幼き私の左手には万年筆。
「きょうはわたしのたんじょうび。たんじょうびプレゼントたのしみしています。」と私は出勤前こんな手紙を貰った。
私は仕事場で「織部さんは男性だけど、文房具に詳しいしきっと娘さんも喜ばす事が出来ますよ」と言われる。
私は仕事帰りに文具店に寄った。
そして、左利きの娘のためにペリカーノジュニアの左利き用を買って帰った。
私は家に帰る。
娘は私に飛びついてくる。
「おとーさん。たんじょうびプレゼントはなに?」
私は「ちゃんと買ってきたよ。また後で渡すから待っていてね」と言う。
夕飯のあと、私は娘のために買ったペリカーノジュニア左利き用を箱のまま渡した。
娘は言う。「あけていい?」
私は「いいよ」と言った。
喜びながら私の娘、姫美は踊った。
そして、姫美ははじめから挿されていたロイヤルブルー色のカートリッジで文字を書いた。
青天の霹靂。と。
私は「そんな難しい字を書いたの・・・。」と言い、そのまま自分の部屋で寝るための準備をした。
姫美は何かに取りつかれたように万年筆で文字を書きたがっていたし、書いていた。
あれからしばらく経った。
姫美は高校生になった。
ここからは姫美の視点でお届けしよう…。
桜の咲き誇った入学式。
私は「キレイ…。」と言いながら、桜に目を奪われながら通学路を歩く。
そんな中、桜の袂に銀髪の美少女がいた。
制服もキレイだし、同じ1年生ね。
同じクラスになると良いな…。
そんなことを思いながら、学校の方へ急ぐ。
その銀髪の美少女は私の方を見ると、何故か話しかけてきた。「あの…、迷子になってしまって…。同じ制服ですよね…。学校まで案内してもらえますか…。」と涙目で訴えてきた。
私は「いいよ、私、地元からの進学だし案内するよ。」と言い案内を快諾した。
私は名前を聞く。「ねぇ、名前はなんて言うの?」
その子は「山下セラ。よろしく。」と答えてくれた。
私は「姫美って言うの。よろしく。」と言うと、再びお互いに無言の時間が流れた。
セラはずっと、私の胸の方しか見ていない。
しかも左側の。
私は「何かあるの?」と聞く。
しかし、セラは「何もない…。」と言って目をそらした。
私たちは無事に間に合った。
そして、クラス表を見る。
私とセラは同じクラスだった。
入学式も終わり、初めてのホームルーム。
セラと私は通路を挟んで隣だった。
教科書を渡される。
私はそれに名前を書いていく。
しかし、セラは自分の教科書に名前を適当に書いたら、私の手の方ばかりを見ていた。
そして、初めてのホームルームも終わって帰る時間になった。
私は背筋を伸ばしてから、あくびをして教室を出ようとした。
セラが私の方に寄ってきて。
「ねぇ、それ。Parkerのペンだよね?ちょっと見せて?」と話しかけてきた。
私は教科書に名前を書いた、マジックのようなボールペンを見せて「これのこと?」と言う。
セラは「セーラーの胸ポケットに挿している方」と言った。
私は「これ?」と言い、胸ポケットに挿していたボールペンをセラに渡す。
セラは目を輝かして「コレコレ。なんでParkerなの?こだわりなの?45って事は結構前のビンテージのボールペンだよね?Parker好きなの?」と弾丸のように話す。
さっき、案内をしたときとはまるでテンションが違った。
私は特にこだわりもなく、父に押しつけられたも同然だったので「これはお父さんの趣味で…。」と言う。
セラは「お父さんの趣味!?お父さん良い趣味だから、今度で良いから会わせて!!!!」とセラはすごくテンションが高かった。
私は断り切れず、セラを家に招く約束をしてしまった。
私は母に相談をした。
母は「あらあら…。相手は夜が遅くなっても大丈夫なのか、確認する必要があるわね…。」と言う。
私は「招く前提なの?断り方を教えてくれると思ったのに…。」
母は「言ったことには責任を持ちなさいね?」と言い、忙しそうににんじんを切り出した。
私はため息をついた。
そんなタイミングで、父は帰ってきた。
父は言う。「友だちは出来たか?」
私は「初日で出来る訳ないよ…。」と言った。
父は「まぁ、そうだよな。」と言ってお皿などを用意する手伝いをしていた。
私は父にも相談した。
父は「あぁ、早く帰れたら帰るな。まぁ、帰れるとは思えんが…。」と言った。
そして、いよいよセラを家に招く日が来た。
私は家にセラを案内する。
父親はそれから、5分もしないで帰ってきた。
