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7.魔王、実験をする


「おいオッサン、貧乏ったらしいくせに色っぽい娘いっぱい連れて大したご身分だな。有り金全部と女を置いて立ち去りな」

 そう言って剣をぶんぶん振りまわしながらニヤニヤと取り囲む野盗たち。十人といったところか。野盗から見てもこの集団、家族には見えないわけである。娘たちと言うには四天王がみな美人で色っぽ過ぎるのかもしれない。

 有り金とは言っても商人たちにハガネのインゴットを売った金貨四枚が今の魔王一家の全財産だが。


「……せっかく良い人間たちに巡り合えて、見直していたところなのに、台無しだな」と魔王がため息する。

「……勇者とやってることがおんなじだねえ」

「問答無用で斬りかかってくる分、勇者のほうがタチ悪いかもしれませんよ」

「おいおい、それはさすがに一緒にしてやるな」

 ファリアとベルの毒舌にさすがの魔王も思わずフォローしてしまう。


「で、ベルとしてはどうすりゃいいと思うわけだ?」

「全員足を折ってください。両足で」

「わかった」

 例のテントの支柱用の棒を二本引っ張り出し、一本をファリアに投げる。魔法植物の鉄樫製だ。鋼鉄の棒を超える強度がある。


「お、抵抗する気か? 面白れえ。おっさん、せいぜい楽しませてくれよ。これであんたは殺すことに決定だ。娘たちは俺たちでかわいがって…‥」

「うるさい」

 そう言ってファリアが先頭の男の頭を片手の棒でぶん殴る。

 男、頭蓋骨を砕かれて即死。

「ファリア、足! 足!」

「あ、ゴメン」

「てめっ!」


 一斉に野盗どもが飛び掛かって来るが、ファリアと魔王が棒を低く振り回したところで全員の足が折れて戦闘終了。あっという間である。野盗全員、汚い悲鳴をあげながら足を抱えてゴロゴロ転げまわって悶絶中。

 ベルは周囲の魔力を探るようにしてため息する。

「足を折ったぐらいじゃ魔力が上がったりはしないか……。勇者はこれで経験値を稼ぐはずなんですけどねえ。魔王様もファリアさんもこれで強くなった気はしないでしょう。こいつらもう足に障害が残るほどのケガをして、一生野盗として人を殺したりできなくなったと思うんですけど」

「なるほど……」


「じゃ、次、一人ずつ順番に殺してください」

 サラッと怖いことを言うベル……。

「こんな山奥で両足折られたら、こいつら放っておいてもそのうち死ぬだろ」

「実験ですってば」

「はいはい」

「サーパスさん、スワンさんもマッディーさんも、魔法でいいですから」


「おっおい! 貴様ら! 俺を殺すと、俺の仲間が死ぬまで貴様らを追うぞ! 復讐してやる! お前ら生きてこの山を出さないからな! 必ず殺すぞ!」

「仲間がいるのか?」

「おうよ! 俺らの倍はいるぜ!」

「じゃあ遠慮はいらんから呼んでくれ。数を稼ぎたい」

「な……」

「早く呼べ」

「お前ら後悔するぞ!」

「呼べって」

 無造作に棒を振り下ろして男の横にいた手下っぽいやつの頭を砕く。


「ぎゃあああああ――――!」

 今頃になって自分たちの立場が分かったか、残りの野盗どもが悲鳴を上げる。

「わ、わかった! 悪かった! 俺たちが悪かった!」

「悪いとわかってもらって幸いだ。罰を受けてもらおう。ファリアやれ」

 ぐしゃ、別の手下の頭をファリアが砕く。

「ひいい――――!」

 さっきからうるさい頭目らしい男が目を剥く。

「俺たちまだ何も悪いことしてないだろが!」

「これからもするのを防ぐためだ。スワン」

 スワンが別の男を指差すと、足を折られた男が喉を押さえて悶絶し、バッタリと上半身を倒した。風魔法の初歩の初歩、気管の空気の流れを止めただけである。こんなただ窒息させるだけの魔法でも人間、野盗相手には十分強力な即死魔法になる。


「ゆ、許してくれ。もうしない、ま、まっとうに働く。野盗から足を洗う!」

「俺が許しを請うたら、お前たち見逃してくれたのか? サーパス」

 サーパスが別の男を見る。

 見ただけで、男が胸を押さえてバッタリと地に伏せる。

 これも初歩的な水魔法だ。血液の流れを心臓で止めただけだ。大量の水を操作する大掛かりな水魔法に比べればなんと簡単なことか。


「お、お、俺たちには女房も子供もいるんだ! 年老いた母親だっている。俺たちが死んだら路頭に迷う! お前たち慈悲は無いのか!」

「俺の女房と娘たちも、今路頭に迷いそうになったわけだが? マッディー」

 どすん。これも身を起こし恐怖に震えていた男が、体から全ての金属元素を除去されて即倒した。人間の体には赤血球が酸素を運ぶための微量の鉄分が存在する。それを奪われればたちまち酸欠で死亡する。


