・青色の友人
※元々、短編として投稿していたものです。内容は、ほとんど短編の時と変わりがありません。ご了承ください。
「起立、礼――ッ! さようならァ!!」
「さようならー」
担任のその言葉を合図にSHRが終わり、クラスメイトたちがゾロゾロと教室から移動を始める。
向かう所は、人によってさまざまだ。委員会の仕事をしに行く者や、部活動をしに行く者、はたまた家に猛スピードで直行する者。
そして、このオレも本来部活動をしに行く者なのだが……なんと! 顧問の谷口と坂本に、急用が入ったらしい。
つまり……!
急遽、今日の部活は休みになった!!
「なあ、聞いてんのか? おーい、ヒノミヤー?」
後ろから、そう肩を揺さぶられ、オレは思わず「わっ!」と驚きの声を上げる。
「び、びっくりしたァ……」
「ざけんな! びっくりしたのはこっちだよ!」
うう……部活が無くなったことが嬉しすぎて、オレと同じサッカー部に所属してる、田中ミズキの存在に全く気付かなかった。
「悪い悪い。――で、どーした、ミズキ」
「今日の部活休みになったからよ、今からみんなでどっか行かね?」
「いや、オレ今日家でゲームしたいんだよね」
「えー、行こうぜー」
ミズキはそう言うと、小動物のように目を潤ませながら、オレに追い縋ってくる。……可愛くねーよ。
「行くっつっても、どこ行くつもりなんだよ」
オレのその問いに、ミズキは「うーん」と唸りながら、目線を左右に巡らせる。えー、そんなに悩むことなの……?
「あっ! 海とかどうよ? 夏だしさ!」
「――――」
「――ヒノミヤ?」
なんだ、これ……。
ミズキの顔が、青色にぼやけて見える。
さっきまでは、なんとも無かったのに……。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、ちょっと目眩がしただけだから……」
オレはそう言って、目を擦るが、症状は一向に改善しなかった。その上、不思議なのが、ミズキの顔だけが青色にぼやけて見えるのだ。
まだ教室に残っているクラスメイトたちや担任の顔は、はっきりと見えるのに……。
「ったく、具合悪いなら正直にそう言えよー。――うしっ、海はまた今度にしようぜ」
「…………悪いな」
「んな些細なこと気にしねぇから、安心しろ!」
そう言いながら、ミズキはオレの肩にポンと手を置いた。そして、オレは青色にぼやけていないミズキの顔をしっかりと見ながら、
「サンキュ、海は明日にでも行こうぜ」
「おおっ、そうこなくっちゃ! ――じゃあなー、ヒノミヤ」
「おう、また明日」
オレはそう言って、ミズキの後ろ姿を見送った。
§
「ただいまァ」
台所で洗い物をしている母親に、オレは後ろからそう声を掛けた。母親が振り向く。
「おかえりー、ケンタ。ねえ、見てこれー、父親がね! こんなに、立派なサツマイモ貰ってきたんだー」
「…………へ、へえ」
「だからね、今日はサツマイモの天ぷらよ! 楽しみにしてて!」
「ああ、うん。楽しみにしてる」
オレは口早にそう言うと、駆け足で洗面所へと向かった。そして、目ん玉を洗おうとし――、
「――は?」
鏡に、映ったオレの顔。
それが、母親と同じように、赤色にぼやけていた。
解説→明日。