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41.魔王、剣士と闘う


 剣士カイルスは馬を飛ばしまくって、とある南の街道に当たりを付けた。

 メイザールが言った通り魔王が南を目指すなら、どうしても通らなければならない王都から十分離れた場所。

 何日先行できたかわからないが、相手は荷車。確実に先回りできたはずだ。

 そして、街道町の役人も使って昼夜見張り続けた結果、ついに魔王一派がやってきた!


「本当に荷車を引いたどこにでもいそうな冴えない中年男……。それに妙齢の女が四人。間違いない」

 話を聞いていなければあんなやつが魔王だなんて信じなかっただろう。だがカイルスは確かに宿場町の宿屋の窓からその姿を確認した。

 魔王たちは飯屋で簡単な食事をとり、また宿場町の出口へと向かって街道を進んでいった。


「頃合いよしというところか……」


 街道をしばらく行けば戦闘にちょうど良い開けた場所がある。カイルスはそこを戦場に決めた。

 馬に跨り、町の門番に今日一日は自分が戻ってくるまで街道を閉鎖し、旅人が通れないように命令をしておく。

 そして馬を飛ばし、しばらくして魔王の荷車を追い抜き、馬を返して立ち止まる。


「来たか」

 魔王はカイルスを見て荷車を街道横に寄せた。もうとぼけることはしなかった。

「探したよ。会いたかったぜ」

 カイルスは厳しい顔で馬から降りた。ポンポンと馬の尻を叩き馬を遠ざけ、剣を抜く。

「この剣は勇者の聖剣ってわけじゃない。聖剣でもあんたは殺せなかった。でも今のあんたを見てわかったよ、魔王さん。あんた、魔王城じゃ鎧を着ていたしな」


 間髪入れずファリアの人体発火、マッディーの鉄分除去、スワンの気道止め、サーパスの動脈血栓、ベルの睡眠魔法が飛ぶ。今まで野盗たちに散々使ってきた、常人なら直ちに戦闘不能になる魔法が目に見えずにカイルスに襲い掛かる。

 だがカイルスは、「ごほっ」っと咳をしただけで、手で払いのけるようにひらひらさせる。

「お嬢ちゃん、効かないよ、そんなしょっぱい魔法はな。俺のレベルは90だ。もっとレベルをあげてからかかってきな」とにやり、笑う。


「要するに、あの鎧がかろうじてあんたを聖剣から防いでいたんだ。だったら丸腰の今のあんたなら、俺でも楽勝ってわけだ。手加減なしで今度こそ死んでもらおう」

 剣をくるくる回し、バカにしたように笑うカイルス。

 無言の魔王は荷車から棒を二本引っ張り出して、一本をファリアに投げ渡す。


「メイザールを倒した(かたき)、討たせてもらう」

 ファリアが鉄樫の棍をぶんっと前に構える。その木の棒を見て鼻で笑う剣士カイルス。

「どうやったか知らんが、メイザールにはさぞかし卑怯な手を使ったんだろうよ。そんなしょぼい棒きれが俺に通用すると思うな!」

 剣を振り上げて襲い掛かるカイルス。それを二本の棍を組んでガシッと受ける魔王とファリア!

 二人、棍を回転させて同時にカイルスの胴を打つ!

 少し後退するカイルス。


「お嬢ちゃんと二人で闘う気かよ魔王。その程度で俺に勝てるとは舐められたもんだな!」

 地を踏み抜いて一気に距離を詰めるカイルス。その突きをかわした魔王がカイルスの脚をすくい上げて転倒させる!

 だがカイルスは宙返りしてたっと地面に立ったが、そこを脳天にファリアの棍の一撃をまともに食らう!

 カイルスがずぼっと地面に沈んだ。マッディーの落とし穴だ。

 ファリアに脳天を殴打されてもカイルスの頭は神官メイザールのようには砕かれなかった。魔法使いとして防御を魔法に任せていたメイザールの体と、前列の盾ともなる戦士カイルスは素の防御力の桁が違うのだ。

 一瞬胴まで土に沈んだカイルス、前から後ろから二人の棍の連打を浴びまくるが、レベル90の剣士の体は通常の打撃だけでは大したダメージが通らない!

「うぜええええ!」

 剣を振り回してそれを防いだカイルスは大きなダメージもなさそうに土から飛びあがった。しかし着地寸前にスワンの風魔法でまたしても足をすくわれる。

 倒れたところをまた棍の連打を浴びる。

「いいかげんにしろ!」

 少し血のにじんだ頭で、そこから抜け出すカイルス。


「うぜえ! 卑怯な小細工がいつまでも通用すると思うな!」

「あんた魔王様を勇者と前後に挟んで、いつも後ろから斬りつけていたそうじゃないの」

「……」

 カイルスがファリアをにらみつける。

「アンタが卑怯を言えるかい、クズ野郎!」

「貴様!」

 カイルスはファリアに斬りつけたが、その剣は空振りする。

 そして後頭部に激しい打撃の棍を受ける。

 魔王の転送魔法だ。ファリアにそれをかけることでカイルスの前から後ろに瞬間移動させた。


 思わぬ打撃にカイルスの足がふらつく。そのとたんカイルスの片足に渦ができて足がとらわれる。マッディーの土とサーパスの水の渦で作った泥の穴にずぽりとはまったのだ。そこを逃さず魔王とファリアの連打がカイルスを襲う!