「……どうだベル」

「予想通りにはなりませんねえ……。やっぱり人間殺してもみなさん魔力ピクリとも上がりませんね」

「ふーむ……」

「勇者パーティーは魔物を殺せばレベルも上がるし魔力も上がるってことになってるんですけどねえ……。みなさんこれだけの魔法が使えて、勇者には全く通用しないんですから、どうなってるんでしょうねえ」

「そこは女神の加護とか魔法の防御とかレベル差という奴があるのだろう。アレを野盗とかと一緒にするのはどうかと思うぞ」

「やってることは大して変わりありませんけどね……。とにかくこれではっきりしたと思います。魔王様が人間殺してもまったく魔力も上がらないと! 魔族にはレベルなんて概念ありませんし、いったい勇者ってなんなんでしょうねえ。あいつら野盗退治で同じ人間倒してもレベルアップしてるはずですし、ズルいですよねえ」

「野盗は人間のうちに入れてもらえないのか……。女神様も薄情だな」

 勇者に勝てるようになるほど強くなる方法を考える? なぜか遠い過去の事のような気がする魔王である。もう勇者と闘うなんてことは自分には無いのだ。そんなことはどうでもよくなっている自分がいる。そのことに少し、驚く。


「……俺にはもう勇者をどうこうしようなんて興味は無い。良い人間たちも多くいることを俺たちはここ数日で学んだはずだ。さっさと逃げ場所を探し、ひっそりと暮らしていこう。それでいいとは思わんか?」

 四天王たちがにっこり笑って、頷く。

 元気そうに振舞ってはいても、落ち延びて逃亡している魔王の消沈っぷりは肌で感じていた四天王。どんなことでも、魔王に新しい目標ができて、元気を取り戻してくれれば彼女たちも嬉しいのだ。

「よし、では夜逃げ再開だ! これからもよろしく頼む!」

「はい!!」


 晴れやかな顔で、再び荷車を引く魔王。

「お……覚えてろ! 貴様ら! 絶対に後悔させてやる!」

 面倒くさそうに振り向いたファリアが野盗の男どもを一瞥すると、足を折られてのたうち回る連中も、死体も、全てが猛烈な炎を上げて燃え出した。

「ぎゃあああああああああ――――!」

 野盗たちの悲鳴が山間に木霊する。

 体そのものが燃える人体発火(パイロキネシス)である。消すことができず、防ぎようがないこれもファリアの即死魔法と言うべきか……。



「ねえ魔王様」

「ん?」

「さっき、『俺の女房と娘たち』とおっしゃいましたわよね」

「う、うん」

 サーパスの笑顔がちょっと怖い。

 ガラガラガラ……。荷車を引き続ける魔王の顔が引きつる。

「誰が女房で、誰が娘なんですの?」

 全員、全く笑ってない目でにこやかに微笑む。怖い。


「い、いや、アレはあいつらが女房と子供って言ったからで、それにつられただけで。俺はみんなの事、ちゃんと四天王として大切に思っているわけで、別に自分の女房だの娘だのって思っているわけじゃなくって」

「いいかげん正妻を決めてほしいですわ!」

 くねくねするサーパス。

「私は愛人でもいいや」

 執着しないスワン

「うーん、アタシは嫁にしてくれるんなら全員一緒でいいと思ってるけど……」

 興味なさそうなファリア

「……あと五年待ってほしい」

 自分の平らな胸を見下ろしてうなだれるマッディー。


「まてまてまてまて」

 慌てる魔王。

「上司が部下に手を出すなどあってはならぬ事だろう! そんなこと俺は考えたことも無いぞ!」

「魔王様はわたしたちのことを愛してはくださらないのですか!」

「いや、そんなことは……。いや、余は皆のことを平等に愛しておる。余は公平な魔王である!」

「そんなこと言って魔王様は!」

 ぐだぐだぐだ……。

 ガラガラと転がる荷車の音と共に、女たちの嬌声が山に響く。


「……こんな貧乏くさいハーレム見たこと無いわ」

 ベルがあきれて肩をすくめた。




次回「8.四天王、稼ぐ」

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