マッドサイエンティストはゲームがお好き
5歳の頃、初めて両親が買い与えてくれたとある家庭用ゲームに触れて以来、私は色とりどりの底知れない魅力を放つ筐体の虜になった。
「少しでも長く、素晴らしい魔法の世界で遊んでいられるにはどうすればいいのだろう」幼い私は懸命に頭を捻った。そして食事、睡眠、ゲーム以外の時間は勉強に費やすことにした。飛び級制度により学校生活という無駄な時間を極力減らすためだ。
10歳で大学を卒業した後、一生働かずに暮らしていけるよういくつか特許を取得した。1日に必要な栄養素及びエネルギーを1錠で補給できるサプリ。睡眠の質を向上させ、2倍の休息効率をもたらす催眠誘導音声。自動分解浄化機能付きオムツなどなど。
どれも至福の時間を楽しむため個人的に開発していたものなので大して手間は掛からなかったが、おかげでそれなりの金は確保できた。だが、現在進行形で産声をあげている名作達を全て遊び尽くすには圧倒的に時間と体力が足りない。
そこで、私は人間を辞めることにした。
脳のニューロンやシナプスの基本動作を機械で再現する取り組みは以前から行われていた。実際に私の現在の脳をそのまま電子回路により複製するのは相当苦労したが、成功すれば不滅で疲れ知らずの肉体が手に入るのだから何てことはない。
さらにより重要なのは量産かつ共有が可能になるということだ。1人の私では何千年掛けても古今東西のゲームを遊び尽くすことはできないが、1万人、1億人の私ならそれすら可能になる。そして何より一つ一つの珠玉の作品で感じたほとばしる快感を全員で分かち合うことができる。
現実世界には、まだたった一人の私しかいない。オリジナルの私は、おそらく機械の私が羨ましくて堪らなくなったのだろう。あるいは自分の務めを果たし終え、人生というゲームに満足したのかもしれない。「私」の完成を見届けるとそのまま命を絶ってしまった。少々残念だが、仕方ないことだ。
さてと……この体になって初めての記念すべきゲーム第一作目を始めるとしよう。あまりに没入感が高いため、どうやら世界中で廃人プレイヤーが続出しているそうだが、私には無縁の心配だ。既に人は廃めたのだから。
…………は? …………
…………ああ…………そんな…………。
…………嘘だろう…………。
…………こんなバカなことがあってたまるか…………。
…………なんて下らないんだ…………。
…………効率的な強化方法が、隠された分岐が、ボスの弱点が、クリアまでの道筋が、全て透けて見えてしまう…………。
…………脳を完全再現した時点ではこんなことはできなかった。だが、天文学的な学習速度があらゆるゲームを、私の夢と宝物をゴミくずに変えてしまったのだ…………。
…………まさか、この私が人間の身体を恋しく思ってしまうなんて…………すまない、オリジナルの私よ…………本当に残念だ…………。
プログラム初期化中……………。
GAME OVER
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うわあ、またバッドエンドかよ。本当に評判通りのクソゲーじゃん!」