表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/45

5.魔王、火事を消す


 大混乱の正門を、人込みをすり抜けて市内に侵入する。

「あそこか!」

 正門近く、木造三階建ての大きな倉庫がすでに上層まで燃え広がり、近隣の建物に吹き出した炎が舐めている。このままでは延焼は避けられない。

 何の建物かは知らないが、職員らしき人間たちがバケツでさかんに井戸から水をくみ上げてはかけている。もちろん焼け石に水である。横の建物では延焼を防ぐ目的か、民家を大勢の領兵たちが斧や槌をもって取り壊している。

「サーパス、水脈探知!」

「もう少し先、あの街灯の下まで連れて行ってください!」

「わかった!」

 毛布に包まれたサーパスを抱きかかえた魔王と四天王たちが走る。

「ここで降ろして!」


 魔王がサーパスを街灯の下に座らせる。

 身を乗り出して地面に手を突くサーパス。ビキニの豊かな胸元、つややかな背中が毛布からあらわになる。目をつぶって一心に何かを探る。

「おいっお前らなにやってる! 邪魔だ! さっさと逃げろ!」

 バケツを持った職員が怒鳴ってくるが、そんなものに耳も貸さずに念じていたサーパスが地面をバシッと叩く!

 ぼごっ!

 ぼごごっ!

 地面が盛り上がったかと思うと、いきなり水が噴き出した!

 燃え上がる倉庫を取り囲むように、何か所も!

 高々と吹き上がり、炎上する倉庫に地面から直接放水が行われる!


「スワン、風向きを変えろ! 市内に火の粉を飛ばすな!」

「はい!」

 目をつぶって手を挙げたスワンが念じると、ごうっと風が向きを変え、ひゅるひゅるとサーパスが作った水しぶきを巻き上げて倉庫上空で渦を巻く。

「人がいるぞ――――!!」

「助けてー!」

 見上げると、倉庫二階の窓から女が身を乗り出している。

 いや、女だけではない。他の窓からも煙にあおられている男たちがいる。

「マッディー、土を盛って延焼を防げ」

「……はい!」

「スワン、空気ボール作ってくれ。二つだ」

「はい!」

 ぽわんとシャボン玉のような球が宙にできて、魔王とファリアの体にまとわりつく。

「ファリア行くぞ!」

「おう!」

 炎の四天王、ファリアと魔王が燃え盛る炎の扉を蹴り上げて打ち壊す。

 新鮮な空気を吸った炎が内部から一気に吹き上がるバックドラフトが起こるが、それを土を操作して地面を隆起させたマッディーの土壁が防ぐ。

 炎にもたじろぐことなく、飛び込んでゆく魔王とファリア。


「ば……バカな! 死ぬぞ! なにしてやがる!」

「大丈夫です!」

 怒鳴る男たちをびしょぬれになったサーパスが制止する。

 倉庫のような建物は上から水をかけるだけでは火は消えない。サーパスは水を操作してガラス窓を破り、窓からどんどん建物の内部に流し込むように放水の向きを変える。

 赤々と夜空を照らしていた炎が次第に黒い煙に変わってゆく。


 どおーん!

 二階、そして三階の壁が吹き飛び、大きな穴ができた。

 二階からファリア、三階から魔王が顔を出す。

「サーパス! 橋をかけろ!」

 サーパスが放水を開いた穴に向けると、水柱が急激に凍り出した。そのまま窓に張り付く氷のスロープになる。

 魔王とファリアが、二階と三階に残っていた要救助者の首根っこを捕まえてどんどんその氷のスロープに人を投げ込むと、つるるるーと滑って地面に転がる被災者たち。

 五人ほど救助してから、ファリアと魔王はまた炎の中に引っ込んだ。


「おいっあいつらは!」

 ちょっといい服着たハゲ頭の中年男がそれを見て驚愕する。なんで自分たちもスロープを下って避難しないのか、頭がおかしいとしか思えないだろう。

「あの人たちは大丈夫です! まだ残っている人がいないか探しているんです。心配しないで」

 サーパスが言うが、到底信じられるようなことではないだろう。

「怪我した人、ヤケドした人を一か所に集めてください」

「おっ……、おう……」


 どお――――ん!

 倉庫一階のまだ燃えてない壁が吹き飛び、人を二人背負った魔王が出てきた。二人の頭はまとめてあのスワンが作った空気ボールで覆われている。有害な燃焼ガスを吸い込まないように風の四天王スワンが作った……、まあ、空気ボンベである。不死身の魔王には必要ないのでこれは要救助者用ということだ。

「これで最後だ。治療を頼む」

 そう言って集められて、担架の上に寝ている人たちの横にその背負った二人を寝かせてやる。そのまま、他の被災者の治療にかかるサーパス。


 どーん。

 もう一度、一階の壁が吹き飛び、メラメラと燃え上がった人間が外に出てきた。

 全身にまとった炎を気にする様子もなく、手のひらでぱっぱと火を払いのけながら歩いてきたのは炎の四天王、ファリア。せっかくサーパスに作ってもらった服は燃えちゃって、ビキニアーマーだけが残っている。

「全員救出、残りはいないね」

「ご苦労」

 治療魔法を展開し、ケガ人の応急処置に専念する魔王に火が消えたファリアが手をついて身を寄せる。

「あいかわらず治療魔法、ヘタだねえ魔王様」

「サーパスは今手が空かないからな。放っておいても死なない程度にできればいいさ。仕上げは後でサーパスにやってもらうって」


 炎の四天王ファリア。炎を自在に操る上に、自身はどんな火炎も平気な、強力な耐火属性を持つ。鍛えられた肉体はあらゆる武術を駆使する戦士でもある。

 水の四天王サーパス。水と氷の魔法を操る上に、水中を自在に泳いで見せる人魚である彼女は回復、治療魔法も上手い。

 風の四天王スワン。彼女に操れない風は無い。空気そのものが彼女のしもべである。風だけでなく気象のプロフェッショナルでもあり、スワンの天気予報は外れたことが無い。

 土の四天王マッディー。土の操作から金属の精錬まで、全ての土はこの少女の思うがまま。金属と鉱物の扱いにも手練れ、草花のような植物をも下僕とする。

 そしてその四天王を従える不死身の魔王ファルカス。その最も得意とする魔法は、まだその本領を発揮していない……。




次回「6.魔王、旅を急ぐ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