セラは私の部屋に置かれたことあるごとに送られた文具に山を見て興奮していた。
セラはペン立てに挿したままのあの頃もらったペリカーノジュニア左利き用を引き抜いた。
セラは「ペリカーノジュニアの左利き用だ…。姫美さん左利きなの?」
私は「そうだけど…、でもそれインクが放置した所為で固まって書けないのよね…。」と言った。
セラは「ちょっと待ってて…。」と下の階に行った。
しばらく戻ってこない。
私は寂しくなって下にセラを追いかける。
セラはあらかじめ持ってきていた、空のコンバーターを使い私の父親から借りた万年筆用のコップで中で固まったインクまでキレイにしていた。
セラは私に「キレイになったよ?」新品同様にニブが輝くペリカーノジュニア左利き用を私に渡してくれた。
私は「ありがとう…。」と言って、セラの頭を撫でた。
セラは恥ずかしそうに「それほどでも…。」と照れていた。
セラは私の父のスーツのポケットを見て言う。「それ、Parkerのソネットマルチファンクションですよね!!!!」
父は「よく分かったね?書いてみる?」とセラにソネットマルチファンクションを渡した。
セラは「やっぱり、私もこういうペンが欲しいわ」と言って私の父にソネットマルチファンクションを返した。
セラは「姫美さんのお父様はどういうタイミングでこのペンを使われるのですか?」と言う。
私の父は「普段使いしてるから、ボロボロだよ?特に重要な場面やそれ以外でも使うしね?本当に普段使いだから」と言った。
セラは「いつか、買える日まで頑張りますから!!!」と言った。
私の父は「お?期待しているぞ?」と言い母が夕飯を作り始めたのでそれを手伝うために上着を脱いだ。
ソネットマルチファンクションをちゃんとカッターシャツの胸ポケットに差し替えるあたりは抜かりない。
メモ帳はちゃんとカッターシャツ側にも常備してあるようだった。
セラは「そろそろご飯ですよね?帰ります。」と言う。
私の母は「家は近いの?」とセラに訊ねる。
セラは「最近、越してきたので近いです。」と言った。
私の母は「あなたと姫美。セラに道を聞いて付いていってあげて?」と言う。
私の父は上着を着て用意をした。
私も制服の上に軽く上着を着込んだ。
春だとはいえども、夜は冷えた。
私の父とセラは同じ共通の趣味を持つ人として、セラを送っていくときも話は二人だけで盛り上がっていた。
私は取り残された気分だった。
近くに出来たばっかりの新築の一軒家まで来た。
セラは「家はここだから、送ってくれてありがと~。」と言う。
私は「もう、近いからって、気を抜かないでね。気をつけてね。」と言った。
私の父は足早に家路の方に向かっていたので私はそれを追いかけた。
「あああああああああああ」私はうなだれていた。
それを見てセラは「どうしたの?」と聞く。
私は「新しい万年筆が欲しくなったけど、どれが良いかわからない」と言う。
セラは「ペリカンスーベレーンなんてどう?」
私は「高すぎるよー」と言う。
セラは「ツイスビーなんてどう?」
私は「なんで吸入式前提なのよ…」と言う。
セラは「スクリクスなんてどう?あれ古典的な見た目なのに安いし吸入式だよ?」と言う。
私はセラがスマホで出した画像を見る。
とてもかっこの良い見た目だった。
しかし、なんか違う気がする。
私は「もっと手軽に楽しめるっていうか…」と言う。
セラは「それなら、カートリッジとコンバーター両用式がいいかもね?」と言い続けて「3776センチュリーとかどう?」と言う。
私はその万年筆が気になった。
私は家に帰ると父に「おこづかいを増額して!」と言う。
私は「お父さんと同じ、日記用に3776センチュリーを使いたいの」と言う。
父は「日記には最近、3776センチュリーは使ってないけど…」と言い否定した。
父にやんわりと否定された私は言い返すことが出来なった。
次の日、セラはノック式の万年筆を使っていた。
私はセラに嫉妬するように「ねえ?どうやって買ったの?」と言う。
セラは「アルバイトのお金を全部ペンにつぎ込んでいるからね?姫美もバイトしたら?」と言った。
その日の夜。
私は父に「私、バイトしたいの」と言う。
父は「そんなに3776センチュリーが欲しいのか…」と言う。
私は「認めてくれるよね?」と言う。
父は「バイトしたら、学業がおろそかになるからダメだ」と言う。
私は「なんで!!!!」と涙目になりながらそう言う。
