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38.魔王を追う剣士


 勇者が護衛する金貨を満載した現金輸送馬車隊。

 もう二~三都市通過すれば、王都にたどり着くと言う旅の途中。

 そろそろ次の街で宿を取ろうかと暗くなり始めた時間、護衛のため先頭を馬に乗って歩かせる剣士カイルス。

 急に胸が熱くなって、あわててその原因である神官メイザールのペンダントを胸元から取り出した。


「黒くなってる……」

 赤かったはずのペンダントの宝玉が、今は黒く変色していた。

「メイザールが死んだ……!?」

 信じられないことだが、神官メイザールは「まあ連絡用と言いますか、私の生存証明と言いますか」と言っていた。

「私が死ねば、この赤い宝玉の色が黒に変わります」とも。

 黒い光の中に、矢印のようなものが浮かんでいる。

 もしかしてこれが今メイザールがいる場所なのかもしれない。

 カイルスは全身に鳥肌が立った。馬を返して、馬車まで戻り、馬を並べて歩かせる。


「勇者さん、勇者さんよう!」

「なんだ?」

 勇者ダイルがめんどくさそうに荷馬車の中から顔を出す。

「野盗か?」

「それどころじゃねえ! メイザールが死んだ!」

「あいつがぁ!?」

 勇者ダイルも驚き顔である。


「なんでわかる」

「コレだ。メイザールが俺にくれた。もし自分が死んだらこれが赤から黒に変わるって。見ろ」

 ダイルがそれを受け取ったが、一瞥(いちべつ)してふんっと鼻を鳴らしカイルスに投げ返す。

「アイツが死ぬわきゃねえだろう」

 そりゃ、ヘタすりゃあんたより強いしな、とカイルスはちょっと思う。

 万能型でバランスよく強い勇者に対して、神官メイザールは聖属性魔法を使う対魔族特化型といっていい強さだ。魔物退治なら勇者より強力に魔物を倒していた時もあるし、実際勇者のピンチを何度も救ってきた。「でしゃばるな!」という勇者様からのお達しで、それ以後は防御、補助魔法に徹していたが。

 そういうところもアンタがアイツにバカにされる理由なんだがとちょっと思う。


「いや、殺された。たぶん逃げてる魔王一族と衝突したんだ。返り討ちにあったか……」

「魔王がいる?!」

「あいつは荷車を引いていた中年男と、四人の女を探していた。間違いなくそいつと会ったはずだ。あいつの言う通りそいつらが魔王一派だったってことになる」

「そうかねえ……。信じられんねそんなことは」

「そうだって!」

「アイツは弱い。一人で調子に乗って歩いてて野盗にでも襲われたんだろ」


 そう思ってるのはお前だけだよとカイルスは腹が立った。


「俺は先に行く」

「なんだってえ!」

「メイザールがどこで死んだか突き止める!」

「そんなのわかるわきゃねえだろ!」

 激怒する勇者。だがカイルスは長年パーティーを組んだメイザールを、あっさり役立たずと決めつけ追放した勇者に腹を立てていた。

「この宝玉の光の先にきっとメイザールはいる。後は任せた!」

「おい! 俺一人でこの馬車隊の護衛をしろってのかよ!」

 叫ぶ勇者を放って置いて、カイルスは馬に鞭打って馬車隊を置いて駆けだした。


「お、お前はクビだああああああああああ!」


 勇者の絶叫が聞こえたが、カイルスはそんなことは気にしない。




 一日半、馬を休ませては走らせたカイルスは、街道の上で立ち止まった。

 黒い宝玉に浮かぶ光の矢印がいつのまにか反対方向を向いている。

「行き過ぎたか」

 馬を返して今来た道を戻る。ゆっくりと。

 宝玉の中で光がぐるんぐるんと回る場所を見つけ出した。

 馬を降りて周りを散策する……。

 数日前に掘られて、埋め直されたような跡を発見する。

「まさか……」

 カイルスは剣でその埋め痕を掘り返してみた。

 刃に白骨が当たった。手でていねいに掘り返す。

 白骨と、燃え残っているメイザールの僧衣の一部。

「メイザール……」


 カイルスは涙が流れた。

 メイザール、なぜ一人で挑んだ?

 魔王、なぜメイザールを倒せた?

 わからないことだらけ。しかもそれを止められなかった甲斐性ない自分。

 カイルスは自分を許せなかった。


「追うか?」

 しかし魔王用のこんな宝玉でもあるならともかく、今のカイルスは魔王を追いようがない。だが、メイザールの言ったことが本当なら、魔王は間違いなく南を目指しているはずである。謎の荷車を引く中年男と女たちの一団、そこまで突き止めたメイザールの残した言葉は重い。

「その推理、信じるぞ」

 メイザールの白骨を丁寧に埋め直したカイルスは、その墓に祈りを捧げ、馬に乗って先に飛ばす。

 もう王都は目の前だ。

 魔王は王都に入るか、別ルートを選択するか、それはわからない。

 だが、王都を抜けた先の南の街道ならば待ち伏せができる。

 今はできるだけ先回りをするべきだ。

 そう判断したカイルスは王都に乗り込むべく、勇者が護衛する現金輸送の馬車隊に先行して夢中で馬を走らせた。



◆  ◆  ◆


 魔王の進む山道は散々なものであった。

 だが、道はある。木立が倒れていればそれをよけ、道が崩れていればマッディーの魔法で埋め直し、土砂に覆われていればそれをみんなで荷車が通れる幅まで土砂を掘り返す。

 大変苦労しながらの旅だったが、切り開けた山の峠道から広い平野を見渡すことができる場所までたどりついた。

「見ろ」

「うわ――――――!」

 四天王たちから歓声が上がる。


 大きな平野に、人間たちの生活する一面の畑や牧場が見渡せた。

 その中央には巨大な、城壁で囲まれた王都が見える。そこが世界の中心のように放射状に街道が伸び、街々をつないでいた。

「どうやら王都の迂回は、できたようだな!」

「やったね――――!」

「でも、やっぱりちょっと王都は寄ってみたかったよ」

 スワンからそんな声も上がる。


「あと百年も経てば、勇者や魔王の記憶もなくなるだろう。そうなったら俺たちも、王都観光ぐらいはできるようになっているかもしれないぞ?」

「先は長いな――――……」

「私たちおばあちゃんになっちゃうんじゃないでしょうねえ」

 ファリアとサーパスからも、ちょっと残念そうな声もいただいた。

「王都、いろんな情報が手に入ったでしょうに……、惜しいです」

 ベルもちょっと残念そうだ。

「今日はここで一休みしよう。あとはずっと下りになるはずだから、今まで苦労した分、楽に進めると思うぞ」

「は――い!」


 そうして穏やかで静かなキャンプ地から、夜でも星空のようにきらめいて見える王都周辺とその中心部の夜景をたっぷり楽しんで、とっておきの食材を使った豪華なキャンプ料理を食べ、魔王たちは眠りについた……。




次回「39.魔王を追う者たち」

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