43.魔王、海を見る
「海だ!」
「海よ―――――――!」
「海に着いた――――!」
南、その大陸の南端近く。
ついに魔王たちはたどり着いた。眼下にはどこまでも続く水平線にきらめく青い海がある。
「遠かった……」
魔王たちはサーパス以外は海を見るのは初めてだった。
「美しい……。この世界にはこんなにたくさんの水があるのか……。信じられん」
初めて見る海に魔王以下四天王たちも大興奮だ。
「そうです、これが海です!」
サーパスが涙する。自分の生まれ故郷、はるか遠くにあり、もう二度と戻れないと思っていた母なる海。
「海岸線に降りてみましょう!」
ベルがそう言うと四天王全員が「賛成――――!」と声を上げた。
「どうせなら漁港に寄って、うまいものをしこたま仕入れてこよう。浜辺でキャンプするのも、今後どうするかもその後だ」
魔王の提案に、これもまた「賛成――――!」と四天王たちが声を上げる。
街の市場では様々な海産物、珍しい魚介類が安価でたくさん買えた。
浜辺に降り、さっそくキャンプの準備をし、焚火で御馳走作りにとりかかる魔王たち。
サーパスは全裸で海に飛び込んで、帰ってきた母なる海ではしゃいでいる。
「おーい! サーパス! 晩飯だぞ――!」
海岸線から遠浅の深い海から戻ってきたサーパス。濡れた髪と肢体が色っぽい。
「見てください魔王様、これ!」
そうして波打ち際のサーパスが両手に載せていたのは大小、様々な真珠であった。
「真珠?」
「うわーきれい」
「売れるかなあ……」
「きっと売れるよ! 宝石みたいだもん!」
ファリアとスワンもおおはしゃぎだ。
真珠はこの世界でも貴重な宝飾品である。全くの天然ものなのだからなおさら価値が上がりそうだ。
「そんなの海に落ちてるのか?」
魔王がそう問うと、サーパスは「貝の中で育つんです。貝と話をして、取ってあげると喜ばれるんですよ。貝にしてみればのどに刺さった魚の骨みたいに邪魔なものですから」といって微笑む。
「そうか、そりゃいいな。どれぐらいの値段で買ってもらえるかわからんが、宝石扱いで高く売れるなら、この街じゃサーパスが一番の稼ぎ頭だ」
「いいねそれ、じゃ、しばらくここに滞在して、稼げるだけ稼いでみたら?」
ファリアがそう言うと、「私、がんばりますから!」と言ってサーパスもガッツポーズをとった。
それから五人で、酒も飲んでカップを打ち合わせ、海産物のバーベキューに舌鼓を打ちながら今までの旅を話す。
「目標としていた南の海には着いた。でも最南端はまだまだこの先だ。せっかくだからしばらく海沿いの街を巡って、しっかりと安住できる地を探そう」
「魔王城から一番遠い場所まで来たんですよね……。そうですね。せっかくだから、この世界の果てを見ておかないと」
サーパスの後、魔王は今一度みんなに聞いてみた。
「暮らすんだったら、どこが良かった? 今まで通ってきた街で。王都を抜けてからはちょっと駆け足になってしまって、野盗退治ぐらいしかしてないが……」
何しろ魔王たちを追う者がいることがはっきりしたので、後半はそれまで稼いだ金を使いながらの駆け足の旅になってしまった。
ファリアとスワンは、「商業都市のタートランが良かった。食べ物はおいしいしぜいたく品がいっぱいあって目移りしちゃった」と言うし、サーパスは「せっかく海に着いたんですから、私は海の見える町に住みたいです!」と言う。
妖精メイドのベルは「私はやっぱり王都を訪問してみたかったです。リスクはありましたけど」と意外なことを言う。いや、何事にも研究熱心なベルなら当然か。
魔王は工業都市エディスンがお気に入りだ。魔王が一番稼げた街だ。いつまでも四天王たちの稼ぎに頼っていられない。それにあそこなら、新しいアイデアの道具などを工夫するなどして、魔王にも仕事がありそうだ。
マッディーは「……みんなと一緒ならどこでも嬉しい」と、けなげなことを言ってくれる。
「……だがしかし、やっぱり王都より北、魔王城に近い所はしばらくほとぼりが冷めるまでは近づかないほうがいいだろうな……。多分勇者が俺たちを探している」
「……私たち、生きてるのがばれちゃってますもんね」
ベルがそう言うと、全員、うんざりした。
「いつになったら、安住の地は見つかるの? 魔王様はいつになったら私たちと契ってくださるの……。このままじゃ、いつまでたっても子供を孕めない……」とサーパスがさめざめと泣きだした。
四天王全員、それを見て一緒に泣きたくなった。
「くよくよしたってしょうがないよ! サーパス、アンタいっつも魔王様とヤル気満々だけどさあ! あんたのアソコってどーなってんのよ!」
ファリアが辛気臭い雰囲気を吹っ飛ばそうといきなり声を上げた。
「そーよそーよ! 魔王様がちゃんと欲情するモン持ってんの!?」
スワンも便乗して騒ぎだした。二人、尾びれをばたばた、胸をぶるんぶるんさせて暴れる全裸のサーパスの両腕をひっ捕まえて、引きずり、押し倒す。
「ええええええええ!」
「ここか!」
「やめてえええええええ!」
「卵産むんじゃないんでしょ!? 赤ちゃん生むんでしょアンタ。そんな立派な乳あるんだから、ちゃんとアソコもあるんだよね!?」
「そーれえええ!」
「くぱあ――――!」
「いやああああああああ!」
「……」
なぜか無言になるファリアとスワン。
「綺麗なモン持ってんじゃない……。やるねサーパス」
「もうお嫁にいけないいいいい!」
「いや、これだったら魔王様喜んで嫁にしてくれるよ」
「魔王様、魔王様!」
「ん」
ベルが魔王の頭をぺしぺしと叩く。
「魔王様、いくらなんでもここで寝たふりは無いんじゃないですか――?」
「ほっとけ」
◆ ◆ ◆
「くっ、ここまでかよ……」
もう暗い街道、元勇者ダイルは馬を止めてカイルスのバイタルストーンを見る。
黒い宝玉の中で矢印の光がぐるぐる回っている。
このあたりでカイルスは死んだってことになる。
「バカ野郎、あんな弱っちい魔王に負けやがって。勇者でもねえ聖剣も無しのレベル90が粋がるんじゃねえよ! クズが……」
ダイルは馬を返して、一旦宿屋街に戻る。
「この先か。南の果てまで追ってやる。覚悟しとけ、魔王!」
そう捨て台詞を残してぺっと唾を吐き、ダイルは余裕ありげに馬を歩ませた……。
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「いいね」が付くとどうなるのか全然知りませんが、もしよかったら試しにつけてみてください。
ちなみになろう規約で「いいねがたくさんつくようなら続きを書きます!」とか言うのは禁止だそうです。このお話も残り二話ですから関係ないですけどね。
次回「44.魔王、最後の闘いに挑む」




