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36.魔王、種明かしをする


「なんで? なんで殴っただけで……」

 かろうじて起き上がれるようになった魔王と四天王たちは神官の男の死体を取り囲んで見下ろした。先ほどの魔王が放った電撃魔法で溶岩になった地面から着火して死体の衣服が燃え始めている。

 とにかくこれには一同びっくりだ。


「な……、え? 普通に殴れるのコイツ?」

 なんか普通に倒しちゃって、かえって慌てるファリア。

「いや、そんなわけが……。現に今まで一度もこいつらに物理攻撃は効かなかった」

 魔王がかつての魔王城での戦闘を回想しても、そんな記憶は一切なかったのである。


「どういうことだろう……」

 結界が解けたことにより、魔王は死体となった神官の男の側に寄り、杖を拾い上げた。

 妙に軽い。

「ベル、これなんだかわかるか」

「ちょっとわかりませんね……」

 聖魔法のダメージを受けていなかった妖精メイドのベルも飛んできたが、その杖の正体がわからない。

「マッディー」

 マッディーがその杖を受け取る。金銀宝石の装飾がされているが、その重さはマッディーでも持てる重量だ。


「……分解していい?」

「ぶ、分解? 別にいいが……」

 マッディーが念ずると、表面の金箔がはがれ、彩られた宝石が落ち、飾られていた装飾がボロボロになって朽ち落ちて、一本の古びた木の杖になった。

「あああああああ――――――!」

 それを見てベルが驚く。


「それ、かつて(いにしえ)の大魔導士が使っていたペチャポルテイラーの杖です!」

 長い間魔王城の管理をしていたベルがおかしなことを言い出す。


「なんだそのへんてこな名前」

「魔界統一を成し遂げた大魔王に仕えていた魔導士ですよ! 対魔族に特化した伝説の魔法杖です!」

「……それを何でコイツが持ってる?」

 魔王も驚きである。

「これ……鉄樫(てつかし)。魔界産」

 マッディーも頷く。


「……魔界統一のために大魔王の部下の魔導士、ペチャポルテイラーが特別に作った杖ですね。逆らう魔族を従わせるため、魔族にはめちゃめちゃ効く魔法が使えるんですよ。魔界統一後は、こんなやっかいな杖危なくてしょうがないんで魔王城で封印してたんです。人間の勇者にはたいして効きませんし」

「そりゃそうだな……」

「でも何代か前の勇者が魔王を倒して、魔王城から略奪していったってことになるんですかね」

「盗難品だったのか……。それを教会が手を加えて、いろいろと見た目をごまかしながら歴代勇者パーティーの神官に持たせていたと?」

「たぶんそうです」


「なるほど、わかった」

 魔王が手を打つ。

「この杖は元が鉄樫だ。だから防御結界の中から術者が魔法を撃つために、教会の術式は鉄樫なら素通りできるようになっていたんだ。古くにこの杖を使う神官のために開発された神官専用の魔法だったんだろう」

 ベルも納得いったように頷く。

「そうでないと結界のドームの中で魔法が暴発しちゃって、自分がやられちゃいますもんねえ」

「だからアタシの鉄樫の棍が防御結界を素通りしたわけだ」

 ファリアも肩をすくめた。

「そうだ。あっけなかったな」


 間抜けな話だが、誰もそのことに気づかず、教会でもその弱点が忘れ去られて、最強防御結界として今まで通用していたのだから仕方がない。

 魔王との決戦で、魔族たちが棒を使って攻撃してくることなどあるわけがない。鋼でもミスリルでもなんでもいいが、金属の武器を使ってくるに決まっているのである。だから今まで全く問題なかった。神官が殴られる前に勇者と剣士が敵を片付けていたわけだし、まさかこの神官の男も、「木の棒」で殴られるとはさすがに想定外で前例もなかったというわけだ。

「勇者もあんなドームかぶってたの?」

 ファリアが疑問に思うと、魔王は「いや、あいつらは身にまとうタイプだったんだろ。でないと剣が使えんからな」と推理した。


 全員、神官の男の周りにへたり込んで、座ってくすぶる死体を黙って見た。サーパスがみんなにせっせと回復魔法をかけている。

「コイツ、どうします?」

 ベルが死体を指さす。

「下手に足取りを探られると面倒だ。行方不明ってことにしよう。マッディー穴掘ってくれ」

 マッディーが頷いて路肩に手をかざすとボンッと土が飛び上がって、人が一人寝かせられるぐらいの穴ができる。

 魔王はそこに神官の男の死体を放り込む。

「ファリア、燃やしてくれ。跡形もなく」

「おっけー」


 神官の体が人体発火し、燃え上がる。


「この杖はどうすんの?」

「そんなものこの世にあっても面倒なだけだ。一緒に燃やしちまえ」

「なんかもったいないなー。ちょっと欲しいんだけど!」

 強力な伝説の魔道具にスワンが惜しそうに杖を見る。

「また奪われた時を考えろ。魔族にしか効かん杖だぞ? 使いどころがあるか?」

「だねえ」

 スワンが思い切りよく神官の死体が上げる火柱に放り投げる。

 マッディーは杖を分解したときに落ちた金銀、宝石を拾い上げてニコニコだ。


「さ、夕食にするか!」

「よく食べる気になりますねえ魔王様……」

「私たちはげんなりだよ……」

 ベルとスワン、その他も嫌そうな顔をする。

「まずは魔王様の治療ですわ! ボロボロじゃあないですか!」

「ん、ああそうか。頼む」

 サーパスが魔王に治癒魔法をかけている間、一同、のろのろと街道横の空き地に移り、夕食の準備を始めた。


 それにしても驚いたのは鉄樫の棍の有効性である。

 棍と言ってもバカにはできない。案外勇者の奴も、この棍でぶん殴れば倒せていたかもしれないということになる。


「バレないように大事に使っていくとするか……」

 何の変哲もない、野営のテントのための支柱にしていた棍棒が、なんだかえらく大事なものになってしまって魔王は苦笑した。


(あと二人か……)


 それにしても神官の男が馬に積んでいた贅沢な食料、それに現金の金貨七百枚はありがたかった。葬ってやった礼ということで、いただいておく。

 馬は野に放してやった。魔王には荷車を馬に引かせるという発想はまったくないのであった……。




次回「37.魔王、魔族と邂逅する」

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― 新着の感想 ―
[一言] レベル差があっても物理には弱いんだなぁ
[一言] またしても魔族特攻の魔族製武器、魔族だけにマゾなのか。
[一言] いつも楽しく読んでいます。 努力せず手に入れた力に溺れたバカが自滅するって王道ですよね! 読んでいてスカッとしました。 この勢いで勇者も剣士もキュイっと捻ってやりましょう♪
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