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21.魔王を追う者たち


「クソッ! もぬけのカラじゃねえか!」

 廃墟と化した魔王城で魔王の玉座を勇者が蹴り上げる。石の台座が砕けてホールを飛び散った。

「メイザール、ヤツの気配はないか?」

 勇者は後ろに控える教会の神官メイザールに問いかける。凝った帽子をかぶり、これも精緻をきわめた装飾の杖を持ったイケメンの細身の男である。

「無いですね……」

「お前いつも気配で魔物探してたじゃねーか」

「魔王は魔力を完全にコントロールできる身、いつも魔力がダダ洩れの魔物たちとは違います。平静の時は気配なんてしませんよ魔王は。何度も立ち合っていて気が付きませんでした? それに魔王は逃げも隠れもしません。城に来ればいつも玉座で待っていたじゃないですか。探す必要もありませんでしたよ今までは」


「いねーよ勇者さん。どこを探してもネズミしかいやしねえ」

 これもイケメンでガタイのいい剣士のカイルスが玉座の間に戻ってきた。

「ヤツめマジ逃げやがった!」

「逃げたのかねえ? アレ、マジで死んだんじゃねーの?」

「だったら死体が残ってるだろ! 脱いだ鎧しか残ってなかったんだぞ。お前のレベルだって上がってるはずなんだ。あの時はお前にトドメ任せただろ」

「俺も勇者さんから聖剣借りてガシガシ振ってみたけど、弱ぇえんだよ魔王。今更俺らが殺してもレベル上がるほど実力無かったんじゃね?」

「畜生……!」

 腹いせに、その聖剣で玉座を殴りつける。


「魔王がいるから勇者なんだよオレは! 魔王がいなくなったら勇者やめさせられちまうじゃねーか! なんだってんだよ! 話が違うじゃねえーか!」

 醜く顔をゆがめる勇者、ダイル。


「……そういえば鍋は? 鍋、ありましたカイルスさん?」

「鍋?」

「鍋がなんだってんだよ」

 勇者が何言ってんだという顔でメイザールを見る。

「最後に魔王城あさっ……探索して、食料集めて、ニワトリ絞めて鍋にしましたよね。門前で」

「ああ」

「その鍋、門前に私たちが放置したままになってませんでしたよね」

「……そういやどこにも無かったな」

 魔王を探して城内を見て回ったカイルスが頷く。

「『逃げた』という話、案外本当なのかもしれません」

「魔王が『鍋』を持って夜逃げかあ?」

「……はい」


 勇者パーティーは三人とも男である。

 メイザールは教会付き神官。回復魔法と攻撃魔法の両方に優れたエキスパートだ。勇者とのレベル上げによってそのレベルは88にも達する国内最高の魔術師だ。

 剣士カイルス。王宮騎士団所属。勇者を除けば国内最強の武力を持つ。その卓越した戦力はレベル90を誇る。

 ありがちなハーレムパーティーでないのは、この世界平和で、女性が剣士職などやるわけがなく人材がいないこともあるが、なにより勇者が女グセが悪くとっかえひっかえ、街々に女アリというほうを好むからだ。


 パーティーに入れた女どもに縛られるようなことはゴメンだ。そう考えるのがこの勇者。随行するメンバーがイケメンなのも女への撒き餌である。聖職者のメイザールは真面目なカタブツで基本勇者にも女にも不干渉。なので酒場、娼館での勇者の遊びのつきあいはもっぱらやんちゃ小僧の剣士のカイルスが務めるが。

 カイルスはこれでなかなか料理もうまいのが変わっている。女っ気のないパーティーでの、野営の食事担当でもある。「うまい飯を作れる男はモテるんだぜ」が口癖だ。鍋でニワトリを絞めたのもカイルスだった。

 そのカイルスは、「あれから調査の奴らが魔王の鎧、持ち帰ったりしてただろ。他にもいろいろ持ってったんでね?」とか思ったことをそのまんま言う。


「魔王は絶対死なない。不死だってあのクソ司教言ってたよな!」

 腹いせにさらに聖剣で玉座を殴りつける勇者。

 パキン! その聖剣が、いきなり折れた!

 カラカラと転がっていく刀身を見て固まる三人。


「……聖剣が……折れた?!」

「うそっ!?」

「馬鹿な、あり得ません!」

 愕然と折れた剣を見る勇者。

「ちょっと、見せてください」

 メイザールが勇者から聖剣を受け取ってそれを見て、刃に指をあててなぞる。


「……切れなくなっています」

「なに?」

「刃がありません」

「まさか」

「……」

 メイザールから剣を受け取って自分でも確かめてみる勇者。まるで古い斧のようになまくらになって紙も破けない、訓練で使う刃引き剣のようになってしまった聖剣……。

「どういうことだ?!」

 メイザールに食らいつかんばかりの勇者ダイル。

「……女神様の加護が無くなったのでは」

「なくなった……?」

「魔王が死んで、聖剣としての役を終えたということなのでは……」

「クソッ! どいつもこいつもバカにしやがって!」

 もう一度玉座に聖剣を叩きつける勇者。今度は鍔元三寸で折れ、ほとんど柄だけになってしまった。


「王都に戻るぞ。近場の教会で転移だ。話を聞かせてもらおうぜ」

(聞いてももう遅いと思いますけどね……)

 ドスドスと激怒して魔王城を出る勇者の背中を見て、神官メイザールはため息した。

(鍋が無い。魔王が夜逃げした……? バカバカしい。聖剣が力を失った今、やはり魔王は死んだと考えるのが自然でしょうね……)

 そう考えなおして、勇者パーティーの知恵袋、メイザールは勇者の後を追う。




次回「22.魔王、とぼける」

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