 剣を振り回してその打撃を受けるカイルスだが、一本の剣では一本の棍しか受けられない。もう一方の棍からは打撃を受け続けることになる。カイルスはファリアの棒をつかんで受け止めたが、魔王の棒がすぐにカイルスの手を打ってはずさせる。

 足を抜いて今度は魔王に斬りかかるカイルス。

 だが、また足をとらわれて今度こそ派手に転んだ。マッディーとサーパスが作った泥にまみれて、カイルスは滑って行った。


「少しはダメージがあるようだが?」

 初めてここで魔王は口をきいた。

「俺はレベル90だ! お前たちが俺に与えられるダメージなんて大したことはねえんだよ!」

「神官の防御魔法に任せきっていたお前の剣術、隙だらけだ」

 今まで防御と回復をすべて神官メイザールに任せていたのだ。その分、カイルスの剣術は大胆で、思い切りが良い豪胆な剣ではあったが、二の太刀、三の太刀の繋がりが無い剣だった。だからこそ魔王とファリアの棍二本での連続打撃に、わずかばかりにスピードが追いつかなくなってきた。


 魔王とファリアは間髪入れず打撃を続けた。

 切れ目なく、一瞬の休みもなく、打撃を与え続けた。

 四天王たちも魔法で補助を切らさなかった。ファリアや魔王にダメージが入ることもあったが、サーパスがすぐに回復した。ベルの集中させた防御魔法も魔王たちの急所を守った。

 レベルの高い相手を一撃で倒す手は無い。だが、しつこくダメージを与え続ければそのダメージは間違いなく蓄積する。カイルスは確実に弱っている。

 いつも神官の魔法に守られ、無傷で敵を倒してきた剣士カイルスには普通に力任せの殴打が案外痛かったのか、じわじわと運動能力を奪われていった。カイルス自身、自分が殴られている、という事実に動揺があったらしい。


 もうカイルスは血まみれ、泥まみれである。足元を常にマッディー、スワン、サーパスたちにすくわれる。何度転倒させられたかわからない。そして起き上がる隙もなく棍の連打を浴びる。滅多打ちだ。そこになんの容赦もなかった。

 カイルスはついにその剣を折られた。信じられない物を見るように大きく目を見開いたカイルスに、ここまで溜めに溜めた魔王の電撃が直撃した。


「ぎゃああああああああ!」

 その電撃はカイルスの目を潰した! 電撃のコントロールを訓練し続けた魔王の成果である。

 目から煙を吹いて転がるカイルス。それを容赦なく二人の棍で打ちのめす魔王とファリア。もはや無抵抗の相手に単なる拷問になっていた。


 相手はレベル90。完全に戦闘不能にするには時間がかかった……。

 いくらレベルが高くても、これだけダメージが蓄積されればもうカイルスの体力、抵抗力が弱まったのは明らかで、時を見て放たれたスワン、サーパス、マッディーの即死魔法をはねのける事ができなくなり、カイルスは倒れたまま血まみれになり完全に死亡した……。


「やったか……」

 一時間近く殴り続けたことになるか……。魔王もファリアも浅い剣撃を受けて傷だらけだ。二人、ばたりと手を付き、地面に座りなおす。


「マッディー、穴」

 もうフラフラしているマッディーが、魔法で地面に浅い穴をあける。

「ファリア、やってくれ」

「アタシももうあんまり魔力もなくなってるけどね……」

 二人でカイルスの死体を引きずって、穴に放り込んだ。ちょろちょろと火が立ち上り、ぷすぷすとカイルスの死体が焼けだす。


「勝てたねえ……」

 ファリアがにっと笑う。

「カッコいい勝ち方じゃなかったけどね」

 スワンが口をへの字にし、

「卑怯だとか関係ないですわ。これは戦争なんですから」

 と、サーパスが嫌そうにカイルスの死体を見る。

 マッディーは疲れてもう眠そうだ。


「お前たち、よくやってくれた。本当に、助かった……。感謝したい」

「もういいよ魔王様」

 ファリアが答え、四天王たちは大きく頷いた。

「こんな化け物と、よく一人で闘っていたねえ! こんなに強いとは思ってなかった。むしろそっちにびっくりだよ。すごいわ魔王様!」


 夜になり、死体の上に枯れ枝、倒木を組み、大きな焚火にしてカイルスの死体が燃え尽きてから、穴を埋めて疲れた体を引きずって、その場を離れる魔王たち。

 その日はベルが山間に洞窟を見つけて来たので、全員そこにへたばって死んだように眠った。




次回「42.魔王を追う勇者」

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― 新着の感想 ―
[一言] むしろ魔王の方が健全な勇者スタイルな件について。
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