・自分の死体
夜七時。
スマホの通知センターを見ると、高校時代の友人の直人からメールが届いていた。
『なあ、お前って霊感あったよな? 頼む! 今から俺ん家に来てくれねぇか?』
確かに自分には霊感はあるが……厄介ごとのにおいがする。少し迷って、僕は直人に『何があった?』とメールを送信する。
既読が付いた。
『死体が、見えるんだ』
『死体?』
『ああ。
首を吊っている自分の死体が見えるんだ。
お前に送ろうと思って写真を撮ってみたんだが』
『写らなかった?』
『ああ』
自分の死体が見える、か。
僕もたまに変なものが見えることはあるが、そんな経験はしたことがない。
『心霊スポットに行ったり、変な儀式をしたりしてないよな?』
『してねぇ』
続けて、メールが届く。
『頼む! 今すぐ来てくれ!
金曜日なんだしいいだろ?
交通費も出すから!』
めんどくさい……が、友人の危機だ。
最悪、命の危険があるかもしれない。
『わかったよ。
今すぐ行く』
僕は尚人にそうメールを送ると、外出の準備を始めた。
§
深夜、とあるアパートの203号室にて。
「ごめん。見えない」
「いや、そこにいるだろ?」
直人が指を差した方向を見るが、何もいない。
ただ灰色の壁があるだけだ。
直人の首吊り死体など、これっぽっちも見えない。
……これは、どうしたものか。
「さっきと似たようなこと聞くけど、何か心当たりとかないか?」
「いや、それが全くねぇんだよな」
マジか。
「これは明日、一緒にお祓いを受けに行くしかないかもな」
そう言うと、直人が「そうだな」と僕の意見に同調し、
「ま、でもなんかお前が来たら安心したわ。一緒に酒でも呑まねぇか?」
「ずいぶんと急だな!? い、いいのか? お前にはまだ見えるんだろ?」
「見えるけど、お前にはどうしようもないんだろ? それなら、楽しくパーッと過ごそうぜ。怖さも紛れる」
「まあ、それも……そうか」
直人の態度に少し不可解なものを感じながら、僕は頷いた。
§
「んん……」
目を擦って、枕元に置いてあるスマホを見る。
朝八時。いつの間にか、寝てしまっていたようだ。
歯を磨こう。そう思って、僕は上体を起こすと、
「うわっ!」
思わず飛び退く。
だって、僕の視線の先には――直人の首吊り死体があったのだから。いや、正確には直人の首吊り死体の姿をしている怪異だが。
うーん、それにしてもなんで昨日見えなかったのに、今日いきなりこの怪異が見えるようになったんだ……?
とにかく直人本人に報告――って、あれ?
そういえば、直人の姿が見えないな。
いったい、どこに行ったんだ?