父は「提案なんだけど、家の中でお手伝いをしたら、おこづかい増額っていうのでどうだ」と言う。
私は「本当に増額してくれる?」と言う。
父は「私の方から、母に掛け合ってみるな」と言った。
母は「そうね…。本当に欲しいみたいだし、今回から認めてあげるわ」と言ってくれた。
それからというもの、私は積極的にお手伝いをする。
そして順当に私のお小遣いは徐々に増額されていく。
私はそれに喜びを覚える。
私は増額されたお小遣いのおかげで、3776センチュリーが買えるくらいのお金が貯まった。
そして、私は3776センチュリーを買うことにする。
姫美はセラに自慢をする。
セラは「大切にしなさいよ」と言う。
私はうれしかった。
セラは私の金ペンデビューを自分の事のように喜んだ。
ある日。
セラは言う。「私の家に来ない?」
私は「行きたい!」と言う。
セラは「今度の金曜日の放課後とかどう?」と言う。
私は「そうね、私も予定は無いしそうしよ?」と言って手帳に予定を書き込んだ。
それからというもの、金曜日が待ち遠しくて仕方なかった。
待ちに待った金曜日の朝。
私はセラの家の前で待っていた。
家から出てきたセラは言う。「一緒に学校に行きましょう?」
私は「うん」と笑顔で頷く。
一緒にペンのことなどや、色々なことを喋りながら学校まで行く。
授業中も私はセラの家に行けることで頭がいっぱいだった。
私にとっては待ちに待った放課後。
セラは「じゃあ、一緒に帰ろ?」と言う。
私は笑顔で「うん」とうなずき、一緒に帰る。
そして、セラは私を自分の家へと案内する。
私はセラの家に色々なペンがあることに気づいた。
セラは気づいたように「これ全部自分のだよ?」と言う。
私はすごいと思った。
セラはPARKER45を使っていた。
私は「なんていうペンなの?」と聞く。
セラは「これはビンテージのペンでPARKERの45という万年筆なんだよね~」と答えた。
私はスマホで調べる。
私は魅力的なペンだと思った。
私はセラに言う。「試し書きさせて!」
セラは「いいよ」と少し書かせてくれた。
私は45が欲しくなった。
私は家に帰ってから、前回の予算の余りを使ってPARKER45を買ってしまった。
次の日、セラは私に言う。「もしかして、PARKER45。もう買ったの?」
私は「良いペンだったからね」と言う。
セラは「お揃いのペンばかりじゃ、面白く無いでしょ…」と言い、呆れた様子だった。
私はそうかもしれないと思った。
新しいペンを買うときセラに頼りすぎていたと後悔する。
私はフォンテという万年筆を自分で調べて買ってみた。
私はセラに「今度は自分で調べてフォンテという万年筆を買ってみたの」と言う。
セラは「そう、その調子」と言う。
その夜、姫美は軸色の異なるPARKER45を探す。
セラは姫美にメッセージを送る。
私は軸色の異なるPARKER45を探していると返信をした。
セラは確信する。
姫美は沼に落ちたと。
私は軸色の異なる45を買ってみた。
セラは新しいボールペンを買った。
セラは私の居るところで、新しく買ったボールペンのジョッターを使う。
私は「それ、ジョッターじゃない?いいなー」と言う。
セラは「そうよ、姫美が気付いてくれてうれしい」と言った。
セラは私と居ると、ドキドキするようになった。
私はそれに気づかなかった。
セラはどんどん私への思いが強くなっていく。
セラは私に告白することを決断する。
セラは私を呼び出す。
セラは「私、姫美のことが好き」と言う。
私は「これからも良き友達で居ましょう?」と言ってやんわりと断る。
セラは一旦は引き下がった。
しかし、セラは再び私に告白をする。
私は「女の子同士なんて私。分からないし…」と素直に言う。
セラは取り敢えずは諦めてくれたようだった。
しかし、セラに告白されたことを何処かでうれしく思う私が居た。
だんだんとセラのことしか考えられなくなる私。
私も自分の感情に薄々ながら気づいていた。
私は決意する。
自分から告白する。
そう決意した。
セラはいつも通り文具の話題になると饒舌でクラスの人気者だった。
私は「二人で話がしたい」と言い、セラを呼び出した。
セラの表情は硬かった。
私は「私、やっぱり…。セラのことが好きみたい」と言った。
セラは泣き出す。
私は「この前はごめんなさい…」と謝った。
セラは私に抱きつき「うれし泣きだから、ありがとう…」と言った。
私は「良かった…」と言う。
セラは私にキスをして私もお返しをした。