6.もう誰にも、あなたの事をフール<愚か者>なんて呼ばせない。今日からあなたの名前はフィリアです。 え、嫌なの?
そして、数か月後……
「やっと来たわね」
私の自室で、姪っ子を出迎える。
彼女は、相も変わらず憎しみのこもった眼で私を見つめている。
彼女の怪我は、事前に私が用意させた治療師の治療魔法で治され、今では傷跡すら無い。
折れた腕も既に治っている。
食事もきちんと食べさせたから、前よりは健康的になっている。
それでも普通の人より痩せているけど。
さらに、事前に体を綺麗にされたせいで、とても愛らしい姿だ。
もっとも、彼女の父は超イケメン、母はゆるふわ美少女だったから、当たり前かもしれない。
うん、このままきちんと生活すれば、絶世の美女になるだろう。
前と違う所として、彼女の首には、奴隷に着けられる魔法の首輪がつけられている。
この首輪に私の魔力を流すと彼女は私の専属奴隷になる。
ちなみに、流していない状態でも他人に対する暴力が出来ない等の強制力が働いている。
もしこの力が無ければ、今にも彼女は殴りかかって来るだろう。
「じゃぁ、さっそく」
私は首に魔力を流す。
こうして、彼女は私の専属奴隷になった。
私は、彼女を連れて来た騎士に一つ命令すると、部屋から出し、彼女と二人っきりになった。
「じゃぁ、宜しくね。フィリア」
「フィリア?何それ」
「あなたの名前よ。いつまでもフールなんて名前じゃ駄目でしょ」
そう、私がまずやろうと決めていた事、それは彼女の名前を変える事だ。
【愚か者】なんて意味がある名前、彼女には似合わない。
もっとかわいい名前が必要だと思ったからだ。
だから、新しい環境になった今このタイミングで、新しい名前を与えよう、と思ったのだ。
「いらない」
「……へ?」
「そんなもの、いらない」
「いや、でも」
「いらない」
「どうして?私が考えた名前だから?」
「誰が考えたかは関係ない。とにかく、いらないものはいらない」
嫌な名前だった?
それとも、他に理由が?
色々考える。
「えっと……じゃぁ、何か希望の名前ある?こんな名前がいいなーっていうの」
「別に」
「え、今の名前がいいの?」
「嫌」
「じゃぁ、名前を決めないと」
「私がつけたい名前は無い。でも、他の誰かに決められたくない。他の誰かから名前をもらうくらいなら、フールの方がまし」
困った。
フールのままがいいなんて言われるとは思わなかった。
かと言ってこのままでいいわけない。
仕方ない……か。
「主人として命令します。あなたは当面フィリアと名乗りなさい。ただし、あなたが好きな名前が出来れば、その名前にいつでも変えて構いません」
奴隷の首輪が光る。
「……わかり……ました」
彼女は、私を憎悪の目で見ながら頷いた。
奴隷の首輪は、行動は制限できても心は制限できない。
私はよりいっそう嫌われただろう。