42.魔王を追う勇者
元・勇者ダイルは、あちこちの街に金鉱山の金貨を納入する現金輸送馬車隊の護衛を終え、王都に入った。
アポイントなど何もないが、ずかずかと王城に乗り込み、国王との面会を要求する。
「転送の皿が使えなくなったんだろ? ほら、ここまで金山からの護衛を引き受けて来たぜ。謝礼をもらいたいね」
「……おぬし、なぜ転送の皿が使えなくなったのか、わからぬか?」
王と司祭はあきれたように勇者を見た。
「は? なんだってんだ?」
「あの転送の皿は古の勇者が魔王城から持ち帰った魔道具の一つである。それはおぬしも知っていたのではなかったのか? おぬしが魔王を倒し、魔王城を廃墟に変えてしまったのだから魔王城よりの力がなくなり、動きを止めたのだ。お主の責任であるのだぞ?」
「な……、俺のせいだって言うのかよ!」
「まあ今更そうは言わん。もう仕方が無いことだ。それを利用して楽をしていた我らの怠慢と言うことで良い。まったく、これから忙しくなる……。おぬし、聖剣はどうした?」
「聖剣……」
ダイルは自分の腰に下げた適当に武器屋で買った剣を見下ろして言う。
「折れたよ。とんでもないナマクラだぜあれは」
「違うな。魔王無き今、聖剣は役目を終えたのだ。聖剣なき今勇者という職業もまたなくなったのだ。おぬしはもう勇者ではない。それが神の思し召しだ」
司祭はあきれたように首を振る。
「ふざけるな! 俺は勇者だ! この世界最強の男なんだよ! お前らが軍で束になってかかっても俺の敵じゃねえってわかってるか?」
「それはわかっておる。だからこそ、今勇者の任を解いてあとは自由にせよと申しておる」
「クソったれが……」
クビになった今、王に対してなんの礼儀もない勇者だった。
「神官メイザールが死に、剣士カイルスも死んだ。おぬしそれを知っておるか?」
「死んだ……? カイルスもか!」
「ああ、おぬしにこれを渡せとカイルスから預かった」
そして司祭はカイルスから預かっていたバイタルストーンを勇者に手渡す。
「その宝玉が赤から黒く変わる時、元の持ち主が命を落としたということになる」
「って、待て。じゃ、あいつらは魔王にやられたと? 魔王は今も生きているって?」
「まあそうなるだろうな。彼らは魔王を追って、命を落とした。メイザールだけでなく、カイルスまでが死んだとなれば、魔王の健在はもう疑いようがないかもしれん。ほかにかの者たちを倒せる奴がいるとは思えぬ」
「魔王が生きている……。くっそおおおおお!」
ダイルはバイタルストーンを床にたたきつけそうになった。
「まて!」
司祭がそれを止める。
「バイタルストーンに光が見えるであろう。そこがカイルスの亡骸がある場所となろう。おぬし、その手がかりを今失っても良いのか?」
「くっ」
ダイルはその光の矢印を見る。
「なんだこれは……。ずっと南を指している……」
「その先に魔王がいると言うことになるな……。やはり南へ向かっている様だ」
ダイルは踵を返して、謁見の間を出て行こうとする。
「まて、どこに行くつもりだ?」
王が声をかける。
「魔王をふん捕まえて、魔王城に叩き戻すさ」
「魔王をもう一度復活させようと?」
「復活じゃねえ。魔王城でまた魔王をやらせて、永遠に俺の獲物になってもらう。俺が死ぬまで魔王城で金銀財宝を稼がせてもらうぜ」
「無駄だ。聖剣なき今、魔王もまた役目を終えたのだ。今更魔王として復帰などできようはずもない。勇者の役目も終わったのだ。もう魔王の存在に意味は無い。魔王が生きていようが死んでいようが、同じなのだ。前にもそう説明したであろう。もう時の理は戻らない」
「やって見なけりゃわからんだろ」
そうして元勇者ダイルは、扉を開ける。
「聖剣なき今、どうやって魔王と闘う?!」
司祭の叫びが響く。
「城の宝物庫を借りるぜ。一番いい剣をもらっていこう」
勇者は城の兵たちにも、誰にも止められない。
仕方ないと、王はため息ついてその後姿を見送った。
「勝手にせよ……」
司祭はあきれて言う。
「あの者、気づいておらぬのか?」
「放って置こう……。三人目、これで片が付く。魔王に任せた方が良い」
二人、顔を見合わせて、頷いた。
その後、ダイルは勝手に宝物庫に押し入り、そこにあった剣を片っ端から試す。
剣二本を打ち合わせ、折れた剣は捨てる。古今東西の名剣たちが惜しげもなく叩き折られた。そうして、最後に残った剣をダイルは掲げた。
「ふんっ……、どこかで見たような剣だが、これが最後か。いいぜ、使ってやる」
その剣を携えて、ついでとばかりに城の高そうな宝物を持てるだけ持ち出し、勇者は一番よさそうな馬を勝手に厩舎から乗り出して、南に向かって走り出した。
次回「43.魔王、海を見る」




