メロンソーダ
氷が入った緑色の液体の中で気泡が下から上へと浮き上がり消える。
上には店内の温度で溶け始めて今にも滴り落ちそうなバニラアイスが乗っている。
「早く食べないと溶けちゃうよ?」
茜がパンケーキを口に運びながら言ってくる。
「アイスが溶けることくらいわかってるよ……けど茜のパンケーキ美味しそうなんだもん」
本当はパンケーキも頼みたかったがダイエット中ということもあり最小限に抑え妥協した結果がメロンソーダというわけだ。
「ほれほれ! 1口あげようか?」
「え!? いいの?」
「はい。あーん」
「あーん」
大きく口を開け雛鳥のように催促する。
口の中に入った! と思い口を閉じるとパンケーキは口の中ではなく、外にフォークが刺さった状態で持っていかれた。
私は茜にまんまとしてやられたのだ。
「舞かわいい♡」
「はぁ……どうせ私なんか、私なんか……」
「ごめんってば。今度は本当に食べさせてあげるからさ」
もう一度茜がパンケーキをフォークに刺し私の口近くまで運んでくる。
今度は食べさせてもらえるのだろうか? などと疑問を抱きながらももう一度目を閉じ口を大きく開ける。
舌に当たるパンケーキの感触。
その瞬間口を閉じると口全体に甘い香りがふわっと広がり脳から足先までの体中に幸せが広がる。
「おいひぃ……♡」
言う必要がなくても脳が誤作動を起こし口から言葉がついつい漏れてしまう。
「ほんと舞って美味しそうに食べるよね~」
「ほんほにおいひいんあもん」
「はいはい! 口に含みながら話さない」
口に含みながら話したため注意されてしまった。
けど、そのくらい美味しいのだ。
「茜にも食べさせてあげよっか?」
「え? わ、私はいいよ」
断られてしまった……が既に私の手にはフォークが握られており断ったと同時にパンケーキを刺していた。
パンケーキを刺してしまった以上断ることは出来まいという算段だ。
「はい。あーん」
「え……ちょっ……恥ずいじゃん」
「さっき私は2度もやられたんですけど? 1回目は食べさせて貰えなかったけど」
「それはごめんって……許して?」
「じゃあ、食べて?」
「う……意地悪するんじゃなかった」
そう言うと目を閉じ茜は口を開けた。
「あーん」
茜の口の中にパンケーキを運ぶ。子供に食べさせる時もこのような感じなのだろう。
そんなことを考えながら口の中に入れるとフォークに唇が当たるのがわかった。
ゆっくりとフォークを引き抜く。
食べ終えると
「ん〜♡舞に食べさせてもらったからこそ美味しさが増してるね!」
と言ってくれた。
茜とは何も無い……ただの友達のはずなのに。
心臓が締め付けられるようにドキドキしてしまっている。
一体私はどうしてしまったのだろう。
……もしかして、恋? いやいや流石に同性だし恋だとしたら私は異常者だよ。
「おーい舞~。聞こえてる?」
「な、何よ!」
「だって、話しかけても全然返事しないんだもん」
「ごめん。ちょっと考え事してた」
考え事をしていたのは本当だ。
それが正常か異常かなのは問題ない……はず。
茜はパンケーキを食べ終えていつでも店を出ることが出来る状態だ。
それに4等分したうちの1切れ貰っちゃったし……メロンソーダ分けてあげよう。
グラスを茜に突き出す。
「はい」
「ん……?」
「パンケーキ貰ったし、そのお返しというか何というか……とにかく飲んで!」
「じゃあ、遠慮なくいただきます~」
私の使っていたスプーンを使い溶けかけていたバニラアイスを食べる。
「美味しい! 高級なカップアイスも美味しいけど喫茶店で提供されるバニラアイスは格別の味よね!」
アイスを堪能したら次にメロンソーダを飲む。
「ん~♡メロンソーダも適度にバニラアイスが溶け、混ざっていいハーモニーを醸し出してくれてる。今度注文する時は私もメロンソーダ一緒に頼む!」
