうとはしないようで」
「また、いらないですか」
私は今まで何回か彼女を誘ってお茶しようと言ったが必ず断った。
しょうがないから主人命令で誘った事もある。
それに、何かをあげようとしても絶対に断られる。
まぁ、私からもらうのは嫌なんだろうし、物で釣るってのもどうかという気持ちもあるから、私があげるのは必要物とかにしているんだけど……
まぁ、私はいいのだ。
嫌われたままでも構わないと思っている。
でも、周囲の人とは仲良くして欲しいと思っている。
だけど、彼女はとにかく人からもらう事を拒否している。
この点に関しては義妹とは違う。
そう言えば義妹は嫌いな人からでも貰えるものは貰うタイプだったっけ。
それにしても、だ。
母親は「欲しい」
娘は「いらない」
まったく逆になっている。
ちょうどいい位になってくれればいいに。