4.あの人達の最期を知った私は、本当の想いを思い出す。 かつてザマァした私は、今度はザマァされる。
「あの人達、亡くなったのね」
予定を延長してリーン王国に留らせてもらっていた私は、報告書を読んでそう呟いた。
「愚かな人達。きっと、最期まで貴族のプライドを捨てられなかったのね」
そう、あの人達は本当に愚かな人達だった。
「でも、きっと私はそれ以上に愚かなのでしょうね。彼らが公爵家のプライドを捨てられない事なんて、ちょっと考えればわかる事なのに。幸せな生活で、家族の事を考えていなかったなんて」
自分で言って、自分で驚いた。
私は、あの人達を【家族】と言った。
それに、私が今第一に考えるべきは虐待を受けているフールの事のはずだ。
なのに、死んだあの人達の事ばかり考えているという事実に。
そして、今気づいた。
私が涙を流している事に。
私が汚名返上した時、いや、追放されたあの時……あの人達はもう私の家族じゃないと思った。
実際、汚名返上した後……最後の別れの前に、「あなた達は私の家族じゃない!」ときっぱりと言った。
その言葉に嘘はなかったはずだ。
心からの言葉だった。
でも、今……
私はあの人達を【家族】と言ったのだ。
無意識に、だけど間違いなくそう言った。
「そっか、そうだったんだ」
私は、当時も、そして今まで心の奥底に封じていた気持ちに気付いた。
結婚して、子供が出来たからかもしれない。
私は、家族を憎んでいたわけじゃない。
家族として認められなかったのは悲しかったけど、死んでほしかったわけじゃない。
義妹だって、半分血が繋がっているのだ。
仲良くしたかった。
一緒にお菓子を食べたかった。
お揃いの服を着て出かけたかった。
義母だってそうだ。
鞭で叩いてきた事は今でも許せない。
だけど、自分の娘を王子と結婚させたいと思う気持ちは、親になった今ならわかる。
血の繋がらない義理の娘と血の繋がった実の娘。
どちらの方が可愛いか、どちらにより高位の相手と結婚してもらいたいか。
答えは決まっている。
あぁ……今、思い出した。
あの人達が来る前日の夜、私は興奮して眠れなかったんだ。
どんな義妹なんだろう?
一緒に遊べるといいな。
どんなお母さんなんだろう?
優しい人だったらいいな。
本当の家族になれるかなって思っていたんだっけ。
婚約者の王子だってそうだ。
確かに、当時から愛していなかったかもしれない。
けれど、協力して頑張っていこうと思っていた。
一緒に頑張ろうって、だから未来の王女になる為の猛勉強にも耐えられた。
それに、それなりの期間を婚約者として過ごしていたのだ。
情が沸かないわけがない。
ただ、罪を償ってほしかった。
そして、あの人達なりの幸せを掴んで欲しい。
そう思っていた事に、今、気付いた。
でも、そうはならなかった。
そして、私は彼らが死んだ事すら知らなかったのだ。
そして……そして…………。
私は、あの人達の顔と名前すらもう思い出せなくなっていた。
名前は全く思い出せないし、顔もうろ覚えになって特徴的な部分しか思い出せない。
さらに、私も名乗っていたはずの家名も思い出せない。
……なんて愚かな私。
あの人たちが私を家族と思わない事と、私があの人達を家族と思わない事は全く関係ない。
私の本当の心に気付いていれば、いや、あの人達の事を一度でも考えれば、どうしているか調べる事は出来たはずだ。
そして、現状を知れば、こっそり彼らを支援する事だって出来たはずだ。
「ああああぁ……」
私は泣いた。
無実の罪で国外追放された時も泣いたけど、その時よりも比べ物にならない程、泣いた。
あの人達にはもう会えない。
私は、実の父、義理の母、血が半分つながった妹、長い期間一緒にいた元婚約者を……
見殺しにしてしまった。
私は、追放される前まで望んでいた事を思い出した。
この人達と家族になりたい。
いつか、分かり合える日がきっと来る。
今はつらいけど、報われる日がきっと来るって。
そうすれば、そうすればきっと……
皆で笑顔で笑顔で笑いあう事が出来るって。
そんな日がいつか来たらいいなって。
そんな日を夢見てた。
私の望みは、もう絶対にかなわない。
だって、私以外皆死んでしまったから。
そして……その最後の一線を越えさせたのは、間違いなく私だった。
「ふふっ」
思わず笑顔がこぼれる。
結局、私達は似た者家族だったのかもしれない。
自分の幸せの為なら、他人を平気で踏みつける。
どうなろうと知ったこっちゃない。
そんな醜い私達。
「私達って、本当に……そっくりね。自分の事しか考えない、愚か者同士。その事に私が気付いていれば、きっと……仲良くできた」
只々、泣くしかなかった。
それが、私に与えられた罰だった。
名前を忘れていた、という部分ですが……
実は、最初は名前を載せないで行こう、と思っていたんです。
ですが、書いている内に名前を思い出せないって面白いよなーって思ったんです。
で、内容修正。
夫の名前や死んだお母さんの名前、生まれ故郷の国の名前を急遽設定しました。