メロンソーダもしっかりと感想を伝えてくれる。
こうも美味しそうに伝えてくれると分けてあげてよかったと思える。
「やっぱりメロンソーダって魅惑の味がするね~」
「それな! めっちゃ分かる」
「でもね? バニラアイスとメロンソーダだけじゃあの味は出せないんだよね~」
「……ん? だって入ってるものはバニラアイスとメロンソーダだけじゃん」
指摘すると茜はストローの飲み口を人差し指で突っつきながら私に聞こえる程の小さい声で言った。
「私……舞と間接キスしたんだよ? その……初恋の味がプラスされてるんだよね」
「っ……」
茜の声とドキドキで声が詰まってしまった。
確かに間接キスをしてしまったかもしれないけど堂々と言われると余計に意識してしまう。
恥ずかしすぎて茜の目を、顔を、直視することが出来ない。
メロンソーダの気泡を見て鼓動を落ち着かせようとすると、茜が私の顎に手を添え、軽く引かれ茜に顔を向けるいわゆる“顎クイ”をされた。
同性、異性ともにやられた経験はなくどうすればいいのかわからない。
余計に鼓動が早まるのを感じた。
「私舞のこと好きだよ? ねぇ、私たち付き合おっか。OKなら目を閉じて?」
声は出せない。
行動で示すしかないのだが、なんか……茜となら付き合ってもいいのかもしれない。
ゆっくりと身を任せるように目を閉じた。
唇に温かく柔らかい、優しい感触が当たる。
うっすら目を開けると茜の顔が数ミリの距離にあった。
(本当にキスしちゃったんだ)
ゆっくりと目を閉じ触れ合っている唇で茜の存在を感じた。
少しすると唇が離れていくのがわかった。
「ごめん……舞に対する想いを抑えられなかった」
「ううん。謝ることじゃないよ」
「ファーストキス捧げちゃった」
「私はファーストキス奪われちゃった」
「一緒だね♡」
「うんっ。これからもずっと一緒だよ♡」
「そろそろ出よっか」
「うん!」
制服の上着を羽織り、スクールバッグを持ってレジに向かう。
レジに向かう途中いてもたってもいられなくなり茜の左手を握った。
声もかけずに握ったからか茜は困惑していたが優しく私の手を握り返してくれた。
お会計をする時も店を出てからも手は繋いだままだった。
お互いにいつも別れる場所まで何も言わずにずっと繋いだ手……きっと気持ちや想いは一緒だろう。
私のファーストキスは散った。
だが、全く後悔はしていないし寧ろこれから茜と2人だけの思い出を沢山作っていくつもりだ。
「あーあ。もう別れる場所まで来ちゃった」
「あっという間だったね。もっと茜と一緒にいたいのに」
「私ももっと舞と一緒にいたいけどお家には帰らないとでしょ?」
「うん……」
落ち込み表情を曇らせていると茜がキスをしてきた。
「ちょ……なんでキスするの!?」
顔を真っ赤にして茜に訴えると
「お別れのキス。明日からずっと一緒に登下校しようね」
と笑いながら言ってくれた。
「うん! じゃ、また明日この場所で」
「ばいばーい」
繋いでいた手を放しそれぞれの帰路に就いた。
「ただいま~」
「おかえり~。あれ、お姉ちゃん何かいいことあった?」
「え!? な、何も無いけど?」
「ふ~ん」
にやにやしながら私の顔を妹が見てくる。
「なによ!」
妹の両頬を引っ張りいつものようにじゃれ合う。
「いはいよ! おねえはん!」
「何もない! わかった? わかるまでやめないから」
「わかっは。わかっはから。やめへ~」
「わかったならよろしい」
家族とはいつものように接する。
来るべき時が来たら打ち明けようと思う。
例え拒まれても私と茜の想いに嘘偽りはない。お互いにお互いを愛しているのだから。
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