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10.魔王、逃走資金を確保する

あけましておめでとうございます。今年もよろしく!


 魔王一家が坑道に潜ってほぼ三時間後、全員真黒、砂だらけになりながら閉じ込められていた十一人の抗夫たちと出てくると、待っていた男たちが歓声を上げた。

 ケガ人は五人いたが、すでに治療済みである。四人は……残念ながら最奥の崩落で下敷きになっており絶望。マッディーは位置を掴んでいたが、申し訳ないが放置させてもらうことにした。そのことは抗夫達には言わない。

 四人が結局行方不明。崩れる坑道に飲み込まれるところを親方たちが見ていたし、十六人の男たちが失った仲間に涙する。


「……ありがとう。礼を言う。もう助からないかと思った……。あんたたちはなんなんだ?」

「通りすがりの貧乏魔法使いさ。道楽でたまに人助けもやっている。気にするな」

「そんな連中がこの世にいるとは。あんたたちは女神様だよ……」

 その正体は魔王なのだが。まあ美人揃いの四天王見れば女神たちにも見えるかもしれない。

「たいしたお礼もできないが……」

「礼はいい。道楽だと言っただろ」

 そう言って、その場を立ち去る魔王一家を、信じられないものを見たように抗夫達は見送るしかなかった。


 鉱山の生き埋め労働者を助ければ、謝礼ぐらいは貰えるかと思っていたが、あの鉱山主の態度を見ればそんなことは期待できないことはわかった。被害を受けた鉱夫の彼らに要求するのも酷だろう。今回はタダ働きだとあきらめる。

 だが魔王も四天王も、なぜか気分は晴れ晴れとしていた。

 いいことした後は気分がいい。それは人間も魔族も同じであった。


「みんな、ご苦労。いやあ汚れたな。なんでもありそうな街だし、いい宿泊まってひと風呂浴びて、美味いものでも食いたいとこだが……」

「お金をどうするかだね……」

「現金がな……」

 そう、ここでは(きん)を勝手に現金化できないのである。そこは厳重に管理されている。

「……魔王様」

 荷車の中のマッディーがポケットから金の粒を出す。

「えっ」

 出るわ出るわ。マッディーの小さな手にあふれるぐらい。

「……みんなのポケットにも」

「え」

「うわ」

「いつのまに……やるねえマッディー!」


 魔王と四天王が服のポケットに手を突っ込むと、どのポケットにもぱんぱんに自然金が入っていた。金鉱石に含まれる微量の金の欠片である。

 全部集めると手桶にいっぱいという量だ。

「……魔王様、金貨貸して」

 マッディーに金貨を一枚渡すと、それをじっくり手に取って眺めていたマッディーが前の晩に採った砂金と、今日鉱山から集めた金片を宙に浮かし、精錬を始める。金のかたまりが不純物を取り除かれ、見る見るうちに大量の金貨に変わってゆく!


「すげえ……」

「いやすごいわマッディー。よくそんなことできるねえ!」

「偽造になるんじゃないのソレ」

 感心する魔王たちにスワンがふと疑問顔になると、ベルが平気な顔をして「ならないでしょ」と言う。

「だって本物の金ですからね。偽造ってのは、偽物を本物みたいに騙して儲けることでしょ。紙幣や証書と違って金そのものに価値がある金貨のような資産は姿かたちを変えたからと言って価値に違いはありませんてば」


 強引な話であるが、まあそうだろう。砂金だろうが金貨だろうが、それを受け取って損をするやつなんているわけない。

「ま、まあ、試してみるか……。マッディー、ありがとな」


 数えてみるとマッディーが精錬した金貨は砂金の分と合わせて千枚以上もあった。

 その日、一泊金貨六枚の高級宿の大部屋に泊まり、着ていた服の洗濯を頼み、大きな浴場で汗と埃と砂を落として、ご馳走食べて、暖かなベッドで眠った。もちろんみんな大喜びだ。

 新品のピカピカな金貨なんて、この街では珍しくも無くまったく怪しまれなかった。女たちから離れて一人、男湯で汚れを流し、離れのベッドで眠る魔王、いつもよりもなんだか寂しい夜になったのはみんなには言わない。


 タップリ朝食を取って、旅立つ前に、全員に金貨を一枚ずつ配り、好きなものを買ってもらうことにした。お小遣いというやつである。

 ファリアはぜーんぶ買い食い。スワンは生活雑貨をこまごまと。サーパスは裁縫用具に布をたくさん。マッディーはお菓子と木彫りのお人形。いや、人形じゃなくてクマ、クマの木彫り。もちろんリアルなやつじゃなくて、テディベアみたいな形だが。


 金貨を二十枚ほど手持ちにして、残りは袋に入れて荷車の屋根に縛り付け、ベルに隠蔽魔法(カモフラージュ)をかけてもらって隠す。

 正門を出るときに衛兵の厳重なチェックを受けて、持ち金の全部、金貨二十枚を見せると「一晩でそれほど稼ぐとは、やるねえアンタたち。給料日までいてほしかったよ……」と完全に流しの女郎屋と勘違いされた。まあ気にする必要も無いだろう。


 正門を抜けて、驚いたことにあの救助したはずの抗夫の男たちと出会った。十六人、旅姿である。

「どうしたお前たち」

「クビになったのさ、俺たちまとめてな」

 そう言って、男たちの親方が苦笑いする。

「なんでそんなことに……」

「生き埋めになったはずの俺らが、なんで生きてんだ。どうやって助かった。崩落したとかウソだったのか、(きん)を持ち出して逃げ出そうとしてやがったなと疑われてさ」

 そう言って肩をすくめる。


「通りすがりの魔法使いに助けてもらったと正直に言えばよかろう」

「言ったさ。そんなもの信じてもらえるわけがない。役人どもが激怒してねえ、今日中に荷物をまとめて出て行けとさ」

「そうか……、それはすまなかった」

 そんなことになっていたのか。仕事を奪ってしまったなと申し訳なく思う魔王。

「いやいやいや、死ぬのに比べりゃ悪い話な訳が無いぜ。あんたたちには感謝してる。俺たちただの使い捨てだってことがこれで嫌というほどわかったよ。いい機会だ、どっかで山師でもやってやりなおすさ」

 そう言って明るく笑う。

 鉱山の採掘技術に長けた彼ら。どこか新しい場所で、金脈か鉱産資源などを探す山師の仕事は確かに悪くない。よい鉱山が見つかれば領主に掛け合って、鉱山を起こすことも可能だろう。彼らの人生に幸あれである。



「いやーよかったねえ! いろいろスッキリしたし、またあんな宿にも泊まりたいね!」

 街道を荷車を引きながら歩く魔王に、ファリアが機嫌よく話しかける。

「次の街に着いたらな。それまではまた野宿だ」

「あら、私は野宿も大好きですわよ」

「そりゃサーパスは川や湖があればの話だろ……」

「だって魔王様に寄り添って眠れますもの」

 サーパスがそう言うと、スワンもマッディーも、「ああ、そういうことなら私もだね!」、「……私も」と笑う。


「人助けして、お金も稼げてかあ! なんか調子いいねアタシら」

「まあそういつも都合よく行くかどうかはわからんだろ。でも、こんな家業も悪くないな。これからもみんなで頑張ろう!」

「おー!」

 鉱山街が近い山間の街道を進む荷車の歓声が、木霊した。




次回「11.魔王を追う者たち」

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