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26.魔王を追う者たち


「なんで転送できねえんだ!」

 魔王城に一番近い最前線都市、プルートルの教会の祭壇前で、勇者が神父に怒鳴り散らす。

「い、いえ、昨日から急になんです。転送の皿がウンともスンとも言わなくなりまして、私たちも王都教会からの文書、使者が届かないようになってしまって困り果てているんです」


 各教会には、「転送の皿」という大皿がある。これに乗ると、人や物資、文書などをわずかな魔力でやり取りすることができるのだ。一度に移動できるのは人にして数人程度だが、瞬間移送されるこの設備は教会秘蔵の魔具である。出どころは不明。失われた魔法技術だそうで、教会にはもうこれを作れる人はいない、ということになっている。

 勇者はどこかへ行くときは、いつもこの教会の転送器を使って移動していた。今回もこのプルートルにはこれに乗ってやってきた。今、王都に帰還しようとしていつものように利用させてもらおうとしたのだが、今日に限ってまったく反応しないと言うのだ。


「向こうからもなにも届かないのですか?」

「はい……。勇者様が訪問されましたら、様子を報告せよと言う文書が王都教会より届くはずなのですがそれもありません」

「お前らそんなことしてたのかよ」

 行動を逐一見張られ、報告されていたことに怒気を込めて勇者が睨む。

「当然のことですよ。勇者様が訪れるなど街にとっても名誉なこと。報告しないで済ませることなどできません」と言っておべんちゃらを言う神父……。


「メイザール、お前の魔力をありったけ使っても動かないのか?」

「やってみましょうか。勇者様お乗りください」

「おいっ! 俺たちは!?」

 剣士のカイルスが慌てるが、「非常時です。私たちは遠慮しましょう」とメイザールは言う。何のためらいもなく皿に乗る勇者。ヘタしたら歩いて王都に帰らなければならない他のメンバーのことなどは一顧だにしない。

 祈りを捧げ、全ての魔力を注ぎ込む魔法神官メイザール。

 見る見るうちに顔が青ざめ、ぶっ倒れた。

「クソッ! 動かねえじゃねえか!」

 勇者が腹立ちまぎれに皿を蹴ると、皿のふちが割れて飛び散った。

「ああああああ! なんてことするんです勇者様! 貴重な魔道具に!」

「うるせえ!」

 神父に怒鳴りつける勇者……。


「馬を出せ。それで次の街の教会まで行く」

「俺たちはそれでいいが、メイザールは?」

 屈強な剣士カイルスが細身の神官メイザールを背負う。

「ここに置いていけ。この教会が面倒見るだろ。皿が直ったら後を追わせればいい。とにかく王都に行くぞ」

「あ、ああ……」

 一度は背負ったメイザールを、祭壇の前に寝かせるカイルス。


(聖剣が折れ、魔道具も作動を止めた……。魔王が死んだことでいろんな所に影響が表れている……。もしかしたらこれは…………)

 置いてけぼりにされ、薄れゆく意識の中で、神官メイザールは不吉な予感に危惧していた……。



 ◆  ◆  ◆



「ようし、長居は無用だ。明日には出発……」

「ちょっと待って魔王様、もう一日、滞在したいの」

 スワンが立ち上がる魔王を押しとどめる。

「どうした。まだなにか買いたいものがあるか?」

 きらびやかな商業都市タートラン。女には毎日遊んでいたい街だろうが、金がかかってかなわない。できることなら早くここから四天王を連れ出したい魔王である。

「そうじゃなくて、私の予感なんだけど、嵐が来るわ」

 風の四天王スワン、大気の動きを読み、天候を読む術に関しては絶大な信頼を魔王から得ている。さすがに天候を左右するような術は持っていないが。

「嵐か」


「嵐の中を荷車で突きっ切るのはさすがにねえ……。宿で嵐が通り過ぎるのを待ってたほうがそりゃいいね」とファリアは言う。

「そうじゃないの。おそらく暴風雨と竜巻で被害が出るわ。街の人たちに」

「大雨になるのか? 洪水や水害の心配は?」

「雨より風と竜巻ね。通り過ぎることがあれば街に大被害よ」

「事前に街の人に知らせることができればいいが」

「さすがにそれは信じてもらえなさそう」

 そう言ってサーパスが窓の外を見る。晴れているからだ。別にサーパスはスワンの言うことを疑っているわけではない。スワンがそう言うなら間違いなく疑いの余地は無い。ただ、人間に信じてもらうのが難しいと言っているのだ。


「スワン、できるだけ正確な予報を出せ。竜巻が発生しやすい日時と、雨雲が通過する日時だ」

「わかったわ」

「俺たちはもう一度街に出て、風に弱そうな建物、倒れたら危険な木立、万一大雨になった場合の水の流れる方向、たまりやすそうな地域のチェックだ。雑貨屋でこの街の地図を買ってこよう。サーパスは待機。さ、行動開始」

 そして宿にサーパスを残し、全員宿を出て雑貨屋に向かう。

 この街の地図を四枚買い、三枚をファリアとマッディー、スワンに渡す。

「危なそうなものには赤ペンでチェックを……。午後四時の鐘が鳴ったら中央広場に集合」

「了解」

「ベルはどうする」

「私はちょっとやってみたいことがあるので別行動にさせてください」

「わかった。任せる」




次回「27.魔王、嵐から街を守る」

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― 新着の感想 ―
[一言] おや、本当に便利だったり強力だったりするものは魔王、というか魔族由来か
[一言] 今更気がつきましたが、勇者パーティーは実利から男臭く、魔王パーティーは情からのハーレムの状態の対比なんですな!
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